君の魔力
アメーバブログに「よしき」の名義で掲載した小説です。
楽しんでいただければ光栄です。
「わたし、もうサヨナラなんて言わないよ……」
ありがとう。
全てにサヨナラをしたはずだった。友達にも、心の滞りにも、
……自分自身の存在にも。
それなのに君は、そんなわたしに「好きだ」って言ってくれた。優しく抱き締めて、優しい音色で。
―――――。
「本当に本当に、君が好きなんだ」
暖かな声が、わたしの耳元をくすぐる。
他人なんて、自分すらも信用出来ないはずのわたしは、何故か彼のその言葉だけは信用してしまった。
人の温もり。そんなもの、忘れてしまっていた。思い出したいとも考えてなかった。それなのに。
「わたし……わたしも、好きだよ……」
今のわたしが、まだ嘘をつけるなんて知らなかった。人を信用しなくなって、どうせ信用したってすぐに裏切られるだけだから、って。だったら信用していないことを常に表面化して、最初から近くに人を寄せ付けないようにしようって、そんな風に思っていたわたしが……。
そしてわたしは、彼とキスをした。
同時にわたしは、自殺に失敗した。
サヨナラ、なんて独り言を呟いたのが、悪かったらしい。
「ありがとう。本当に、愛してる。だから、サヨナラなんて言わないでほしい」
無意識のうちに、頷いていた。
「わたし、もうサヨナラなんて言わないよ……」
ありがとう。
その言葉は、敢えて口にはしなかった。
それから一週間、二人で毎日を過ごした。バイトで疲れてるはずなのにわたしを気遣ってくれる彼に、夜に痛がるわたしに優しくしてくれた彼に、気付いた時には深く惹かれていた。
「悪徳なサイトに騙された。自動多重契約をされちゃって……」
切羽詰まった声だった。わたしの大好きな彼らしくない。
「でも、利用規約に反してはいないから、警察にも言えない。退会するにはお金を払う必要がある」
だからお金を貸してほしい。すぐに返すから、サヨナラなんて言わないでほしい。
そんなことを言う彼。
「サヨナラなんて言わないよ……」
わたしは、合計百万円を彼に手渡した。バイトを頑張ってるのは知ってるし、何より、彼の震える声なんか聞きたくなかったから。
多分わたしは、この時点で気付いていたんだ。
だからこんなことになっても、案外簡単に受け入れられた。
あれから三年が経った。結局貸したお金は返ってきてない。彼も、あれ以来帰ってきてない。
ため息。
「本当に、大好きだったのになぁ」
彼を探しにでも行こうかな。あの場所からなら、もしかしてすぐに見付けられるかもしれない。だって神様がいるわけだし。
よし、決めた。他にやりたいこともないし、そうしよう。
そしてわたしは呟いた。
……サヨナラ。