オートスキル「転生」が発動するたび、何度も死ぬ運命になってしまう公爵令嬢。今度はなぜか前世の国王(おっさん)に転生しちゃったので、婚約破棄した第三王子を断罪します。
オートスキル「転生」で他人の人生に飛ぶと、その人が生きた記憶は私に吸収される。
転生された者の魂は消滅し、自我はフェステリアだけのものとなる。
私は、サミュエル王の中に入った瞬間に、彼を殺したことになる。
――サミュエル王の記憶――
「愛しの我が息子ヘブライよ。フェステリア公爵令嬢との婚約生活は順調か?」
サミュエル王が憎き私の元婚約者、ヘブライ第三王子に問いかけている。
これは、サミュエル王の記憶。
私は、自分が婚約破棄された経緯を知るため、王の記憶をたどり、思い出す試みをしていた。
「……それが父上。実はフェステリアは私に重大な秘密を隠していることが発覚しまして。今とても悩んでおります」
重大な秘密?体重を少しごまかしていたことくらいしか思い当たる節はないけど……。
いったい何のことだろう。
「秘密の一つや二つ、女性ならあって当然だが。その神妙な面持ちは……」
「彼女は隣国の第二王子と逢瀬を重ねております」
……はい?
「怪しいと思っていたのです。時折夜中、私が寝ている隙にコソコソ屋敷を抜け、どこかへ行っている様子を確認してしまったのです」
いや、それ貴方じゃない。私、気づいていたけどなにも言わなかっただけよ。
どうせコソコソ他の女のところに行っていたのでしょう。
「……証拠は、あるのか?」
王が訝しむ。それもそうだろう。
第三王子とはいえ、婚約した自国の公爵令嬢がそんなリスクを冒す意味がわからない。
というよりも、そんな事実はそもそもない。
「私の直感がそう申しております。彼女はどこかおかしいと……」
おかしいのは貴方のほうでしょ?
直感でそんなこと言うの?頭おかしいんじゃないの?
「疑って済まない。お前の言うことはいつも正しいに決まっておるな」
え。この流れって……。
「私は悔しい。一生を共にすると誓ったフェステリアがまさか隣国の第二王子などと……。私が思うに、もしかすると彼女は……」
「密偵か、あるいは……」
「我が国の転覆を狙う、隣国の刺客ではないかと」
どういう思考回路しているんだ、この人達。
サミュエル王の記憶は持っているけど、彼の思考方法や判断基準まではわからない。
まさかこれが、婚約破棄と私が断罪された真実だっていうの??
「わかった。フェステリアをすぐここに呼べ。断罪の手続きを行う」
「待ってください父上!私はフェステリアを今でも愛しております!どうか、どうかご慈悲を……」
「王国の転覆を企てる者は全て死刑となる。お前も知っているだろう?」
「ですが……」
「わかった。では3日間の猶予をやろう。しっかり決別をしてこい」
「……わかりました」
なんなんでしょうかこの茶番。
裏も取らずにこうなったってこと?信じられない。
所詮、公爵家の娘と言えど王家にとっては使い捨て。
疑わしきは罰するということでしょうか。
サミュエル王。私が転生して貴方は消えたけど、どうやら相応の定めだったようですね。
◇
もう一つ、これと連なる記憶があるので思い出してみる。
それは私がヘブライに婚約破棄され、断罪が決まる日の1日前の出来事だ。
「父上。ヘブライが言っていたことは嘘です。隣国の第二王子はフェステリア令嬢とお会いしたことなどないと申しております」
あれは……。第一王子のジュード。
もしかして真実を突き止めるため、事実確認をしてくれたのかしら。
でも、なんでジュードがそんなことを調べたのかしら?
