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~彼女居ない歴=年齢の男が女に贈るもの~

 現在の主人、小川大地と結婚前提でお付き合いをして半月も立たないうちに訪れたのは、私の誕生日でした。

 四捨五入したら三十路だし、もう大してお祝いされても喜ぶような年ではないです。

 むしろ、私の誕生日は小学生の卒業シーズンでもあり、お彼岸入りなので墓参りに行くことが多く、兼業農家とはいえ普段はサービス業で共働きだった父母はこの時期かきいれどきです。

 紫月家の父は、県内北部を中心に経営する車会社の会社員。

 若い時はレーサーだったり、バブル期でサーフィンが流行ればマイサーフボード、スケートが流行ればマイスケート靴を持っていて、唯一出来ないのは球技ぐらい、得意なことは故障した電気系統を弄り倒して直したり、無線機まで発明する人。

 結婚観なんてものがあったら、私は父のような人と答えるぐらい、ファザコンまではいかないけれど、母よりは父が好きでした。

 まぁ、そんな父は三月半ばは決算時期で、高校卒業して免許取り立ての子や大学卒業して就職決まった子に車を売るという、一年通したときに売れる月のナンバー3までには入るくらい忙しい。

 しかし、この紫月家の父は変人で母との結婚記念日を掛け算した日にちが私の誕生日になるのを、とても記憶に残っているらしく毎年そんな話をしながら、こっそりと誕生日に商品券をくれたりする。

 ……この、商品券を誕生日プレゼントとしてくれるようになったのは、就職してからで学生時代は特に何も「おめっと」と声をかけてくれるだけでした。

 一方の紫月家の母は、父と職場結婚後に県内大手のスーパーで食品売り場のレジ打ち→衣料品売り場異動→同系スーパーの化粧品売り場異動→別スーパー内貸テナントの衣料品で働いてました。

 異動が多いのは子育ての時間もあるし、特に最後の別スーパー内の衣料品売り場ではお店がラストの時間まで働いており、人件費削減なのか売り子一人という結構過酷な労働。

 その頃は私も就職していて母より帰るのが遅い時もあるけれど、早い時は父と同じ時間なので父と飼い犬で食卓を囲み、母は夕食は職場で済ませ弟もバイト先で済ませるという、バラバラな家でした。

 そんな父母がサービス業同士だと休みが合う日もなく、元々、紫月家というのは「自分のことは自分でする」という暗黙のルールがありました。

 父が外で働いて、母がパートしつつ家事もするというのが、大体の共働き家庭は多いと思いますが、紫月家は「自分のことは自分でする」なので、今で言えばシェアハウスを先取りしたような形で生活していました。

 主だった生計だけは一緒、だけど「自分のことは自分でする」精神から当然のことながら年金・生命保険・健康保険の支払は各自負担。

 私の職は労働組合もなく社保も厚生年金もないので、国民年金、国民健康保険を自分でかけるため、年収入が103万未満の時は健康保険を父の扶養にしていたのですが、扶養から外れる年もあれば、加入できる年もあったりと手続きが非常に面倒くさいので、扶養から外れた年から年収が少なくても、年金・健康保険を支払っていて流行の貧困女子にばっちり該当していました。

 母は父よりも厳しいし、女同士で目線がどうも結婚した先を考えているようで、誕生日がくるたびに「私があんたぐらいの年は……」という話を何度も聞いてうんざりすること数年。

