第10話 そのままで良い
「───へー、それは大変だね」
「そう言いながら棒読みなのはいじめですか!?いじめなんですか!?」
いつもの空き教室に移動した私たち。
私の悩みを相談するが、湊くんは既に興味は無さそうだ。
「はぁ……恋する女の子って大変なんだね」
湊くんは、そう言いながらダルそうに呟く。この人、基本的に面倒くさがりやなのか。少しずつ、この人の特徴が掴めてきたぞ……。
「ど、どうすれば良いと思う?」
「んー?どうすれば良いって言われたって、正直どうしようも出来ないんじゃない?」
湊くんは、そこにある椅子に深く腰かけると、話を始める。
「好きだって気持ちは否定できないんだし、その気持ちに正直になれば良いんじゃないの?普段通りにって思えば思うほど、逆の行動になっちゃうからね。だから、そのままで良いと思うよ。それで、逆に相手に気づかせれば良いんだよ」
「……気づかせる?」
「そう。あ、コイツ俺の事が好きなんだなって」
「な、なるほどっ……」
そうか……。そのまま、行動するっていうのも一つの手なのか……。それで、相手に気づいて貰って……?
い、いや、それはヤバイんじゃないの?
だって、私と直登は幼馴染みでお互いにそんな感情なんて持ってなくて、もし、私の気持ちがバレてしまったら……!?
『は?可鈴、俺の事好きなの?いやー、無理無理。こんな子供っぽいやつ無理だわー』
冷や汗がタラリと垂れる。
こ、これは、まずい。今すぐに行動を修正する必要がある。
頭の中で、色々な思いが巡っている時、湊くんにデコピンをかまされた。
「余計な事考えるなよ?面倒くさい」
そう言われ、私はハッとする。
「てか、今から帰るんでしょ?俺といるところ見られたら、また面倒な事になりそうだから、早く帰りなよ」
「あ、うん!ありがとう、湊くん!何か元気出た!」
「そう。それは良かった。その調子で頑張れば?」
「うん!また明日ね!」
私は湊くんに手を振ると、空き教室を出る。
そうだよね。始まる前から考えているだけじゃ、何も変わらない。まずは、やってみてから考えないと。そんな事を考えながら、廊下を歩く。
グラウンドでは、野球部やサッカー部が活動をしている。そんな皆が、夕日で照らされて、とても綺麗だ。
部活動の様子を見ながら、自分の教室に辿り着いた。ガラララ──と扉を開けると、そこには席に座って本を読んでいる直登の姿があった。
ゆっくりと、こちらを向く直登。目が合った瞬間に飛び跳ねる心臓。夕日に照らされた直登が、とても綺麗で……声も出せなくて……私の心臓の音だけが、そこに響き渡った。短いけど、長い時間。息をするのにも、少し苦しくなっていた。その時、直登が声を出す。
「──随分と長いトイレでしたねぇ」
「……え」
場違いの一言に、私は開いた口が塞がらなかった。
長いトイレ?
「あ」
そこで、思い出す。そういえば、トイレに行くと言って教室を飛び出したんだった!!
直登は、本を閉じると鞄にしまう。そして、鞄を背負った。
「さっさと荷物準備して帰るぞ」
「ご、ごめん!トイレから出たら友達に呼び止められたの!」
「あっそ」
私は、急いで荷物を鞄に入れると、教室の出入り口で待っている直登の元へと向かう。
「……ごめん。怒ってる……?」
「うん」
「遅くなってごめんね」
「違う、そうじゃない」
直登は、教室の扉に手をかけて振り向くことなく答える。何を怒ってるんだろう……。分からない。分からないから困る。どうすれば良いの?
「──かと思った」
「……へ?」
「避けられてるかと思った」
そう言って、私の方をチラッと見る直登。その恥ずかしそうな様子に、私もドキッとする。
「いつもと様子が違うから焦った」
「……ご、ごめんっ……」
「可鈴。俺の勘違いだったら申し訳ないけどさ……」
「……え?」
「……お前……もしかして……」
何っ……?何を言おうとしてる……!?
今までで一番大きな心臓の音。この音が、直登にも聞こえているんじゃ無いかと思うほどだ。
「──俺の王子モードにキュンとしたのか?」
「…………は?」
思わず、その一言が出てしまっていた。
「まあ、それも分かるような気がするよ。普段は見せない優しさに、思わずキュンとしてしまう……仕方ないよな。」
何か、ものすごくイライラするのは、私の気のせいでしょうか?でも、次の瞬間には呆れて、笑いも出てきた。
直登って案外、鈍感みたい。たぶん、当分の間は私の気持ちにも気づけないんだろうな──。
そんな事を思いながら、私たちは今日も二人でいつもの道を帰っていった。




