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小動物系毒舌令嬢の転生ヒロイン観察日記

作者: 宵森みなと

はじめまして、宵森みなとです。

今回、「小説家になろう」様にて初めて作品を投稿させていただきました。


書くのも投稿するのもまだまだ初心者ですが、

ちょっぴり風変わりな異世界転生のお話を、

思いきって形にしてみました。


おっとりした毒舌令嬢が、逆ハーレムヒロインに静か〜に(でも痛烈に)物申す、

そんな“ざまぁ×ギャグ”の空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。


肩の力を抜いて、

どうぞ、ゆるりとお付き合いくださいませ。


よろしくお願いいたします。

目を覚ますと、そこはレースに囲まれた天蓋付きのベッドの上だった。

窓の外を見れば目の前に広がるのは、どこかで見たことがあるような西洋風な世界。鏡を見れば、ふわふわした金髪に、紫色の瞳と日本人離れした容姿。あぁ…黒髪、黒目が懐かしい一。


……もしかして、これって乙女ゲームの世界ですかね。

転生してきたってことは、はいはい、良くある“ざまぁ”系ですね?


ただひとつ、想定外だったのは——

転生したのが、脇役でも悪役でもなく、ただのモブ伯爵令嬢のちんまり系美少女だったこと。


「どうして異世界に転生したのでしょうか……」

思わずぽそりとつぶやく。


前世を思い出してから、気持ちの混乱もなく

私は、わりと平和に学園生活を送っていた。

……あのヒロイン様が転入してくるまでは、ね。


---


昼下がりの学園の中庭。

木漏れ日の下で、私は紅茶をすすりながら、のんびりと日記を書いていた。


「今日も平和です。いまのところ、誰も死んでいません。よかったです。」


それが、あの子が現れるまでは——


「はぁぁぁい♡ 皆さん、おまたせぇ〜♡」


甲高い声と共に、フリルもこもこの制服を着た女の子が、わざとらしいほど軽やかに走ってくる。

……来ましたね。

名前はアリア=フローリス男爵令嬢。この学園に転入してきた転生ヒロイン様。


「わたくし、元平民ですの。皆さんのような素敵な方に囲まれて、恐縮ですわぁ♡」


ほほほ……と口に手を当てて笑う彼女の周囲には——

皆さん婚約者持ちの

公爵令息

聖騎士団の副団長

王子殿下

獣人族の青年

と、まるでホストクラブの開店前。


——どうして皆さん、そんなに彼女の肩を抱きたがるのでしょうか。


私?

いま、彼女を眺めながら、静かにフルーツタルトを突いております。


……この果実の方がまだ誠実そうに見えます。


アリア嬢がまた誰かの腕に甘えると、それを見た男子たちが妙に目を光らせている。

ああ、今度は手を握ってますね。婚約者が見てますのに、豪胆ですわ。

えっ、見てるのに笑ってますよ……? なるほど、“愛されヒロイン”ってやつですね。


私はそっと、ティーカップを置いて、ふわりと立ち上がる。


「皆さま、仲睦まじくて……たいへん結構なことですわ」


にこにこと笑いながら、私が言葉を続けると、

アリア嬢がこちらに気づいて、少し警戒したような笑顔を向けた。彼は顔色がピンクから真っ青に。


「あらぁ〜、アナタは……誰でしたっけ?」


「……ただの、空気みたいな存在ですの。お気になさらず」


そして——

ゆっくりと、刺すような微笑みを浮かべながら、私はおっとりと言い放つ。


「ですが……すでに婚約されている方と、それはよろしくないのでは?

そのお手々、何人分握っていらっしゃるのでしょう。わたくし、数えるのが追いつきませんわ」


「え、えっと……! そ、それはご挨拶の一環でしてぇ……!」


「まあ、ご挨拶で唇が触れそうになってしまうご文化、どこの国の風習かしら?

新大陸発ですの? とてもスキンシップに積極的でいらして」


男子たちがざわつく。

アリア嬢は必死に笑顔を取り繕いながら、後ずさる。


「こ、これはそのぉ、愛されすぎちゃう私が悪いというか……」


「……まぁ、たいへん。

愛されすぎちゃうと、婚約者の方々が不憫に見えるとは、まるで歩く公害ですのね。」


にこっ。


※周囲、静寂。


「……あら? ごめんなさい。もしかして、ちょっと口が滑りましたかしら」


小首をかしげながら、笑顔で言ってみた。

ついでに、ひとこと添えてみる。


「次はお手紙にして差し上げましょうか?

