イチャイチャバトル
「んで、この大広間でなにすればいいんだろうな?」
大広間を見渡して呟く。
あの系列の遺跡らしく、でかい熊の石像が壁のところに埋まっているのが実に怪しい。
ユッキーも同意見らしく、凛々しい顔で石像を指さす。
「あれが動くやつだね。あたしはダンチョウだからわかるよ」
「流石だぜダンチョウ。そして見てくれダンチョウ。あそこに立ったらイベント開始みたいな中央部分の床の紋様」
「うむ。あそこに入ったら、熊の石像が動くで間違いないね」
じゃあ、イベントに突入すっか。
隣を見ると、視線がばっちり合った。
いくぞーと親指を立てるのも同時。
中央に足を踏み出すのも同時。
あまりに動きがシンクロするので、笑いながらイベントに突入した。
「よくぞ、我が試練の場に立った。勇気ある者達よ」
案の定、熊の石像の眼がピカーッと光り、威厳のある女性の声で喋りだした。
「我は戦と狩猟の女神。邪神に立ち向かう者達に、試練を乗り越えた分だけ力を授けよう。覚悟はよいな?」
ハイかイイエの選択肢が提示された。
ユッキーが、あたしが言っていい?と自分を指さしているので、どうぞどうぞと促す。
「覚悟はできている! かかって来い、女神よ!」
「よくぞ言った。我が御使いと戦って、邪神と戦う勇気を示してみるがよい!」
地面を震動が走り、熊の石像が動き出す。
五メートル級の巨体を見上げながら、俺は冷静に考察した内容を、小声で流す。
『熊が御使いで戦と狩猟の女神ってことは、アルテミスとかその辺の女神がモデルなんかな』
『あー、そういえば、熊と関係あるんだっけ。なんか星座の話で聞いたことある。ギリシャ神話系だよね? 原典の連中みたいにやべー神じゃないといいなぁ』
『ギリシャ系の神話はほんとひどいからな……。しかし、熊の石像から、ハスキーなやたらいい声が聞こえてきた時は吹き出すかと思った』
『んっふ! やめて、あたしが今笑いそうになった!』
笑わせるなよーとユッキーが下段の弱キックで文句をつけてきた。
なんだよー、一緒にゲーム楽しむんだから、こういう小ネタも共有しなくちゃだろー?
仲のいい俺達に嫉妬したのか、石像は腕を振り上げた。
「じゃ、ユッキーは後衛で、自由に鞭を振っていいからな」
「やったー! オールウェポンズフリー! あたしの鞭が火を噴くぜー!」
うむうむ、今回は前衛に俺しかいないから、火を噴くのも水を出すのも思う存分におやりなさい。
スキル『ボケ』と『ツッコミ』があるから俺も大分気楽だよ。
どちらかというと、気楽に行かないのは熊の石像の方かもしれん。
流石にこのサイズの敵からの攻撃は、侮れない。
振り下ろされた熊の腕に、横から拳をぶつけてパリィする。その手応えと、HPバーが減少したことに、やはり、と頷く。
攻撃判定のサイズが大きいと、どこを弾けばいいのかわかりづらく、パリィの精度が甘くなりやすい。
精度が甘くなると、ジャストパリィ――ノーダメ防御が成功しづらく、パリィをしても食らうダメージが大きくなる。
その辺の判定の癖を掴むのが先か、デカブツの攻撃力に押し潰されるのが先か。
中々スリリングなバトルになりそうだ。
「ユッキー、ちょっと大きめに距離を取っておいてくれ。でかいだけあって、止めるのにも間合いがいる」
「オッケー! 大丈夫、こっちの方は敵がでっかいから離れても当てやすいよ!」
言葉通り、ペッシーンと良い音を立てて石像がしばかれている。
よしよし。それならダメージソースはユッキーに任せて、こっちは防御重点で行ってみようか。
****
ゲームの戦闘において、思いこみというのは時に致命的な隙を生む。
対戦格闘ゲームにおいて特に顕著だが、強い組み合わせというのは確かに存在し、多くのプレイヤーが使い、多くの勝利を積み重ねる。
古来勝負ごとにつきものの定石の概念は、最新のフルダイブゲームにおいても屹立している。
対人戦ランキング上位陣やプロゲーマーといったトッププレイヤーともなると、「この人の操作するこのキャラは強い!」と知れ渡る。研究される。
そして、イベント戦や大会戦の時に、その研究成果を引っ下げたチャレンジャーが、トッププレイヤーに襲いかかるのだ。
それでも負けないからトッププレイヤー……という猛者もいる。
だが、もうちょっと遊び心のある、あるいは汎用性のあるトッププレイヤーだっている。
俺のこと研究してきたの?