絵画からそのまま飛び出してきたような造形の、とても美しい王子。地位・容姿・頭脳・武力。いずれにおいても第三王子ヘブライとは比較にならないほど素晴らしい王子。
ただ、完璧すぎて私はあまり好きにはなれなかったが。
「ああ。知っておる」
そう。このサミュエル王はヘブライの言っていたことが虚言だったことを知っていた。
本当に理不尽極まりない。
結局私はなにもしていないのに裁かれる運命となったのだ。
「では何故、フェステリア令嬢の断罪を中止されないのですか!冤罪ではないですか!」
「私がこの国のルールだ。異論は認めん。ヘブライの言ったことは真実。以上だ」
「そんな……だって、フェステリアは……」
「なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
「い、いえ。失礼します……」
何が言いたかったのだろう。ジュード王子は。とても歯切れの悪い表情をしていた。
「父上!」
ヘブライが来た。この後話した王との会話が、私をさらに激情の渦へと誘った。
「……第二王子の買収工作は滞りなく終わりました。彼はもう、我々のおもちゃです」
「そうか、よくやったなヘブライ。またよい縁談を持ってきてやろう。次はどこの貴族の女がよい?」
「フェステリアのような顔的にも身体的にも特徴のない女はご容赦ください。私はどちらもはっきりした女性が好みです」
「おお。それは悪いことをしたな、ヘブライ。よく注意して次を探させよう」
……死ねばいいのに。
――フェステリアの自我を持ったサミュエル王――
「国王陛下、ご入来!」
猛々しい管楽器の演奏とともに、王家を一堂に会した催しが開催されようとしている。
サミュエル王(私)は舞台に設置された巨大な玉座に悠然と腰掛ける。
眼下には王家の親族たちがところ狭しと並び立ち、王の言葉を待っている。
王位継承権第一位の長男、第一王子ジュードだけは王の玉座の右隣に立っていた。
今現在、王位を継承する王子はジュードであると、強くみなに示すための措置らしい。
王家のしきたりというのは思いのほか細かい。
「我が親愛なる兄弟姉妹、並びに子供達よ。今日はみなに悲しい報告をせねばならない」
目には目を。歯には歯を。そして、冤罪には冤罪を。
王はこの国のルールらしい。
思い知ってもらわなければならない。
私を無実の罪で咎めた罰。受けてもらおうじゃない。
「この中に、裏切り者がおる」
「なっ!」
ざわめく王家の者たち。
顔色が悪くなる者、左右をキョロキョロ見渡す者、うつむきうなだれる者。反応は様々であったが、ほとんどすべての者がバツの悪そうな態度をとっている。
こいつら……もしかして全員、思い当たる節があるんじゃないか。
「お、お父様。急になにをそんな……」
「わ、私たちの中に裏切り者なんているはずが……」
最前列の2人の王女が、鳥の鳴くようなささやきでつぶやく声が聞こえた。
ああ。この二人、見覚えがある。
そうだ。断罪されたあの日。断頭台から見た光景の中にいた二人だ。
蔑み、嘲笑い、忌まわしき者を見る眼差し。フェステリアの記憶にこびりついている。
「サラ、そしてミーナ。何か心当たりがあるのか?」
睨みつけて、脅してやった。
なにかあるのかもしれないが、今日の主役は彼女たちではない。
ただいずれ、駆逐してやろうと思う。
「い、いえいえ。そんな、あるわけないじゃないですか、お父様」
「そ、そうですわ。わたくしたちがこの国を裏切るはずないじゃないですか」
冷や汗で化粧が剥がれ落ちそうになっている二人。
そのまま化けの皮まで剝がれてしまうといいわ。
「父上。こんな茶番はご勘弁いただきたい。我ら鉄の絆で結ばれた王家の一族に、裏切り者などいるわけがないでしょう」
最も醜悪なくせに、悪びれる様子など一切なくヘブライ第三王子が戯言を抜かした。
その減らず口、今日で聞き納めになるだろう。
「我が国の第三王子ヘブライよ。そなた、本当に覚えがないのか?」
「さて、なんのことでしょうか」
「第二王子シュリンガムの妻とお主が不貞関係にあること。私が知らないとでも思ったか」
「!!」
え。当てずっぽうに言ったのに、図星っぽい。
ええい、この際だ。
婚約していた時に怪しんでいた女の名前を全て出してやる!
「エレン、ユフィ、イザベラ、シャーロット、リリー、ソフィア……すべて王族の妻たちだが、いずれもお主と不貞関係にある。間違いないな?」
「ど、どうしてそれを……」
え。全部そうなの?
この男。真正の鬼畜だ。
「おい、ヘブライ!貴様それは本当なのか!?」
「ヘブライ様。私の妻にまで手を……」
「ああ。なんとおぞましきこと……」
ついにヘブライの悪事が王によって暴かれ、場は恐ろしい緊張状態となった。
「それだけではない。貴様、隣国の第二王子と結託し、王位の簒奪を画策したな」
「!!!」
「大罪だ。死に値する」
これも予測で適当に言ったが、顔色の変化から事実だとわかる。
冤罪で裁こうと思ったが、普通に悪で助かった。
「し、証拠はあるのですか!?王よ!!」
それだけうろたえているのが証拠だろうに。
調べればすぐにわかることだけど、今は確かに証拠がない。
だが、証拠の有無は関係ない。
なぜなら、
「私がこの国のルールだ。異論は認めん。私の言ったことは全て真実。話は以上だ」
「そ、そんな理不尽な……」
「断頭台の準備はどうだ?ジュードよ」
第一王子ジュードに断罪の準備状況を確認する私。
事前に話はつけてある。
「いますぐにでも」
「1日猶予をやろう。せいぜい懺悔し、己の罪を悔やむがよい」
この瞬間、私の一存で第三王子ヘブライの死罪が確定した。
決行は明日。市民を集め、見せしめにする。
はぁ。なんか簡単に終わらせちゃったな。
もう少しこう、歯ごたえのある展開を期待していたんだけど。
まぁちょっとはスッキリしたから、もういいか……。
「ふ、ふざけるなよ!」
すでに取り押さえにかかっていた衛兵の手を払いのけ、ヘブライが最後の抵抗を試みる。
「そもそも隣国とのことはアンタの指示だろう!何故俺だけが裁かれなければならない!」
ああ。いいわね、それ。
ちょっとは抵抗してくれなくちゃ、面白味に欠けるというもの。
せいぜい、あがくといいわ。
視線が一斉に私へと集中している。みなが、次の言葉を待っている。
「証拠はあるのか?愚息よ」
「そ、そんなものはない!次期王であるこの俺に、そんなものは必要ない!」
もはや暴論。小物が。
駆逐されるがいい。
「ジュードよ」
「はっ!」
「市中引き回しの準備もぬかるなよ。ヤツは王に牙をむいた。万死に値する」
「仰せのままに」
だがここで予想外の出来事が起こる。
なんとヘブライは隠し持った短剣を構え、一足飛びで私に襲い掛かってきたのだ!
