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プレイヤーズ  作者: 雨川水海


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愉快なプレイヤーズ2

 シナリオが進めば進むほど、王都から溢れ出した邪神の火が世界に広がり、あちこちから山羊ドクロの手先になった敵が殺到してくるようになった。

 この世界の滅亡的な危機を前にして、俺は強く拳を握る。


「無限に戦えるじゃん。邪神さんめっちゃいい人じゃない?」


 しかもね、敵のね、歯応えがすごいあるの!

 結構ヒヤヒヤする戦いが多い!

 アドレナリンぶっしゃぶしゃ!

 こいつは俺の鼻息もフンスフンスですわ!


 俺が興奮のあまり熱弁すると、隣でユッキーが苦笑した。


「う~ん、まず、人じゃないかな」

「そんなの些細な問題だって! 俺は楽しませてくれる相手のことを、親愛をこめて人と呼びたい! そこに神だろうと獣だろうと善でも悪でも区別なし!」


 暴力的博愛主義に則って人という言葉を定義すると、ユッキーはそっかそっかと優しく笑ってくれた。


「んでも、いい人かどうかは、ちょ~っと慎重に決めた方がいいかもよ?」


 そう言ってユッキーが指さしたのは、感情の一切を断絶した無表情なヘキサと、感情の全てを奥歯で噛み砕かんとしているシシ丸だ。


「あの二人とはやってるゲームが違うんで」

「同じシナリオなのに別ゲーとな」

「エタソンの自由度が起こした悲劇。あるいは喜劇」


 正直、二人がどれだけショックなのか、同じプレイヤーであっても違うゲーマーである俺にはよくわからんのよね。

 ちょっと二人に聞いてみた。


 ねえねえ、今どんな気持ち?


「ここまで育てた軍が、敵の撃滅ではなく尻尾巻いて逃げるだけなどと、これほどの屈辱があるとでも?」

「綺麗に整理していた領地や権益が、根こそぎさらわれてぐっちゃぐちゃにされた屈辱がわかるか?」


 シミュレーション系のプレイヤーの美学っぽいなにかか。

 なるほど、わからん。

 俺の表情を読むこと一流のシシ丸が、舌打ちをくれる。


「お前だって、せっかく鍛えた自キャラのスキルや装備が、イベントの進行に必要だからっていきなり封印されたら腹立つだろ? シナジーとか熟練度とか綺麗にそろえてさぁ、考えて作り上げたものが目の前で崩されるんだぞ」

「縛りプレイみたいで燃えるっちゃ燃える」


 正真正銘の本音で答えたら、嘘だろって目で睨まれた。

 ほんまやで。


 すまん、シシ丸。

 俺が素手格闘を好きなのは、スキルや装備がリセットされても最低限戦えるからで、心はいつでも裸一貫なんだ。


「ヘキサ! この蛮族にもわかりやすい例!」

「力量が釣り合った相手とタイマン熱戦を繰り広げてクライマックスが見えたところで突然横から殴られる心地」

「うっわそれは許されざる!! 心痛お察し申した……」


 ヘキサのわかりやすいたとえで、俺は全てを理解した!


「俺の方は二人の心痛のおかげでめっちゃ楽しくプレイさせてもらってます。ありがとね。今度なんか差し入れようと思いますが、やっぱりお菓子がマストですか?」

「あんこ系。つぶあん」

「チョコレート系。ビターなので」


 なお、和風の方がシシ丸で、チョコがヘキサ。

 見た目や言動から連想すると真逆って感じのリクエストだよね。


「オッケー、オッケー。ユッキー、今度二人への差し入れを一緒に買いに行かない? お菓子選びならユッキーの意見を聞いた方が外れないし、ゲームホストからのお礼も兼ねてってことで」

「行く! お礼、大事! あたしお礼、知ってる!」


 お礼の心を知ってて偉いぞ、高校二年生。

 ところで、俺が誘う直前になんか鋭い視線を感じた気がするんだけど、ひょっとしてなんか機嫌悪かった?

 お礼選びを快諾してくれた笑顔からは、全然そんな様子見えないけど、気のせいか。


 ちなみにユッキーはプリンが好きだから、それは一緒にお礼を選びに行った時に食べるか。

 お塩はまた今度どっかにラーメン食べに行くから別口で大丈夫。

 先輩が奢っちゃる。


「さて、マウスが意外と気の利く提案をしてくれたので、ちょっと気分が持ち直したヘキサ大佐から聞きたいことがある」


 どうぞ、大佐!