ご苦労さん。俺も研究してきたんだー。いつもと違う、新しいキャラの操作法!
あの人はこのキャラで来るハズ。
そう思いこんでいたチャレンジャーを、全く別キャラで華麗にボコす。
定石外し。
素人がやってもまず上手くはいかない。しかし、玄人が計算の上でやればそれは奇襲、立派な戦術だ。
かように恐ろしい思いこみの隙であるが、対戦格闘ゲーム以外でも結構ある。
たとえば、見た目ゴリゴリ物理脳筋系のオークが実は魔法タイプだとか、人間エネミーだと思ったら実は人形で真後ろに関節が稼働するとか。
下手すりゃ初見殺しになる。
それに比べたら、熊の石像エネミーが、二足歩行タイプの戦闘スタイルだったなんていうのは、まあ、優しい方だ。
サイズ差のせいで基本的に振り下ろしばっかりだし。逆に身長が同じくらいだった方が厄介だったかもしれぬ。
熊の見た目でボクシングとか空手の動きされたらギャップがやばい。
熊の関節構造を無視した打ち下ろしパンチの連打が、絨毯爆撃のように降り注いでくる。
流石にパリィで全部迎え撃つとHPが削れすぎると判断して、後退して回避を選択。本当は横に回って、円を描くように移動したいんだけど、そうするとユッキーの盾役がこなせない。
俺の動きに合わせてユッキーがついて来てくれたら嬉しいんだけど、ベシンベシン楽しそうに鞭を振るっているから、ちょっと期待できない。
こういう時の動きも、これからゲームするならちょっとずつ息が合っていく……といいなぁ?
そして、この熊の石像――石熊はちょっと賢い。
徐々に徐々に、大広間の角の方へと俺とユッキーを追いこみ始めた。
お掃除と一緒だな。ゴミは隅っこにまとめてから一気に処理するテクニック。
だが、このマウスはもっと賢い。
相手の意図に気づいた上に、打開するパワーもある。
「ユッキー、ちょっとデカイの入れる! 俺も前に出るぞ!」
「えっ!? あ、わかったー!」
よし、多分わかってない。
攻撃にちょっと注意してねって意味だったんだけど、誤射は来るな。いや、注意はしてくれるかな。
でも誤射するのがユッキークォリティ。
石熊の打ち下ろし熊パンチを、かわすついでに叩き落とすように殴りつける。
マウスのパンチ力の分、深く地面に打ちこまれた熊パンチによって、石熊の巨体が体勢を崩した。
「いくぞ!」
一応、ユッキーに伝えてから、石熊の腕を駆け上がる。
狙いは厳つい熊の顔面。使うスキルはブルスマッシュの上位派生、ギガントスマッシュだ。
トリプルインパクトにフルスウィングも追加して、一発の威力マシマシのダッシュパンチを叩きこむ。
威力を想像させる派手な炸裂音に、石熊も悲鳴を上げて、巨体を仰け反らせ、ゆっくりと倒れこんでいく。
バカな!
驚きに、俺は後ろを振り返った。
ユッキーからの誤射がなかっただと!?
見れば、ユッキーは親指を突き立てて、偉いでしょってドヤ顔をしている。
偉い! ユッキーがこんなに成長しているなんて俺は嬉しいよ。幼馴染として鼻が高いぜ!
今度お祝いしような、ドリンクバーで乾杯だ!
