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迎学祭‐九十九小里の場合‐

前回のあらすじ


 九十九小里(16)は生徒会書記である。

 彼は迎学祭で見回りという名の雑用をこなす!

 西で迷子だと聞けば飛んで行って親を探す!

 東で他校の生徒との喧嘩が始りそうだと聞けば仲裁のため走る!


 そんな彼にも弱点があった。


 それは唯一の肉親、妹である。

 さぁトラブルを巻き起こす運命神よ! その妹へトラブルを舞いこませるのだ!


 迎学際の裏で密かにトラブルの糸を操る何者か!

 小里は彼らの罠を退け、無事に学祭を終わらせることができるのか!

(※あらすじには本作と関係ない要素が多分に含まれています)


 【お呼び出し】



 よくある『ピンポンパンポーン』という放送が始まる特有の音が流れ、校内の放送機器から『生徒会書記、九十九小里君。至急生徒会室まで来てください。繰り返します……』という放送部の女性の綺麗な声がよどみなく流れる。


 ちょうどその時僕は迷子の小さな女の子を、その親の元まで連れて行って引き渡したところだった。


「……生徒会室ってことは、今の時間だと……会長かな?」


 一体何の用だというのだ。

 軽音部のライブ(メンバーの数人がアマチュアバンドとして名が知られているらしく人気が高い)が始まった途端、迷子や落し物、トラブルがが多々発生している。

 風紀委員はライブの警備や客の整理の手伝っているため、ほとんど動けるのは教師か僕のような生徒会役員だけだ。


 向こうも忙しいだろうが、僕だって忙しい。


 それでもお呼びがかかった以上は行かなければならない。


「……面倒くさいなぁ」


 文句を言いながら僕は一路生徒会室を目指した。



「待っていたぞ小里君」


 いつも通り偉そうな話し方で生徒会長・柊瑠璃は言った。

 しかし、いつも通りの不敵な笑みはなく目線も手元の書類から離していない。


「一体何用ですか?」

「いや、君の妹さんが君を捜していたからね。ちょっと協力してあげただけだよ」


 亜美が……。

 一体何の用だろうか。


「っていうか会長。そんなことで僕を呼び出したんですか?」

「そうだよ?」


 なんの問題があるとでも言いたそうな表情である。


「それ、職権乱用ですよ?」

「乱用せずして何が職権か!」

「どこの英雄王だよ!」


 会長にその台詞がぴったりだと思ったのは内緒の話だ。



 【学生の焦燥と不安】



「いやしかし、君がこんなに早く来てくれるとは思わなかったよ。おかげで妹さんはまだ戻ってきてないよ」

「はぁ……。偶々近くにいましたから」

「何か問題はあったかい?」


「うーん、本校の生徒と他校の生徒が喧嘩しそうになりましたが何とか抑えました。あとは、迷子を三人、親のところまで送り届けました。後は特に問題はありませんでしたね」

「それはご苦労。エキセントリックなクラスがなかったというのは喜ばしいが、少し寂しいものであるね」


「すみませんが寂しいという意見に関しては全く賛同できません」


 ふふふと上品に笑う彼女は、事務処理をしているのにもかかわらず一枚の絵画のようだった。


「……その、会長、今の間に一つ訊いてもよろしいですか?」

「キチンと瑠璃さんと呼べたら、答えてあげよう」


 ……あんたはホントめんどくさいだな。

 会長こと柊瑠璃さんはプライベートと自分の時間はしっかりと分けたい人らしい(本人の弁)。偶にこうして『会長』と呼ばれるのが嫌な時があるらしい。


「瑠璃さん」

「何だい? 小里君?」

 

「瑠璃さんは受験勉強とかはどうしてるんですか?」

「問題なくいつもしているよ。こういうのは習慣付けだからね」


 何の気負いもなくそう答えられると僕としては困る。

 さすが優等生ということか。


「だが、三年生の中には『受験勉強に集中したいから』という理由で迎学祭に参加するのを止めた人もいる。三年生だけはそういう特例が許されているんだよ」


 クラスメイトが部活の先輩から聞いた話を又聞きしていたので、それは知っている。

 それはまあ普通なのだろう。自由参加だが参加しなければ課題を増やすなどというこの横暴な我が校でもそのあたりは許容しているということか。


「……瑠璃さんは不安じゃないんですか?」

「何がだい?」


「その、こうしてるよりももっと勉強した方がいいんじゃないのかって、焦ったり不安になったりしなかったんですか?」


 僕は不安だ。

 こうして迎学祭を楽しんでいる時間も勉強に費やしたほうがいいのではないだろうか。

 もっと自分には何かやらなければならないことがあるのではないだろうか。


 誰にも話したことはないが、そう不安に思うことがある。


 瑠璃さんはどうなのだろうかと、僕は常々尋ねたかったのだ。


「……ふふふ」


 瑠璃さんは笑った。

 そして書類から顔を上げて僕の顔を見た。


「なるさ。私だって」


 その回答は正直意外だった。

 彼女はいつも我を通していて、自分のやりたいことをやりたいようにやっているだけだと思っていたのだ。

 悪く言えば、もっとお気楽な考えの持ち主だと思っていた。


「だったら、どうして今年も迎学祭に?」

「まあ生徒会長が祭に不参加というのは不味いだろう」

「そりゃそうかもしれませんけど……」


 彼女は「冗談だ」と笑った後にウィンクをした。


「まぁ、そういうのは誰にだってある。もちろん私にも。でもね、私は思うんだよ。こういう風に楽しめる時は今しかないんだと。君と違って私の高校生活は後一年もないのだからね。だから、君たちとともに汗を流し、ともに笑うこの時は余計に貴重なんだよ。

