第12話 ついに
「──はぁ、死ぬかと思った」
ベッドにドサッと倒れ込んだ彼は、真っ赤な顔でそう呟く。本当に苦しそうだな……。
とりあえず、布団をかけ心配そうにその姿を見つめる。すると、直登は私の視線に気づいたのか、ニッコリと笑みを浮かべてみせた。
「そんな無理して笑わなくても良いよ」
私が、ボソッと呟くと直登は真顔になる。
そして、私の頭に手を伸ばすと、わしゃわしゃと撫でてくれた。突然の、出来事に私は戸惑いを隠せない。
「無理してるつもりなんてないよ。お前が来てくれたから、少し元気が出ただけだ」
そう言って、またニコッと笑う。
「元気じゃないじゃん。そんな真っ赤な顔して、そんな熱い体で。……よく言うよ」
「そんなに熱いか?……でも、お前の手冷たいから、気持ちいいな」
そう言って、私の手に触れる。
私は、緊張しすぎて声を出すこともままならなかった。伝わる熱。そして、大きな手に綺麗な指。
その男らしい一面に、私は釘付けになっていた。
「可鈴、悪いんだけど飲み物取ってきて?」
その言葉も、耳には入ってこなかった。
いまだに、手は離されないままだ。
「おーい、可鈴?」
何だろう……。
直登が、どんどん大人に近づいていっているのが怖い。
何か、私だけが置いていかれているような……私だけが大人になりきれていないような……すごく寂しい感じがする。
私の知っている直登は、もういないのかもしれない。
直登にもきっと、好きな人の一人や二人はいて、その人に振り向いてもらうために頑張っているのかもしれない。
直登だって、立派な男の子なんだから……。
そう考えると、悲しくて寂しくて、私はギュッと直登の手を握り返していた。
「……可鈴?」
「──直登はさ」
気づけば、私は声を発していた。直登は、心配そうに私の顔を見る。私は、構わず続ける。
「直登は……好きな人って……いる……?」
「…………え?」
私が、そう言って直登の目を見た瞬間、彼は目をそらした。そして、パッと手を離して、自分の顔を隠す。
「いっ……い、いたら何なんだよ……?」
直登は、顔を隠したままそう答える。
やっぱり、好きな人……いるんだ……。
直登にも、好きな人が……。
「そっ、そういうお前は……どうなんだよっ……?」
直登に、そう尋ねられ私はハッとする。
へっ……?
私っ……!?
先程まで、少し悲しい気持ちになっていたのに、今は顔を真っ赤にして焦っている。
「なっ、何、顔真っ赤にしてんだよ!?お、お前だっているんじゃねぇか!!」
「ちっ、ちがっ……!!これは、直登の風邪がうつっただけで……!!」
「そんな短時間でうつるわけねぇだろ!!誤魔化しても無駄だからな!?」
「う、うう……うるさいってば!!」
私は、その場に立ち上がる。
「私、直登の恋なんて応援してあげないんだから!!」
「別にお前に応援されなくても良いし!!だって、俺は──」
そこまで言ったところで、直登はハッとする。
私は首を傾げる。
「だって俺は……?」
直登は、顔をさらに真っ赤にして唇を噛み締める。
「俺はっ……俺は……好きなんだよっ……」
心臓が飛び出そう……とは、まさにこの事だろう。
呼吸をするのにも苦しくて、顔がものすごく赤く熱くなって……。
直登が、起き上がって、私の目を見つめる。
そして、告げる。
「お前の事がっ……好きなんだよっ……!!」
時間が、止まってしまったかのような感覚。
直登の、真剣な表情は変わらない。
私の事が……好き……?
私だって、直登の事が好き。
「…………私っ………私──」
「──ただいまー!直登、愛する我が子の為に色々買って帰ったわよ~!」
そこへ響き渡る、場違いの言葉。
私たちは、そのまま固まってしまう。
「え!?可鈴ちゃん!?ちょっと、久しぶりじゃない!!元気してた?まあ~、また一段と綺麗になって~♪いつも、直登の事ありがとうね!」
「あ、え、えっとお久しぶりです。おばさん」
「せっかく来たんだし、お茶でも入れるわ!こんな、男くさい部屋にいなくて良いから、リビングおいで!やーん、本当に可愛い~!」
一人で話し続けるおばさんに、背中を押され私はそのまま直登の部屋を出る。
***
バタン。
扉が閉まった途端、静かになる部屋。俺は、そのままベッドに倒れ込む。そして、先程の自分の発言を思い出す。
熱があるとはいえ、よく言ったな……俺……。
自分で自分を褒めてから、さらに我に返り、俺は顔を覆い隠す。
いやいやいやいや、本当によく言ったな!!俺!!
多分、平常時だと、まず言えてないぞ!?
ていうか、母さんタイミング悪すぎるだろ!?
俺、返事聞いてねぇんだけど!?
そんな事を考えながら、頭をぐじゃぐじゃと掻き乱す。
あー、ダメだ。何か、さらに熱が出そう……。
俺は、そのまま気絶するように眠りについた。




