愉快なゲーム部員1
さて、グループチャットで本編スタートの準備が整ったことを報告しよう。
『マウス:チュートリアル終わったー』
……おや? さっきと打って変わってレスが遅いな。
『シシ丸:早すぎ。タイムアタックじゃないんだから』
あ、他の皆はまだチュートリアル中でしたか。ほほほ、早くてごめんあそばせ!
『ユッキー:もしかして 会話スキップ』
『シシ丸:もしかして、というより、絶対』
『ユッキー:マウス、あたしと会っても無言プレイとかしないよね? 延々と「で、何をすればいい?」ってテンプレ返され続けたら泣く自信ある』
しないよ。絶対しない。
多分。
『マウス:NPCを襲っていたゴブリン君達を速やかに排除して、助けたNPCに恩着せがましいことを言わずに立ち去っただけだよ。つまりクールなジェントルマンだよ』
よくいるでしょ、そういうキャラ。
『ユッキー:それは……徘徊型の化け物、なのでは……?』
ホラーゲームによくいる、捕まったらゲームオーバーのキャラかな?
ユッキーにやらせるとリアクションがくっそ面白いゲームジャンル。
『シシ丸:待って笑わせないでこっちまだチュートリアル中だからごめん集中する』
『ユッキー:あたしも集中するからごめんねー』
そして、誰もいなくなった。
『マウス:まさかのグループチャットでもソロプレイ』
マルチプレイはこういう待ち時間とか、都合の調整があるからなー。
そういうのが面倒で、ついついソロプレイになっちゃうんだよな。
今回はやると言ったのだから致し方なし。エタソンの情報集めでもして待っていよう。
あ、モンスタースタートのプレイ動画とか見てみたい!
やっぱり最終的にどっかの街とか滅ぼすプレイになるんだろうか。
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とりあえず引いたモンスタープレイ動画は、ゴブリンスタートだった。
王道ゆえに再生数が多かったから、検索で目に付くところにあった。
ただ、プレイヤーがシミュレーション系を嗜むタイプだったらしく、ゴブリンの群れの育成系に流れて行ったのは残念だった。
『マウス:やっぱり魔物に生まれたのなら、動く者全てに噛みつくスタイルで行きたいよね』
同族だろうが、人間だろうが、ドラゴンだろうが、全てを蹂躙して頂点を目指そう。
『シシ丸:魔物にも社会性を持つ種類がいると言うのにこの邪悪』
『塩胡椒:挑戦者のスタイルですね!』
『ヘキサ:モンスタースタートをしたわけではないね?』
今後の部活動に必要な確認をして来たヘキサに、ちゃんと孤高の冒険者スタート決めたよ、と返事をしておく。
『シシ丸:こっちは貴族スタート』
『マウス:派閥じゃん。ずるい。それができるならモンスタースタートでも良いじゃん』
『シシ丸:良いわけないだろ! こっちはちゃんとコントロールしてユッキーに合流できる自信があるからやってるっての!』
『マウス:俺だって邪魔なの殲滅して合流する自信ありますー!』
『シシ丸:蛮族うううう!!!』
『マウス:モンスターですー!』
楽しい。やっぱり、ゲームはともかくグループチャットでソロプレイはあかんよ。
それもうグループチャットでも何でもないもん。チラシの裏の落書きってやつか。
『塩胡椒:あの、ええと、いいですかー! 孤児院スタートになりましたー!』
『シシ丸:なんで』
『マウス:なんで』
『ヘキサ:なんで』
雁首揃えて説明を求む俺達。
だってお塩さん、さっき俺とお揃いで冒険者になるーって言うてはったじゃあーりませんか!
正直ゲーム上手くないから、俺とは別の理由で、すぐにユッキーに合流するって自分でも言うてはったじゃあーりませんか!