 楽しめるときに貴重なこの時を目いっぱい楽しむと決めているのだよ。私はね」


 その方が勉強する時に身が入るからね。そう言って彼女は笑った。


「そうやって迷うのも経験だ。私だって本当のところは君と変わらないかもしれないよ?」


 いや、全然違う。

 ただ不安に思って焦っていた僕と違って、柊瑠璃という人間はその不安を認めた上で、どうするかをきちんと決めている。

 それは素直にすごいことだと思う。


「……わかりました。ありがとうございます」


 僕は瑠璃さんに頭を下げた。


 彼女は何でも無いように手を振って、また書類整理に取り組み始めた。


 この人には敵いそうにない。

 そう思ったのは何度目か、もう思い出せそうにない。



 【九十九の兄妹】



 妹はそれからしばらくして生徒会室まで戻ってきた。

 なぜかその後ろに逢坂梓馬がついてきていたが、まあそれは後で話を聞くとしよう。


「兄ちゃん……」

「よっ。何か用だって?」


 僕が軽く手を挙げると妹は気恥ずかしそうに顔を背けた。


 妹のこんな反応は初めてではない。

 いままでこういうことはいっぱいあった。


 小学生の時に学校のイベントで初めて僕が遊園地へ行き、家に帰って妹とその話をした時も、彼女は僕の腕を掴み、こんな風に恥ずかしそうに顔を背けた。


 あの時は、彼女も僕と一緒に遊園地に行きたかったのだ。


 良く言えば自由奔放な両親の元で育った僕らは家族で遊びに出かけることがほとんどなかった。

 親によって海外に連れだされることは多くあったが、そこでも両親は仕事づくしで遊ぶ暇はなかった。


 僕は妹の相手で手いっぱいだったが、妹のほうはかなりさびしい思いをしていた。

 僕だってそういう気持ちがあった。でも妹はそれが僕よりも強いものだった。


 妹は人一倍。独りが、苦手なのだ。   


「……あいよ」

「まだ、何も言ってないよ……」


 僕は彼女の頭をぽんぽんと手のひらで軽く叩いた。


「何年君と兄妹やってると思うんだい?」

「……あたしが生まれてからずっとでしょ?」


 そうやって正論返されると少しへこむんだけど。


「会長、一時間ぐらい自由時間を戴けませんか?」  

「ふむ……」


 腕を組んで会長は考え込むふりをしてから、鷹揚に頷いた。


「君はクラスの出し物に生徒会と働き詰めだったからね。特別に認めてあげようじゃないか。

 ただし、手が足りなくなったら問答容赦無用で呼び出すからそのつもりで頼むよ?」


 どうせ彼女は僕をここに呼び出したときからそう言うつもりだったのだろう。


「りょーかいです」


 僕は会長に敬礼して見せた。


「に、兄ちゃん……」

「いいから」


 本当にいいのかと問うように不安げな面持ちの彼女の手を引いて僕は生徒会室を後にした。



 【久しき時間】



「では俺はここで」

 生徒会室を出てしばらく逢坂梓馬は僕らの後に続いていたが、第一棟を出た時そう言った。


 妹は僕の手を解き、逢坂に向かって頭を下げた。


「先輩。ありがとうございます!」


 僕は状況が分からないまま二人を交互に見つめたが、説明はついぞやってこなかった。


 逢坂はひらひらとやる気なさそうに手を振り、妹はにこにこした表情でぶんぶんと手を振った。


 やがて彼の後ろ姿が見えなくなると、妹は息を吐いた。


「いい人だね」

「……まあそうだね」


 逢坂梓馬という男に対しての僕の評価は妹と全く変わらないものだ。


「兄ちゃんと先輩は知り合いだったの?」

「まぁ、ちょっとした用事でね。向こうは迷惑がってた記憶しかないけど」


 彼の話はちょっとした家庭の事情が入るので自然と口が重くなってしまう。

 妹はそれを感じ取ったのだろうか、少し好奇心の輝きを潜ませた瞳を見えなくなった後ろ姿を追い続けていた。


「さて、それじゃ何から回る?」

 途端に瞳を輝かせて妹はう~んと考え込んだ。


「う~ん、兄ちゃんのおススメで!」

「僕のおススメ? それじゃあ、三の二のロシアンルーレット喫茶にしようか?」

「も、もっと普通のところに行こうよ」

「そう? まぁとりあえず歩こうよ。そのうちどこかいい場所が見つかるよ」

「うん」


 僕らは迎学祭で賑わう学び舎を談笑しながら一緒に歩きまわった。


 久しくなかった兄妹だけの時間を僕らは満喫した。



次回かその次で迎学祭編は終了となります。

ようやく日常生活が帰ってきますよ。


「ふふふ。迎学祭が終わったようだな」

「ふん! あやつは学園イベントの中でも最弱」

「学園イベントの恥さらしよ!」

「さあ、九十九小里よ! 我ら学園イベント四天王の真の恐ろしさを知るがよい!」

(※あとがきにも本作と関係ない成分が多分に含まれております)

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