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迎学祭‐終了‐

お久しぶりです!

気分転換がてらABD(Ambivalence Daysの略)の書きかけだった最新話を更新しました!

  【チーズケーキ珍道中】



「すまないがこの通り、九十九君はここにはいない」


 わざわざ訪れた生徒会室にはもう九十九の姿はなかった。


「さっき呼び出したばかりじゃないですかー」


 頬を膨らまして文句を言うのは俺のクラスメイトの空野蒼だ。



 どうして俺たちが九十九を探していたのかといわれれば、これにはいろんな事情が重なったためだとしか言いようがない。


 まずは、俺たちは喫茶の売り物であるチーズケーキが品切れとなったため、それを用意した陣野探して生徒会室を目指したのだが、道中で恋人とじゃれる彼を発見した。


 事情を説明したところ、それならもう店を終了したほうがよいのではと言われたため、一応責任者である九十九と梅郷を探す羽目になった。


 幸い我々の出し物たる喫茶に戻ると梅郷がいたのだが、彼女は搾り取られた雑巾のように精力を奪われており、正直話にならなかった。


 それゆえにもう一人の迎学際委員である九十九を探してここまで来たのだ。

 途中生徒会室へ彼を呼び出す放送が流れたため、これならすぐに会えると踏んだ空野が敵情視察とぬかしほかの店を回った結果、彼と入れ違いになってしまったらしい。


「こちらに非がある。会長を責めるのはお門違い」

「むむぅ。赤井君は会長の味方になるんですか!?」


 味方も何もないだろうと俺はため息を吐く。


「これってNTR? だとしたら、……ぐふふふふ。

 ……意外といいかも」


 なんかもう人として、年頃少女として、この娘はダメなんじゃないだろうかと思わせるほどだらしない笑みを浮かべて、空野は熱っぽく俺たちを見比べていた。


「……彼女はどうしたんだ?」

「これは、彼女の仕様。気にしないで、あげてください」


 お、おうっと戸惑ったような生徒会長の反応は非常に珍しい気がしたが、この空野を放っておくのはいろいろと危険だ。早々に生徒会室から撤退しよう。


そうやって、焦ったのが俺の間違いだった。


「ありがとうございました! どうみょ、お騒がせしまみゃした」


 し、しまった滑舌が!


「……あ、ああ。なるべき早く営業終了の手続きを済ましてくれよ?」


 俺は噛んだ恥ずかしさから会長の返事もろくに聞かずに、涎を拭くことも忘れ妄想に浸る空野の襟首を掴み、引きずりながら生徒会室を後にした。


 ちなみに、後で九十九に聞いた話だが、生徒会長は涎まで垂らし始めた空野にどん引きして俺が盛大に噛んだことは記憶していなかったらしい。


正直助かった。



  【おれはしょうきにもどった】



「はっ!

 生徒会長! 赤井君は私が目を付けたんですからねっ! ほ、ほどほどにしてください!」


 やっと空野の意識が現実に戻ったかと思ったら、まだまだ妄想の海の中を優雅に泳いでいたらしい。


現実逃避がてら、廊下の外を窓から眺める。ミスコンの結果発表でもやっているのか、野外ステージにカラフルなライトを浴びて参加者らしき少女たちが一列に並んでいた。


「もちろんNTRに興味がない訳じゃないんですよ? せめて自分のものにしてからじゃないと、その有り難みも半減しますし……」


「何、言ってる?」


「せっかく目をつけた赤井君まで、九十九君みたいに取られたらいやでしょ⁉」


 ダメだ。会話が通じない……。

 と言うか、この淑女(痴女)は九十九を毒牙にかけようとしていたらしい。


 そして、今は俺が目をつけられているらしい。……俺は今、生まれて始めて貞操の危機を感じている。


「どったの? そんなに震えて? 人肌で温めてあげようか?」


 ようやく現実に帰還したと思ったら、そんなことはなかったぜ!


「舌舐めずり、しない」


 とりあえず舌を出していて、大変気味が悪かったので、それを注意する。


「ジョーダンジョーダン。赤くなちゃって。カワイイわね」


 目がハンターのそれに近しいと感じたのは気のせいであったのだろうか。いやそんなことは(反語)。

 それにしても、 ……カワイイと女性に言われた場合、喜んでいいのか、どうなのか分からないな。しかも空野も一応美人だし。


「……。でも意外だったな〜。赤井君って、もっと冷たい人だと思ってたよ」


「あまり人前で、話さないから、それは当然。俺はただ、話す事が、苦手なだけ。別に、会話は、嫌いではない」


 本当に人と話すのは苦手ではない。しかし、俺は滑舌が悪い上に、実は声まで小さい。故に俺はゆっくりと、一語一語話さなければ人と会話が成り立たないのだ。


 さっきのように慌てると噛む。できれば人前で噛み噛みな言葉で話したくはない。


「へ〜。そうだったんだ。私はてっきり人間嫌いで話したくないんだと思ってました」


 なんて嫌な誤解をされていたのだろう。


 別に学級委員の小里や隆司とは会話していたのだが、全く話さないから女子からはそう思われていたとは。通りで我ながらモテない訳だ。


「でも、今日違うってわかってよかったわ」


そう言って屈託無く笑う少女は、朱い夕焼けよりも、ステージのライトやそこに立つミスコンの参加者よりも、きっと、世界の何よりも輝いていて、綺麗だった。


「今晩のオカズは、君に決めた!」


 今の今まで、屈託無いと感じていた笑顔は、残念ながら邪な感情百パーで構成されていたらしい。


 何と言うか、残念だ。



【お疲れ様!】



「と、言う訳で! 何はともあれ皆お疲れ様でした! 明日からは皆新しいクラスで授業だけど、最後にこのクラスでこんなたくさんの思い出ができてよかった。ありがとう! そして、かんぱーい!!」


