異世界の理
爆発音の方へ走る。
工事でもしていてくれるとありがたかった。この際、爆破実験でもいい。
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修哉と綾がその場所に到着したとき、信じられないことが起こっていた。
そこにいたのは武装した軍隊。歩兵、弓兵、種類は様々。
それと・・・。
「なに・・・あ・・れ・・?」
綾が正面から見て左にいる軍隊と別の方向をさす。
どうやら俺とは別のほうを見ていたらしい。
その指の先にあったものは・・・。
人型といっていいのだろうか。全ての固体の身長は2m前後。全身がナスのように黒っぽい紫をしている。そして全身に、まるで、血管のように青い線が張り巡らされている。異様なのは色だけではない。遠目でもわかる。基礎は人型なのだろう。だが体のあちこちから、何か棘のようなものが突き出している。バラの棘のような形。しかし大きくて、禍々しい。肩の物もあれば、足、額、首、いたるところから棘が出ている。またそれらの棘も黒く、青い筋で彩られている。
一目でわかった。
ここ地球じゃないじゃん・・・。
少なくとも俺の住んでいた地球にこのような生物はいない。
いたとしても軍隊が出動しているくらいだ。そこまでの危険生物がいたら嫌でも耳に入ってくる。
軍隊と謎の生物。2者が目の前で戦闘を繰り広げている。
人は剣、槍、弓といった道具で戦っているが、謎の生物は違った。
彼らは軍隊の人間を踏み潰し、引き裂き、噛み砕いていた。
赤い噴水がいたるところで鮮血を吹き、それはここからでもわかる。
それともう一つ、青い噴水も水を噴いていた。
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「ここは地球じゃないの・・?」
「わからない。」
わかるわけがない。
何?異世界へワープ?そんなことができないことなど、小学校ですでに知っている。
しかし、現に俺らは地球では無いところにいる。
それは紛れもない事実。痛みを伴うため、決して夢では無い。
「ははっ。なんだよこれ。ビックリならもう成功だ・・・。」
あまりに頭が混乱して的外れな台詞しか出てこない。
さっきまでの俺たちは日本かどうかはわからないにしろ、地球にいると思っていた。
なのに・・・目の前の現実。それが俺らの推測全てを否定していった。
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「あなた達、ここで何をしているんですか?」
呆然としていた俺らに、押し殺された声がかけられる。
「聞いていますか?危険ですよ。」
そこまで言われてはっと我に返る。
振り返るとそこには人が一人立っていた。
性別は女性。身長は小柄で135㎝前後。また幼さの残ったかわいい顔立ち。真紅の髪を後ろでまとめ、ポニーテイルにしている。夕暮時の太陽のような瞳をもち、色は日本人に似て肌色。服はRPGでみたような赤いローブを纏っている。手には彼女の身長を超えるほどの長い棒の先端に赤い宝石を加工したと思われる珠玉を冠した杖を持っていた。
ようするに全身赤の幼女がいた。清水と同等の可愛さだ。
この子は暴力キャラには到底見えない。
「きみー、こんなところにいたら危ないよー。」
横で清水が猫なで声で話している。
おいなんだその声。なんだその台詞。さっきまでの混乱も感じられない。
『おい、清水、初対面の人に対してちょっとなれなれしくないか?』
『いいのよ、かわいい子だから。』
基準がわからん。
なぜかわいいとなれなれしくなるんだ。
まぁ、清水の考えがわからないのは、前の会話で立証済みだ。わざわざつっこむ必要もないだろう。
「おかしなことをいいますね。危ないのはあなた達のほうですよ。」
幼女が首をかしげて言う。
「どういうことだ?」
「説明している暇はありません。すこし伏せていてくれませんか?」
とりあえずこの世界のことはこの世界の人に任せようと思い、俺は横にいる清水を説得。
むこうはむこうで『なんで伏せなきゃいけないのよ。』とか言ってきたがまぁ、説得できたので気にしないでおく。
俺らが伏せたのを確認した幼女は、目を閉じ、
歌った。
それは、とても綺麗な歌声だった。
またその声は発せられると共に風に溶け歌詞がよく聞こえない。
ずっと聞いていたら眠ってしまいそうなそんな歌声だった。
どれくらい聞いていたのだろうか。時がたつのも忘れ、聞き入っていたらしい。
彼女は歌い終わり、目を開けた。
そして謎の生物の方向を向き、杖を振る。
瞬間、謎の生物のいた中央付近の地面が、爆発した。
黒い固体が空中を舞う。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
謎の生物が空中に飛ぶと共に、俺と清水が動けないでいる。
爆発音の正体はこんなにも理解不能なものだったのか。
「爆発音・・・。何をしたんだ?」
「火属性の高位魔法を使用しただけです。」
もうわけがわからない。
え?
魔法?
属性?
