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プレイヤーズ  作者: 雨川水海


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41/61

左脳合流

 最終的に、森の熊さんはベアちゃんと意気投合した。

 やっぱり肉体言語って通じるんだなって、マウスはバーバリアン的に確信したね。

 熊さんとは、孤児院まで一緒に帰って、焼肉パーティを堪能してから別れたよ。

 街中まで熊さんを入れるのはどうかと思ったけど、流石は熊が守護神的な文化圏、男爵令嬢の名前を使ったらあっさりと許可が出た。


 そんな楽しい思い出を最後に、我々男爵令嬢パーティはイデルの街を旅立った。


 邪神の眷属となった復讐者一族の暗躍が明るみに現れ始め、世はまさに世紀末風味。

 行く先々でひりついた空気が発火し、我々もいくらかの苦難を越えねば目的地に辿り着けないのであった……。


 というのが、目的地に着いた男爵令嬢パーティに流れたシナリオ・アナウンスだった。

 いやー、ここまでの道のりは大変でしたね。


 で、男爵令嬢と愉快なご一行が辿り着いたのは、前線砦の一つのようだ。

 物資と兵士がひっきりなしに出入りし、単なる確認のやり取りでさえ怒号に化ける様子は、まさにお祭り前夜といった空気。

 こういう非日常の空気を吸うと、ちょっと暴れ出したくなる俺がいる。


「手頃な小競り合いとか、手頃な討伐なんかはないかな。手頃なのでいい」


 指揮官用の調度品の整った部屋で、用意されたソファに腰かけて……落ち着かなかったので、窓から中庭をちらちらしながらおねだりする。

 そわそわわくわくすること遠足前日の小学生のごとし!

 おねだり先は、この部屋の主、つまりこの前線砦の最高指揮官だ。


「ステイだ、狂犬」


 この砦においては神にも等しい女騎士は、ソファにゆったりと腰かけながら、赤い唇で笑った。


「ネズミだけど?」


 真実を答えたら、赤い唇がへの字になった。


「ステイ、バーバリアン」

「それは否定できない」


 赤い唇に笑みが戻った。

 マウス=バーバリアンという認識になっていることからわかる通り、この女騎士は白桜高校ゲーム部の部員、国盗りチームの一人であるヘキサだ。

 キャラクター名も違和感がないのでそのままヘキサになっている。


 パパ男爵が連絡を取っていた勢力の一つは、地方騎士団の一団員から武功を重ねて軍団長まで成り上がった、我等の頭脳だったのである。

 ようやく合流できた仲間に、ユッキーもご満悦だ。


「やっぱり、ヘキサちゃんのアバターは綺麗だね~。凛々しいっていうか、デキル女感がやばい」

「ありがとう。ユキのアバターも相変わらず可愛い」


 リアルのヘキサと違って、冷ややかな印象が強い笑みが、ユッキーからお塩に移る。


「お塩も、今日も完璧だ」

「ありがとうございます。ヘキサ先輩もカッコイイです!」

「ふふ、惚れてくれて構わないよ」


 さらりと黒髪をかき上げてみせる仕草は、まさに女帝。

 数々の戦略シミュレーションゲームで、無数の軍勢を指先一つで操ってきた貫禄がある。


 リアルの方とキャラが違うじゃんってのは、当人のロールプレイだから言ってやるな。

 中身は間違いなく同一人物だ。お塩の男の娘アバターに満足気に頷いているところとか、性癖が一致しているじゃろ。


「それで、ヘキサちゃん、あたし達はどうすればいいんだっけ?」


 頭脳が合流したとなれば、それに全部丸投げするユッキーも平常運転だ。

 部室かな?


「こらこら。シナリオ的には、ユキが主導権を持っているはずだろう? お父上から、指示があったはずだ」

「うん。ヘキサちゃんとお話して味方についてもらえって。それはもう終わってるでしょ?」


 ミッションコンプリート、と両手の親指を立てるユッキーは、ヘキサから自分への好意を疑っていない。

 生粋の陽キャである。


「まあ、確かにゲーム外ですでに味方についているけれどね。それでも、一応ゲーム内でシナリオに沿わないと話が進まないだろう?」

「んじゃー、ヘキサちゃんを味方につける方法を教えてヘキサちゃん!」


 自分で考えることを完全に放棄しているユッキーである。


「今ならお礼になんとお塩ちゃんもつけちゃう!」


 そして生贄を捧げる気が満々のユッキーである。

 マジで乱世への適性が高い。


「お塩がつくならいいだろう。お塩、本当にいいのかな?」

「いいですよ? 肩もみとかすればいいんですよね!」


 生贄側も捧げられる気満々である。


「じゃあ、十分くらいお願いしようかな……。ああ、もちろんリアルの方だよ?」

「わっかりました! 任せてください!」


 はい、裏取引により交渉成立。

 邪神側より狂気に満ちてないか、プレイヤーサイド。

 俺は唯一正気を保っているプレイヤーとして気を引き締める。


「で、どいつを殴ればいい?」

「ステイ、バーバリアン」

「チュー……」


 待ったをかけられて、俺の正気度が減った!


