第23話 サプライズ
「……直登」
「ん?何?」
「あの、お願いがあるんだけど」
「待って。今良いところ」
そう言って、食い入るようにテレビ画面を見る直登。結局、クリスマスのDVDを直登の部屋で一緒に見ている私たち。直登に話しかけてみたが、ちょうど良いところだったのか、話を止められてしまった。
ていうか、こういう恋愛ものの映画とか見るんだ。その事にすごく驚いてるんだけど……。あー、でも、そうか。こういうのを見て、女性を落とす術を知るんだね。いやぁ、勉強熱心ですこと。
「何?」
「え?あー、ちょっとお願いが」
「お願い?」
「うん。あのね、この前湊くんの家に行ったんだけど──」
「──はぁ?」
その言葉に、眉間に皺を寄せる直登。あ、ヤバい。
急激に機嫌が悪くなるのが分かった。
「何で桐谷の家に行ってんだよ?」
「あのっ……いやぁ……それは……」
直登はリモコンを持ち、一時停止ボタンを押す。主人公の女の子が、話している場面で映像はピタッと止まる。静かになる部屋。
そして、隣に座っている私の手を掴んできた。
「堂々と浮気宣言するわけ?」
「違う違う!違うってば!!湊くんの弟に会ってたの!!」
「弟!?弟にも言い寄られてるのか!?」
「違うよ!!弟って言っても5歳だから!!」
「何だよ。まだ5歳か。……って、5歳の弟っ!?」
直登の反応が、あまりに大きいので私は少しニヤニヤしてしまった。それに気づいて、直登はムッとする。
「……で?その弟がどうしたんだよ?」
「あ……それがね──」
***
「──春哉。ご飯出来たぞー」
「はーい!…わあっ!!今日はすごく豪華だね!」
「そりゃあ、クリスマスだからおばあちゃんも奮発しちゃったわよ!」
「やったー!!早く食べよう!」
12月25日。クリスマス。午後7時。
俺は、先程から時計ばかり気にしている。おばあちゃんが頑張って作ってくれた、クリスマスの特別メニューを眺めながら、俺はため息をついた。
「──湊」
声をかけられハッとする。おばあちゃんの方を見ると、少しムッとした表情を浮かべていた。
「余計な事なんて考えなくて良いのよ。何てったって、今日は楽しいクリスマスなんだからね」
「……ごめん」
「隆明の事なんて放っておきなさい。どうせ帰って来やしないよ。今さら帰ってきたって、私はもう知らないからね」
「……うん。分かってるよ」
すると、手洗いを済ませた春哉が食卓へ戻ってきた。
「湊兄ちゃんもおばあちゃんも早く座って食べよ!」
「そうだね。冷めちゃうから、早く食べちゃおうね!」
「だね」
俺たちは、三人でテーブルを囲み手を合わせる。
『いただきます』
そう言った瞬間の事だった。
ピンポーン──。とインターホンが鳴り響く。
こんな時間に、誰が何の用だ?もしかして……アイツが帰ってきたのか……?
思わず、俺の表情は強ばる。そんな事なんて、関係なく春哉は席を立つと、元気よく玄関へと向かった。
俺も、慌てて春哉を追いかける。
「はーい!!今開けまーす!!」
春哉が元気よく扉を開け放つ。俺は、ドキドキして、その様子を見つめていた。すると──
──パンパンパン!!!!
その音と同時に、飛び出す色とりどりのリボンと紙吹雪。そして、少ししてから香る火薬の臭い。
俺が、目をパチクリさせて固まっていると、春哉がその人物に飛びついた。
「──サンタさんだっ!!!!」
赤い帽子に、真っ白な髭。ダボダボのサンタの衣装を身に纏った人が立っていた。すると、その人は髭を外すと、春哉を見てニコッと微笑む。俺は、その人物を見て固まった。
「メリークリスマス!!桐谷春哉くん!」
「あれっ!?お姉ちゃんだ!!」
そう。そこには、瀬戸さんが立っていた。春哉の事をギューッと抱き締めると、俺の方を見る。そして、照れ臭そうに笑う。
「お姉ちゃん、何しに来たの!?」
「お姉ちゃん、実はね……ある人を連れてきてるの!」
「ある人……?」
「そう!それはー……この人ですっ!!」
そう言って、何かを指差す瀬戸さん。すると、そこには──
「わあああっ!!!サンタさんだっ!!!」
サンタさん……の格好をした幸坂直登が立っていた。俺は、驚きすぎて何も言葉を発する事が出来なかった。
「お姉ちゃんね、サンタさんとお友だちなの。だから、良い子で過ごしてる春哉くんの事をサンタさんに伝えたらね、それはプレゼントを渡してあげないとな!って言って、今日来てくれたんだよ!」
「そうなのっ!?お姉ちゃん、すげー!!!!」
「君が春哉くんだね?」
学校で出すような、優しい声で春哉に話しかける幸坂。
「メリークリスマス!プレゼントだよ!!」
そう言って、大きな白い袋からプレゼントを取り出す幸坂……いやサンタさん。靴の形をしたそのプレゼント。中には、たくさんのお菓子が詰め込まれていた。
「わああっ!!サンタさん!!ありがとう!!」
そう言って、春哉は大きな靴を抱えて中に入っていく。「おばあちゃーん!!見て見てー!!」と、声が聞こえる。
そんな様子を見て、俺は微笑む。
「──湊くん」
声をかけられて、俺は振り返る。
「素敵なクリスマスになりますように」
瀬戸さんにそう言われ、思わず笑顔が溢れる。それと同時に、涙腺も緩む。
「もう既に……最高のクリスマスだよっ……。瀬戸さん、幸坂っ……本当にありがとうっ……!」
そう言って目を覆うと、乱暴に肩を叩かれた。
それが、幸坂の手だとすぐに気がついた。
「……また話聞かせろよ。……悩んでるより、口に出した方が少しは楽になるからな」
「……うん。ありがとう、幸坂」
「……おう」
そう言って俯いた幸坂は、とても恥ずかしそうで、見ているこちらも、少し照れ臭くなった。
「──湊兄ちゃん、早くー!!」
そう呼ばれ、返事をする。
「分かったー!今行くー!!」
俺は、幸坂と瀬戸さんに手を振ると、また家の中へと戻っていく。
さあ、最高のクリスマスの始まりだ──。




