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【毎日・昼まえ・更新したい】ぼくのホーム オフィスには 人間きぶんの 猫が2匹いる  作者: 常に移動する点P


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【2/14】床屋の飛び話

人生には避けられない「なにか」というものが、ときに両手を広げて立ちふさがる。


僕たち1973年生まれは、同い年のヤツラが多い分、やたらと競争も激しい。一生イス取りゲームをしている感じで、何とか座れた椅子もビリビリイスだったりする。


受験と就活、ここにだいぶと避けられない「なにか=戦い」みたいなものがあった。


もう、52歳になって、その戦いからは解放されつつある。戦う場所から少しずつ追い出されているのだ。


だから、安心!なんてしていてはいけない。安寧などないのだ。


昨日、散髪に行ってきた。最近近くにできた美容室のような散髪屋。オヤジさんは僕と同い年ぐらい。だからオヤジさんと呼ぶのはよくないか。マスターと呼ぼう。


僕も彼も同じ個人事業主という点で、話しがあう。どこそこの税理士はいいとか、お互いの業界の閑散期のやり過ごし方とか、国保が高いだの、昼から飲みに行くならどこそことか、軽く政治の話とか。


まぁ、同年代のフリーランス同士でもあるのだから、そこそこ話の土台は合う。だから、思いのほかおしゃべりしてしまうのだ。


僕がそこの散髪屋に行くのは、顔そりとシャンプーがやたらと気持ちいいと言う点にある。スケベ心ではないのだが、顔そりとシャンプーはアシスタントの女性がしてくれる。その方、エステもできる方で、顔のマッサージが上手い。指先が顔に当たると気持ちいいのだ。


と、だいぶと、キモイ話をしているのだが、昨日は女性ではなく、マスターが散髪から顔そり、シャンプー全て担当と相成った。というのも、忙しい時にアシスタントの女性が稼働するらしいのだ。昨日は僕しか客がいなかった。


おしゃべりがこの前の選挙の話になり、もりあがるまま移動して顔そりとシャンプー台へ。アシスタントの女性が登場するのかな? とおもいきゃ、マスターが担当。普通の流れだと思うが、マスターかぁーとどこか落胆した自分がいた。


マスターの腕は一流で、海外でも鍛えてきた理髪師のつわもの。顔そりもうまい。耳毛もサラサラっとじょりじょりと、顔マッサージもうまい。顔面のこわばりがほどける。


だがしかし!



顔そり中にめっちゃ会話を要求するのだ。つまり、一方的なおしゃべりじゃなくて「●●って、どう思います?」的な付き合いたての彼女みたいに、ライトタッチの質問が矢継ぎ早に放たれる。


顔剃られてるし、そんなに表情筋を使わずに話さないといけない。口が強張って動かない。剃刀が近くをスケーティングしているかのように、動いている。頬が動くと、剃刀が引っかかるのではと。おそるおそる、返事をする。


それでもなお、「どう思います?」系の問いかけは続く。


そこでだ!

避けられない!


避けられない!


動けない!


逃げられない!


マスターの口から、しゃべる度に、質問の矢が放たれるたびに


唾が顔に小さくピチャピチャと落ちるのだ。


いやぁぁああああ

避けられないのなら、口だけは閉じよう。口だけは守りたい。


こう見えても、誰彼口を開く男じゃないの。


僕は、突然ダンマリを決め込んだ。


それでも、話し続けるマスター。質問をやめ、自分の話をし始めた。


その話おもしろい、もっと聞きたい。海外の理髪店時代の話。時折混ざるエロイ話。下世話で面白い。聞きたい、質問したい。それで、奥さんとはどうなったの?で、それでそれで。


でも、今じゃない!



何発被弾したのかわからない。


顔剃りが終わり、アツアツのタオルで顔にフタをされる。マッサージが始まる。他の客が来た。女性アシスタントに変わるフラグが立った!はずなのだが、


「ちょっと、おまちくださーい」となり、そのままシャンプーまで続行。


お互いプライベートな話をしていたので、会話は一旦ストップ。


手早くシャンプーをしてもらい、乾かし、スタイリングして終わり。


レジで、女性アシスタントにお会計すると、「手がだいぶと荒れちゃって」と言っていた。マスターが代わってあげてたということだ。


僕も手荒れをよくするので、いいワセリンを教えてあげた。


次から、顔そりが始まる手前あたりから、会話を終わらせる必要がある。


オチのある話をするということは、ちゃんと終われるということでもあるのだ。落語の最期は「サゲ」というオチをつけて終わらせる。物語を締めくくって、演者が観客を日常に戻すのだ。


会計を終え、店を出た。しばらく歩くと、女性アシスタントが追いかけて来た。お釣りをもらい忘れていた。去り際に彼女が


「だいぶと、お話盛り上がってましたね。マスター、唾飛ばしてましたね。すみません」


と。


【創作落語】床屋の飛び話

向島の帰り道。

床屋帰りの男が、首筋をさすっている。


「どうしたんでい、旦那。えらく上機嫌じゃござんせんか」

「うむ。髪をあたると、気持ちまでさっぱりするものだ」

「へえ、あすこは腕がいい」

「腕もいいが、あの親方、話が達者でな。

 景気の噂に芝居の裏話、江戸中のことをあの椅子ひとつで聞かせる」


「へえ」


「ただな、話が乗ってくると、つい勢いがつく」


「勢い?」


男、首筋をぬぐう。


「景気よくしゃべると、景気よく飛ぶ」


「旦那、なにがです?」


「なにがって、口からつばが飛ぶんだよ」


八っつぁん、笑う。


「じゃあ何でさ、客も親方にゃあ、つばをかけてやりゃあいいじゃねえか」


男、扇子で口元を隠して首を振る。


「それじゃあ子どもの喧嘩と同じよ」


「へえ?」


「怪我はせんだろうがな」


一拍おいて。


「つばぜり合いだけに」


――おあとがよろしいようで。

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