「まったく、なんでもかんでもすぐ殴りかかろうとするのはやめてくれないか? 私を味方につける話で、暴力沙汰が必要になると決めつけるのはどうなんだ?」

「????」

「そこのバーバリアン、心底不思議そうな顔をするのはやめなさい」

「だってさ、他に方法があるんか?」

「あるとも。たとえば、シシ丸はすでに私と協力関係だ。軍は金食い虫、とはよく聞く話だろう? シシ丸が資金や物資を調達して、私に送ってくれるんだ。おかげで軍が強くなり、功績を立てることができて、ますます大きな軍を率いることができるようになる」


 なるほど、シシ丸はそういうの得意だからな。

 ヘキサは軍事系のプレイを好み、シシ丸は内政系のプレイを好む。ヘキサと同様にシシ丸も我等の頭脳だが、ちょっと趣味が違う。左脳と右脳みたいなもんだ。

 でも、趣味が違うというなら、頭脳二人に比べて、俺達直感三人も大分違う。


「ユッキー、パパ男爵から賄賂とかもらってきた?」

「パパからはねー、お小遣いはもらったんだけど、お塩ちゃんとベアちゃんの装備代だけだねー。お塩ちゃんはなにかある?」

「ないです! 回復アイテムを山盛り買って、できるだけ死なないように準備したらお財布空っぽになっちゃいました! マウス先輩は?」

「一応その日の生活費くらいはあるけど、このマウスは大金が入ると自動的にシャロンさんに吸い込まれる仕組みになってるからなー」


 というわけで、我等三人とも、提供できる資金は皆無である。


「うん、まあ、そこは期待してない。でも、他に情報とか、人脈とか、色々あるだろう……?」


 ヘキサは頭が痛みだしたのか、眉間を押さえてこちらを伺ってくる。


「あ、あたし男爵令嬢、貴族だよ! なんか封印とか守ってます!」

「それは知っている。というか、だから面会と協力の約束はしたんだ。最低限の協力はする。しかし、こちらも余裕がないから、これ以上こちらが力を貸すために、そちらからもなにかして欲しい、ということなんだけれどね?」

「えーと……古代語を、少し読めます?」

「それに関連していると思われる、遺跡の情報はある。なにか対抗手段が少しでも手に入るのではないかと期待されている」

「あ、じゃあ、その遺跡に行くってことで、よろしく」


 ユッキーはやる気のようだけど、ちょっと期待薄じゃないかな。

 前の遺跡探索、ほとんどの謎かけを俺が物理的に解いた気がする。

 俺が手を横に振って無理無理アピールすると、ヘキサはわかっていると頷く。


「例の遺跡での珍道中を考えれば、大惨事になるのは目に見えている。ユキ、護衛はしっかりつけて行くといい」

「それなら大丈夫。あたしの護衛は最強だから」


 おっとっと。ユッキーに腕を引っ張られた。

 腕を組むような形になった俺達を、ヘキサは目を細めてからかう。


「ずいぶんとハードルを上げられたものだな、マウス。失敗はできないぞ」

「問題ない。護衛にも慣れた」


 多分だけど、ヘキサがそんな疑わしそうな顔をするほどひどくはないぞ!


「お塩は……」

「はい! 神官見習いとして、回復魔法をちょっとできます!」

「では、負傷兵の治療に協力を願えるかな?」

「はい、がんばります!」

「とてもいい返事だ。私も一緒について回ろう。兵も喜ぶ」


 それ、兵と一緒に喜ぶのはヘキサってオチですね。いや、一緒にというより真っ先に、と言うべきかもしれん。

 拳を握って気合いを入れているお塩を見つめるヘキサは、すでに喜んでいるんだもの。

 お塩を愛でるモードに入ったヘキサが動かないので、俺とユッキーは手持無沙汰で顔を見合わせる。


「ジャンケンでもする? それともビビビでもする? 二人でやってもつまんないけど」

「ん~、男爵令嬢っぽくあやとりとかどう?」

「ほ~ん、渋いじゃん。流石はご令嬢。いいぞ、やるべ、やるべ」


 あやとりを得意とする男子が、国民的少し不思議なアニメの中にしか存在しないと思うなよ。白桜ゲーム部には結構いるんだな、これが。

 由緒正しい遊びかつどこでも簡単にできる遊びとして、定期的に流行る。

 主に年度初め、なんにも知らない新入生が「ゲーム部ならデジタルゲームやり放題だべ」なんて甘い考えでドアを叩いたところを、先輩全員があやとりして出迎えるとかいう遊びをするために流行る。