“不特定多数の愛があるヒロイン様へ——そのたくさんの愛が誰かの首を絞めませんように”って」


アリア嬢の顔が引きつった。

……あ、泣きそう。

でも涙を流したのは、なぜか彼女の後ろにいた私の婚約者の公爵令息だった。


おやまぁ。

昼下がりの中庭にて。

私が“うっかり”丁寧に、アリア嬢の逆ハーレム行為を批評してしまったせいで、空気がしん……と静まり返っていた。


——けれど。


「そ、そんな……! わたし、ただ……皆さんと仲良くしたいだけで……!」


アリア嬢は、うるんだ瞳をわざとらしく潤ませながら、うつむいた。

あらまあ、見事な涙目ですこと。演技賞ものですわ。


「わたし……嫌われたくないんです。だから、皆と笑顔で仲良くいようって……!」


「まぁ。すばらしいご覚悟ですわね。

嫌われないために婚約者持ちの方々に抱きつくという発想、たいへんユニークですこと。」


くす、と笑ってみせると、アリア嬢の目元がピクつく。


「そ、そんな……! どうしてそんなこと言うの!? わたしは、ただ……!」


——あ、詰まりましたね。


おそらく台本にはここまでのセリフしか書いていなかったのでしょう。

私、ちょっと意地悪になってしまったかしら。


そんなアリア嬢を慰めるように、イケメンたちがわらわらと寄ってきて、

「アリア様は悪くない」「俺たちが勝手に……」「嫉妬ですか」と、口々にフォロー。


——そのとき。


「ふふ……嫉妬、ですか?」


私は静かに笑う。

おっとりと、柔らかく、でもはっきりと——


「わたくし、こう見えても忙しいんですの。

休憩時間ぐらい紅茶に癒されたいのに

毎日毎日、三流小芝居を見せられる側にもなってみて下さいませ。まぁ、それもこれもどうでも良いですわ。

どうぞ皆さま、あの方とご自由にイチャイチャくださいませ。」


「…………」


完全沈黙。


……コホン。


「おや? 何かおかしなことを申しましたかしら?

ああ、いえいえ……アリア様の華やかな振る舞いが、あまりにうざ…眩しくて。

うっかり真実が漏れてしまいましたの」


にこっ。


そして私は一礼し、軽やかにその場をあとにした。

紅茶がぬるくなってしまう前に、席へ戻りませんと。



---


その日の夕刻


噴水広場の裏、ちょっとした裏庭のような場所で、アリア嬢が泣いていた。

私はたまたま(本当にたまたま)通りかかった。


「……っ、どうして……わたしがこんな目に……っ」


どうやら本気で傷ついているらしい。……ちょっとだけ、心が痛まないこともない。


でも、あのね、アリア様。


わたくしも、最初はあなたのことを擁護しようとしてたんですのよ?


ただ、あなたが「人の婚約者に甘える」のを見たとき、わたくしの中の倫理感が首を吊りましたの。


あなたが悪役令嬢に罪をなすりつけて泣き真似したとき、わたくしの理性が瓦解しましたの。


そして今、貴女が一人泣いている理由は——

たぶん誰かに批判されるのが許せないだけ。


誰かを踏みにじったことではなくて。


だから、私は近寄ってそっと微笑む。


「アリア様、ご自愛くださいませ。

この学園は、貴女の舞台ではございませんの。ここには観客も、照明も、脚本もおりません。

ただ、“正面から生きている人間たち”がおりますの。」


アリア嬢はわたしを睨んだ。

睨まれるのは、猫以来です。ちょっと懐かしい気持ちになりました。


その翌日。学園内にささやかな波紋が広がっていた。


「アリア様、昨日の放課後に誰かと口論していたらしいぞ」

「いや、それよりさ……公爵令息のノア様、最近ずっと浮かない顔だよな」

「えっ、まさか……?」


ええ、まさか……ですわね。


——さて、正解を申し上げましょうか?


