一
新連載です!
五、六話で終わる予定です!
なぜなら短編として書き始めた話なので・・
よろしくお願いします!!
「エリー、ルイド様との婚約の話が棚上げになった」
「えっ?ルイドに何かあったのですか?」
「あちらから時間を欲しいと言われただけだ」
「・・・」
お父様から執務室へ来るように言われた私は、幼馴染のルイドとの婚約の話だと思って行ったのに。
「棚上げ・・」
幼馴染のルイドは隣の屋敷に住む二つ下の公爵家の嫡男だ。
公爵家と言っても先々王の王弟が臣籍降下し、公爵家を立ち上げた王家の血筋だ。
私は侯爵家の次女で、子供の頃から一緒に過ごしていたため自然の流れでルイドが成人したら婚約しようと話が決まっていた。
のに・・今になって?
ルイドは先日成人男子の仲間入りをした。
男十八歳、女十六歳。
ルイドの二つ上の私は今年で二十歳になり、独身貴族の女性としては売れ残りに入ってしまう。
と言っても私も家族もルイドとの婚約が決まっていた様なものだったから、焦ってもいなかったのだ。
「エリー、大丈夫よ。ヴィンター公爵もエリーとルイド様を結婚させると言っていたのだから・・」
「お母さま・・」
私は耐えられず、お母様の腕の中で泣いてしまった。
いつもなら三日に一度は顔を出すルイドが、お父様から話があってから一度も顔を出していない。
私のが年上だから困らせるような事は出来ない、と侍女たちが言ってくるが笑顔で聞き流していた。
連絡出来ないほどの事が起きているのよ・・大丈夫。ルイドは必ず連絡くれるはず。
「エリー、エリー起きて」
ルイドの声が聞こえる。私はゆっくり目を開けると目の前にルイドが覗き込んでいた。
王族特有の金髪に、サファイアのような瞳で私を見るルイドはとても整った顔をしていた。
「ルイド貴方!」
ルイドは私が目を醒したのを確認すると静かに私を抱きしめた。
ルイドの香に涙が出る・・
「心配してたのよ・・この三ヶ月の間、どこに居たの?どうして手紙もくれなかったの?」
「ごめん、手紙も出してはダメだと言われ・・。不安にさせたね。エリー本当にごめん」
私はルイドの胸から顔を上げルイドの顔を見ると、
私以上にやつれた顔をしたルイドに心配になった。
ルイドは大丈夫、もう少しだから!と私を安心させようとしていたが、私の不安は消えなかった・・
「エリー、必ず迎えに行くから待っていて・・俺はエリーとしか結婚するつもりは無いから。だからお願い、待ってて欲しい」
私は黙って頷く。
何度も何度も、泣きながら頷く。
「お嬢様、お嬢様、大丈夫ですか!」
「アン・・わたし・・」
夢・・だったのか・・それにしてはリアルだったなと思った。
「エリー、しばらくの間領地に行かないか?」
「領地にですか?」
お父様に呼ばれて言われたのは、社交シーズンも終わり次の社交シーズンまで領地での滞在を勧められた。
おそらく、王都にいてもルイドとの事で気が休まらないだろうと言う父親の心遣いだろう。
「ありがとうございますお父様。その様に致します」
それだけを言うと自室へと下がった。
その後お母様とお兄様が部屋へと訪れ、お母様は私に付いて領地へと行くと決まったらしい。
「・・ルイドの事で何か分かったら手紙を送るよ」
「お兄様も忙しいのにごめんなさい。よろしくお願いします」
お兄様は王宮で王太子殿下の秘書をしている。
お兄様は何か伝えたそうな顔をしているが、きっと口止めされているのだろう・・とても辛そうな顔をしながら私を抱きしめた。
「お義姉様の出産に立ち会えなくて残念です」
「あちらのお義母さまが協力してくれるから安心して。エリーは母様と領地で心穏やかに過ごして欲しい」
はい、ありがとうございます。とだけ伝えた。