 このドッキリ遊びに大笑いしてキャッキャと参加してきた新入生が、伝統ある白桜ゲーム部の部員に名を連ねられるのだ。


「なに作ろうかなー?」

「次年度の新入生歓迎に向けて新技の開発する?」


 などと言いながら、とりあえず準備運動として簡単なやつから始める。


「もう有名どころはやっちゃってるから難しいでしょ。新しい高層建築とか橋とか、大怪獣が次に壊しそうなの、最近できたやつあるっけ?」

「話は聞かないなぁ。逆に古いのはどうよ? 世界遺産的な?」

「世界遺産……軍艦島?」

「あー、横から見て軍艦に見える!って島? それなら普通に軍艦のシルエットを作った方がわかりやすくてよくね? ヤマトにチャレンジしよう、ヤマト」

「四十六サンチ砲! ところで軍艦島って行ってみたくない?」

「そりゃあ行ってみたいよなー。あのサイズの廃墟って、レトロ風味のポストアポカリプスのゲームみたいな雰囲気が味わえそう」

「でも軍艦島の世界遺産って廃墟じゃないんだってさ」

「え、そうなの?」

「らしいよ。なにが理由で登録されてるかって言うと……忘れた」

「忘れちゃったかー」

「なんだったっけなー? ていうか、マウス~、興味あるならいつか一緒に行こうよ、軍艦島」

「いいね。どっか近くの用事ができたら行っちゃう?」

「行く行く! あたしを軍艦島に連れてって!」


 あやとりしながらやり取りをしていたら、ヘキサが咳払いをした。


「君達の仲がいいのはよくわかった。というか、よく知っている。だから、そういうのは二人きりの時にしたらどうだ?」


 ヘキサがそんなことを言い出した理由がよくわからない。

 なんで?


「なんで?」


 ユッキーもわからなかったみたいで、聞いてくれた。

 そしたら、ヘキサではなく、お塩が照れた顔を押さえて可愛い仕草をしている。


「お泊りの約束ですか! 流石は先輩達、大人ですね!」


 おいおいおいおい。

 お塩くん、可愛い顔して君こそ発想が大人じゃないか。

 でも、そっかー。そういうことになっちゃうかー。

 幼馴染の距離感が優先しがちだけど、世間様じゃそういう風に見られるお年頃だもんな。


「俺とユッキーはほら、昔からよくお互いの家族旅行にくっついて行ったりしたからな。今回だってちゃんと保護者つきだよ。親が来れなくても姉貴とかな」

「あ、そうなんですね! そういえば聞いたことありました! お姉さん、旅先のゲーセンで地元ゲーマー相手に無双するのが趣味とか!」

「そうそう、それそれ。家庭用オンラインゲームが充実した昨今、ゲーセンにわざわざ通う奴って味のある強さの奴がいるんだよなぁ」


 まあ、その姉貴は、俺の姉貴じゃなくてユッキーの姉貴なんだけどさ。

 とりあえず、妙な方向性の話は流れた。

 人気実況者ユッキーのスキャンダラスななにかはほのぼのエピソードに変化したのだ。いや、部活動とはいえ、なんらかの形で発表される時は今のところはカットされると思うけど。


 俺がお塩を納得させたら、ヘキサはユッキーと視線でやり取りしている。

 ひょっとしたらチャットしているかもしれない。なにやら同意が得られたらしく、二人して頷くとヘキサが話を進めた。


「まあ、そういうわけだ。君達のプライベートの約束は、二人きりの時に、ゲーム外の方がいいとは思うが……いや、ゲーム内の方が密談に向く時もあるか。とりあえず第三者のいない時にしなさい」

「密談て。そんな怪しげなことを話しているつもりはないんだけどな」

「そういうことにしておきなさい。内緒話というのはいいものだと聞くよ?」


 なんじゃそりゃ。

 俺が首を傾げると、ヘキサは自分の言葉の正しさを証明するように、内緒だと赤い唇に人差し指を添えた。

 それは、部室にいる大和撫子の、お茶目な笑顔だった。


「さて。プライベートの話はここまでだ。ゲームの話に戻ろう」


 人差し指を左右に振って、ヘキサは砦の指揮官、女騎士に戻った。


「君達がこれからとりかかるのは、簡単なお使いクエストのように思えるかもしれないが、恐らくこなしていけば上位クエストが出て来るタイプのイベントだ。こなせばこなすほど、私の軍が強化されて、後の展望が大きくなる」


 だから、と冷ややかさの際立つ笑みを浮かべるヘキサに、マウスで答える。


「馬車馬の如く働け、と?」

「君には是非そうして欲しいね、マウス。なに、美味い人参は用意できると思うよ」

「ほう? 俺はグルメだ、そんじょそこらのブランド人参じゃ気合も入らないが?」

「お使いの成果がよければ、殴りがいのある相手を用意できるかもしれないよ」


 それは人参じゃないな。

 超高級チーズだ。

 マウス、がんばる(チュー、チュー)

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