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プレイヤーズ  作者: 雨川水海


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54/61

ベアハグ(白魔法)

 シシ丸に探索じゃなかった証拠のリザルトを見せて反論するついでに、ヘキサ指揮官から撤退戦の注意点と、それぞれの役割を仰せつかる。


 まあ、なんていうかここに進軍してくる時とさして変わらん。

 俺は強敵が現れたところに出張って、敵の撃破。

 お塩は怪我人の治癒。

 ユッキーは、王女様や公爵夫人と先行して、女神の力解放の儀式準備。

 シシ丸は貴族達の連携の調整。

 適材適所だな。


「うわ~ん、また儀式の準備~! 古代語の解読とか謎解き苦手だよもう~!」


 適材適所(例外あり)だな!


「ユッキー、その探索系のスキルは上がってんじゃないの?」

「上がった! でも苦手! マウスの方に一緒に行きた~い!」

「いやまあ、俺は構わないんだけどさ?」


 ちらっと視線を流すのはヘキサとシシ丸の二人。

 だって、シナリオ進行要素は二人の管轄だからね。


「ユキ、ホストはあなたで、女神の力云々はシナリオの根幹なんだから、そこを放棄するのはよくない」

「この終盤でシナリオAIに妙なアドリブをさせない方が良いぞ。マウスが偽とはいえ人の心インストールするくらい割といいシナリオになってんだろ?」

「うっ、せっかくのマウスの人間性をアンインストするわけには……我慢します」


 ええ? 俺のこの胸で真っ赤に燃えているハートは、偽物だし、アンインストール可能なの?

 人体って不思議だなー。いや、この場合は心だから、慣例的な表現だと人体とは別物か?


 人体と人心と文学についての深く広い考察をしていると、要塞の中が騒がしくなってきた。

 人が驚きで上げる声、嫌悪や苦渋が混じったそれが、不吉な予感を伝播させる。


「お、イベント来たな」

「そのようだ、どんな趣向で来たものか」

「邪神方面だろ、どうせ。邪神ガチ降臨だと、山羊ドクロが空から降りて来るとか?」

「んっふ!? ふっ、ぷふゅっ!」

「おい、シシ丸。大一番を前にヘキサにフレンドリーファイアとかやめろよ」

「や、マジで悪かった……。けど、今のそんな面白いか?」

「まあ、ツボに入るほどインパクトはないと思うけど……基準がヘキサだからさ」

「だ、だって、空から山羊ドクロ……雲がいい感じで、もこもこの毛みたいになりそうで、それ、羊じゃない! 山羊じゃなくて、羊……!」

「流石にこの想像力までオレのせいじゃないと言いたい……」

「トリガー引いた罪は重いけど、豆鉄砲に五十口径徹甲弾が装填されてましたみたいな不幸な事故だってのは認める」


 不吉な予感が伝播してきても、邪神がなんかするんでしょって予防接種できているゲーマーには効果はいまいちだ!

 いつもの楽しい雑談である。


 まあ、あれだよね。ゲームにおける不吉な予感とか、大雨注意報とかそんなレベルだ。

 雨がたくさん降るからそれに応じた準備をちゃんとしようね!ってお知らせ。


 さて、今回はなに注意報か確認するべか。

 頷き合って、指揮官室から見晴台の方へと出てみる。シシ丸は、口とお腹を押さえているヘキサを介護しながらの入場だ。


 幸いなことに、ヘキサのお笑いダムが決壊するような――山羊ドクロが白い雲をまとってモコモコ羊になっているような、禍々しい牧歌的な光景は広がっていなかった。


 ただ、王都を擁する丘が、炎に包まれていた。

 あれ、普通の炎じゃないな。どこか粘液っぽくたゆたっている上に、色がおかしい。

 赤いと言えば赤いが、暗い色味で邪悪感がたっぷりだ。山羊ドクロの眼窩で燃えている青い炎、パサンが本気モードになった時の紫の炎と似ているから、邪神由来の炎なんだろうと俺でもわかる。


「あっれ~? あの王都、もう壊滅してない?」


 目の上に手でひさしを作って、ユッキーが目を細めながら呟く。


「してるだろうな。流石に人がどうなっているかまでは見えないけど……あれで無傷って言われても困る」

「だよね。ちぇー、どうせ壊滅するならあたし達でやりたかったよね。どっちかっていうと分捕りたかったけど。国盗りっぽさはあんまり感じないな、このシナリオ。他のところを優先させちゃったからなぁ」


 ううん、うちの幼馴染は思考が乱世。

 ていうか、国盗りのシナリオ優先度が低いんだ?

