【1/31】近所の喫茶店に入れない
コーヒーが好きだ。三度の飯の次に飲むのが好きだ。三度の飯ほどではないし、サンドイッチと一緒になら何度だって飲んだっていい。YO!
コメダ・星野・タリーズが近所にあるチェーン店。これは余裕で入れる。大人だから。朝からみんな働いていても、俺はフリーランスだからさぁ、というテイで、備え付けの新聞全部読んで、持ち込んだ文庫読んで、ゆで卵割って喰って、パンはプレーンで、コーヒーごくりとイケる口だ。
だがしかしだね、家の近所にある昔ながらの(でも最近できた)喫茶店に入れない。小学校の登校ルートにもなっているので、小学生たちの登下校時にはあまり会いたくないエリア(あのおっちゃん、いつも仕事もせんとフラフラしてるねん、と家で会話されたくないからだ)。
10時過ぎの遅まきモーニングを狙う。コーヒー・トースト・タマゴ・サラダで540円。リーズナブル。行くべしと思うが、入れない。
チェーン店にあって、個人の喫茶店にないもの。サッと飲んでサッと出る、これが個人の喫茶店では難しく感じるのだ。
出入りのカジュアルさがないと思う。言い方悪くいえば、アリジゴク的な。全部をゆっくり楽しんで、マスターや奥さんと会話をして、常連さんにジッと見つめられる視線にも耐えて、退店せねばならない気がするのだ。
ぱぱっと喰って、飲んで、ササっと出たい時。なんか、一杯話しかけられたらめんどくさいなぁー、何してる人ですか?みたいになるとダルイなぁ。でも家の近所だから、気軽にコーヒー楽しみたいなぁー、という気持ちで心の中で綱引きが行われているのだ。
土曜日の朝、これなら登校小学生もいないし、フラッと朝から喫茶店に行っても、よかろうに。カミさんには散歩と言えば別にいいし、9時頃に店に向かった。うちは朝ごはん6時だから、ちょうどいいタイミングだ。二度寝ならぬ、二度朝飯、悪行の極みだ。
店の前に到着。ポップが出ている。モーニングは540円~780円まであるが、540円の基本セット(コーヒー・トースト・たまご・サラダ)でOKなのだ。入口のドアが、「サントリーの角のボトルみたいに亀甲柄」のガラスが木枠に埋め込まれている。
屈折する光で店内が良く見えないが、常連らしきおじいさんたちがワイワイしている。これは撤退。今日はやめておこうとドアにかけた手をそっとポケットにしまおうとしたとき、
意思とは反対に、左手はドアノブを回している。
うそ。もう、自分の意思を越えた世界にあるのか、俺の脳は。
ドアが少し開く、カランコロンと店内に響いているのがドア外の俺にも聞こえる。
「いらっしゃいませー」と奥さん(たぶん奥さんだと思うだけ)の声が寒いドア外にもよく通る。戻れない。コレでドア閉められない。もう入るしかない!
意を決する。すると、脳が遅れて反応して、ドアをゆっくりと締める。
今頃、撤退かい!とセルフツッコミが出そうになる。
声を振り絞る。
「また、今度、来ます」とだけ。それなりに声が通った。
常連のアットホームな感じが苦手、でも、昔ながらの喫茶店てのも憧れる。話したい時だけ、話せる感じだといいのに。
散髪屋選びも同じだ。技量や値段はある程度想定できるが、理髪師がおしゃべりかどうかはわからない。
とぼとぼと家へと向かう背中に、駆けてくる足音。
振り返ると、奥さんが
「コレ、今度いらっしゃったときに」
と、コーヒーお代わり無料券をくれたのだ。
「あ、なんか、あ、すみません。ありがとうございます」
コミュ障のような52歳、そんなことないねんで、いつもはよく話すんやで。人見知りもしないのよ。ただ、静かに落ち着ける喫茶店に行ってみたかっただけやねん。でも、今度いきますね。
とまで込めた、「ありがとうございます」だった。
今度行きます。




