ボス戦だよ全員集合
ダメだな。
丈夫だったかもしれんが、根性の足りないサンドバッグだった。
仲間が二人いなくなっただけで連携ガタガタだ。
ちゃんとバフと回復やれよ神官。ちゃんと神官を守れよ盾役。
あっさり潰せたわ。
まあ、エタソンの神が、こりゃ消化試合だからさっさと終わらせるかーって判断したんだと思うけどね。
まさかイベントスキップをシステム側がやってくるとは……。
ともかく、あれだけ殴る相手が一杯いた冒険者ギルドの一階だが、今はもう二人しかいない。
最近、孤高と名乗るには口数の増えたエクスマウスと、人質になっていた見覚えのあるような気がする受付嬢である。
……倒れている冒険者は、あちこちに残っている。あれ、背景のオブジェクト扱いだと思うんだけど、ちょっと妙だな。
このゲーム、グロテスク対策として倒れた敵は残らない。さっきの四人組だってHPゲージが飛んだら消えて行った。
ただの雰囲気作りならいいんだが、これがなにかの罠であったなら……楽しそうでいいなあ。
「おかわりは?」
とりあえず、他にイベントを進められそうなフラグもないので、受付嬢に他に殴っていい敵がいないのか聞いてみる。
「わ、わたしは人質だったから、そんなこと言われても……」
ぷるぷる震えながら受付嬢が言う。
ふーん、じゃあここからどうすればいいのかね。ユッキー達に合流しに、二階の方に上がっていくとかもありか?
腕を組んで受付嬢を見つめながら、どうしようかと悩む。
ていうか、この受付嬢もやっぱりどこかで会ったことあるな。綺麗めのデザインだし、モブとはちょっと違う。
なんだっけな。
そう思っていると、受付嬢が綺麗な顔をしかめて舌打ちをした。
「ちっ、言い訳は通用しないというわけですね!」
なにが? って台詞は呑みこんでおく。
なんか知らんけど、イベントが進んだみたいだ。
受付嬢の目元から、青い炎のようなエフェクトが漏れる。黒ドクロの眼窩に揺れる炎によく似ている。
「本当に、あなたが来てから滅茶苦茶ですよ! ツィーゲさんに念のため暗殺を頼んだのにしくじって正体がバレるし、街から追い出そうとギルドで立場を悪化させたのに平気な顔で居座るばかりか、男爵と縁を繋いでいるし……!」
ははーん?
この受付嬢が、本命の敵でござったか。
うむ、初めて知った。このマウスをしても予想もしてなかった……ていうか、意識もしてなかったな。
「盛り上がっているところ悪いが……」
こういうのは後回しにすればするほど、後が気まずい。
バトル突入前に聞いておこう。
「あんたの名前、なんだっけ?」
俺なりに誠意をもった問いかけだった、とは言っておく。
ただ、やっぱりコミュニケーションってほら、高度な能力だから、ちょっとした行き違いとかどうしても起きちゃうよね。
受付嬢のしかめっ面が、完全な無表情になった。
一方で、内面で荒れ狂う激情が噴き出すように、目からは青い炎が燃え上がる。
「どこまでも虚仮にして……。いいでしょう、エクスマウス。あなたは一族の復讐ではなく、私の怒りで殺してあげます。このエメラの憎悪で!」
エメラ、エメラ……。
いたっけ、そんな人?
可能性があるとしたら……あれかな、最初にギルドに来た時の受付嬢か。あれ以外に受付嬢と接点ないし、多分そうだろう。
思い出せないけども。
俺が納得している間に、エメラの顔にはいつもの山羊ドクロが装着されて、その髪が青のオーラをまとってざわざわと伸びていく。
洋風顔で日本人形みたいなことするなーって思っていたら、髪の行き着く先は背景と化していた動かない冒険者達だ。
あー、はいはい、そうなるのね。
「あなたも私の操り人形にして、ボロボロに使い捨ててあげますよ」
ゾンビ系というかマリオネット系というか、使い捨ての物量で来るタイプか。
操られる冒険者次第だが、これはちょっとまずいかもしれん。大抵、こういう操られる敵って、捨て身攻撃がデフォルトなんだよな。
なんつーか、エタソン神、ボスはきちんとマウスの苦手なのを用意してくるな?
