Prologue
冬の澄んだ夜空。息が白い。屋上ということもあり、風が強かった。凍えそうな指で、望遠鏡をいじる。
「手袋したら?」
そう言う少女に、
「手の感覚が大事なんだ。こう、細かい調整をするのに」
通を気取る僕に、マフラーに顔を埋めながら、「ふーん」と素っ気なく言う。
星を見たいと言い出したのは彼女だ。わざわざ学校の望遠鏡を拝借したというのに。
そのうちに買い出し組が、おでんを持ってくる。
「どうだよ、見えたかよ?」
「うーん」
続々と人が集まってくる。僕は期待にそえないことに焦った。
「駄目だな。一つしか見えない」
清冽に輝く冬の大三角。その頂点の一つ、青銀のシリウス。
二つの連星からなり、一方は主星の光に負けて、望遠鏡でさえ見ることが難しい。
それを見たいと言い出した彼女と、賛同した僕ら。天文部の顧問である地学の先生もやってきて、一大天文ショーとなった。
寒空に星を見るというのも悪くない。交代で、僕は買い出し組からおでんを受け取った。
「あっ、流れ星」
彼女の言葉に、僕は振り返る。すでに駆け去ったあとだった。
「何かお願いした」
「ううん」
「ふーん」
もし流れ星を見たら、何を願おうか。