 なにが優先されてんのこのシナリオ。まあ、楽しいからいいけど。


 俺も目を細めて王都の様子をうかがう。


「盛大に燃えている割に、建物はぱっと見あんまり壊れてないっぽいか?」

「そう見えるが、どれ見張りからの報告を」


 俺の疑問に、復活したヘキサが指揮官コマンドで情報を集める。


「ああ、建物は今のところ壊れていないようだ。ただ、あの炎に飲まれた住人……いや、生き物全般がブラックゴートスカル、マウスの言うところの山羊ドクロになるらしい」

「生き物全般って言った?」

「生き物全般だ。王都の全人口に動物も追加した数の敵が、あそこで湧いたわけだ。虫も鳥も。いや待て一部の植物も動いているのか。これはひどいな。ウォーシミュでやられたらキレる自信がある」


 ヘキサが眉間のシワを揉んで嘆息する。

 これまで戦っていた敵の数の、何倍もの敵がすぐそこに発生したのだ。こりゃひどい。

 しかも、山羊ドクロは私が死んでも代わりはいる者アタックをしてくる。


 なるほど、撤退戦をするしかないわけだ。

 それを理解して、シシ丸がぼやく。


「撤退とかあんまり好きじゃないんだよな。どうしても置いていくものとか、切り捨てるものが出るじゃん? それがもったいなくてさぁ」


 そうだね、シシ丸、ハーレムエンド大好きだもんね。あと所持金カンストとか。

 美女美少女を侍らせて、財宝一杯の部屋でご満悦してるアルバム作ってる。

 七つの大罪をセットするとしたら、強欲か色欲かで迷うくらいの欲深さ。


 あれ、敵が邪神だっけ?

 味方に魔王がいるんだけど、これは悪と悪の戦いだった?

 把握。どっちが勝っても世界が滅ぶ、ハルマゲドンの始まりだー!


 多分、世界が崩壊した後にお塩だけ生き残ってるエンドだな。

 悲壮感の欠片もなく、日向ぼっこしてるお塩が見える。実質ハッピーエンド。



****



 とか余裕かましていられたのは、王都だけが邪神の火に包まれていたところまででした。


 あの邪神の火、水みたいに流れるでやんの。

 遠目に、なんか粘っこい質感してんな~と思っていたら、挙動が火じゃなくて水のそれ。

 丘からどろどろと流れ出して広がりやがる。


 そして、火に呑まれたら山羊ドクロの仲間入り。

 それを確認した時のヘキサの表情がすごかった。自軍が敵軍に寝返るのは許されざるらしい。


 まあね。ウォーシミュで戦力の増強ってキーポイントだからね。

 そっち系をメインにするプレイヤーとして、強制寝返り戦力増強というのは地雷だったらしい。

 いくらシミュ部分がオマケでもこれは許せない、との呟きがやけに響いた。


 そこから無言で撤退指示を加速させていた。

 ヘキサ大佐の指示が加速する。その指示を受ける一兵卒が忙しくなる。

 この俺カピバラ=マウス少尉は士官である。つまり、俺は忙しくならないはずなのだ。


「マウス、進路に強敵確認。行って来なさい」

「今帰って来たばっかりなんだけど。少尉ってこんな忙しいもんだっけ? こう、ふっかふかなソファで葉巻ふかしているイメージはどこに?」

「少尉なんて現場指揮官なんだから一兵卒と一緒に走り回るに決まっているだろう。不満なら降格をしてもいい。うむ、今でも準備や後始末をしていないんだから、実質一兵卒と変わらないということで降格決定。ハツカネズミ=マウス二等兵、出撃!」

「チュー!」


 ハツカネズミ=マウス二等兵、出撃します。

 まあ、敵と戦うの大好きだから、こういう忙しさなら文句はないんだけどね。

 ヘキサ大佐の命令を受けて、出撃ポイントまでとっとこ移動すると、お塩とベアちゃんがいた。


「あ、マウス先輩! お疲れ様です!」

「ああ、お疲れ。そっちも忙しい感じか?」

「そうですね。邪神の火を避けてやって来る人達があちこちから集まってくるので、どんどん忙しくなってきてます」


 王都から溢れ出してくる、山羊ドクロ製造するやべー炎、邪神の火って名前なんだ?