「よし。ユッキー、今のうちに移動するぞ」
「え? なになに? どゆこと?」
「とりあえず、ついて来て。敵がダウンしている間にポジションを変えるんだ」
ユッキーもう大分壁際なのに気づいてないでしょ。
後ろ見て、後ろ。
首を傾げているユッキーにおいでおいでをしながら、とっとこ倒れた石熊をぐるりと回りこむ。
結構ダウンが長いな。スポドリ感覚で回復ポーションも飲んでおく。
「一定ダメージ蓄積のイベントダウンかもしれないな、これ。起き上がったら第二段階に入るかも」
「マジで? だとしたら順調だね。ふはは、楽勝ではないか我がパーティは! この勝負はもらったも同然よ!」
「フラグの乱立、不吉すぎるからやめない? 俺、このボス戦が終わったらプリン食べるんだ」
「あっ、いいなー、プリン! どこのやつ?」
「スーパーで売ってる三個セットのやつ。冷蔵庫にあったんだ」
「Oh、安心のあの味。お高いプリンも美味しいけど、無性に食べたくなるよね。もはやおふくろの味に等しい……」
「わかる。……で、起き上がったら敵のパターン変わるかもしれないから、注意よろしく」
「オッケー、任せて!」
はい、インターバル終了!
石熊が動き出した。
仰向けに倒れた姿勢から、床に手をついて頭を起こして立ち上がって来るの、やっぱりおかしいよな。
熊の関節構造じゃねえよ。熊の着ぐるみをつけた人間の動きだよ。
俺のゲーマーセンスの通り、第二段階に入ったらしく、石熊の表面にはあちこちヒビが入ってビジュアルが変わった。
もろそう。
防御力が下がって、攻撃力と攻撃速度が上がるタイプだろうか。
さっきまでとは攻撃テンポが変わるかも、と想像しながら警戒していると、ヒビの隙間から光が漏れだした。
それを見たユッキーが、熊が光った、なんて呟くもんだから、俺の心は大いに乱されてしまった。
森の熊さんとベアちゃんの発光事件の思い出し笑いがですね……。
石熊は、動揺した俺の隙を見逃さなかった。
ヒビから漏れる発光がさらに強くなり、ヒビどころか石熊の巨体を覆ってさらに笑わせにくる。
卑怯! 卑怯ですよ!
コンピュータ側が盤外戦術を駆使してくるとかプレイヤーと変わらないじゃん!
本当にいいAIだな!
歯を食い縛って動揺を抑えこもうと足掻く間に、とうとう石熊の攻撃が始まる。
爆発したのだ。
「うひゃあ!?」
予想外の音にユッキーは悲鳴を上げ、マウスは爆発によって飛んで来た石礫を頭で理解するより先にパリィした。
あっぶない! このマウスじゃなきゃ直撃してるね!
咄嗟の時にこそ日々のゲームで鍛えた動きが発揮される。
もはやパリィは習性みたいなもんだからね。
しかも、パリィに成功しているのに結構なダメージを食らった。
あの不意打ちでこのダメージ量はえぐいでしょ。正直、パリィできたのは運だよ。
直撃してたら、流石に即死はなくても八割は持って行かれたんじゃない?
突然の飛来物の危険性を遅れて認識して、冷や汗が吹き出すのを感じながら、いきなり飛び道具を使ってきた石熊を見る。
そしたら、なんか、石熊じゃなくなっていた。
普通にふっさふっさの毛を生やした白い熊になっている。
さしものエンターテイナー・ユッキーも、これには呆然と呟くのが精一杯だった。
「シロクマになってるぅ」
そうだね。
シロクマだね。
なんでだよ。
ここ雪山でも氷河でもなんでもないじゃん。お外は温帯から亜熱帯ぐらいの森だったじゃん。いきなりシロクマは予想できないでしょ。
エタソン神?
プレイヤーをダイレクトに混乱させるのやめない?
ずるいと思うんだ。
しかし、悪逆非道のエタソン神は、さらなる追撃を用意していた。
シロクマの右腕が真っ赤に光り始めたのだ。
待って待って。
情報量が多い。
いや、情報が濃すぎる。
インスタントのコンポタスープを一滴のお湯で溶かして飲めって言われている気分だよ。
それスープじゃなくて粉だよ。
「あっれ、あたしのダイブメット、グラフィック表示バグってるかも?」
ユッキーがとうとう機械の故障を心配しだしたよ。
ちなみに俺は、ゲームAIを管理しているサーバーが、オーバーヒートしてヤケクソ状態なんじゃないかと疑っている。
真っ赤に光るシロクマの右腕が、これ見よがしに振り上げられ、落とされてくる。
迫力があるような、シュールなような、不安な気持ちが湧いてくる。
それでも、マウスはユッキーの護衛で、前衛である。
勇気を(無駄に)振り絞ってシロクマの赤い右腕を迎え撃つ。
多分、攻撃力が上がっているんだろうなと、ダメージを覚悟しながらのパリィ。
うん。ダメージはあった。
けど、いきなり増えた感じはしない。普通に、パリィの成功・大成功の範囲内だ。
攻撃力が上がったわけじゃないのか?
