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第1話 アサヒミナの少女たち

 ────炎が全てを焼き尽くそうとしていた。


 崩れゆく櫓の最上階。

 木は悲鳴を上げ、天井は今にも落ちてきそうだ。


 赤く染まった瞳の少女と、鬼面を被った甲冑の男。


 二人は同じ黒い刀を構え、静かに向き合う。


「……最後なんでしょ?」

 

 少女は涙を振り払い、真っ直ぐに男を見つめる。


「なら、一騎討ちを申し込む」


 男は小さく笑った。


「ふっ────手加減はしない」


 刀が交差する。


 父と娘。

 師と弟子。

 最後の稽古。


 火花が散り、黒い風が舞う────


 これは、堕天使の少女が自身と向き合うまでのお話。

「ごめん、待った?」


「もうっ、遅いよ」


 夕暮れの町角で、2人の少女が集まる。遅れてきたミツキ・フユウミは後頭部に手を乗せ軽く謝る。


「ごめんごめん、鍛錬に夢中になってて。それでどこだったっけ?」


「広場の池のところよ。サクヤちゃんが待っているから早く行こう?」


 ヒナタ・ナツゾラは笑みを浮かべ、二人は石畳の道を歩き始めた。瓦屋根の民家に挟まれ、提灯の柔らかな光が揺れている。遠くの竹林から聞こえる風の音が、町の静けさを感じさせる。

 団子屋の前まで進むとミツキが一言。


「サクヤはここの団子、好きだよね」


「ミーツーキー? サクヤちゃん待っているのよ、早く行きましょう」


「待っているからこそ、お詫びを兼ねて、ね?」


 まったくもう、とヒナタは息を吐く。ミツキは軽い足取りで店先まで向かう。焼き立ての団子が甘じょっぱい香りが鼻をくすぐり、思わず口がほころぶ。


「おばさん、蜜団子を3本ちょうだい」


「あらミツキちゃん! 待っててね、用意するから」


 いつもここでお茶をしているミツキは顔見知りである。しかし店内の客達からは居心地悪そうな視線で見つめる。


「なぁ、あの子の父親、堕天使なんだろ……?」「大戦引き起こした種族か……」「あの目だっていつ血に染まるやら……」「やめとけって、呪われるぞ……」


 腫れ物に触れるような囁きが聞こえる。


「……」


 ミツキは黙り込む。無意識に父親の形見の首飾りに触れる。

こうして触れると父との記憶が蘇る。


『ミツキ? どうした?』


「ミツキ? どうしたの?」


 離れていたヒナタが異変を感じ、声をかける。


「あっ……ううん、待ってて、いま買ってるから」


「そう……?」


 ヒナタを心配させまいと笑顔を見せるが、かえって不自然になってしまった。そんなミツキに向かってヒナタは微笑みかける。


「あたしはミツキの目、好きよ」


「えっ? いきなりなに?」


「ふふっ、綺麗じゃない、灰色の髪に紫の瞳がよく似合ってるわ。それにその首飾りだって黒くて素敵よ、おじさまの大切な形見、だものね」


「……ヒナ」


 ミツキは自然と笑みを浮かべる。ヒナタの明るさにはいつも救われる。


「はーいお待たせ! いつもありがとうねぇ」


「! ありがとうおばさん、はいお金」


「ふたりとも広場に行くの? うふふっ、おばさんもあとから見に行こうかしら」


「おばさんも? そんな面白いものじゃないんじゃないの?」


「こんな町に隣国の貴族様が来るなんて一大お祭りじゃないの! どんな人なのかしらねえ」


 ミツキは代金を支払い、団子を携え、サクヤの待つ広場へ急ぐ。──これから待ち受けることが、どんなことか知らないまま。


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