「そろそろイデルに到着するわけだが、対抗手段……イデルの街の準備はどうなっている?」


 ヘキサの視線はユッキー一直線。

 まあね、俺はヘキサの傭兵、お塩は下請け、シシ丸は共同経営者と、それぞれ動向がわかりやすいけど、ユッキーだけは管轄外みたいなところがある。


「あー、それね? 多分順調」


 多分、とヘキサがいくらか不安そうな顔で続きを促す。


「ええっとね、パパ男爵と王女様・公爵夫人のコンビでね、あれやこれやで女神の力の解放準備はできてるよ。後はやるだけ、みたいな」


 これは、あれですね。

 ユッキー、ほぼNPCに思考作業をぶん投げて、指示を聞いているだけだな。

 だから進捗よくわかってないんだろう。


 ヘキサもすぐにそれを察したらしく、優しい笑顔になる。


「そうか、そうか。それで、なにかイデル男爵や、王女様から手紙や文書を預かっていたりしないか?」

「お、流石ヘキサ、よくわかったねえ!」


 NPCのファインプレイ。ちゃんと文書にして説明を残してくれていたようだ。

 ヘキサが受け取ると、その肩にもたれるようにシシ丸が覗きこむ。

 頭脳派二人は仲良しなので、ヘキサもシシ丸が見やすいように手紙を傾ける。


 それじゃあ、直感派三人も負けないように仲良ししようぜ。


「そういや、王女様とベアちゃんってどんな感じ? 前にお塩が、ベアちゃんと王女様の仲良し作戦を推進してたけど、仲良くなった?」


 この撤退戦、ヘキサの指令部が王都からイデルの方へと、セッション毎に後退していて、その司令部が各員の奮闘の共有場所みたいになっている。

 俺が強敵を倒した~って報告をお塩に持って行くと、お塩に看病されている怪我人達の士気が上がって回復率が上がる、とか。

 シシ丸が邪神の火に飲まれる領地に指示を出して、持ちだす資源の優先順位をつけると、ヘキサの部隊物資がそれに応じて回復するとか。


 このシステムからすると、ベアちゃんと王女様のやり取りには、お塩とユッキーが絡んでくる。

 ベアちゃんはお塩と一緒だし、王女様はユッキーと一緒にイデルに下がったからだ。


「心配ご無用! なんたってこの男爵令嬢ユキが面倒見てるからね!」


 これについて、ユッキーが声を大きくして請け負った。

 まあね、ユッキーはお塩と同じくNPCの好感度上げるの天然で上手いからね。ナチュラルボーンNPC垂らしだよ。


「リアルで姉との仲がこじれかけたことがあるあたしが言うんだから大丈夫!」

「おっと、不穏な情報が出たぞ」

「や、こじれかけただけで仲直りしてるからね? ていうか、マウスは知ってるでしょ? お姉ちゃんとあたしと、三人で結構遊んでるじゃん。あの時の笑顔に裏はないよ!」

「てへぺろ」

「かわ――やっ、マウス、覆面! 顔出てないからテヘペロになってない!?」

「うん。覆面状態だからやったんだけど。え? 高二男子のテヘペロなんて需要ないでしょ? お塩はあるけど」

「あるところにはあるんだよ!」


 そうなんか?