私の婚約者である公爵令息ノア=セリオス様とついに、婚約解消をしましたの。



---


昼休み、中央庭園にて。


公爵令息ノア様が、花壇の前でアリア嬢を呼び出し、静かに告げたのです。


「アリア。君との距離感が、わたしには不適切に感じられるようになった。

このままでは、婚約者であるミレーユ嬢にも、君自身にも害を及ぼすと判断した」


アリア嬢、真っ青。


「え、えっ? な、なんのことですの……? わたし、何もしてませんのよ?」


「……していないのなら、それが一番の問題だ」


さすが、理性的貴族男子。言い回しが紳士的かつ致命的です。


彼は続けた。


「わたしは……距離感がない君に惹かれていたのかもしれない。けれど、それは“君自身の無邪気さ”だと、勘違いしていた。

……だが、それが無神経さであり、他人の絆を軽んじるものだと気づいたとき、目が覚めたんだ」


その場にいた者たちは、全員が息を呑んだ。


……ええ、わたくしもタルトのフォークを落としました。


アリア嬢は涙ながらにすがりつこうとしたけれど、ノア様はその手をとらなかった。


「ミレーユ、君には申し訳ない事をした。彼女の行為を咎めず、距離感のない関係が君を傷つけた。君が言葉を尽く伝えてくれたこと、それがわたしの目を覚まさせたのだと思う」


……あら、わたくしのことですか?


そんな、ご丁寧に。

でもわたくし、ただお茶と毒を楽しんでいただけですのに。


アリア嬢は、さすがに何も言い返せず、

「ひどい……皆ひどい……!」と捨て台詞を残し、走り去っていった。



---


数時間後の女子寮


ルームメイトがこっそり耳打ちしてきました。


「ねぇねぇミレーユ、聞いた? アリア様、荷物まとめて帰国するらしいわよ!」


「まぁ……それは残念ですわね。

貴族男子4人を同時攻略できるほどのバイタリティ、研究対象として貴重だったのに……」


「……あんた、ほんとに毒あるよね?」


「まぁ。毒があれば虫も寄りませんもの。

わたくし、平和主義ですのよ」


くす、と微笑むと、ルームメイトが戦慄したように黙り込んだ。

……おや? 何か間違ったかしら?



