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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第2章『みんなの想い』
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第11話 近づく距離?


 ザアアアア……!!



「………雨………すごすぎ……」


 あれから、3週間ほどが過ぎていた。私たちの関係に全く変わりはない。

 今までのように、皆の前で王子を演じ、私の前では本性をさらけ出す直登。そして、そんな直登へ恋心を抱きながらも、それを伝えられない私。

 そして、毎日の登下校も変わらず一緒だ。


 ちょうど、帰ろうとして教室から一階へ降りていた時、パラパラと雨が降り始めた。直登は、トイレに行くと言ったので、一足先に下駄箱へとやって来た。

 すると、この状況だ。

 困った……傘持ってないんだけど。

 そんな事を考えていると、後ろから足音が聞こえた。


「うっわ、雨ヤバすぎ」


 トイレを済ませてやって来た直登は、外の様子を見て呟く。しかし、躊躇うことなく靴を履き、私の隣に立った。


「よし!帰るか!」


「え?あ、うん!」


 私も、慌てて靴を履き直登についていく。

 そして、玄関を出たところで、直登はニコッとして私の方を見る。


「さあ、帰ろう」


「う、うん!」


 そうは言うものの、二人とも動く気配は無い。



「……え、待って?直登傘持ってるんじゃないの?」


 素朴な疑問を直登にぶつけると、キッと睨まれた。


「は?俺が持ってる訳ねぇだろ。そういうお前こそ持ってねぇのかよ?」



「えええっ!?持ってないよ!!さっさと出ていくから、てっきり直登が傘持ってるんだと思った……!!」



「はあ!?ふざけんなよ!?こういう時は、お前が傘持ってて『……アイアイ傘で良いなら……入る?』の展開の筈だろ!?!?」



「何それ!?少女漫画じゃあるまいし、人生はそう簡単には行かないんだから!!」



 そこまで、言い合ったところで、直登は「ブッ!!」と噴き出す。


「あーあ、おかしいわ!確かに、変な期待した俺が馬鹿だった!」


「……私だって、少しは期待してたし」


 そこまで言ったところで、直登は大雨が降る校庭に飛び出した。私は、驚きで目を見開く。


「──やっば!!冷たっ!!」


「ちょっ、直登!?風邪引く──」


「ほら!走って帰るぞ!!甘い展開なんか期待してんじゃねぇぞ!!」


「そっ、そんなんじゃないもんっ!!!!」


 私もそう言うと、雨の中に飛び込んだ。あっという間に体がびしょ濡れになって気持ち悪い。でも……それ以上にすごく楽しい。



「ちょっ、直登!!走るの早すぎっ!!」


「うるせぇよ!早くついてこい!!濡れるぞ!!」


「も、もう濡れてるし!!!!」


 雨の勢いがすごいので、二人とも必然的に大声での会話になる。すると、直登がようやく足を止めてくれた。


「お前、靴が濡れるの気にしてるから遅くなるんだよ!ほら、ついてこい!」


 そう言うと直登は、私の手を握る。まさかの行動に、私の心臓の音は急激に早くなる。

 雨に濡れて体は冷たい筈なのに、赤く染まった頬と、繋がれた左手だけが、とても温かかった──。




***




「──はっくしょん!!!!」


 ズズズと鼻をすする音。そして、目の前にダルそうに立っている直登。



「……何してるの?」


 思わず、そう尋ねていた。


「……見で、分がんない?……風邪引いだんだよ」


「……見て分かる。だからこそ、何してるの?って聞いたんだよ。……はあ、自分で雨の中に飛び出して行ったのに……」


「うるぜぇ……っくしょん!!!」


「……ゆっくり休んで早く治しなよ?」


「分かっでる……」


 そう言って、直登に別れを告げると、学校へと向かう。

 ……それにしても、学校ってこんなに遠かったっけ?

 いつもは、直登が隣にいて、他愛もない話をしながら通っているから、こんなにも静かでつまらない通学路は、本当に記憶にない。それだけ、直登の存在は私にとって当たり前になっているんだ。

 少し、しんみりして歩いていると、後ろから声をかけられた。




「──えー!瀬戸さん一人で登校ですか?なんとお寂しい事でしょう!」




 その喋り方、言い回し、声のトーン。

 振り向かなくても、あの人が後ろに立っている事が丸分かりだ。


「……そういう湊くんだって一人じゃん」


「俺はいつも一人だから良いんだよ。瀬戸さんが、今日は一人で登校してるから……ブフッ!……喧嘩でもしたの?心配だよ」


「……今、笑ったよね!?」


「それともフラれちゃったのかな?大丈夫だよ。俺なら、そんな君を丸ごと受けとめられ──」


「──風邪引いたの!!風邪っ!!」


 湊くんの妄想が、暴走してしまいそうだったので早めに否定をする。


「あー、もしかして昨日の雨?」


「そうなの。二人とも傘持ってなかったから、大雨の中走って帰っちゃって」


「それで、幸坂だけが風邪を引いたってこと?」


「そうなの」


 すると、湊くんは何かを考え始める。そして、次の瞬間口元を押さえる。……この人ニヤニヤしてません?


 そして、急に冷静になったかと思うと私に告げる。





「馬鹿は風邪引かないって本当なんだね」



「ちょっと、酷くない!?!?」



***



 ピンポーン──。


 湊くんのいじりがある中、なんとか1日が終了した。学校が終わってから、すぐに家に帰り、今日の配布物を持って、直登の家にやって来た。


 ガチャリ。

 いつもより、重たそうに開くドア。そこから覗くのは、顔色の悪い直登。目は、あまり開いていないし、マスクをしていていかにも病人だ。


「……可鈴か」


「調子はどう?」


「……この通りだよ」


「おばさんはいないの?」


「仕事」


「そっかー」


 私は、そこで今日の配布物を渡そうとする。

 すると、腕をガシッと掴まれた。いつもよりも、熱くそして力が強い。



「……そこで帰ろうとすんな」


「へ?」


 そのまま、腕をグイッと引っ張られ、私の体は直登の腕にスッポリとおさまってしまった。まさかの出来事に、私の思考は停止する。そして、直登から逃れようと、私は必死で言葉を発する。



「──!?ちょ、ちょちょちょ、直登っ!?」


「もう限界。……部屋まで運んで?」



 もう立っていられないのか、直登は私の肩に額を乗せる。ズシッと体重がかかる。

 こ、これは緊張してる暇は無いぞ!本当に、部屋に運んであげないと……!!



 私は、直登を支え、一緒に部屋まで歩いていった。



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