第16話 お互いの想い
湊くんからの告白を、やんわりと断った私だけど……本当にあれで良かったのかな?でも、今の私には誰とも付き合える自信が無くて……。知らないうちに、断ってしまっていた。
きっと、あれで良かったんだ。
そう自分に言い聞かせて、1日を終えた。
一人で歩く帰り道。また、こんなつまらない登下校が続くのかな……。そう考えると、すごく寂しい。
マンションに辿り着いて、エレベーターで自分の階のボタンを押し、上がる。6階に辿り着き、ボーッとしながら歩いていて、私は思わず声を出した。
「あ」
「あ」
お互いにそんな間抜けな声を出す。
私の隣の家に住んでいる、直登。その直登が家の前にボーッと突っ立っていた。
「……何してるの?」
そう尋ねると、彼はプイッと顔をそむける。
「……ボーッとしてるだけ」
「……ふーん」
そんな直登の目の前を通り、自分の家の前まで移動する。すると、直登がこちらをチラチラと見てくるのが分かった。
「……何?」
「いや、別に」
……何かすごく変。そして、自分なりに必死に考える。あの様子。言葉……。
あ。
「──もしかして、鍵忘れたの?」
私のその言葉に、直登はギクリと肩を震わせる。
何も言わないから図星なんだろう。
「……お母さんは?」
「……友達と旅行行ってる」
「……お姉さんは?」
「……彼氏の家に泊まる」
「お父さんは単身赴任だもんね?」
「……ああ」
直登は、変わらず顔をそむけたまま。私は、冷たい目で直登の方を見る。
でも、次の瞬間おかしくなって私は噴き出した。
「はっ!?な、何笑って……!?」
「だって、おかしいんだもん!!」
「はあっ!?ば、馬鹿にしてんじゃねぇぞ!?」
「いやぁ、やっぱり幼馴染みだなーって思ってね!!」
「……え?」
「だって、いくら気まずくなっても、すぐにこうやって話が出来る機会を作ってくれるんだもん。絶対に、話をするしかないような場面をね!……あー、神様に感謝しなきゃね」
そう言って、ニコッと笑うと直登も気まずそうに笑みを浮かべる。
「直登の嘘なんてどうでも良い。私はね……
──直登の事が好きだよ」
私の言葉に、直登は何とも言えない表情をする。そして、俯く。
「直登が誰の事を好きでも構わない。私は、直登の事を想い続けるよ?だからね、もうそんな顔しないで?」
私がそう言うと、直登は手で顔を覆い隠した。
鼻をすすっているから、少し泣いているのかもしれない。
「……嘘をつくつもりなんて無かった」
直登が話し始める。
「ただ、可鈴にフラれるのが怖かっただけだ。逃げただけだ。……あの告白は、俺の本当の気持ちだったんだ。俺は……本当に可鈴の事が好きだ。ずっと前から。信じてもらえないかもしれないけど、好きなんだ」
「……直登」
「でも、今の俺には可鈴と付き合う資格は無い。可鈴に嘘をついて、傷つけて……」
すると、直登が顔をあげて私の目を真剣に見つめてきた。その視線にドキッとする。
「だから、もう少し俺に時間をくれないか?ちゃんと可鈴の事を幸せに出来るようになるまで……待っていて欲しい……」
「……分かった!直登がそう言うなら、私いつまでも待つよ!待ってる!」
その言葉に直登は、優しい笑顔を浮かべてくれた。
つられて私も笑う。
直登の気持ちが知れた。直登に待って欲しいと言われた。それだけで、今の私には十分だ。
「──全く、イチャイチャしてんじゃないわよ」
と、その時女の人の声が響いた。私たちは、驚いて声がした方を見る。
そこに立っていたのは──
「姉貴!?」
「お姉さん!?」
直登のお姉さんは、鞄を漁り鍵を探しているようだ。
「姉貴、彼氏と泊まるんじゃ……?」
「はあ!?そんなもん中止よ!中止!!見ての通り喧嘩して帰ってきたのよ!!!!だから、今の私の前で幸せオーラ出すんじゃないわよ!?」
私と直登は揃って苦笑いを浮かべていた。
「ほら、バカ直登!!お姉さまのやけ酒に付き合いなさい!!!!」
「は!?ちょっ、引っ張んなって!!」
直登は、そのままズルズルとお姉さんに引っ張られて、家へと帰っていった。
とりあえず、家に入れたから良かったかな?
そんな事を思いながら、笑顔で家へと帰った。
「──ただいまー!!」




