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九十九小里の新生活 2

凛っ!

 【迎学祭】


 高校へ近づくにつれて、徐々に周りが浮ついた雰囲気を帯び始めた。


 今日は新学年の始業式でもあり、入学式でもある、迎学祭という式典なのだ。

 入学式が始まったころに在校生が登校し、各教室で始業式を始め、そこから新入生を歓迎する。


 この迎学祭ほとんど学園祭のようなもので、各クラスごとに出し物を決める。


 大まかな傾向としては、三年生は校内のいろんなところに出店を開き、二年生は学校の主だった施設に複数のクラスで協力して、その施設がどんなところか説明したりする。たとえば体育館ではクラスの運動部のパフォーマンスを見せるとか。


 基本的に参加自由なこの迎学祭は毎年驚きの参加率七十%超えを果たしている。


 この時以外に新入生を部活に勧誘したりできる機会がほとんどないというのがその理由の一つであるが、それでも驚異の参加率だろう。春休みもこの準備でほとんど費えるのだから。面倒だ。


 ……まぁこの迎学祭、参加すると春休みの課題免除+夏休みの課題削減という特典があり、それが参加率の最大の要因だろうな。


 ちなみに削減された夏休みの課題だが、それでも一般的な高校生の課題の量と変わらない。ということは、参加しなかった人はもっと多いという事か。


 三年の参加率がほぼ百%なのは、地獄の夏休みを味わったからかもしれない。



 【九十九といえば】



 校門の前にその人は立っていた。


 それを見て僕は「げぇ!」と声をだしてしまい妹が不審な目を僕に向けてきた。


 よく見るとその人の後ろにも見知った男子生徒が立っていた。

 彼は僕に気の毒そうな目を向けて、小さく手を振った。


 野郎、他人事だと思いやがって……ッ!


「ツクモ、待ちくたびれたぞ」


 僕を間違った名前で呼ぶ少し目の鋭い少女。

 彼女の名は、柊瑠璃ひいらぎるり。この学校の生徒会長を務める三年生である。


「……会長、僕の苗字は九十九ツクモじゃなくて九十九ツヅラです」

「しかしだな、九十九といえばあのドラマのツクモを思い出すだろう?」

「会長、あのドラマ結構昔のやつですよね? なんで知っているんですか……」

「君は相変わらず細かいことを気にするねぇ? ツクモ君?」

「だから、ツクモじゃなくてツヅラです!」



 【生徒会長・柊瑠璃】



 柊瑠璃。成績優秀、品行方正、スポーツ万能、見目秀麗。おまけにお金持ち。

 ここまで全てがそろった女性もそうはいないだろう。

 天は二物も三物もお与えになるものなので、それも全く必要のないものまでお与えになってしまった。

 それは止まらぬ人を弄ってネタにしたいという欲求。

 さっきみたいに人の気にしているところや、面白いところを弄って楽しむという、周りにとってはえらい迷惑な趣味をお持ちなのだ。


「それで、コサト、そちらが?」

「はい。というか僕の名前はコサトじゃなくて小里オリです」


 会長を掌で指し示しながら僕は亜美に彼女を紹介する。


「こちらがうちの生徒会長、柊瑠璃さん」


「まずは入学おめでとう。また入学式のスピーチで自己紹介するだろうが、私は柊瑠璃。今のこの学校の生徒会長なんてものをやらされている」


 なんで、微妙に強制されているみたいに言うんだよ。いや、間違いじゃないのかもしれないけども。


「えーっと、いつも兄がお世話になっております。あたし……、じゃなかった、私は妹の九十九亜美つづらあみです。この度、永山高校に入学しました」


 妹はよろしくお願いしますと頭を下げた。


 対して、表面上は柔和な笑顔を向けている会長だったが、少しつまらなそうな顔をしていた。


 さっきからだんまりを決め込んでいた男子と、妹が挨拶を始めると、会長は僕のそばへ来て、


「君の妹なんだが……、思った以上に、その……なんだ」

「弄れそうなところがなくてつまらない。ですか?」

「流石。やはり君と私は以心伝心だな」

「吐き気がするから、止めてください」


 その後会長は「いや、君と同じように九十九をネタにしてもよかったんだが、それだと芸がないというか二番煎じというか、それは君の専売特許というか、……だな」などと訳が分からないことを語り始めたが、それ以上は僕の脳がその言葉を認識するの拒否した。



 【妹と義兄さん】



「もう行かないといけないので、失礼します」


 そう言って妹は頭を下げ、新入生の列へと混じっていった。


「それじゃ、私もそろそろスピーチの練習をせねばな。小里、私のスピーチに感動してむせるなよ?」


「むせるってなんですか……」

「じゃあ、しゃくりあげるように泣くなよ?」

「微妙に文学的に言わないでください」


 はははと魔王のように笑って、会長は入学式の開かれる体育館へ向かっていった。


 残されたのは野郎二人。


「小里の妹さんにしてはえらくいい子だね?」

「それは僕に対する嫌味?」

「いやいや、妹さんに対する称賛」


 ようやく言葉を交わしたこの男は、陣野隆司じんのたかし

 生徒会の会計職を務めている。

 ちなみに僕は生徒会の書記だったりする。


「ぼくもあんな妹が欲しかったよ」

「いたらいたで面倒だと思うよ?」


 主に機嫌取りで財布が軽くなる。


「いないよりはいた方が面白いと思うよ」

「そういうものかな?」

「うん。ぼくも兄さんができてからは毎日が面白くなってきたし」

「いや、隆司のそれって半分以上惚気ノロケじゃないか……」


 隆司の言う「兄さん」は「義兄にいさん」。より正しくは恋人の兄の事を指している。


「いや、違うよ~。音衣は音衣で一緒にいて楽しいんだけど、兄さんができたのはまた別の面白さがあってね」

「はいはい、家族認定済みの恋人持ちは幸せそうなこって……」


 のほほんと笑う隆司に、溜息を吐きそうになる僕だった。


陣野君、……キャラ変わった?


次回は入学式と迎学祭。乳が臭い・ゲイが臭いと誤入力しないように。

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