 まんまだね。


「そうか。じゃあ、進めば進むほど難易度が上がる感じか」


 こっちも敵が段々強くなっている。楽しくなってきたな。

 わくわくする俺とは別に、弟子のベアちゃんは憂いを帯びた溜息をつく。


「避難してきた人達の騒ぎも多くなってるんだよね……」

「大変かもしれんが、ソルのことをしっかり守るんだぞ。ベアにしか頼めないことだ」

「うん、そっちは大丈夫! 殴れば解決するから!」


 うむ、大変よろしい。流石は我が弟子。

 もうじき、わしが教えることもなくなるじゃろう。


「ただ、親とはぐれた子とか、子とはぐれた親とか、そういうこともあってさ」

 殴って解決しない問題が、ベアちゃんの溜息の源らしい。


 それは、まあ、なんていうか、マウスも苦手分野です。

 こう、あれでしょ。あの時、あの子と繋いだ手を離さなければ……みたいに泣いている人がいるんでしょ?

 想像しただけで胸に来る。


 ううん、お塩のイベント、話が重くない?

 ちらっとお塩の顔色をうかがうと、いつもの愛され系の笑顔は一切の揺れがない。


「大丈夫です! イデルでは孤児院にいましたから、はぐれた子は面倒みられます! お悩みを抱えたお父さんお母さんお兄さんお姉さんはお話しを聞かせてもらったら落ち着いたみたいです!」

「お前は本当に偉いな」


 悲劇を抱えたNPCの救世主かよ。

 お塩、マジ聖人。


「ベアの悩みも深かろうが、ソルがいればなんとかなりそうじゃないか?」

「そこで力になれてないのが悩ましいんだよ、師匠……」

「喧嘩沙汰では逆にソルが無力だから、お互い様じゃないか?」

「いや、それがさ、最近はソルが喧嘩を止めてって叱ると、結構止まるんだよ」


 お塩、お前マジで救世主とか聖人とかのジョブに進化してない?

 エタソン神にも聖人認定されてるのかよ。


「ボクは特になにもしてないですけどね。あれは一度お話ししたことのある人達が止めてくれるからです」


 つまり、信者ができてるってことだ。

 シシ丸が国盗りに一番近いプレイスタイルだと思っていたが、お塩が新興宗教枠で巻き返して来ている。

 カリスマ教祖お塩が、悩める子羊――子熊のベアちゃんに、可憐な微笑みを向ける。


「ボクはベアちゃんがそばにいてくれるだけで十分助かってるけど、もしもっとなにかしたいって気持ちが強いなら、王女様や公爵夫人様とお話ししてみたら?」

「あの二人と?」

「今回、これだけ皆が大変な目にあってるんだから、孤児院とか救貧院とか、必要になるんじゃないかなって。王女様や公爵夫人様にお願いして、そういうの運営してもらえないかな」


 あの人達ならお金持ってるよね、と笑うお塩の目は、もう邪神を撃退した後を見つめている。


「あの二人と、話しなんてできるかな?」

「できるよ。ベアちゃんのお姉さんと、叔母さんなんでしょ? やっと会えた家族なんだもん、孤児院とかそういうの抜きにしても、一度話し合ってみようよ」

「そうだね。うん、そうだね……」


 ベアちゃんは、誰かにそう言って背中を押して欲しかったのだと、今気づいたように照れて、お塩を抱きしめた。


「ありがと。いつも、ソルはあたしを助けてくれる」

「こちらこそ、いつも助けてくれてありがとうね、ベアちゃん」


 ベアちゃんとお塩の心温まる交流。本当にお塩はNPC相手に親愛度上げるの上手だよね。

 さて、どうやらベアちゃんとお塩ちゃんのイベントエリアに、俺が間違って侵入してしまったみたいだ。

 このままではシシ丸とヘキサの二人から追放投票を受けるので、マウスはクールに去るぜ!


 あ、そういえば、お塩をベアちゃんがハグしてるって、あれベアハグじゃん。

 世界一優しいベアハグか……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユッキーさんや。 国盗りと言いつつ、何を優先したんだね? マウス君が胸熱になるほどのストーリー? それとも…幼馴染との楽しい大冒険??
[一言] お塩にギャルゲやらせたら初見で親密度を普通じゃ到達しないくらいあげて超高親密度が条件の隠しエンドになりそう
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