いやいや、こんな派手なエフェクトを見せつけておいて、見た目が変わっただけーとかそんなはずはない。
他のステータス表示を確認するが、状態異常はついていない。
健全なステータスのままだ。
なんだこれ。
警戒心が跳ね上がる。
なにが起こっているかわからない状況は、わかりやすい危険よりも恐ろしい。
念のため、接触を避けて回避重視にするか。
いや、ユッキーの盾役としての役割が果たせなくなる。
ユッキーも回避してもらう?
いや、事故る予感しかしない。
俺も攻めっ気を出すか。
ソロプレイなら絶対そうするんだが、ユッキーを一人残して先に落ちるのはダサすぎるんだよなぁ!
一瞬で深く悩んだ賢いマウスの頭上を、鞭が走る。
「あれ? マウス! なんか変!」
そうだね。変だね。
それは俺も思う。
「もうちょっと情報プリーズ!」
「えーと、なんか手応えが変!」
再び、鞭がシロクマを叩く。
「これ、あたしの攻撃、ほとんどダメージ入ってないかも!」
まさかの防御アップ系? この見た目で?
インディーズゲームでもあるまいに、そんな意味不明な難易度調整するほど、エタソンは雑なゲームか?
脳の片隅に疑念を走らせながら、別な部分ではシロクマの挙動を追いかけ、さらに別な部分で自分のステータス管理をしつつ、さらにさらに別な部分でユッキーの行動を観察して、余った部分であちこちの雑多な情報を観測する。
忙しい脳内で、シロクマの挙動を追いかけていた部分が反応する。
攻撃動作。今度は左腕が振り上げられている。
予測されるのはさっきと同じ振り下ろしが、左腕になっただけ。しかしその左腕は赤ではなく青い発光。
どう対処する。
安全を取って回避――は、ダメだ。シロクマよりもユッキーのその後の行動がどうなるか不安なので、パリィを選ぶ。
問題ない。攻撃速度が上がったわけでも、攻撃力が上がったわけでも、妙な状態異常がついたわけでもないなら、万が一パリィをやり損ねても一発でHPゲージが飛んだりはしない。
しかし、なんで青く光ってるんだ。
第二形態は、攻撃部位が光るようになりました?
しかも赤と青の二色に?
疑問を抱えても動きに淀みなく、シロクマの青い腕を弾く。
ついでに、一歩踏みこんで、その左腕を殴りつけてみる。
なるほど。確かにダメージが通っていない。
跳ね返されるような手応えからすると、かすりダメージしか入っていないようだ。
そこから推測されるゲーム側のメッセージは、マウスの攻撃は失敗していない。
でも、その攻撃では、シロクマに有効なダメージが通りません。
シロクマの有効打にはなにが必要だ。
大広間内になんらかのギミックが登場したか。それとも特定の攻撃方法か。時間経過やアイテム使用なんかもありうるか?
いや、真っ先に疑うべきは謎の発光現象だ!
ぐぬぅ、熊の発光はいまだに笑いが込み上げるからまともに考えづらいんだよなぁ!
「ユッキー! 発光している腕に――」
攻撃を色々試してくれと言いかけたら、シロクマの頭が発光した。
お前どこでも発光すんのかよ!
しかも今度は黄色! 信号機!
「腕じゃなくてもどこでも、とにかく発光している部位に色々攻撃試してくれ!」
「えー? わかった、やってみるけどもー!」
色々ってなんだべーと叫ぶユッキーの声を聞きつつ、シロクマの黄色く光る頭による噛みつき――じゃない頭突き攻撃をアッパーカットで撃ち落とす。
頭部の発光が収まったら、今度は右足が緑色に光る。
信号機じゃなかった?
でも信号機の青は実質緑だからやっぱり信号機の可能性も……あ、矢印部分を緑とか?
緑色の踏みつけ攻撃を回避すると、また右腕が赤く光った。
色が一周したか? 赤・青・黄・緑で一巡?