『かんぱーい!!』


 九十九小里の乾杯に皆が楽しそうに復唱し、教室の至る所でグラスのカキンと気持ちの良い音を響かせた。



私もなんとかグラスを持ち上げたものの、立ち上がって誰かとグラスを合わせる気力はなかった。


風紀委員会に文字通り、こってり絞られた私は楽しみにしていたはずのおつ会(お疲れ様会の略)も楽しめる元気があるはずもなかった。


大体何故私がこんなんなっているのに、ナイナイは元気なの? ふこうへーだ。


きっとナイナイはあのいけすか無い生徒会長のお気にだから、私みたいにきっちりとした事情聴取じゃなくて、なあなあで済ませてもらったのだろう。ひきょーな奴だ。


なのにどうしてだろう。


「お疲れ様、梅郷さん」


そう言って私にグラスと笑顔を向けるナイナイを見た瞬間、なんかどーでもよくなった。


「いろいろ苦労させられたけど、楽しかったよ」


「ふ、フン。私が企画したのよ? そんなの当然でしょ?」


こんなに嬉しいのはなんでなんだろう?




【そして日常が始まる】



クラスでのおつ会が終わり、誰かが二次会の話し話をし始めたところで、僕は静かに手を上げた。


「ごめんだけど、二次会は僕、参加できないんだよー」


  一部から不満の声が上がったものの、本気で引き留めるようなやつはいないので、どうしても用事があると言えば、みんな納得してくれた。


僕は 同様に用事があると言う赤井君、隆司(こいつは彼女の森田さんと過ごしたいからだろう)に、しれ〜っとおつ会に参加していた我が妹の亜美と一緒に校門の外へ出た。


「……フフ」


 夕闇の中、スキップしながら先を進む亜美の笑い声が届く。


「なんかだか楽しそうだね」


 くすくすと隆司が笑う。


 僕も釣られて笑いそうになるのを堪えていたりする。

 本当にあの娘はそういう仁徳があるんじゃないのかな。


「それで、君の用事ってなんなの? 九十九君?」


 赤井君が不思議そうに僕を見つめる。


 僕は肩を竦めて、妹の後姿を眺めた。


「あの子の入学祝だよ」


 あの子にはいい思い出を作ってあげたい。

 僕もそうだったけど、亜美は僕よりも寂しがり屋だからね。


「だから、亜美には幸せな思い出を作ってあげたかったんだ。……そういう意味で、僕はみんなに感謝してるんだ」


 亜美を案内してくれた逢坂、僕らの時間を作ってくれた会長、そして、妹を快く受け入れてくれたクラスのみんな。

 みんなみんな。今日の彼女の思い出になってくれた。


「二人にも、ありがとう。赤井君、隆司」


 僕は立ち止まって、半歩進んだ二人に礼を言った。


「……やれやれ、君ってやつは」

「気にする、必要はない。礼を言う、必要もない」


「……ありがとう」


 でも、僕は礼を言った。


 ああ、でも僕はそれでも不安だった。


 弾む彼女の背中を見つめて僕は思った。

 彼女は家に帰った時、孤独を感じてしまわないだろうか? 彼女は親の不在を感じて寂しくならないだろうか?


 どうせなら二次会に参加した方が良かったのかもしれない。その方がみんなといて賑やかなまま過ごせたのかもしれない。


 でも、この子は僕の料理を楽しみにしてくれていたから、……どうすれば最善だったのだろうか。


 それを少しでも紛らわせられるようにせめて、


 夕飯は豪華に、楽しくしたい。


「とと、ちょっと待ってね」


 唐突に隆司は携帯を取り出していた。そして、そのまま誰かと連絡を取り始めた。


「あ、兄さん? うん。そう今終わったとこ。それで、実は友達の妹さんの入学祝いのパーティーに参加しようと思ってね。……うん。そう。それで音衣と兄さんもどうかなって」


 隆司はこっちに向かって「いいよね?」とアイコンタクトで確認をしてきた。


 僕は、戸惑いながら頷いた。


 どうして急に、なおも携帯で恋人と兄を誘う隆司をぼうっと見つめてると、肩を叩かれた。


「赤井君?」


「俺も、まじぇてほしい」


 ゆっくりしゃべってるにもかかわらず、赤井君が思いっきり噛んだ!


「……混ぜてほしい」


 赤井君は表情も変えずに言い直した。


 すごくツッコミたかったが、彼の気遣いがすごくうれしかったので、「ありがとう」とだけ僕は言った。


 一年間同じクラスだったのに、僕は彼がこんな優しさを持つ男だとは知らなかった。


 もっと仲良くなっていればよかった。明日にはクラス発表があって別々のクラスになるかもしれないことを思い出し、僕は少し残念に思った。


 いや、まだ遅くない。


 そうさ。高校生活はまだ半分以上残っている。今からだってできる。赤井君と仲良くなることだって必ずできる。


「隆司、赤井君。ありがとう」


 電話中の隆司は気にするなというように手を振り、赤井君は無表情のまま頷いた。


 まずは人数分の食材を調達しなければ。


 僕は心なしか足が軽く感じていた。



 

 




迎学際終了。

次回はとある一日を多人数の視点から見ていく日常篇に移ります。


なお、大絶賛スランプ中なので次回更新は未定です!ごめんちゃい!

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