二
馬車の中で向かい合って座るのは、会いたくて会いたくて仕方がなかったルイド。
でも領地に届いたルイドの噂が頭から離れなくて、まともにルイドの顔を見る事が出来なかった。
「エリー、会いたかった」
私も!と、素直には言えなかった。
「エリーは俺と会いたくなかった?」
頭を横に振る。でも・・
「ルイド、様には婚約者が出来たのでしょう?私などと二人きりで馬車に乗ってる所を見られたら・・」
「僕は誰とも婚約なんてしていないよ!なぜそんな事を?エリーは俺の事嫌いになった?」
そんな言い方はずるい・・
先に私との縁を切ったのはルイドなのに・・
「エリー?」
「ルイド様は王家の方です。もしかしたら将来は王さま・・」
言いかけた時、思い切り身体を引き寄せられ唇を塞がれた。
何が起きてるのか分からず、ルイドにされるがままキスを受け入れる。
「俺は王にも王太子にもならないよ。俺はヴィンター公爵家の嫡男で、次期公爵だ。そして、次期公爵夫人はエリー、君しかいない」
「!そんな事・・そんな事簡単に言ってはいけないわ!」
コードリアル侯爵領ではルイドが次期王太子殿下となり、すでに婚約者も決まっていると・・
私はルイドに抱きしめられているが、離れようとルイドの胸に手を当てる。が、びくともしない。
それどころか何度も何度も唇を塞がれる。
「公子様、到着致しました」
馬車の外から声が掛かるとルイドは私を抱き上げ、馬車から降り立った。
そこは初めて見る屋敷で、通された部屋は客間では無く夫人の部屋だった。
「お嬢様、お疲れでございましょう。湯の準備が整っております」
部屋へ入ると先ほど別れたはずのアンがお仕着せ姿で出迎えてくれた。
ルイドは 今夜はゆっくりお休み。と言って部屋から出ていく。
私は訳がわからないままアンに導かれお風呂へと足を向けた。その夜はやはり疲れていたのだろう。
夕食も食べずにそのままベッドで寝てしまっていた。
「エリー、君は俺がどれだけ君の事を愛しているか知らなさ過ぎる」
「それを言うならルイドだって!」
「エリーは僕の事好き?」
「あっ、愛してるわよ!私がどれだけルイドと結婚したいか貴方分かってないでしょう!?」
窓から差し込む光で目が覚める・・
私・・夢とは言えすごく大胆な事を言ってたわね・・
夢だと分かっているのに思い出すと顔が赤くなる。もしルイド本人にこんな事言ったら・・
馬車でのキスを思い出し枕に顔を埋め悶絶する。
「それにしても素敵な部屋ね・・」
昨夜は薄暗かったせいで良く見えなかったが、こうして日の光に照らされて見れば家具の一つ一つが高級であると分かる。
ルイドがなぜこの部屋に私を通したのか疑問だが、深く考える前にアンが部屋へと入ってきた。
そして・・
「お嬢様、今夜王宮での夜会にルイド様と出席される事になっております。久しぶりですので今から磨き上げます!!」
「!!!」
アンの言う通り久しぶりのコルセットやヘアメイクに、出かける前から疲れ果ててしまった・・
夕方になるとルイドが部屋へと迎えに来てくれた。
「ああ、やはりエリーは美しいな。この色は人を選ぶと聞いたけど・・さすがエリーだな。眩し過ぎるよ」
そう言うと私の手に軽く口づけをする。
その姿は王子様のようで顔が赤くなってしまう。
「る、ルイドもとても素敵よ。王子様みたいだわ」
そう言うのがやっとだった。
ルイドはそんな私に 君だけの王子になれたら最高だよ。と耳に囁き、私はその場にうずくまってしまったのだった。
王宮に着くとヴィンター公爵専用の控え室へ通された。
王宮の夜会は爵位ごとに入場するのが決まりだから、その間高位貴族には部屋を当てがわれる。
ルイドのエスコートで部屋に入るとそこにはヴィンター公爵夫妻と私の両親、お兄様お義姉様がいて何やら話し合っている様子だった。
「お待たせ致しました」
「ああルイド、丁度良い時に来た。今コードリアル侯爵とも話が済んだ所だよ」
ルイドは頷くと私の家族の方を向き深く頭を下げた。
「何の連絡もせず申し訳ありませんでした。そしてエリーとの婚姻をお許しいただき、本当にありがとうございます」
「公爵から話は聞きました。正直驚きしかありませんが娘への気持ちを聞いたら反対する理由がありません。どうかエリーをよろしくお願いします」
私は訳が分からずに双方の親を見た瞬間、ルイドが急に私の目の前で片膝を付いた。
何事かと思い急いでルイドを立たせようと手を伸ばす。ルイドは伸ばした私の手を握ると自身の額に当てた。そして
「エリー・コードリアル侯爵令嬢。どうか私ルイド・ヴィンターと結婚してください。小さな頃からずっと、一生一緒に生きて行くのならエリーが良いと思っていました。エリー、私の手を取ってください」
「ルイド・・」
ずっとルイドが好きだった。
小さな頃は私よりも小さくて泣き虫で、私が守ってあげなきゃ!と思っていた。
でもいつの間にか私の背を追い抜き、私を軽々と持ち上げ男として意識するようになった。
ルイドが私の側から居なくなると思ったあの時、胸が締め付けられ苦しくて辛かった。
もう二度とあんな思いはしたくない・・
ルイドの側に居られない人生なんて考えたくもない・・
「二歳も年上の女ですがよろしくお願いします」
可愛くない言い方をしてしまったと思ったけど、悲しいけど本当の事だしそこは譲れない。
ルイドはクスッと笑うと
「エリーが俺より二つ上なんて事は、エリーを好きになる前から知ってたよ。エリーありがとう、絶対に幸せにするよ」
こうして私とルイドは晴れて婚約・・
あれ?そう言えばルイドは何て言った?
「ではエリー、善は急げだ!こちらにサインして欲しい。そのまま王に提出するから」
その用紙が何なのか、ちゃんと確認もしないままルイドの下にエリー・コードリアルとサインした。




