第3 結果の話。
エブンでの朝は早く、セブリオン家もその例外では無い。
自身の店を持ち従業員を雇用する程の身分とはいえど、決して裕福では無く、暮らしぶりもそこそこ、他と比べれば増しという程度なのだ。
「リオ、そろそろ起きなさ〜い」
寝室の外、扉の向こうから聞こえる母親の優しい声にリオは目を開けた。
寝室とはいえど季節通りの気温の為、寝相の悪い俺の掛け布団から出た足はつま先まで凍える様な冷たさになっていた。
せんべい布団の様に薄く硬いマットレスはゴツゴツとした木製のベットの感触を更にダイレクトに伝えてきて何とも言えない寝苦しさだった。
ただ、これがマットレスなのかも正直分からないが、俺は寝具の専門家では無いので仕方が無い。
まぁ、敷いているのだからこれは立派なマットレスなのだろう。
しかし、住めば都というが、この寝苦しさには、今でも悩まされている。
だがこれでもマシな方なのだ、この家にあるかけ布団と一目で解るかけ布団は一般の家庭では珍しい方。
寒くなってくる季節なのに、バスタオルよりちょっとまし程度のなんちゃって布団が寝具としては一般的らしい。
そんな事を考えると、身震いを感じて両手を交差し上腕の辺りをサスサスと擦る。
「ううううう、サブッ」
・・・本格的な冬になったらと考えると本気で恐怖さえ感じる。
多少の不便を感じるところは多々あれど、どうやら俺はそれなりに生まれる家に恵まれたらしい。
「うん、起きてるよ〜」
少し遅れたが扉越しに大きな声で母親に起きている旨を伝える。
ひとしきりゴロゴロと硬い布団に残った布団の温もりを感じながら伸びをする。
「・・・・うううん」
声が漏れる。
目ヤニが浮き出ている気持ちの悪い感覚。
目尻に指を這わせそれを取ると、起き上がりベットから降りる。
床が当たり前の様に冷たい。
ペタペタとその冷たさを感じながら家族の寝室を出ると、そこは少しだけ広めのリビングキッチン。
後ろ姿の女性が、慣れた仕草で配膳の準備をしていた。
「おはよう、お母さん」
と声をかける。
「おはようリオ、お父さんがお水を汲んで来てくれたから早く顔を洗ってらっしゃい。」
「はーい」
水を汲んで来てくれたか。
当たり前のように言う母親。
「・・・はぁ」
聞こえない程度の音量で俺はため息を吐く。
「蛇口が恋しいよぉ・・・」
素足で木製の床を歩く。
たまにささくれ立った箇所があるので注意をしないと棘が刺さる、結構これも馬鹿に出来ない痛さなので厄介だ。
ここではそういった事を回避する為に土足が基本なのだが、まだ慣れないので、起きたら靴を履くなどという習慣はついつい忘れてしまう。
御多分に洩れず今の今もだ。
自分の胸辺りまである水瓶の前に立つと木製の蓋を開ける、8割位水が入っていた。
大きめの柄杓でそれを掬い上げると、レトロな雰囲気な台所のレトロなタイルで覆われたキッチンの流しに置かれた木製の桶に注ぐ。
身長が足りないので、父親特製の踏み台を近くに寄せ登ると目線の下に桶が来る。
桶に手を入れると水が当たり前の様に冷たい。
「冬ぅ〜」
水で悴んだ手をズボンのポッケに入れながら食卓の席に着く。
食卓には既に料理が並べられていた。
今日はスープと卵を炒った物、それにパンだ。
凍えた身体に湯気の立った食べ物はご馳走だ。
スープの入った皿に手を付け暖をとる。
「お父さんが戻ってきたら皆んなで食べましょ」
「はーい」
そうこう話していると、父親が外から帰ってきた。
「君の言う通り、昨日のうちにやっておいて正解だったよ」
「やっぱり?」
「ああ、霜がついちゃって、また乾燥させないとだな」
「ご苦労様、手を洗ってきてちょうだい、リオが待ちきれないって」
「おはよう、お父さん」
「ああ、おはよう、リオ。」
父親はそう言いながら俺の顔よりちょっと上を見ながら自身の頭を指差す。
どうやら俺の寝癖を知らせてくれてるようだ。
姿見、嫌、贅沢は言わない、手鏡でもあれば良いのだが、母親が大事にしまっている物をおいそれと自分の寝癖確認などに使うのは、幾ら空気を読むのが苦手な俺でもあの優しい母親の逆鱗に触れるのが容易に想像出来た。
小さな手鏡であっても、それ相当の価値なのだ、この世界では。
そう、ここは日本、、、嫌、地球ですらない。
異世界。
俺が知っている情報は、俺がセブリオン家、エブンの商人テオ・セブリオン、マーサ・セブリオンの息子、リオ・セブリオン。
10歳の神託時、宣告された職業は
「レビュアー」
だった。