私とお母様が領地へ向かう朝、王家から重大な発表があった。
後継者である王太子が病に罹り治療のため、王太子に代わりルイドが公務を担うと。
「お父様、お母様・・なぜルイドの名が?他にもルイドの名の皇族がいました?」
ルイドは二代前の王弟の子孫だ。
前王にも確か男子がいたような・・
お父様とお兄様は複雑そうな顔をしながら私を見る。言おうかどうしようか・・と。
「聞かない方が良い話なら聞きません」
「そうだな・・この話は機会があればルイド様本人から聞いた方が良い話だからな」
そう言い終わるとお父様とお兄様は、私とお母様を馬車まで見送ってくれた。
結局ルイドからは連絡も無く、今何をしているのか・・そんな近況もわたしが領地へ行く事も話せないでいた。
領地までは丸二日、途中休憩を挟んだゆっくり旅だったから領地に到着したのは屋敷から出て三日目の昼過ぎだった。
領地の屋敷に到着すると執事のロバートと、メイド長のシエナが出迎えてくれた。
ちなみにロバートとシエナは夫婦で、その息子のグリークが王都の屋敷の執事長だ。
グリークの息子のオムズはお兄様の従者を務めている、親子代々我が家の執事だ。
「ロバート、シエナ久しぶりね。しばらくの間エリーと滞在するから」
「旦那様よりお手紙をちょうだいしております。エリー様、王都に比べると何も有りませんがゆっくりしてくださいませ」
「よろしくお願いします、ロバート、シエナ」
私は二人に挨拶をすると王都から連れてきたアンと共に部屋へと案内された。
数日の間は屋敷の中や庭を散策していたが、流石にずっと屋敷に籠っていても仕方がない。
私はお母様に領地の街へ行ってみたいとお願いした。
小さな頃は良く来ていたが、十二歳から十六歳までは学園に入っていたため領地に来たのは八年振りだった。
「わたくしはお客様がいらっしゃるから、エリーはアンと護衛で行ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
そうして次の日、私はアンと護衛三人で街に向かった。お兄様に爵位を譲ったらお父様とお母様はこちらで生活をする予定で、領地を発展させていた様だ。
道を開き商人を通わせる。
人の通りが増えれば宿や店も増える。
自然と人も増え、定住する人も増えていく。
「今ここで生活している人達の顔を見れば、お父様が素晴らしい領主だとわかるわね」
自分の事の様に嬉しくなる。
(婚約したらエリーの、コードリアル侯爵家の領地に行ってみたいな。そしたら次は我がヴィンター公爵領にエリーを連れて行きたいな)
なぜか突然ルイドの言葉を思い出した。
ルイドにも見せたかった・・
ルイドと共にお互いの領地へ・・
私は雑貨店に入ると棚に飾られていた懐中時計に目がいった。
金色の時計に金のチェーン。
時計の表面には私の瞳の色と同じペリドットが装飾されていた。
「お嬢様の瞳と同じ色ですね。とても綺麗・・」
「・・ルイドに渡したら重いかしら・・」
婚約者でも無いのに私の瞳の色が付いた物を渡すなんて・・
「ルイド様ならお喜びになられますわ」
アンの言葉で私は購入する事にした。
少し値が張ったが私を忘れないで欲しい・・と言う気持ちも込めて。
時計はお兄様からルイドに渡してもらうよう送った。
どうか受け取ってもらえますように・・と、願いを込めて。
でも、私の気持ちとは裏腹に王宮では王太子の体調が良くならず、ルイドに王族復帰の言葉が出ていると・・離れた我が領地にも話が飛び込んできた。
「お母様、なぜルイドが・・」
「・・・エリー、これを」
私が不安に押し潰されている時、一通の手紙を差し出した。
見るとお父様からだった。
私は黙って受け取ると読み始めたのだが・・
そこには信じられない事が書かれていた。