 俺がシシ丸とヘキサに視線で尋ねると、二人とも、んまあなくはない、みたいな顔で頷いて来た。


「たった一つの需要でも、需要は需要だ。ちなみにオレにやったら殴るぞ」

「蓼食う虫もなんとやら。いつの時代、どんな場所にも数寄者はいるものだ。ああ、シシ丸同様、わたしも結構」


 はへー、なるほどー。

 高度情報化社会もバージョンがアップグレードしまくって、流行り廃りも電光石火だな。シナプスが繋がった端から切れてくみたいな儚さ。


「まあ、てへぺろは置いといて、ベアちゃんと王女様は、とりあえずいい感じなんだな? スーパーエージェント男爵令嬢ユッキーの素晴らしいサポートで二人は仲良し?」

「イエス、スーパーエージェントのおかげで仲良し! まあ、今まで顔も知らなかったから、まだぎこちないけど、それはね、しょうがないね」

「まあ、孤児と王女じゃ、育ちが違い過ぎるもんな」


 王女様にとって肉は食べる物で、ベアちゃんにとって肉は狩って来て料理して食べる物だから。

 かろうじて食べ物カテゴリに入っているだけ、文化の同一性が保たれていると言ってよい。

 ちなみに、マウスにとって肉とは、ご存じの通り狩って来て生で食べる物です。二人とおんなじだね。


「仲良し作戦、どうやったの? スーパーエージェント的に教えて」

「スーパー教えてあげる! 姉妹なんだから、妹の方から甘えて甘えて甘えまくればいいんだよ」

「スーパー甘えてるじゃん。それ大丈夫スーパー?」

「大丈夫、大丈夫。世の中のお姉ちゃんは、可愛い妹に甘えられて嬉しくないはずがないんだよ。お姉ちゃん、あたし困ってるんだ~、お姉ちゃんしか頼れる人がいなくって~っておねだりすれば、世のお姉ちゃんは嬉しいものだよ」

「それ、ソースは姉貴?」

「うん、うちのお姉ちゃん」


 あの人、自分を評価してくれる人が大好きだからな。

 姉として妹に甘えられて嬉しいんじゃなくて、「私にはできないけど君ならできる!」って評価されて嬉しいんじゃないかと、ちらっと思った。


 流石にこれ無理だろ~?って言われるとムキになってやるし、こんなこともできそうじゃないっすか~?って言うとその気になって張り切る。

 電脳桜花隊のゲーマー仲間から、密かに豚さんと呼ばれているからね。おだてれば大抵のことをやってくれる。

 多分、祭壇作って崇めれば神化できるよ、あの人。


 それと同じ扱いして成功したの?

 あのお淑やかな王女様が?


 疑惑のユッキー判定。第三者からの観測を召喚する!


「お塩から見ても、ベアちゃん上手くやってる?」

「ですね! 最近は元気になって、お姉さんと一緒に、邪神を倒した後の復興を手伝うって張り切ってますよ!」

「すげえやる気じゃん」


 聖人判定でも順調らしい。

 なるほどね、邪神の火ではちゃめちゃなことになった王国の復興か~。


「あ、ひょっとしてこれが結果的に国盗りになるのか……」


 王家の血筋を確保して、ぼろぼろになった国を復興したのは俺達だ!っていう流れ。


「すげえじゃん。大義名分ばっちりで、反乱勢力が一掃済みとか、百点満点じゃね?」


 これならシシ丸もにっこりの国盗りになるじゃろう。


「国がぼろぼろになってるからマイナス百万点だぞ、蛮族。復興にリソース取られて赤字経営の国の乗っ取りとか、下の下の下だぞ」

「ゲゲゲのゲ?」


 あ、ヘキサが吹き出して沈んだ。

 すまん、ヘキサを誤射るつもりはなかったんだが、口が滑った。

 でも、そんな面白かったか、今の? 正直ピッチングマシーンの一番簡単な球も打てないへろへろスウィングじゃなかった?


 シシ丸も、ちょっと気まずそうにヘキサの頭を撫でながら、これ以上は首脳部に損害を出せないと話をかき混ぜるのをやめたようだ。


「まあ、ともあれ、この後の流れは今マウスが口にした感じになりそうだぞ」


 えー、となんの意味のない言葉を挟んで、シシ丸はヘキサの容態を確認。

 ダメそう、と溜息を吐いて、パパ男爵からの手紙から導かれた今後の予定を説明してくれた。


「イデルの街で防衛体制が整ったそうだ。そのイデルに、邪神の火から逃した人・物といったリソースを集結させて、女神の力を使用して最終決戦へ突入、国土を奪還する腹積もりだ」


 撤退に続く撤退、か~ら~の、奪還作戦!

 いいね。反撃パートは熱い。鉄板ですわ。

 にやっと笑うと、にやっと笑い返された。


「この最終決戦で、いかに勝ち切るか。これによって、エンディングでオレ達のモノに生まれ変わった国の発展具合が決まる、って感じだとは思わないか?」


 思う!

 直感派三人も大きな声をそろえて、気合を入れる。


「大変元気でよろしい。オレも、公爵夫人をきっちり落として、復興計画の主導権を握れるように根回ししておかないとな」


 ヘキサの髪を撫でながらのその台詞、国盗り一家言に相応しい下衆に見えるぜ……!


 悪の首魁シシ丸をバックに、俺達は今!

 最終決戦に突入する!

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