はたから見てると杖振って爆弾を爆発させたようなものなのに。
「そもそも魔法ってなんなんだ?」
「えぇ!?魔法を知らないなんてどこの田舎物者ですか?」
そこまで驚くことなのだろうか。
「はたから見てると、爆弾を爆発させたように見えるんだが。」
「爆弾?」
話がかみ合っていない。
爆弾のことくらい小学校低学年。いやもっと前くらいから知ってそうなものなのに。
「まぁ、爆弾はおいといて、やっぱり魔法ってあれか?空飛んだり、瞬間移動したり。するやつ?」
「そんな便利な魔法があったらいいんですけどね。
残念ながら魔法は回復と攻撃の2種しかありません。まだ補助魔法は無理なんです。
唯一持ち上げるということはできますが。」
そうなのか。魔法ってそこまで便利ってわけでもないんだな。
いや、相当便利か。あんなわけもわからない生き物と戦ってるくらいだし。
ふと横に目をやると清水がいまだにフリーズしている。
肩を叩いて現実世界に呼び戻す。その途端、さっきの俺と同じ質問を幼女に対して聞いていた。
「2人ともここは危ないですから、本陣へ来ませんか?」
「本陣って・・・あの軍隊の大将がいるところか?」
「えぇ、この場合大将ではなく国王様が直々に指揮をとっていますけどね。」
国王自ら出陣って謎の生物はどれだけ強いんだよ・・・。
「いこ。あんたも来るわよね?」
「ここに残っても流れ弾で死ぬか、あの謎の生物に殺されるかしそうだしな。行くよ。」
あ、そういえば大切なことを聞き忘れていた。
「名前はなんていうんだ?俺は真島修哉、こっちのは清水綾だ。」
幼女に尋ねる
「私の名前は、フロトと申します。フロト・アヴェラス。」
フロトっとよし覚え・・・
「よく間違われますが、私は今年で16歳です。では案内いたします。」
「「え?」」
「リピートプリーズ。」
なんか今とんでもないことを言ってたような・・・。
「案内いたします。」
「もう少し前。」
「16歳です。」
「本当に?」
「皆さん、そういいます。私は16歳に見えないって・・・。」
この身長と見た目で16歳?
半分くらいかと思っていた。
それよりも俺らと同い年ってところに一番驚く。
「ごめんな。もう少し幼いと思ってたんだ。」
泣きそうなのでフォローをいれるが、言ってから気付く。
これ逆効果なんじゃね?
「そうですよね。グスッ、どうせ私は小さいですよ。」
本格的に泣き出してしまったー。
横で清水が『あんたさいてー』という顔でこっちを見ている。
『悪かった。本当に悪かった。』と何度言っても涙は止まってくれない。
それにしてもないてる時可愛かったよなー。
俺の中のSが目覚めてしまうかも。
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フロトに案内をしてもらい、本陣へ向かう途中、俺らはいろいろなことをフロトに尋ね、覚えた。
まずこの世界だが、サンテリウスというらしい。
見つかっている大陸はここだけ。というより海をわたる技術がないそうだ。
よってここはサンテリウス大陸とよばれている。
身分を持つのはほんの一握りの人間だけで、他は全員平民。
次に魔法についてだが・・・聞いたところ、
才能のある人間にしか使えない。才能には魔法そのものの才能という概念はなく、各属性への適正は個人で異なるという。雷は使えるのに、炎は全く使えない。そういったものだ。
また魔法には精神力(=生命力)を多量に要し、使いすぎるとしに至ることもある。威力は高いがリスクも高い、諸刃の剣だ。
また精神力は時間経過と共に回復する。
魔法=技術であるため魔法を使える人間にはさまざまな権限が与えられているという。
攻撃魔法は、自然に存在するあらゆるエネルギーを力に変換させているらしい。
回復魔法は傷を瞬時に癒すのではなく、長い時間をかけて徐々に傷を癒していくものである。しかし魔法に必要な精神力の問題もあり、最近では薬を使うこともあるとか。
科学は全く発達していなく、そのため移動手段も限られる。
重い荷物は魔法使いが何日もかけて運ぶらしい。
魔法に詠唱はいらない。集中するために歌う程度。
以上が知ることのできたことである。
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いろいろあったが案内をしてもらい本陣に到着。
「でっけー。」
石を積み上げて作った壁の内側に、これまた石で作られた城。豪華さは全く感じられないが、守りには適していそうだ。
ずっとテントのようなものが並んでいるところと考えていた俺は馬鹿だ。と痛感する。
最深部の部屋に到着。
「ここで少し待っていてください。」
「あぁ。」
軽い返事。
「呼んだら入ってきてください。」
と忠告をしてフロトはドアの中に入っていった。
「なぁ、清水。」
「何?」
「俺ら、どうなると思う。」
「知らない。」
「だよなぁ。わかるわけない。情報が少なすぎる。」
そもそもこの地の世界観もいまだにわからない。
わかっているのは魔法の使用が可能なことと、謎の生物の存在。それに関連して軍隊の存在。
情報ととっていいのかはわからないが
フロトという少女。
「地球にもどれるのか。」
今まで心の中で思っていたことを口に出してみる。
「・・・・・。」
清水はうつむいて何も喋らない。
人生、どこでどういうふうに転ぶかわからない。
ふとその言葉が脳裏をよぎる。
地球の・・・日本にいるうちは少なくとも安全だった。
目の前で戦争を見た今となってはどうだ。しかも謎の生物までいる。この先、安全の保証は一切ない。
俺らはなぜ、この世界にいたか。
それすらもわからない。
ただこの先が不安で、不安でたまらなかった。
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「入ってきてください。」
ドアが開きフロトの声が会話のない廊下に響く。
それが全てのスタート地点。
物語のスタート地点。