呼応
きっと僕の文章に意味などない。
だからといって溜め込むのもしんどいもので、残念ながら吐き出すのみ。
受信嫌いの強制一斉送信。
にやり。
そしてこの僕のまさにこの身が醜く朽ちたその時には、それぞれの塵のような駄文達が遺言として或いは自伝として少しは誰かのその胸に留まってくれるだろう。
しかしそれはただの自惚れであり切望。
エコー
ノイズ。
今僕の片方の耳にはめられたイヤホンから大音量で流れ続けているいつかのヒットチャートばかり世に流出させた女歌手の音楽はいつまでも褪せることなく美しい。
若くしてアメリカから舞い込んだ歌姫。
R&Bを日本へもたらした革新的女性。
僕はいつの間にかデビューしたての彼女よりも年上になってしまった。
変わらぬ彼女と老いる僕。
残せるものは同じだとしてもその価値はなんとまあ雲泥の差
月と鼈。
活動休止は大いなる打撃であり、皮肉にも彼女を思い出すきっかけであったのだからなんとも言えない。
ああ、また歌っておくれ。
少しハスキーなアルトの声で。
さて僕のいる場所それは本の集まる天国の会場。
目まぐるしい程の色とりどりの背表紙は僕を見事に翻弄し無邪気に誘惑する。
イヤホンをしていないもう片方の耳に聞こえるのはどこかで誰かが重ねられた薄い紙を捲る優しい波紋と少しのざわめき。
僕が手にするのは嘗てスクリーンにも映し出された今も人気を誇る数々の賞を受賞した名誉ある一作。
分厚いのに軽いという近年の世界の技術力には感嘆の声を漏らさずにはいられない。しかしてもしこの重さが、左手にかかる重力がこれ以上空気に等しくなれば僕は本を読むことをやめるだろう。
一ページに綴られる意味ある言葉の構成文章としての成り立ち、練り込まれた伏線達、それらを編み出した著者の重みすらこの本一冊の重みであると幼き僕は信じ今もその確信は変わらぬまま。
鮮やかに繰り広げられる日本語の物語はその書籍表紙から何までを手にした読者に手を伸ばす。
本一冊の重さとは。
きっと誰かと握手した、その重さ。
携帯電話にいたずらに文字を打ち込んでいるだけの僕が言うことではない。
自重。
そして今まさに針は18時16分を示す。
胃が伸縮し腹時計が空腹を僕に伝える。
分かった降参だ。
これ以上の衆人環視には堪えられない。
というわけで、僕は右脳を働かせることをやめこの青く小さい媒体を二つに折りたたみ閉じることにしよう。
返ってくるのはこれまた小さな音。
共に閉じる世界とそして
みだらに並んだこの文字共に目を通してくださった貴方に
またお会いしましょう。
おやすみぐっない。
ぱたん