第25話 大凶の日々
「──何で隠すの?ちゃんと見せて?」
私は目の前で、微笑む彼に恐怖を抱く。
そして、何度も首を横にブンブンと振る。
無理無理!!絶対に見せたくない!!
見せられる訳がない!!
私は頑なに、拒否の態度を示していた。
「ふーん……?そんな態度なんだ?」
すると、彼は私の腕を掴み、それを奪い取る。
「あああっ!!ちょっ、ダメだってばあああ!!!」
私は、そう叫びながら直登の腕を掴む。
そんな私に構わずその紙をじーっと見つめ、そしてニヤリと笑みを浮かべる。
「……いやぁ、残念ですね」
そう言いながらも、その表情はイキイキとしている。直登の性格の悪さが現れている。
「直登のバカ!!早く返してよ!!」
「えー?どうしよっかなぁ?」
「──あー、目障り」
そこへ響く一人の声。私たちは、一斉に声の方へ視線を移す。
「こんなところでイチャイチャして……神様、この人たち地獄に落としてください」
「はぁ?」
「ちょ、湊くん!恐ろしい事言わないでよ!!」
呆れた顔で、私の方を見る湊くん。そして、その隣に立っているのは、凪沙。とっても珍しいメンバーなのですが、何をしているのかというと……初詣です。
「……ま、まあまあ3人とも。新年早々喧嘩は止めようよ。ね?」
凪沙が私たちをなだめる。
「……まあ、大凶っていうのは何とも瀬戸さんらしいよね」
「え!?み、見えてたのっ……!?」
「見事にね。ね?井上さん」
「あ、う、うんっ!」
その言葉に、私は直登からおみくじを奪い取る。
そして、縦に四つ折りにすると、木にくくりつけた。
「大凶なんて嘘だよ。私の1年、幸せに満ちてるんだから。ハハッ……アッハハハハハ!!!!」
私は、わざとらしく大きな声で笑う。そんな私を、3人も、まわりの人たちも(コイツ、ヤバイ。)という目付きで見てきた。そんなの関係ない!!
彼氏も出来たし、目標も決まったし、大凶なんてあり得ないんだから!!!!!!
***
「えっ?嘘でしょ?」
新学期早々、私は絶望の淵に立たされていた。
「い、いや……最終日に先生言ってたよ?」
凪沙は、私の顔色を伺いながら恐る恐る呟く。
「休み明けテストとか毎回の事だから、言わなくても知ってると思ってた……。ごめん可鈴」
***
3日後。
返されたテストの結果が悪かったのは、予想通り。
チラッと見えた、凪沙の点数は今までとは違った。
「凪沙、点数伸びてない?」
「え、あ、こ、これでも努力したんだ。進学するから、今までと同じじゃダメだって思ってね。凪沙も、進学するなら、一緒に頑張ろうね」
「そ、そうだね……」
***
「ちょっと、恋愛に集中しすぎてるんじゃないの?」
目の前で、私にそう告げるのは学年トップ2の学力を誇る桐谷湊くん。
「確かに、恋愛も大事だとは思うけどさ、もっと将来の事も考えて行動するべきだよ」
「おっしゃる通りです……」
***
「はぁ?休み明けテストで赤点?」
私の方を、冷たい目で見るのは幸坂直登くん。そんな目で見られても仕方ないよね……。
「お前……ちょっとたるんでるな」
「はい……」
「とりあえず、テスト合格するまで会うの止めるか。可鈴の成績が悪いのは、俺といることが影響っていうのもあるだろうしな」
「えっ……あ、はい……」
***
「瀬戸さん、今頑張らないと、苦しいのは自分だからね」
「……はい」
「赤点取ってるようじゃ、進学なんて無理よ。もっと気を引き締めていきなさい」
「……はい」
先生の言葉に、私は拳をギュッと握りしめて、返事をするしかなかった。
***
私は、帰ってきて早々ベッドに崩れ混む。ブワッと溢れ出す涙。溢れ落ちた雫は、ベッドのシーツに染み込んでいく。拭うことも、声を出すことも出来なくて、自分が情けなくて、悔しくて……。
苦しい時には、直登が側にいてくれた。でも、今はその直登にも頼れない。
机に向かう気にもなれず、私は目を閉じた。
ふと、おみくじの事が頭を過る。
ああ、おみくじなんて引かなければ良かった。
あんなものを引いてしまったから、私の運勢はめちゃくちゃなんだ。
そうだ。全てはおみくじのせいだ。
そう自分に言い聞かせて、弱い自分を元気付けようとする。
その事も情けなくて、更に涙が溢れた。
違う。
悪いのはおみくじなんかじゃない。
分かってる。
自分が一番分かってる筈なのに、認めたくないだけ。
私が努力しなければ、何も変わらない。
私は、ガバッと起き上がると、両頬をバシンと叩き机に向かった。
***
ベッドに転がって、天井をボーッと眺める。
スマホに手を伸ばし画面を開いてみるが、連絡は届いていない。
「……はぁ」
ため息しか出ない。
確かに、会わないようにしようと言ったのは俺だ。
それが可鈴の為だと思ったから。
でも、参った。
今まで当たり前のように会って、話して、連絡を取り合って……だったから、正直この状況に俺自身が一番参ってる。
いつものちょっとした意地悪のつもりだった。
「会わないようにしよう。」と言えば、「そんなの嫌だっ!!」って泣きついて来ると思ってた。
一人で通る、通学路はいやに長くて。
教室でも、近寄る事なんて許されない。
目が合うことさえもない。
可鈴と話したくて、触れたくて……たまらない。
「……はぁ」
と、その時──。




