第22話 緊張
静かな帰り道。
お互いに何を話すわけでもなく、マンションの下まで辿り着いてしまった。何か、すごく気まずい……。
「……まあ、プレゼントも買えたことだし、良いクリスマスになると良いね」
「あ、うんっ……。今日は本当にありがとう」
「いえいえ。こちらこそ、ありがとうね。……また、いつでも遊びに来なよ」
「うん!是非!」
私がそう言って笑うと、湊くんはくしゃくしゃと頭を撫でてくれた。その時、私はハッとして思い出す。
「そうだ!これ!」
そう言って、湊くんの手を両手で握ると、手のひらにあるものを握らせた。
***
「……え?」
重ねられた手が離れた瞬間見えたのは、可愛らしい包装紙。俺は、その袋と瀬戸さんを交互に見る。
瀬戸さんはニコニコと笑っている。
「湊くんもメリークリスマス!」
その言葉を、聞いた瞬間目にジワッと涙が浮かび上がってくるのが分かった。こんなにも、嬉しくて素敵なプレゼントを貰ったのは本当に久しぶりだ。
そんな嬉しい気持ちを隠して、俺は余裕の笑みを浮かべる。
「ありがとう。すごい嬉しいよ」
「弟がいるって分かってたら、その時に一緒に買ったんだけどね」
「良いよ良いよ。気持ちだけで」
「そっか……。また遊びに行った時にでも、用意しとくね!」
「うん。それじゃあ、春哉も起きただろうし帰るね。本当にありがとう」
そう言って、背を向けて歩き始める。
と、その時──
「──湊くん!!」
名前を呼ばれ、足を止める。
「私は、どんな事があっても湊くんの味方だから!!それだけは、絶対に覚えておいて!!」
瀬戸さんの声を聞きながら、俺は振り返らずに片手を挙げた。
そして、歩きながら包みを開ける。中からは、サンタの服を着たトナカイの可愛らしいキーホルダーが出てきた。
「ハハッ。瀬戸さんらしいや」
そう言って、袖で涙を拭った。
***
「──おーう。メリークリスマース」
気だるげな様子で出てきたのは、私の恋人である幸坂直登。ボサボサの頭に、眠そうな顔。ゆったりとしたシルエット。
「……おはよう」
「おー……」
「今起きたの……?」
「インターホンの音で目覚めた。わりぃ」
「サイテー」
「知ってる」
せっかくのクリスマス。二人で出掛けると言ったのに、時間になっても迎えに来なかった直登。しびれを切らして迎えに行ってみればこれだ。
内心イライラしながらも、少し安心している自分もいた。恋人になってからのクリスマスって、ずっとドキドキして、緊張していないといけないと思ってたから……まあ、いつも通り朝の弱い直登で良かった。
「着替えるから、リビングで待っててー」
「うん、分かった」
そう言われ、素直に直登を待つ私。お姉さんも、お母さんも今日は仕事なのか、リビングで一人で待つことになった。ていうか、どっちかがいれば直登の事を叩き起こしていただろう。
そんな事を考えながら、5分ほど経った。
その時、後ろからフワッと何かに包まれた。それが直登だとすぐに気づく。
「お待たせ」
そう耳元で呟かれ、低い声が響き、背筋がゾクッと震える。優しく香る、直登の香りが私の胸に染み渡っていく。
「どうする?姉貴も母さんもいないし、俺の部屋でゆっくり過ごしても良いんだけど」
「へっ……!?」
直登は、私に抱きついたままそう話し始める。
ど、どうするって……どうすれば良いの……?
「と、とりあえず一回離れ──」
「嫌だ」
断られて、私はそれ以上何も言えなかった。
ちょ、ちょっと待って……。
心臓の音が、本当にすごいっ……!!
ドクッ……ドクッ……っていうよりは、
ドッ…!ドッ…!っていう感じで体全体に響き渡ってる……!!
「──ごめん。久々に会ったから、多分独り占めしたいだけだ」
その言葉に、私はノックアウト。
完全に直登にやられてしまった。体の力が抜ける。
「とりあえず、リビング寒いから移動しねぇか?俺の部屋暖房効いてるし」
「う……うんっ……」
私は、そのまま直登に腕を引っ張られ、直登の部屋へと移動した。
やっぱり、今までとは距離感が違う……。こ、これが……恋人同士って事なんですね……!!
私は、一人でそう納得をするしかなかった。