 お祝いらしきお祝いというのは、してもらったことがないので特に誕生日だからどうこうってことはありませんでした。


 そして、誕生日当日は日曜日だったのですが、生徒の発表会というお仕事が入っていたので、結婚前提での最初の誕生日を祝ってもらったのは前日。

 まだあまり知りあっても間もない……ので、私の好みなどわかるはずもありません。

 が、それなりに頑張って立派な洋食店に連れていってもらって、お祝いと言ってもらったのは某ブランドのK18ピンクゴールドのネックレス。

 ざっと実は後で検索したところ数万円する。私の一か月自由に使える数千円の何か月分だろう? というくらいの代物。

 入れ物はブランド品だけあって可愛いし、中身も可愛いと言えば可愛いんですが、マズイ、これはマズイ……。

「ごめんね、最初に言っておけば良かったんだけど……私、金属アレルギーだから、インテリア化するの確実だけど良い?」

 と、思わず言ってしまいました。

 まだ指輪じゃなかっただけマシだと思わないといけない、うん。

 でも、貴金属を贈るとは思ってなかった。

 そんな私に、当時の主人は嘘がつけないので正直に種明かし。

「そうなんだ。ごめん、実はそれ自分で選んだわけじゃなくて……俺の母についてきて貰って選んでもらったんだ」

 な・ん・で・す・と!?

 私の脳内は何でそこに母がついてくる?

 いや、まぁ……相談にとして聞いたのかもしれない。……し、息子が結婚前提の相手に贈るならっていうのもあったのかもしれないが。

 その頃には主人の家族構成も少しは聴いていたので、養父には相談出来ないかと思えば相談相手は母しか居ないのはわかる。

「母曰く、女はアクセサリーとか高い物を贈れば大抵喜ぶって言うから……。俺は香夜の好きなものを訊いての方が良いとは思ったんだけど。うちの母も妹も高級品で喜んでるし」

「……いや、ないよ。それは。結構長く付き合ってからなら話わかるけどね。でも、こう私みたいな体質の人はアクセサリーでは喜ばないし、むしろ98円のプリンか、まめゴマの鉛筆程度で喜ぶよ、私は」

 育った環境が違うので何とも言えないけれど、そんな話を最初のイベント事としてポーンとあったので、主人の母はこの時から私の中で「お金に対する執着心が強そう」とインプットされました。

 結婚自体にいくらお金がかかるか、主人には全く検討がついてなかったようで、すぐにポーンと買ってしまったようです。


 勿体ないので、翌日の発表会にネックレスをつけてみましたが……やはり金属アレルギーで痒くなってしまったので、その後結婚した今でも大事に結婚にかかった資料品と一緒に箪笥に眠っています。

 ごめんね、つけられなくて……。

 ただ、まぁ……私も女なんだなと思ったのは、主人からの贈り物が主人が選んだ物じゃなくて、主人の母つまり姑が選んだ物というのは、かなり複雑です。

 そういうことは結婚してから「姑が嫁に着物を仕立てた」という話を田舎ではよく耳にしたけれど、結婚前提でも結婚前。

 正式に挨拶もしてないし結納ですらしてない、いわゆる彼氏彼女のまだどう転ぶかわかりませんよという期間から、母がでしゃばってくるのはどうなんだろう。

 その当時の姑の心境がどうだったのかはわからないけど、私が逆の立場であったとしても、誕生日プレゼントなら女性の好みを訊いた方が良いと思います。

 それは私にこだわりが強いからかもしれないけれど、高級品をいきなり贈られて嬉しいと思う女性はそんなに居ないと思う。

 金額的にも内容的にも重いし、洋食店代をご馳走してくれただけで充分じゃないかな。

 それ以上に金銭物を目当てにするのは、なんておこがましい。恥を知れと思う。

 男性に貢がせるなんて、女性が社会に少しずつ進出してきた時代で、日本の憲法上は男女共に労働の義務が課せられているんだから、女性の賃金はまだまだ男性よりは低いけれど、自分で働いて得たお金で欲しいものを買うから欲求満たされるんじゃないか。

 そんな説教を結婚した今でも主人に話してます。

 そして一年後、主人と結婚しての誕生日は……完全に忘れられていました。前日まで本気で。

「どうしよう。何も考えてなかった。何がいい? 抹茶? プリン?」

 当日まで物凄くテンパりながら帰宅してきた時には、クリスタルピアノ型のブリザーブドフラワーと、チョコレートケーキを買ってきてくれました。

 クリスタルピアノ型のブリザーブドフラワーを選んだのは、「結婚式の受付用装花にも使えるか」という安易なものではありましたが。

 店先で「このクリスタルピアノ型のブリザーブドフラワーは良いなぁ」と言っていたので、今日も目の前に飾って鎮座しております。

 私は、この花が好きかな。

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