冬眠
おはようございます、こんにちわまたはこんばんわ♪
たまに書きたくなる短いストーリーの記念すべき1つ目の作品です。
最後まで読んでくださると嬉しいです♪
目の前に耳の長い1匹の小さきものが見える。
長いと言ったが、その耳はペタンと垂れ下がっている為、せっかくのチャームポイントが台無しだ。
その小さきものは、何かを見て全身を震わせている。
何を見ているのだろう?
後ろを見るが何も無い。右も横も下も上も何も無い。見えるのは、葉がついていない木々とふかふかの絨毯だけだった。
小さきものにもう一度向き直る。
何もいないというのに、まだその小さき体を震わせている。
「お、お願いです。殺さないで……」
まるで、虫の声と間違えてしまいそうな小さな声で祈る小さきもの。
なるほど、この俺様に喰われるかもしれないと恐れているのか。
確かに間違ってはいない。
この小さきものをここまで追い詰めたのは、その為なのだから。
しかし、すごい震えている小さきものを見て、少しの間話し相手くらいにはなってやろうと思った。
早く食ってしまえば腹は満たされるが、孤独を埋めることは出来ない。
「俺様はお前を食う。それは決定事項だ」
「そこをどうか……見逃してはいただけないでしょうか」
必死に命乞いをする小さきものは、逃げ場のない岩場の間に足を引っ掛けてしまっている。どうやら綺麗に挟まってしまい抜けないようなのだ。
「俺様がお前を見逃す理由がない。俺様はとても腹が減っているのだ。しばらくなにも口にしていない。やっと見つけた獲物を、みすみす逃すわけがないだろう?」
嘘では無い。この時期は、これまで以上に食さないといけない。
これからくる白景色には、俺様は眠りにつく。それまでになんとしてでも、たんまりと食にありつかなければならないのだ。
「で、では私が食べ物を持って参ります。それもたくさん。このやせ細った身を食べても美味しくありません。それなら、わたしがたくさんの食べ物をお持ちした方が、おなかいっぱい食べられるのでは?」
小さきものは必死に命乞いをする。
ふむ、確かにそれも悪くは無い提案だ。俺様は何もせずに待っていればいいだけなのだから。
「ほう?しかし、お前がその約束をすっぽかして逃げない可能性はないだろ?」
「に、逃げません!」
「信用ならないな」
俺様は1歩踏み出す。これ以上は面白い話を聞けそうにないな。また孤独になるが仕方ない。そろそろ俺様の腹も限界を迎えそうだ。
「で、では私の子を貴方のお住いにお預けするのはどうでしょうか!」
ほう?それならもし、こやつが飯を持って来なかったとしても、代わりにこやつの子を食らうことが出来る。
俺様にとっては、これ以上ない提案だ。
「いい提案だな。ふむ面白い。だが、それで?」
「その間、貴方に食べ物を提供します。それもたくさんの。それならどうでしょうか?貴方はたくさん食べられ、私も子供たちも生きることが出来る」
小さきものの目に怯えだけではなく、少しの希望が芽生えたように見える。
「しかし、俺様がお前の不在の間に子供たちとやらを食ってしまうかもしれないが?」
「それはきっとありません。貴方は、見たところ食べ物を存分に口にしていないのでしょう?黙っていて、食べ物が出てくるのにそれをわざわざ無くすことを、貴方はしないはずです」
なるほど。この小さきものは頭が回るようだ。
たまには、小さきものの興に乗るのも悪くは無い。
「よぉし、わかったその提案乗ってやろう。しかし、一日でも損なえばどうなるかは分かっているな?」
「はいっもちろんです!」
小さきものは、目を輝かせていた。
「で、ではたいへん申し訳ないのですが……私を助けてはいただけないでしょうか?」
仕方の無いやつだ。この俺様の手を煩わせおって。しかし、ここから出してやらないと先程の約束はなくなってしまう。
俺様は小さきものの体を片手で怪我をしない程度に掴み、もう片方の手で岩を退けた。
「あ、ありがとうございます!」
助けてはやったが、手を離すつもりは無い。なぜなら逃げられてしまう恐れがあるからだ。
「は、離していた抱いてもいいのですよ?」
「ほう?逃げるつもりか?」
「あ……確かにそう思われてしまいますよね……分かりました。それではこのまま、子供たちの所でご案内します」
あっちです、と指さす方向に歩き出す。
この手は、幾重も数多の小さきものを狩ってきた。その手で今度は怪我をしないように掴んでいる。
それは案外難しい事だった。気を抜くと思わず握りつぶしてしまいそうだ。細心の注意を払わねば。
案内されるがまま歩き続け、たどり着いた先に子供たちとやらがいる巣にたどり着いた。
中を覗いて見ると、小さきもののさらに小さきものが沢山居た。1、2、4、6……あれ?俺様はものを数えるのがとても苦手だ。まぁいいとにかく沢山いる。
それらが全員、体を小刻みに震わせて縮こまっていた。
「さて、全員連れていくぞ」