そういうプログラムになってんのかね。道中やボス前戦闘で解析して、ボス戦は苦手をぶつける、みたいな。
前にプレイしていた時は気がつかなかった。マルチ用の対処なのか、俺がやっていない間のアップデートなのか。
疑問に思いつつ、目の前にやってきた操られ冒険者を蹴り飛ばす。動きは遅く、防御もろくにしない。
だが、最初の乱戦時の冒険者と違って押し合いへし合いで群がって来るから、吹き飛ばしてもすぐ後ろに当たって下がらない。
これはじわじわと追い詰められるパターンだぞ。一度壁際まで詰められたらかなり苦しくなる。
あ、いかん、いかん。これ思ったより敵が多いぞ。
ていうか敵が増えている。左右がふさがれた。後ろにしか逃げ道がない。
いやいや、さっきまで背景にそんな冒険者は倒れてなかったですやん。湧きが激しい!
「あはは、もう追い詰めましたよ!」
悔しいけどエメラの言う通り、もう壁際に追い詰められてしまった。
ぐぬぬ……なんて、やすやすとぐぬると思ったか。
ここはさっき魔法使いちゃんと槍使い君をサンドイッチにしていた壁だ。滅茶苦茶パワーをこめて殴ったから壁が陥没してるのよね。
つまり、どういうことかわかる?
この壁、破壊可能オブジェクトなんじゃよ。
クールダウンの終わっていた、トリプルインパクトとブルスマッシュ、徒手空拳の威力を上げるアイアンフィスト、そして連打に繋げられないが破壊力が大きい単発技フルスウィングの同時発動。
いいか。
道というものは、なにもそこにあるものが全てじゃないんだ。
初めの一歩を踏み出した誰かがいれば、その足跡はもう道と呼べるのだ。
いつだってどこかの誰かがこうやって自分の拳で、道なき道をこじ開けて来たんだー。
なんかいい感じのことを心の中で叫んで、壁を殴る。
無事、開通。
匠によるダイナミックなリフォームによって、悪だくみが蔓延っていた冒険者ギルドが、風通し抜群の職場になりましたー。
「なっ、よくもギルドの壁に穴を! 冒険者資格を剥奪しますよ!」
おお、真っ当な冒険者なら震え上がりそうな脅し文句だ。
やんちゃな冒険者を叱る受付嬢らしい。平時なら、気のいい冒険者のからかいやらなにやらも飛んでくるのだろう。
今は、操られた冒険者はゾンビのごとく、受付嬢は山羊ドクロの仮面をかぶって、邪教めいたおぞましい有様だ。
冒険者ギルド地獄支部かな?
生憎、俺は不良冒険者様なので、穴から脱出する間際に、ポケットから取り出した冒険者証を放り投げる。
「ほらよ。好きにしろ」
「このっ、本当に、好き放題してくれますね……! 恐いものなしですか!」
飛んで行った冒険者証は、山羊ドクロの受付嬢にしっかりと受け取られた。
退会手続きをしておいてくれ。依頼達成率ゼロパーセントの冒険者証なんてレアモノだぞ!
「これがないとあなた無職なのでは!? そんな無計画さだと将来が寂しいですよ!」
「そういえば職なしになるのか。男爵令嬢のところに就職するか」
一部の人間に特攻発生しそうな台詞だが、現役高校生が操るマウスには残念ノーダメージ!
言葉の暴力に対してカウンターを発動して、壁穴から出て来ようとする操られ冒険者をぶん殴る。
あ、これ丁度いいな。出て来るところが狭まっているから一対一にできる。
ここでちょっとは時間を稼げそう。とはいえ、壁穴以外にも出入り口はあるので、やはり結局は回りこまれてぞろぞろと群がられてしまう。
「くっ、冒険者ギルドからの離反者が出なければ、もっと手駒を増やせたものを……!」
でも、悔しがるのは山羊ドクロの方だ。
表通りに出て広くなったので、逃げる場所には困らない。流石に通り一面を埋め尽くすほど、操られ冒険者の大量発生はできないようだ。
こうなれば、時間稼ぎだけなら簡単だ。これ以上、敵が増えない限りは、のらりくらりと走り回っていればいい。
本丸である受付嬢を倒すことを考えると、どうしたもんかなぁってなるけど。
どうしたもんかなぁって思っていたら、山羊ドクロの唇が噛みしめられた。
「こうなったら、冒険者を使ってその辺の住民も手駒に加えるしかないですね」
おっと。今なんか、攻略目標が増えるような台詞がなかった?
ニュアンスからして、近隣の建物の防衛までマウスの仕事になる感じか?
流石に分身の術が使えないと無理じゃないかな。うーん、山羊ドクロの周囲から護衛が少なくなるから、他所が襲われる前に本体を殴り倒せ、とかならいけるか?