——アリア嬢、退場から三日後。


わたくし、静かで平穏な日常に、ようやく紅茶の味が戻ってきたことに安堵しておりましたの。


けれど、そう甘くはありませんでした。


「新しい転校生を紹介する。今日から貴族科上級クラスに編入することになった——

リリィ=スノーレイン嬢だ」


担任が紹介したのは、

真っ白な髪に、氷のようなブルーの瞳を持つ、美貌の少女。


フリルたっぷりの制服にリボンを散らし、にこやかに礼をするその姿。

……既視感があるのは気のせいではありません。


「はじめまして♡ リリィです。元庶民出身ですが……よろしくお願いします♡」


——うん、アリア嬢の焼き直しですね。これは。


「ねぇ、あの子も“転生者”っぽくない……?」

「何かこう……“強キャラ意識”が透けて見えるっていうか……」

「また逆ハーレム始めそう」


周囲の生徒たちの、学習能力の高さに感動しました。


リリィ嬢はすでに、アリア嬢と同じ香りを放っているのです。


そして、案の定。


「まぁ! あなたがあの“ミレーユ”さん? ふふっ、有名人なんですね〜♡」


そう言って、リリィ嬢はわたくしの席へやって来ました。


「アリアさんって、なんだか可哀想でしたよねぇ。きっと、誤解されたままだったんですよ」


……あら。


「でも、ミレーユさんがいれば、今度はうまくやれるかも♡

ね? 今度は“わたしと仲良く”してくださいね?」


……おやまあ。


「どうかされましたか、ミレーユさん?」


わたくし、にこっと微笑みました。


「いいえ。少しだけ懐かしく思っただけですの」


「懐かしい?」


「ええ、少し前にも、同じようなセリフを仰っていた方がいらしたものですから。

でもご安心くださいませ。

わたくし、転生者様の研究には寛容ですの。

とても興味深い症例ばかりで、観察しがいがございますし」


「……しょ、症例?」


「ええ。とくに、“なぜ逆ハーレムに拘泥なさるのか”という点。

それが純粋な性格によるものなのか、それともゲーム的思考の残留か……

わたくしの仮説では、“幼少期の承認欲求の反動”ではないかと……」


「えっ……あの……?」


「おっと。失礼いたしました。つい研究熱心が過ぎまして」


ぺこりと頭を下げながら、わたくし、心の中でそっと紅茶を掲げました。


——また来ましたわね、“ざまぁ対象者”。


ええ、今回も——

わたくし、丁寧にすべてを粉砕させていただきます。


どうぞよろしくお願いしますね、転生者2号様。




私は中庭でいつも通り、優雅にクロワッサンをちぎりながら紅茶をすすっておりました。


本日の香りはアールグレイ。

転生者様の動向を観察するには、これくらいの気持ちで構えていた方がちょうどよろしいのです。


そんな穏やかな昼休み時間に——


「ミレーユ・シュヴァルツ嬢、至急、生徒評議会室へお越しください」


……あら。

ついに来ましたわね、転生者恒例の「私の邪魔をする女は悪役扱いイベント」。


---


生徒評議会室にて


部屋の中央には、リリィ嬢。

その目にはうっすらと涙が浮かんでおり、まるで濡れた子猫のような表情をしております。


……残念ながら、わたくし猫より犬派ですの。


周囲には騎士学科の青年たちや、王子殿下の側近たち。

どうやら彼らも、“彼女の味方”として呼ばれたようです。


「ミレーユ嬢。貴女がリリィ嬢に対し、名誉を毀損するような発言をなさったとの訴えがありました」


「まぁ……ご丁寧に通報まで。

ではお伺いしてもよろしいでしょうか?

わたくし、どのようなお言葉で彼女の名誉を傷つけましたかしら?」


リリィ嬢は少し戸惑ったように唇を震わせる。


「わたしに、“研究対象ですの”とか、“観察しがいがある”とか……!」


……それ、事実ですわよね?


「それに、“逆ハーレムに拘泥なさる方”とか、“ゲーム思考の残留”とかっ……!

……そんな、そんなこと……!」


「わたくし、あくまで仮説の域を出ておりませんでしたが……

もしも、図星だったということであれば、深くお詫び申し上げますわ」


にこっ、とお辞儀する。


「ですが、名誉毀損とは、虚偽の事実に基づいて名誉を傷つけた場合を指します。

……わたくしの言葉がもし真実であったなら、それは“観察結果の報告”ではなくて?」


沈黙が場に落ちる。


一瞬、王子殿下が何か言いかけたが、側近が咳払いで止めた。

……さすが、側近の方が頭が切れますわね。


「わたくし、個人への好悪で物申す趣味はございません。

ただ、倫理観と品位を以って、貴族としての矜持を守りたいだけでございます」


「ミレーユ嬢……」


「それに、リリィ様が“わたくしと仲良くしてほしい”とおっしゃったのは、つい昨日のこと。

それをこのような場に持ち込まれるのは、わたくしとしては少々リリィ様の“友情とやらの変化速度”に困惑しておりますの」


※全員、思わず目を逸らす。


リリィ嬢は、さすがに口ごもった。


「そ、それは……っ、ミレーユさんが酷い事言ったから、許せなくて……!」


「まぁ……“周り味方をつけて気に入らない相手を攻撃する”。

たいへんに興味深いやり方ですわね。さすが転生者様。最新文化の輸入、ありがとうございます。」


わたくし、深々と頭を下げる。


リリィ様、顔が真っ赤ですよ。怒りで。


「もういいっ! わたし、こんな学園、やめてやるんだからぁ!!」


叫びながら、転生者2号様は退場された。


……まさか2週連続で退学者が出るとは思いませんでした。

学園の風紀委員長、さぞお忙しいことでしょう。



---


その日のメモ(ミレーユの観察日記より)


本日の転生者:1名脱落


被害者:紅茶と平和


得られた知見:

 →逆ハーレム思考の転生者は、論理より共感を優先する傾向あり。

 →公的な場では詰めが甘く、自己正当化に脆弱。



次回は、感情より“権力”を盾に来るタイプが来るかもしれませんわね。

そろそろ、王族枠の転生者様でしょうか……?


——というわけで、また一人、観察対象が増えそうですわ。







ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

はじめての投稿で緊張しながらも、「お約束展開あるある」にクスリと笑っていただけたら嬉しいなぁという気持ちでいっぱいです。


よろしければ、今後もお付き合いいただけると嬉しいです。


それでは、また次回でお会いできますように。

どうぞ、心地よい休日のひとときを。


宵森みなと

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次の観察対象者求む! 毒でハーレム要員もばっさりやっちまってほしいし、 その婚約者の皆様も毒で救うのもありそう! 早々に目を覚ましたノア様目線のミレーユ観察日記もほしいです。 今後のご活躍を期待してい…
王子もしかして2回も転生者に引っ掛かってるの?だとしたら婚約者の子かわいそうに
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