「は、はい。お前たち、大丈夫だからされるがままにいるんだ。いいね?」
小さきもののさらに小さきものたちが、黙って激しく首を縦に振る。
俺様は全員を片手で鷲掴みにする。もちろん握りつぶしたりしないように、だ。
そのまま、俺様の住まう巣に連れ帰る。
「わ、わぁ。ここが貴方の住まう巣ですね?広いなぁ」
「ふん。そうだろうとも」
小さきものたちを、俺様の住まう巣に連れ帰ると小さきものは驚いて目を丸くしていた。
それはそうだろう。俺様は巣を作るのは大の得意なのだ。こればっかりは、ほかの者より勝ると言っても過言では無い。
「で、では私は早速食べ物を持ってきますね」
「え、お母さん!置いてかないでっ」
小さきもののさらに小さきものたちは、置いてかれることに不安を覚え必死に騒いでいる。
それはそうだろう。母親がそばにいないだけで寂しく悲しいことは無い。
これくらいの頃は、誰もが思うことだ。
仕方ない。俺様が相手してやろう。
「必ず戻ってくるから。ちゃんとあの方の言うことを聞くんだよ?」
泣いている子もいるが、最後には諦めて首を縦に振っている。
「では、行ってきます。子供たちをどうかお願いします」
そう言って小さきものはどこかへと行った。
小さきもののさらに小さきものたちは、母親が居なくなった途端に巣の隅にまでいきまとまって身体を震わせ縮こまっていた。
ふむ、困ったものだ。少し遊んでやろうと思っていたのだが、これでは遊ぶ所では無い。
「俺様は、お前たちになにかするつもりはない。あの小さきものが……お前たちの母親が俺様との約束を違わない限りな。だが、お前たちの母親は約束をすっぽかすようなやつか?」
小さきもののさらに小さきものたちは、一斉に首を横に振った。
「なら、安心するといい。ここは外のどこよりも安全な場所だ。お前たちを脅かすものはなにもない」
小さきもののさらに小さきものたちは、お互いに見合せている。やがて一匹の小さきもののさらに小さきものが口を開く。
「では、貴方は僕たちを食べないのですか?」
「そうだ。お前たちの母親が俺様との約束を忘れない限りな」
小さきもののさらに小さきものたちは、胸を撫で下ろしている。これで信用して貰えたようだ。
しばらくすると、小さきものが戻ってきた。小さきものと同じ大きさの葉に、たくさんの木の実を乗せてている。
「戻りました!さ、これをどうぞ!足りないと思いますので、もう一度取って参ります」
そう言ってまた走り去っていった。
確かにこれっぽっちではまるで足りない。
まぁよい、とりあえず腹ごしらえとしますか。木の実を葉に乗せたまま口に運ぼうとして、視線を向けられていることに気づく。
小さきもののさらに小さきものたちがジーッと木の実を見つめていたのだ。
よく見ると、皆の体はやせ細っている。まだまだ成長する時期だというのに、これでは思うように成長できないだろう。
仕方がないこれはこやつらにやろう。
木の実を食べるよりも、ぶくぶく太らせてから食べた方が腹いっぱいになるからな。
小さきもののさらに小さきものたちは、とても喜んで食べている。
その後も何度か小さきものは、木の実を運んできたがよく見ると小さきものもやせ細っていた。凄く疲れているようだし、今日のところはもう良いと伝えた。
「これはお前が食べるといい。俺様は腹一杯になったからな」
「おー!なんとお優しい。ありがたく頂戴いたします」
こやつのこともぶくぶくと太らせてから、食べてしまうとしよう。
それが何日も続き、いつの間にか小さきもののさらに小さきものたちは俺様に懐いて、俺様の大きな体に飛びついて遊んだりしている。
ここまで懐いてくれるとは思わず喜ばしい。
全員いい具合に丸々と太ってきているし、これならいつでもいいタイミングで食うことができる。
今回は上手く白景色を越えられる気がする。
そうして外は、白景色に包まれた。
俺様は寒さのあまり、丸くなり眠った。
小さきものたちは、そんな俺様を見ても逃げようとはしていないようだ。
信用もここまで来ると馬鹿だな。
俺様はいつでもお前たちを食えるのだぞ。今ならいつでも逃げられると思うぞ。
小さきものたちは、俺様のそばに寄り添っている。温めているつもりなのだろう。
もう眠たい。瞼が次第に重くなっていく。
「お前たち、ここなら広いし安全だ……気が済むまでここに居るといい」
「はい、ありがとうございます。貴方のそばにいさせて頂きます。優しいあなたの傍に」
そうか、それなら俺様が寝ている間に誰かに襲われる心配をしなくて済む。
起きたらこやつらを食べよう。お腹がすいたから。でもその前に寝よう。眠過ぎて起き上がれそうにない。
俺様は、眠気に誘われるまま体を預けた。
白景色が青々と生い茂る頃、小さきものたちは巣の外で元気に飛び跳ねていた。
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