【2/9】歯ブラシ・ザ・デスゲーム
Xに流れてくる漫画、よくできていると思う。浮気する夫への腹いせに、夫の歯ブラシで排水口を掃除して、元に戻す類の「プチ仕返し系」。夫がその事実を知らないと本質的なダメージは与えられないが、仕返ししている妻からすると、普段通り歯ブラシをしている夫を見て、満足するのだろう。
洗面所と風呂掃除を丹念にする、土曜日のルーティンだ。洗面所はパイプパンプロを適宜使って、詰まりを予防する。排水口には、タワシみたいなブラシをゴシゴシと。仕上げには、使い古しの歯ブラシを使う。
使い古しの歯ブラシは、洗面所隣のラック上に「掃除グッズコーナー」があり、そこにズラリと並べられている。モノを大事にするとはこういうことなのだと、いつも自己満足に浸る。
2/7(土)、朝9時。いつものように、洗面所掃除。一週間分の汚れをこそぎ落とす。排水口掃除も余念なし。使い古しの歯ブラシで磨き上げも完了。
ふと、魔が差した。
歯を磨きたくなった。洗面所には、普段使う歯ブラシを吊り下げている。パッと取り、本日二度目の歯磨きだ。本来すべき歯磨きではない。でもしたくなった。コーヒーを飲み過ぎた。なんだか口の中が気持ち悪い、それだけの理由。
歯磨きを終える。何気なく、洗面台に置く。風呂場が気になる。カビ掃除をしていたのを忘れていた。湯をかけ、洗い流す。
洗面所に戻る。ごちゃついている。
サッサと片付けないとな、と思ったあたりで
キッチンにいる妻から呼ばれる。
ぺちゃくちゃ何か話をした(覚えていない)。
再び洗面所へ戻る。
無意識ゾーン
洗面台に歯ブラシが1本もない。ん? 掃除用も自分用も。え? どこにやったかな? 片付けた? 自分用の歯ブラシは吊り下げられてもいない。
無意識ゾーンが発動したのか?
【無意識ゾーンとは】
きっと何かをしたのだけれど、その意識は五次元に飛んでおり、覚えていない。奇天烈意味不明な行動である場合が多い。たとえば、冷蔵庫に財布をしまっているみたいな。自転車の鍵で、家の施錠を開けようとしていたりとか。
おなじみですよね
歯ブラシが見当たらない。洗面所隣のラックを見る。使い古しの歯ブラシの中に、比較的新しそうな歯ブラシを発見。
同じ歯ブラシを買い続けるという習性が仇になった。全部同じ青持ち手のシステマ。おそらくコレだという、アタリはつけられたが、確信が得られない。
洗面台周りには歯ブラシは落ちていないから、この使い古し歯ブラシコーナーに紛れているのは間違いない。「早く見つけて!」という声が届くが、他の使い古したちも叫んでいるようにも思える。
間違って選べば、セルフ復讐が発動する。夫の浮気並みの復讐を、何が悲しくて自分に仕掛けなきゃならんのだ。
カイジなら選ぶんだろうか。
「この中から、さっきまで貴様が使っていた歯ブラシを選べば、次のステージに進める! やるか・やらないかは、お前次第だ。ここで、逡巡している時点でお前は負け犬なのだ。生まれついての負け犬。勝負勘どころか、勝負すらしたことのない。不戦敗の負け犬だ! 相手に不戦勝を献上し続けることの意味を知れ、愚か者!」
ざわざわ・ざわざわ
という煽りが心に湧きあがるが、僕は勝負を降りた。
洗面台の鏡扉から、新しい歯ブラシを出し、シールを貼った。同じ間違いを起こしても見つけ出せるように。
ほどなく、妻が、キッチンから「歯ブラシ落ちてるよ」と。
これは、本当に僕が使っていた歯ブラシなのか?
妻に呼ばれたときに、掃除用の歯ブラシを持ってキッチンへと行ったのか?
記憶が定かではない。これもトラップなのではないか? 自分に仕掛けたトラップ。
「ありがとう」と妻に言い、そっとそいつを掃除グッズコーナーへ。使い古しの歯ブラシの中に、新入りが入って来たのか、お馴染みが戻って来たのか。
知っているのは、歯ブラシたちだけである。




