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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第3章『冬の私たち』
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第25話 大凶の日々




「──何で隠すの?ちゃんと見せて?」




 私は目の前で、微笑む彼に恐怖を抱く。

 そして、何度も首を横にブンブンと振る。

 無理無理!!絶対に見せたくない!!

 見せられる訳がない!!

 私は頑なに、拒否の態度を示していた。



「ふーん……?そんな態度なんだ?」



 すると、彼は私の腕を掴み、それを奪い取る。



「あああっ!!ちょっ、ダメだってばあああ!!!」



 私は、そう叫びながら直登の腕を掴む。

 そんな私に構わずその紙をじーっと見つめ、そしてニヤリと笑みを浮かべる。



「……いやぁ、残念ですね」



 そう言いながらも、その表情はイキイキとしている。直登の性格の悪さが現れている。



「直登のバカ!!早く返してよ!!」


「えー?どうしよっかなぁ?」




「──あー、目障り」




 そこへ響く一人の声。私たちは、一斉に声の方へ視線を移す。


「こんなところでイチャイチャして……神様、この人たち地獄に落としてください」


「はぁ?」


「ちょ、湊くん!恐ろしい事言わないでよ!!」


 呆れた顔で、私の方を見る湊くん。そして、その隣に立っているのは、凪沙。とっても珍しいメンバーなのですが、何をしているのかというと……初詣です。



「……ま、まあまあ3人とも。新年早々喧嘩は止めようよ。ね?」


 凪沙が私たちをなだめる。



「……まあ、大凶っていうのは何とも瀬戸さんらしいよね」


「え!?み、見えてたのっ……!?」


「見事にね。ね?井上さん」


「あ、う、うんっ!」


 その言葉に、私は直登からおみくじを奪い取る。

 そして、縦に四つ折りにすると、木にくくりつけた。





「大凶なんて嘘だよ。私の1年、幸せに満ちてるんだから。ハハッ……アッハハハハハ!!!!」






 私は、わざとらしく大きな声で笑う。そんな私を、3人も、まわりの人たちも(コイツ、ヤバイ。)という目付きで見てきた。そんなの関係ない!!

 彼氏も出来たし、目標も決まったし、大凶なんてあり得ないんだから!!!!!!





***




「えっ?嘘でしょ?」


 新学期早々、私は絶望の淵に立たされていた。


「い、いや……最終日に先生言ってたよ?」


 凪沙は、私の顔色を伺いながら恐る恐る呟く。



「休み明けテストとか毎回の事だから、言わなくても知ってると思ってた……。ごめん可鈴」



***




 3日後。

 返されたテストの結果が悪かったのは、予想通り。

 チラッと見えた、凪沙の点数は今までとは違った。


「凪沙、点数伸びてない?」


「え、あ、こ、これでも努力したんだ。進学するから、今までと同じじゃダメだって思ってね。凪沙も、進学するなら、一緒に頑張ろうね」


「そ、そうだね……」




***




「ちょっと、恋愛に集中しすぎてるんじゃないの?」



 目の前で、私にそう告げるのは学年トップ2の学力を誇る桐谷湊くん。


「確かに、恋愛も大事だとは思うけどさ、もっと将来の事も考えて行動するべきだよ」


「おっしゃる通りです……」



***



「はぁ?休み明けテストで赤点?」


 私の方を、冷たい目で見るのは幸坂直登くん。そんな目で見られても仕方ないよね……。



「お前……ちょっとたるんでるな」


「はい……」


「とりあえず、テスト合格するまで会うの止めるか。可鈴の成績が悪いのは、俺といることが影響っていうのもあるだろうしな」


「えっ……あ、はい……」




***




「瀬戸さん、今頑張らないと、苦しいのは自分だからね」


「……はい」


「赤点取ってるようじゃ、進学なんて無理よ。もっと気を引き締めていきなさい」


「……はい」


 先生の言葉に、私は拳をギュッと握りしめて、返事をするしかなかった。



***




 私は、帰ってきて早々ベッドに崩れ混む。ブワッと溢れ出す涙。溢れ落ちた雫は、ベッドのシーツに染み込んでいく。拭うことも、声を出すことも出来なくて、自分が情けなくて、悔しくて……。

 苦しい時には、直登が側にいてくれた。でも、今はその直登にも頼れない。

 机に向かう気にもなれず、私は目を閉じた。


 ふと、おみくじの事が頭を過る。


 ああ、おみくじなんて引かなければ良かった。

 あんなものを引いてしまったから、私の運勢はめちゃくちゃなんだ。

 そうだ。全てはおみくじのせいだ。


 そう自分に言い聞かせて、弱い自分を元気付けようとする。

 その事も情けなくて、更に涙が溢れた。


 違う。

 悪いのはおみくじなんかじゃない。

 分かってる。

 自分が一番分かってる筈なのに、認めたくないだけ。

 私が努力しなければ、何も変わらない。


 私は、ガバッと起き上がると、両頬をバシンと叩き机に向かった。




***




 ベッドに転がって、天井をボーッと眺める。

 スマホに手を伸ばし画面を開いてみるが、連絡は届いていない。


「……はぁ」


 ため息しか出ない。


 確かに、会わないようにしようと言ったのは俺だ。

 それが可鈴の為だと思ったから。



 でも、参った。

 今まで当たり前のように会って、話して、連絡を取り合って……だったから、正直この状況に俺自身が一番参ってる。


 いつものちょっとした意地悪のつもりだった。

 「会わないようにしよう。」と言えば、「そんなの嫌だっ!!」って泣きついて来ると思ってた。


 一人で通る、通学路はいやに長くて。

 教室でも、近寄る事なんて許されない。

 目が合うことさえもない。


 可鈴と話したくて、触れたくて……たまらない。


「……はぁ」




 と、その時──。




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