【六】
街に着いた旅人たちは急いで教会に駆け込んだ。
「ああ、司教様! どうかお助けください! 私たちはあの山を越えようとして、吸血鬼に捕まりました」
「恐ろしい、恐ろしい吸血鬼に……ああ、命からがら逃げ出しましたが、もしや呪いをかけられたのでは……!」
彼らは青ざめ、がたがたと震えながら十字架の下に跪いた。固く手を組み懸命に祈るが、目をつむるたびに思い出す。
牙を剥き、爪を立てて襲いかかる怪物を!
司教は彼らを憐れみ、聖水を振りかけ、優しく肩を叩いて魔を祓う。
「あなたがたの信仰が強ければ、闇に穢されることはありません」
旅人たちは平伏し、そして荷駄を全て降ろして教会に捧げた。
司教は満足げにほほえむ。
「主は、あなたがたをお救いくださるでしょう」
「あ、ありがとうございます!」
彼らは涙を流して安堵した。
「やはりあの山を越えるには、吸血鬼どもを一掃せねば」
騒ぎを聞きつけた街人たちが集まり、口々に吸血鬼討伐を叫ぶ。
「おれの娘は山菜採りに出かけたまま帰ってこねえ。きっともう……」
「あたしのダンナも狩りにいくって言ったまま行方不明さ。吸血鬼め!」
すでに彼らの怒りは頂点に達していた。
司教は武器を取り立ち上がった街人たちを祝福し、鼓舞する。
「恐れることはありません。奴らは陽の下では無力。夜明けとともに城に潜入し、動けぬ奴らを陽の下に引きずり出すのです」
腕に覚えのある者は討伐隊に加わり、そうでない者は資金と食糧を差し出した。
「どうか私たちもお連れください。道案内ができるでしょう」
旅人たちの目にもまた、狂気に似た何かが宿る。
仕方がない、彼らは強い暗示で忘れてしまっているのだ。
一宿一飯の世話になり、礼の代わりにと茶を贈り甘い菓子の焼き方を教えた、優しい時間を。