「おかあ・・さま・・。これは・・本当の事、なのですか・・?」
お母様は頷くと この事は王様、王太子殿下、ヴィンター公爵夫妻。
「そして我が家しか知らない事よ・・」
と言った。
私は頭の中で整理したいとその場を離れ、自室へと戻った。
アンにも呼ぶまでは来なくて良いと言い残して・・
自室へ戻りもう一度お父様からの手紙を読み返す。
エリーヘ
今から書く事は真実であり、そして他言するように。
ヴィンター公爵家のルイド様は、公爵夫妻の実子では無い。
現王の弟であり、前王の実子である。
前王が鷹狩りに出向いた子爵領で雨宿りで子爵家に泊まった。そこに居たのが結婚を控えたルイド様の実母。
前王はその美しさから結婚を控えているにも関わらず、手を付けてしまった。
だがそれだけでは済まず、前王は何度も子爵領へと足を運んだ。
もちろん結婚は破談となり、それだけでも娘の心は壊れかけたのに、事もあろうか前王の子を孕ってしまった。
前王は王宮で暮らす事を提案したが、後ろ盾も無い子爵家の令嬢には荷が重すぎた。
ルイド様を産むと令嬢は亡くなり、令嬢を失った前王はルイド様にも興味が湧かなかった。
困った子爵は前王に訴えたが、前王妃を恐れた前王は当時子が居なかったヴィンター公爵夫妻にルイド様を託した。
「ルイドは・・間違いなく王家の人。私など手の届かない人だったんだ・・」
侯爵令嬢でも王族との婚姻はある。
それは親の思惑が殆どで、今の地位に満足している我がコードリアル侯爵家では潰されてしまう。
もしルイドが私より二歳年上だったら、今頃どうなっていたのだろう・・考えても仕方がない事と、その日からルイドの事は考えないようにした。
それでも時々夢を見てしまう。
ルイドにしがみつき 離れたくない!と泣き叫んでいる。
そして毎回困った顔で私に謝るルイド・・
そんな言葉が聞きたい訳じゃ無いのに・・
ルイドを困らせたく無いのに・・
「エリーさんは所作がとても綺麗ですわね」
「この国の歴史も頭に入っていますし、領地経営に関しても文句の付けようが有りませんわね」
「まぁ、ありがとうございます」
ルイドを諦めた日から私は母に付き添ってお茶会やら、会食やらに足を運んでいた。
屋敷にいるとルイドの事を考えてしまうし、いい加減ルイドの事を諦めなくてはいけない。
こうして夫人方の前で自分を売り込めば、二十歳を超えた私にも縁談が持ち込まれるだろう・・と思っての事だった。
マナーも語学もダンスも今できる事をやった。
一生懸命に勉強している間はルイドを忘れられるから、ただその一心で取り組んだ。
「エリー、そろそろ社会シーズンも始まるから王都に戻ってらっしゃいと、お父様からお手紙が届いたわよ」
もうそんな時期になるのか・・
王都へ戻れば嫌でもルイドの話が耳に入る。
本当ならその前に婚約者を見つけたかったのだが・・なぜか急に断られる事が増えた。
そして、そうこうしている間に王都から迎えの馬車が・・
「なぜヴィンター公爵家の?」
私の疑問にお母様は答えない。
「私は我が家の馬車で帰るから、エリーは先に王都へ向かいなさい」
そう言って無理矢理に公爵家の馬車へ乗せられてしまった。そしてそこには既にアンが乗っていて・・
「お嬢様、ようやく王都へ戻れますね!」
と笑顔で言ってきた。
私としてはこちらの貴族と婚約を結びたかったと言うのに・・
今回は休憩もあまり無く二日目の夜には王都へ到着した。
休憩をが少なかったおかげで、身体中が痛む・・
馬車の扉が開きアンが先に出て、次いで私が立ち上がろうとした時馬車へ入って来た人物がいた。
私はその人の顔を見るなり涙が溢れてしまった。なぜならその人は・・
「ルイド・・」
だったから・・




