第17話 炎上、そして
「──ありがとうございました」
「うむ、ヒナタもな」
部屋の隅でふたりは会話を交わし、ヒナタは名残惜しそうにする。
「……やはりミツキに話した方がいいのではないですか?」
「……その必要はない。ミツキも察しているようだ」
「だったら──」
「もう残された時間は少ない。話してもミツキが辛いだけだ」
「……おじさま」
ヒナタは押し黙る。ただ部屋の中央に居るミツキを見つめた。
「……ミツキ」
視線に気がついたミツキはヒナタに寄る。
「そろそろアサヒミナに帰ろうか、もう夜も明けそうだし」
壊れた窓を横目に見ながら話しかける。
「……ええ、そうね!」
ヒナタはなんとか気丈に振る舞い、笑顔を見せる。
「ラセツもありがとう、あなたのおかげでヒナとサクヤを助けられたよ」
「構わん。わしはやりたいことをやったまでよ」
「ラセツ……ううん、あなたは──」
「がっっっっは!!!」
突如、床から大きな声が響いた。一同がそこに注目すると、カマンセーヌが勢いよく飛び起きた。
「よくも……よくもやってくれたな!!」
「カマンセーヌ! これ以上はもう無意味だ!」
「ボクをバカにしてタダで終わると思うなよ"血の目"が!!」
貴族は再び巨大な魔法陣を展開する。そしてまた、ラセツがその魔法陣を叩き斬り破壊するが──。
「それも織り込み済みだ!!」
彼は壁際に別の魔法陣を展開していた。ミツキとダルシアンの戦闘中に仕掛けていたものだ。
「なにっ!?」
「あっちが本命さ! 燃えちまえ!!」
魔法陣がカッと光り、勢いよく炎が溢れ出てきた。炎は轟々と唸りをあげながら部屋を燃やしていく。
「はっ、ははは! ボクだって魔法を使えるんだよ!! これでボクの勝ちだ!! ははは!!」
狂気に満ちた彼の瞳は炎に照らされ、赤く染まったように見える。ミツキは皮肉に思えた。
「旦那! もうやめろ!! 」
「ダルシアン!! "血の目"に負けるようなヤツはいらないよ! キミたちとの契約もこれまでだ!」
「そうかい! だったらせめて仕事は果たす!」
傭兵は拳を握り、思いっきり雇い主の腹部を叩きつけた。
「がっ……────!」
「あんたを守るっていう大切な仕事だ。この業火から逃がしてやるから大人しくしな」
カマンセーヌを肩で担ぎ、一同に振り返る。
「お嬢さんたちも早く脱出するぞ、大掛かりな魔法の炎は簡単に消せない」
「カマンセーヌなんて置いていけばいいのに」
サクヤが不満そうに呟く。
「こんなどうしようもない奴でも、正規に則った雇い主だ。守るっていう仕事は果たす」
「それがあなたの矜持なんですね」
「そういうわけだ。俺が先導するから早く櫓から出るぞ」
一同は足早に部屋から出ようする。──ふたりを除いて。サクヤとヒナタは部屋へ振り返り、ふたりに向かって叫ぶ。
「ミィ! はやくいこ!」
「おじさまも! 危険です!」
ミツキはゆっくりと振り向き、神妙な面持ちで言い放つ。
「ごめん、先に行ってて。私は大丈夫だから」
「ミツキ! ただの炎じゃないのよ!?」
「うん。だからサクヤ、ヒナを守って」
「わたしが……っ!?」
名前を呼ばれたサクヤは一瞬目を見開くが、言われた意味を理解し、覚悟を決めた。
「わかった、まかせて!」
「ありがとう。ダルシアンもお願い」
「ああ、わかってる。ミツキの師匠さん、また会えてよかったぜ」
「ミツキ……」
「ヒナ……」
ミツキはニッコリと笑う。
「帰ったら団子食べよう、みんなで!」
「……ええ! 遅刻しないで!」
そう言うとヒナタらは部屋から飛び出し、階段を降りていく。
部屋に残ったミツキとラセツはお互いに向き合い、無言で見つめ合う。炎が猛獣のように猛り、木が燃える音だけが響く。先に口を開いたのはラセツだった。
「……何故残った?」
「"黒麒麟"から伝わってくるの、もうあなたに残された時間が少ないことは」
「……」
「ラセツ──ううん、あなたは私の……」
唇が震え、目を背ける。目を閉じ、開ける。ラセツの鬼面の奥を見るように注視した。
「父さん、だよね」




