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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第3章『冬の私たち』
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第18話 夜空の下


「──直登、ありがとうね」


「ん?」


「すごくスッキリした。本当にありがとう」


「……お礼なら姉貴に言えよ」


 直登は、そう言ってマフラーに顔を埋める。コートのポケットに手を突っ込んで、寒そうにして歩く直登。私も直登の隣を歩きながら、寒さに震えていた。

 街灯の少ない住宅地。特に会話をすることもなく、静かに歩く。冬の夜に輝く星はとても綺麗で、吐く息は夜空に雲のように浮かんで、スーっと消える。



「そういえば、何買うの?」


 私が尋ねると、直登の肩がビクリと震える。


「……いや……特には決めてない……」


「へ?」


「ちょっと、散歩したかっただけだよ」


「ふーん、そっか」


 特に追及することもなく、私はうっすらと笑みを浮かべて歩く。



「……俺もさ、やりたいことなんて決まってないんだよ」


 直登は、夜空を眺めながらそう話す。



「とりあえず大学に行って、何かやりたいことが見つかればいいなーって、そんな感じ。俺のこの考えは否定されやすいけどさ、母さんも『それで良いと思うよ?』って言ってくれたんだよな。

母さんは、実際に大学に行って、新しい色んな出会いがあって、専門的な知識を学べて、一人暮らしだったからバイトをして、そこで社会勉強をして……。結局、専門職には就かなかったけど、その時間も無駄じゃ無かったなって思えるらしい。考えは、人それぞれだけどな?俺も、そうやって一度家を離れてたくさん学べることもあるんじゃないかって、そう思うんだ」



「家を離れる……か」



 そうやって考えたら、直登と一緒に過ごせるのもあと少しなのかもしれない。直登は、あの家を、この町を出ていくんだ。

 今までは、当たり前のようにそばにいた私たちだけど、そうじゃない日が来るんだね。想像もしなかった。そう考えると、胸がキューっと締め付けられて、すごく苦しくなってきた。

 直登が、私の隣からいなくなる……。

 と、その時、直登が立ち止まった。私も、それに合わせて足を止める。



「なんて顔してんだよ」


 直登は、そう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でる。



「余計なこと考えてるだろ」



「違うよ……」



「違わねぇだろ?」



 そう言って、頬に手を添えられる。ポケットに入っていたからか、少しあたたかい。

 直登は、そのまま何も言わずに私の目を見つめる。私も、目をそらすことも出来ずに固まる。



「可鈴」



 と、次の瞬間、私の思考は固まった。

 唇に触れる、柔らかい感触。目の前にある、直登の顔。私は、目を閉じることも出来ず、ただ固まるしかなかった。

 離れた、瞬間に漏れる息。そして、私の瞳いっぱいに映る直登の顔。うっすらとした唇。綺麗な瞳。長いまつげ。こんなにも近くで、直登の顔を見たのは、初めてかもしれない。

 すると、直登は再び軽く唇を重ねる。そして、すぐに離れる。

 そのまま、直登は私の事を抱き締めた。






「俺は、いなくならないから……。可鈴の側にいるから」




「……直登っ」




「長く待たせてごめん。俺と付き合ってください」





 その言葉を聞いた瞬間、ブワッと涙が浮かんできた。直登の言葉が、胸に刺さり染み込んでいく。私は、そっと直登の背中に手をまわした。直登の気持ちに答えるように。直登を熱を体全体で感じるように。





「……こちらこそ、お願いします──」




***




「──へ!?本当に!?おめでとうっ!!」


 翌朝、私は凪沙に直登と付き合えた事を報告した。凪沙は自分の事のように喜んで祝ってくれた。


「凪沙のお陰でもあるんだよ?本当にありがとう」


「そんな事ないよ!!本当に良かったね!」



 話をしているとチャイムが鳴り、担任が教室に入ってきた。


「はーい、席に着けよー。あと、進路希望の紙持ってきた奴は今出せよー」


 そう言われ、何人かの生徒が席を立つ。そこには直登と凪沙はもちろん、私も含まれていた。

 席を立った私に直登はひどく驚いていたが、何かを言うわけでもなく、静かに紙を出して座った。



「そういえば、可鈴は進路希望何にしたの?」


 席に着くと、凪沙が話しかけてくる。


「私はね──」




***



「──心理カウンセラー?」


「うん。皆のお陰で目標が決まったよ!」


 休憩の間に、直登に話しかけられ私は答える。


「私、いつも悩んでる時に必ず誰かに助けてもらって、本当に救われてるから、今度は私が悩んでいる人の相談に乗って、その人の気持ちを軽くしてあげたいなって。そう思えたの。人に関わる仕事っていうアドバイスをくれた、お姉さんにも感謝だね!本当にありがとう!」


「そっか……」


 直登はそう言うと、私の肩にポンと手を置く。

 え!?な、何っ!?





「じゃあ、もう少し数学の成績あげようね?」





 そして、ニッコリ笑う。




「す、数学ですか……?」



「受験には必須だからね!」



 一瞬、空気が固まる。

 私も、とりあえずつられて笑ったけど……


 す、数学はっ……




「無理いいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」




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