話2 世界の話 一回め
サ・キカタ大陸。
その大陸は綺麗とは言えないが歪でもない長方形である。
四方を海で囲まれ、外界から切り離されていた。
他の大陸が存在するのかどうかは未だ誰も知る事が無い、知る術がないと言った方が合っているかもしれない。
北西のア・バン
南西のイ・オー
北東のオットー
南東のベイク
現在、この大陸には4つの国がある。
国家間には小さないざこざこそあるものの、ここ数十年、戦争といった大きな国同士の争いは一度も起こっていない。
これだけ多種多様な人種、思想、宗教が存在するのにも関わらず、争いの一つも無い、それは何故か?
簡単な話、人類には共通した敵が存在していた。
「悪魔」
デーモンと呼ばれる異形の者達が人類を襲い貪り食いその数を減らす。
デーモンは人類を食糧として認識していた。
人を喰らう。
奴等は頭のてっぺんから皮を剥ぎ、四肢をもぐ。
ここで死ねる人間は幸運だ、死ねなかった不幸な人間はここから更なる痛みと恐怖を味わう事になる。
泣き叫ぶ食糧の悲鳴を肴に、全身から溢れ出る生臭い血液を啜り、舐め尽くすと腹に手を入れ筋肉や贅肉をぐちゃりと鷲掴みにして口に運ぶ。
筋張ったその肉をくちゃくちゃと咀嚼し、なお細く漏れ出る呼吸音をニタリニタリと嬉しそうに聞きながら笑い、何度も何度も繰り返し貪り食う。
その頃には、いかに頑丈な人間でも息絶えてしまう。デーモンは止まらず食糧を食い進めると愉悦に満ちた表情のまま、内臓を大事な骨が損傷しないように優しく取り出し、まだ生暖かいそれを腕を上げ、高い位置から垂れ下げ口に運ぶ。
内臓は心臓に近い程美味らしく、下から上に食事が進むにつれ、デーモンの表情が緩んでいく。
ミョリ、ミョリ、モニュ、モニュ、コリコリと、食感を楽しみながら。
子供の様に手掴みで食糧を口に詰め、咀嚼する。
涎と血で口を汚すがおかまいなく、思うがままに欲望のままに口に食糧を詰め頬張る。
デザートに残しておいた背骨をボキッと割ると中から滲み出た液体を高級なデザートでも食べるようにうっとりた表情で舐めからめ飲み込むのだ。
食事は終わらず、それを捕獲した食糧が無くなるまで繰り返す。
そんな化け物なのだ、デーモンはどこからともなく現れ、討伐が行われる迄消滅しない。
厄介なことに、デーモンが現れはじめ現代に至る迄、人類は対応を後手に回らされていた。
出現位置でさえ未だ特定されていない。
空間から突然現れたとの報告もあるが、その事実が確認されたという記録はどこにもない。
デーモンは最も厄介と呼ばれる「人型」から多種確認されている「モンスター型」、非公式ではあるが、「幻種」と呼ばれる特殊なデーモン、様々確認されている。
それらに対し人類は4つの国で同盟を結び、「英雄機関」を組織し、対デーモンを生業とする人類を育成、及びサポートし対処した。
「英雄」
この世界では10歳になると神からのギフトとしてスキルを与えられる。
「スキル」、種類は様々あるが、その中でもデーモン討伐に有効なスキルをギフトとして受け取った者は国からの召喚を受け、審査後、13歳になると英雄機関が運営する学院への入学が認められる。
学院入学はとても名誉な事で、学院を経て英雄認定を受けたあかつきには一定の地位、待遇が約束される。
代表的な例として英雄認定された者がデーモンとの戦闘で再起不能、もしくは最悪の場合殉職したとしても、家族は国から保護を約束され、莫大な遺族年金が支給される。
しかし、毎年、各国合わせ100人にも満たない少年少女が学院の選別に選出され入学を許されるが、2年後に英雄認定される者は毎年10人にも満たない数人程度の狭き門である。
