第18話 最後の稽古
「ラセツ……ううん、父さん」
ミツキは震えながら、しかし確信を持って語りかける。
「よく、わかったな」
「……父さん、だから」
「……正確には少し違う。おぬしの父、カゲツが死の間際、"黒麒麟"に全ての力を注いだもの……それが具現化したものが"ラセツ"だ」
「それでも、それでもあなたは私の父さんだよ」
娘は父の手を取り、瞳に涙を浮かべる。
「もう、会えないと思ってた……」
「……ミツキ」
炎に囲まれながらも、この間だけはそれが気にならなかった。肌を焼く猛る炎も、崩れる木片の音すらも。
「──ミツキ、もう時間がない。早く脱出しろ」
「父さんも一緒に行こう」
「わしはもう消える。おぬしも分かっているだろう。"黒麒麟"にわしの力はもうほとんど残っていない」
「……分かってる、分かってるけど!」
「ミツキ……」
ミツキは手を離し、一歩下がる。涙を拭い、自身の"黒麒麟"を構える。赤く燃える瞳は剣士の眼差しになっていた。
「──最後なんでしょ? なら、一騎討ちを申し込む」
「……本気か?」
「うん。娘だからって手加減しないで。手を抜いたら恨むよ」
「ふっ、それは嫌だな」
彼は小さく笑い、"黒麒麟"を抜いた。父娘で、師弟のふたり。構えも得物も同じである。
「最後の稽古だ、手加減はしない。わしの全てを"黒麒麟"に乗せよう」
「10年振りの稽古、だね。越えさせてもらうよ、父さん!」
木片が崩れ落ちるのと同時に、ふたりは斬り掛かった。
***
「ここまで来れば安全だろ」
ダルシアンらは櫓内の部下たちを引き連れ、なんとか城門まで脱出する。
「ヒナタお嬢さんのおかげで部下も無事だ、感謝する」
「そんな、あたしはなにも……」
傭兵たちはヒナタの放った光によって傷は癒え、怪我人は出なかったようだ。
竹林の奥から手斧を持った傭兵らが駆け寄ってくる。
「隊長! 何があったんですかい!? って、そいつはカマンセーヌじゃねェか!」
「ああ、旦那との仕事はここまでだ」
「あァ!? まったく、不思議な光が来るわ、櫓は燃えてるわ、カマンセーヌの野郎は失神中……オレたちがあの"お嬢さん"にやられてから何があったんだよ」
手斧の男は大げさに肩を落とす。
「さて、お嬢さんたちとはここまでだな。ミツキによろしく伝えといてくれ」
「……これからどうするんですか」
「旦那を送り届けて、また傭兵生活だ」
「次の依頼主は決まっているんですか?」
「いいや。だが、セッター傭兵団はアズガルドでも指折りの傭兵団だ。色んな仕事が来るさ」
「それなら、あたしがあなた達を雇います」
「は?」
「ヒナねぇ!?」
ヒナタから発せられた一声に、視線が彼女に集まる。
「なに言ってるのヒナねぇ! もう危険なことはやめようよ!」
「逆よ、これからが危険なの。あたしの放った光……あれは世界中に広がったはず」
「──……なるほどな。ヒナタお嬢さんの言わんとすることが分かった。あれは"種"だったんだな」
「ダルシアンさんは魔法にも詳しいんですね、話が早いです」
「ああ、雇用については前向きに考えよう。いったん団長と相談させてくれ」
「お願いします」
「こいつを渡しておく」
彼はヒナタに小包を渡した。
「よし、それじゃあお前たち、アズガルドへ帰るぞ」
二人の間で話がどんどん進み、サクヤは頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
そんなサクヤを他所に、傭兵団は櫓から離れて行く。
「ま、まって、なんなの? ヒナねぇとおじさんはなんの話をしてたの?」
「大丈夫、サクヤちゃんにも教えるわ。でもその前に、ミツキを待ちましょう」
微笑みながらサクヤの頭を撫で、燃え続ける櫓を見上げた。