以外に速い動き。だが
「見苦しいぞ、愚弟よ」
「てめぇ、ジュード!お前は騙されているんだ!悪逆の王はソイツだぞ!」
「うるさい、黙れ」
王に向けられた刃の一撃を止めたジュードは、そのままの勢いでヘブライを思いっきり地面へ叩きつけて気絶させ、この混乱を終結させた。
さすがだね。第一王子。
「よくやった。ジュードよ。さすがは次期王にふさわしい我が息子……!!」
「お怪我はございませんか、父上」
「ひゃあ」
顔が、近い!!
思わずヘンな声を出してしまうサミュエル王もとい私。
「?」
「おっほん!な、なんでもない。大丈夫だ」
やっばぁ。ちょっと、こんな近くでジュードの顔見たことなかったけど……。
めちゃくちゃかっこいい。
「連れていけ!」
ジュードに指示された二人の衛兵は、気絶したヘブライを雑に引きずって行き、この場を退場させた。
「本日はこれにて解散だ!以降のことは従者を通じて追って指示を出す!みな部屋に戻るように!」
ジュードが殺伐としたこの場を収めるため、一旦解散する号令を出した。
この辺りもさすがだと思う。ちょっと惚れそうだ。
「あ、足が……」
「父上!やはり大丈夫ではなかったようですね」
玉座から立ち上がろうとしたが、両足に力が入らない。
「ご、ごめんなさい。ちょっと足が言う事きかなくって……」
「それも致し方ありません。いきなり襲われたのですから」
え?ちょっと。その手の動き……
まさか!
「よいしょっと」
「!」
「少し瘦せられましたか、父上。いささか軽く感じます」
「え、えっと。あ、ありがとう」
「さっきから変な話し方されていますね。まるで女性みたいです」
はにかむジュード。
私は、突然背負われ照れる自分を隠しきることがとっくにできなくなっていた。
「このままお部屋まで運ばせていただきますね。しっかりつかまっていてください」
「///」
勘違いしてはいけない、わたし。
中身は確かに女性だが、見た目はただの国王だ。
白髪、白髭。少し痩せたと言われても、体格はいいおじさんの見た目
でも……。
「(はぁ。ジュード……。いい匂い)」
完全に惚れてしまった。外形的には息子なのに……。
「(なんか変な定めになっちゃったけど、今までさんざん苦労したんだから)」
たまにはいいよね。どうせ破滅の運命。ロクな死に方はしないと思っている。
「フェステリア」
「えっ?」
「私、実は彼女のことが好きだったのです」
「え?と、突然なにを……」
「私は王にフェステリアの断罪を止めてほしかった。でも、貴方がそれを絶対にしないこともわかっていました」
なんで?
「父上は自分が口にしたことを絶対に曲げない御方。たとえそれが間違っていたとしても、そのまま突き通してしまう御方。それは良い面もあり悪い面もありますが、王としては大事な事と心得ております」
そんなものなのね。
間違ってしまったことは、正すのが普通だと思うけど。
大人の世界はよくわからない。
「ただ私はずっと、心の中で引っかかっておりました。あの時、反旗を翻してでも貴方を止めるべきだったと。そのくらい、私はフェステリアを愛してしまっていたことに、彼女が断罪されてから気づきました」
なんかすごい告白されている気がする。
私、ここにいますよ!
「そして私はその原因となったヘブライがずっと許せなかった。あまり良いこととは言えませんが、裁きを決断していただいたこと、感謝しております」
「……」
「これで彼女も少しは浮かばれることでしょう」
全然浮かばれていません。むしろ浮いてしまいそうです。
心臓の高鳴りが抑えきれない。
「鼓動が乱れていますね、父上。やはり医者を呼んだほうがよさそう……」
「だ、大丈夫!大丈夫だから!」
「あはは。やっぱり変な話し方だ」
完全に禁断の恋をすることになってしまった転生者、フェステリア。
私のこの恋の行方は一体どうなってしまうのか!
乞うご期待!!
完
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