第14話 見えない溝
「──何で、泣いてんの」
その声に、私は驚いて顔をあげた。
「……湊くん……?」
そこには、息をきらした湊くんが立っていた。
どこから現れたんだろう?すごく不思議だ。
「意味分かんないんだけど。何でこんな所で泣いてるわけ?すげぇ、腹立つ」
「……ごめん……。練習したのに……」
私の言葉に、湊くんは腕をグイッと引っ張った。
「瀬戸さんからの謝罪なんていらない」
そう言うと、公園を出る。そして、目の前にある家の前で止まった。
「ここ、俺の家。あんな所で泣かれて放っておけないから出てきた。とりあえず入りなよ」
そう言われ、私は素直に従った。今は、誰かと一緒にいたかったから、ちょうど良かった。
***
「──美味しい」
目の前に出された、紅茶とロールケーキ。家の中も、とても広くて綺麗で……。私がここにいるのは、場違いなんじゃないかと思うほどだ。
今は、湊くんの部屋にいるみたいだけど、余計な物は置かれていなくて、とても綺麗な部屋だ。
「少しは落ち着いた?」
「あ、うん。ありがとう」
「こっち来て」
「え?」
そう言われ、湊くんに近づくと、窓際に案内された。
すると、そこには先程私が泣いていた公園があった。
「あ、こんなに見えてたの?」
「そうだよ。だから流石にそれを放っておいたら男として最低だなと思って声かけた。別に、ストーカーでも不審者でもないから。たまたま目についただけ」
「今度から泣く時は、あの公園にしようかな」
「いや、面倒だから勘弁して」
そう言って二人で笑い合う。そして、私たちは再び小さな机を挟んで座った。湊くんは、頭をポリポリ掻きながら話すタイミングをうかがっている様子だ。
「……あのさ──」
「──嘘だったんだって。告白」
「……え?」
「学校で王子を演じるための練習だったんだってさ。馬鹿みたいだよね。一人で舞い上がって、返事はどうやって返そうって考えて」
私は、笑いながら話しているが、湊くんの表情は真剣なままだ。
「せっかく湊くんと練習したのに、全部無駄になっちゃったね?ごめんね。面倒くさがりの湊くんが、あんなに頑張ってくれたのに。本当に、申し訳ないよ。でも、何かスッキリしたっていうか何というか──」
その瞬間、湊くんは私の手を握った。
その手は、プルプルと震えていた。
「……何、笑ってんだよっ……。何馬鹿みたいに笑ってんだよっ……。泣けよっ!!無理して笑ってるところなんて、見たくねぇんだよ!!何のために、家まで連れてきたと思ってんだ?瀬戸さんが、どれだけ泣いても俺が側にいてやれるからだろうが……!!」
そう言われた瞬間、枯れたはずの涙が再びブワッと溢れ出してきた。涙を拭う気にもならなくて、その雫はポタポタと下へ落ちていく。
湊くんは、私の隣に移動すると、抱き締めてくれた。温もりが、優しさが、鼓動が伝わってきて、私は声をあげて泣き続けた。
湊くんは、そんな私をずっとずっと抱き締めて、離さなかった──。
***
次の日、私と直登は自然と一緒に登校しなかった。いつもなら、直登が私を迎えにやって来るのだが、今日はそれが無かった。私も、彼に会う気にもなれず、そのまま学校へと向かった。
学校について教室に入った時、直登の姿は無かった。何だ、まだ来てないのか。そう思って、席に着いた瞬間、教室の扉が開き、直登が入ってきた。
一瞬バチっと目が合ったが、直登の方からすぐにそらされた。その様子に、私は肩を落とす。
でも、避けているのは私もだ。直登の事ばかり言えない。
そんな事を考えていると、教室の扉が少し乱暴に開いた。その音で、みんなの視線はそちらに集まる。
すると……
「──すみませーん、幸坂直登くんっていますかぁ?」
挑発的な態度。しゃべり方。その瞳は酷く冷たい。
すべてが彼にふさわしいものでは無かった。
私は一瞬目を疑ったが、彼に変わりはなかった。
直登は、ゆっくりと振り向くとその人物を見る。
「桐谷くんが一体僕に何の用なんですか?」
直登はそう言いながら、威圧的な態度で湊くんに近づいていく。
ふ、二人とも……!!皆が見てるよ……!?
焦る私を置いて、二人は少しの間火花を散らし合う。
「……へー?そんな態度とるんだ?……ついて来い」
そう言うと、二人は教室からいなくなる。教室の中は騒がしくなる。
「え!?何か怖くなかった!?」
「私の知ってる二人じゃない」
「あの二人仲悪いのかな?」
「すごい冷たかったよね……」
「怖かったー」
それぞれ言いたいことを言っているが、今はそんな事どうでも良い。湊くんが、直登の事を呼び出すなんて……何か嫌な予感しかしない……。
私は、覚悟を決めると席を立ち、教室を飛び出した。そして、いつものように、あの教室へと向かった。