英雄認定されなかった人間は、国が運営する軍機関、各研究機関、警察機関に配属もしくは個人として冒険者登録を特別待遇で受ける事が出来る。
冒険者とは、個人、又はパーティを組み、デーモンを討伐する職業である。
英雄機関が国規模のデーモン災害に対処する組織とすれば、冒険者は英雄の手の回らないデーモン災害を解決する現在の人類には無くてはならない組織である。
基本15歳で成人していれば誰でも登録出来るが、戦闘に有用なスキルを持っている、いないでは生存率の割合が目に見えて解る危険な職業である。
されど、危険な職業であるという事は、旨みのある仕事とも言える。
冒険者として活躍すれば、平民出身の身であっても、貴族以上の生活と権限が認められる事もある。
しかもそういった事例が少なくなく、立身出世を目指す人間にとっては、垂涎の的と言える職業なのである。
命の危険を伴うがその道を進む者は絶えない。
そしてここに、英雄、冒険者を夢見る10歳の少年が、神託を受ける為、両親に手を引かれ教会への石畳の道のりを歩いていた。
ここはオットーの西、アバンとの国境に近い町、エブン。
「お父さん、お母さん、僕、英雄になれる?」
少年が何度も何度も両親に言った言葉だった。
その言葉を言う少年の手は熱く、強く両親の手を握っている。
朝も早く、マフラーを巻いた少年の口からは言葉を紡ぐ度に白い息が吐かれた。
少年の英雄への憧れに、内心、商人をしている両親はあまり良い思いはしていなかったが、その思いを無下には扱う事は無かった。
一人息子ではあるが、息子のやりたい事はやらせてあげたい。
この時代にはそぐわない考え方ではあったが、挫折したなら、挫折した時、息子の帰る場所を守っていれば良いと考えていた。
ただ、英雄や冒険者につきものである、危険性を考慮すると、今日の神託次第では、息子に諦めさせる言葉は準備万端に整えていた。
「いいスキルを貰えるといいな。」
「うん!!」
「でも、お母さん心配しちゃうわ、リオが怪我しちゃったら泣いちゃうかも」
「大丈夫だよ、お母さん!!
僕、怪我なんかしないもん!!
英雄も冒険者も凄く強いんだから!!」
「あらそーう?」
「デーモンなんてバーンってやっつけちゃうよ!!
「んふふ、リオは強いものね」
「うん!!」
両親は少年が見えないところで目を合わせると少しだけ苦笑いを浮かべる。
戦闘に関するスキルを授からないことを祈りはしないが、少しだけ思いを馳せてしまうのだ、このまま3人で幸せに暮らせる未来を。
しかしその未来も、守り手である英雄や冒険者がいなければ成立しない。
デーモンは自然消滅する事が無いのだから。
教会に到着し受付を済ませると中に入る、教会の中は朝早くではあったが、既に人で埋まりはじめており、儀式自体は既に始まっていた。
女神の神像が神官の祈りに反応し淡く光ると、神官が口を開き神託を告げる。
基本この日、会場にいる人間は10歳になる少年少女と、その親、そして教会の人間だけなのだが、神託の内容にその子の両親以外にも、他の家族すら声をあげ、一喜一憂する様は奇妙な光景であった。
「其方に与えられしスキルは・・・「剣聖」。」
この日一の歓声が教会内に響いた。
その少女の両親が膝をつき少女を挟む様に抱きつく。
とうの少女はあまりピンと来ていないのか、キョトンと不思議そうに泣き崩れている両親を見ながら二人の頭を両手を使って撫でていた。
それもその筈、剣聖スキルといえば、戦闘スキルとして上位で、学院入りは決定したようなものなのだ。
少年の手がぎゅっと握られる。
「・・・・いいなぁ。」
少年はひとり静に言う。
「・・・僕も。」
「リオ・セブリオン、此方へ」
少年の名前が呼ばれた。