『塩胡椒:色々決めかねて、細かいところはランダム任せにしたんですけど……チュートリアルで敵にやられちゃいまして。身寄りを失って、神殿の孤児院に保護されました、と』
チュートリアルの成績で、かなり設定をいじられたんですね……。
急いで孤児院スタートについて調べたら、ゲームの腕前が戦闘向きじゃない人へのフォローみたいな側面があるみたい。
孤児院で他の子達と一緒に戦闘訓練できたり、冒険者として活動する時も、孤児院の子達とパーティ組みやすかったりするらしい。
後、付き添いが神官技能持ちになるので魔法的な支援が手厚い。
つまり、戦闘系のイージーモードである。
ゲームAIから保護対象にされるお塩さん。
『マウス:貫禄のお塩クオリティ。AIにすら優しくされる聖人の鑑』
『シシ丸:貴族として慰問に行きます』
『ヘキサ:騎士として慰問に行きます』
あ、ヘキサは無事に騎士スタートを果たしたんだな。
しかし、孤児院かー。顔出して冒険者として指導とかできそうだけど、「孤高の冒険者」とか神に呼ばれてすぐに行くのは、気が引けるな。
こういうゲーム側からの設定を守るロールプレイングゲームだからね。
『塩胡椒:マウス先輩と合流遅れそうです、ごめんなさい』
『マウス:大丈夫、こっちから会いに行くから実質予定通り』
神の設定?
ぺっ、こちとら敵として登場するなら神だって殺しまくってるわ!
それにお塩、戦闘的なゲームプレイは頑張ったで賞だけど、ナチュラルセイントのあだ名を受けるくらいにNPCの好感度上げは得意だから、人との接触が多い孤児院スタートは本領発揮できる設定でもある。
『シシ丸:最悪、当家に義弟として引き取るという手も』
『ヘキサ:いや、当家に義弟として引き取るという手も』
家柄にくっついて来る派閥とのやり取りが絶対に発生しそうな二人が、即行で自分の手元に取り込もうとしている。
なんつーか、優秀な庶民の子を取りこもうとする貴族達って、ゲーム外なのにロールプレイが完璧だな!
ちなみに、義弟という表現は間違いではない。
お塩のアバターは、いつも通り男性キャラだろうからね。
お塩は、基本的にゲーム内でもリアルと性別を一致させるタイプだ。
まあゲーム内のジョブというか、ゲーム部でのロールが、お姫様なんだけれども。
守られるか、奪われるポジション。
お塩争奪戦――古くは塩が政治的物資であったことを髣髴とさせる語呂だなぁ――を繰り広げる貴族達を、無頼漢の冒険者として遠巻きに眺めていたら、ホストたるユッキーもチュートリアルを上がって来た。
『ユッキー:お待たせお待たせ! 無事、貴族令嬢スタートをゲットして来たよ! 後はホストとして色々と初期シナリオの希望を入れて来た!』
『マウス:貴族令嬢。お塩争奪戦へのニューチャレンジャーかな?』
『ユッキー:お塩ちゃん? なに、またお塩ちゃん争奪戦?』
お塩のお姫様ロールプレイはナチュラルに完璧だからね。
こうした争奪戦は日常茶飯事である。あの子は「私のために争わないで!」ってリアルで叫んだことだってある。
『ユッキー:ログ確認。平常運転で何より!』
『マウス:お塩を入れてこのゲームやると、さらわれたお塩救出イベントが発生しそう』
『ユッキー:たくさん発生しそう』
『シシ丸:だから当家でガチガチに守る必要がある』
『ヘキサ:守るというならば騎士たる当家が適任です』
『塩胡椒:けんかやめ もう! 争わないでくださーい!』
あっ、お塩、その台詞を使ったな!
『シシ丸:我が姫がそう仰せなら』
『ヘキサ:我が姫がそう仰せなら』
それは、世界を平和にする魔法の呪文である。なお、お塩専用。
俺ごときが使うとゲーム次第だがリスキル狙いまでされる。
『マウス:これも姫プレイに入るのかなぁ?』
『ユッキー:本人以外がお塩ちゃんを使って勝手にお姫様ごっこするから、常用外って感じかなぁ?』
その後、盛り上がる会話に控えめに参加しながら、俺は別ゲーを立ち上げてソロプレイに勤しむことにした。
実は俺、一定時間内に敵と戦わないと状態異常になる呪いがかかっているんだ。
※8/1初回のみ、ある程度の流れがわかるまで、ということで5話まで一挙投稿しています。
次回以降は基本的に、毎日12時1話ずつ投稿の予定です。