信号機以外に一体どんな意味が。
「赤青黄緑? どっかで見た組み合わせなんだけど、なんだっけ、赤青黄緑赤青黄緑……割と最近見たっていうか使ってた? んあ? もしかしてこれかー!?」
ぶつぶつ呟いていたユッキーが、自分の武器を掲げ持って魔法鞭の色を赤に変えた。
「火属性の魔法鞭は赤の色! これで~……どうだ!」
赤色の鞭は、マウスがパリィしたシロクマの赤い右腕に直撃した。
なんということでしょう。シロクマの腕の赤色が炎に変わって燃え出した。
これは明らかにダメージ入ってるでしょ。
どういう仕組みなん?
まあ、神の試練だからね。ご都合主義ななにかがあるよ。
「でかしたユッキー! 冴えてる! ジーニアス!」
「えっへっへー、もっと褒めてー! ここからあたしのターンだね! あの順番であの場所が光るんでしょ? 出て来る穴のわかってるモグラたたきじゃん! これもう勝ったな、ワハハ!」
シロクマが右腕を振り回して消火している間、俺達はそんな愉快な会話をした。
もちろん、完璧に慢心しているユッキーと違って、賢いマウスは戦闘態勢を解いてないぞ。
だって、色の順番とか発光場所とか、ランダムになりそうだし。
なんなら複数個所に別な色とかつきそうじゃん?
で、案の定、そうなった。
「待って待って待って、話が違う!? 速い多い速い多い追いつけない難易度上がったモグラたたきはあたしの運動神経じゃ無理だってこんなの聞いてな~い!」
「とりあえず落ち着け? 完全ランダムになっただけだから、やれそうなところから当てて行こう? 前衛は俺ががんばるから、ゆっくりでいいから、ね?」
シロクマの攻撃速度が上がって、それに応じて光る場所も増えて、色の順番も滅茶苦茶だ。
左右の腕に赤と緑をまとって連打してきたと思ったら、左足と頭に黄と青をまとって踏みつけからの噛みつき攻撃とか、コンビネーションを使い始めた。
でかい癖に速いなこいつ。
流石にマウスのHPゲージも目に見えて減りだす。回復をどっかで挟まないと削れ死ぬな。
とりあえず、ユッキーに立ち直ってもらわないとゲームにならん。
目の前に迫る赤色の熊の口を見て幼馴染の名前を呼ぶ。
「ユッキー!」
「うわーい、こちらユッキー!」
「魔法鞭、赤!」
「は~い!?」
迫る大口をかかと落としでパリィ・カウンター、地面に押さえつけるように踏みつけながら叫ぶ。
「俺ごとで構わん! やれ!」
「任せろぉ!」
言われるまでもねえと即決で飛んでくるフレンドリーファイア。
いや、ちゃんと標的はシロクマだと思うから、巻きこんだだけだと思うけどさ。
それにしてもすげえ反応が速いじゃん。
なんでそんな迷いなく力強く鞭を振るえるのかちょっと知りたい。
いや嘘、やっぱり知りたくないかも。
シロクマの攻撃をパリィした分とユッキーの誤射分、多めにHPゲージは削れたけど、こうでもしなきゃユッキーの攻撃が当てられなかったんだから仕方あるめえ。
炎上したシロクマの頭部から飛び退いて、ポケットから回復ポーションを使用する。
「マウス、今のめっちゃカッコよかった! 俺ごとやれ!」
「マジかよ。後でリプレイ見直そう」
「あたし! あたし編集してムービー作るね!」
「ええ? 照れちゃうな」
だって、今から何度もその台詞を言うチャンスあるんだもん。
「じゃあ、ユッキー。今のと同じ要領でシロクマと戦うぞ。俺が敵の動きを止める。ユッキーがそこを叩く。オーケー?」
「オーキードーキー! マウスごとやるね!」
「う~ん、努力目標でいいけど、なるべく俺を避けて叩いてくれる?」
可愛い顔して、なんで?って首を傾げるの、マジでサイコパスっぽいぞ。
「いくらスキルで誤射ダメージ減ってるとはいえ、ダメージはない方がいいの! そもそも味方に攻撃は当てちゃいけません! なるべくでいいから、一応は俺のことも気遣って」
「わかった。なるべくね、なるべく!」
俺のなるべくと、ユッキーのなるべく。なにかの比率が大きく違う気がするんだけど、気のせいかなあ?