「こんな手まで使うことになるなんて……。お前のせい、全部、お前のせいなんだから」
「そうか? それは強すぎて悪かったな」
「この、本当に、どこまでも無責任で、傲慢で……!」
「責任はちゃんと取っているつもりだが?」
強者として弱者の恨み言をちゃんと受け止めているでしょ。
相手の勝利を踏みにじる側の、作法だ。
まあ、勝負の場に立った以上、負けた時に相手を恨むのは無作法とも思わなくはないがね。
相手が心構えのなっていない素人だったということだろう。玄人としては、素人は甘やかしてやるのが余裕というものだ。
「気に入らない、気に入らない気に入らない! そんなに好き勝手やって、苦労なんかしてないって顔で、楽しそうにして!」
そりゃあ好き勝手やって、苦労なんかしてないって顔で、楽しそうにしますよ。
これは自分で選んだゲーム、自分で選んだスタイル、自分で選んだプレイなんだから、クソゲーのドン底でだって楽しんでみせる。
「滅茶苦茶にしてやる。お前なんて、お前なんて、この街ごと全部滅茶苦茶にしてやる!」
戦闘再開の気配に、狙いを定める。
恐らく、冒険者達があちこちに散らばっていく。放置すれば街に被害が出て評価が落ちる。
マウス一人で四方八方を守ることは不可能。ならばどうするか。
こういう操作系の敵は、本体をぶちのめせばクリアになるのが定石よ!
我がゲームセンスがビンビンにそう言っている!
さあ、始めろ。
最速タイムでそのドクロ面を殴り壊してやるぜ!
「そうはさせねえよ、エメラ」
あれー?
戦闘再開じゃないの?
ストップをかけた声の方を見れば、強面のガルム先輩が、冒険者ギルドから離反した冒険者を引き連れて通りを封鎖している。
「話を聞いて急いで集めて来たが、なんとか間に合ったようだな」
どうやら、マウス一人で街の一区画を守ろうね! とは流石にエタソン神も言わないようだ。
おかしいな。我がゲームセンスが外れるなんて、風邪でもひいたのかもしれない。
シシ丸辺りが、「お前のゲームセンスって会話スキップだろ」と突っ込む声が聞こえた気がしないでもない。
「ガルム……。あなたもわたしの邪魔をするのね」
「するとも。これ以上、お前が傷つくのを見ているわけにはいかねえ」
「傷つく? わたしが? あはは、傷つくのはわたしじゃないわ。わたしの手駒になっているバカな冒険者とあなた達だけ。わたしは、自分の手を汚さない主義なの」
そうなんすよー、ガルム先輩。あの山羊ドクロ、他の人間を操るっていう外道にぴったりの能力持ちなんすよー。
ここは怒りの鉄拳の出番で間違いないっす。
会話パートを挟んでも操られる危険度とストレスが溜まるだけだと思うんで、言い分を聞く暇もなく、ガツンとこう……。
「エメラ、お前が冒険者ギルドで受付に初めてついた時を、今でも俺は覚えているよ」
残念、先輩はあくまで会話するようだ。これはガルム先輩も操られる流れだな。
間違いない。俺のゲーマーセンスを賭けよう。
「ベテランの冒険者にからかわれながら、一所懸命に依頼の確認してたよな。依頼の達成を確認して、ホッとした顔で冒険者におめでとうって言ったら、お前も初仕事おめでとうって言われてたっけな」
大剣を地面に突き立て、ガルム先輩は空を見上げた。
今は夜だ。星も見えない、暗い空だった。
「そのベテランの冒険者が、ドジ踏んで大怪我して帰って来た時、生きて戻って来てありがとうって、泣きながら報告を受けていた。新人に依頼を渡す時は、しつこくしつこく注意点を言い聞かせて、無事に戻ってくるようにと恐い顔で念押ししていた。そいつが一人前って言われるようになって、一番に祝っていたのはお前だった」
「懐かしいわね……」
思い出を仰ぐように、途方に暮れるように、黒いドクロの面を空に向けて、相手も答えた。
「ねえ、ガルム」
しかし、山羊ドクロの眼差しの先には、空の暗ささえ見えないようだった。
「だから、なに? そんなもの、全部この街に潜りこむため、あなた達を油断させるため、我が一族の復讐のための演技よ。ちょっと甘いことを言っただけで、どいつもこいつも、冒険者なんて単純なんだから」
「そうだな」
ガルムもまた、星の光など見えないことに同意した。
「そうなんだろうな。でもな、エメラ。だからこそ、俺はやっぱり、これ以上、お前が傷つくのを見過ごせねえ。たとえ、お前を傷つけているのが、お前自身だとしても、止めてやらなくちゃならねえんだ」
「なにを言っているんだか……大丈夫、ガルム? 冒険者らしく、酔っ払ってる?」
「生憎、今日は酒抜きだ。俺の言っていることが、わからねえか?」
強面先輩が、不器用に顔の筋肉を動かして、グラフィックの許す限り、優しい笑顔を浮かべた。
「優しいくせに強がりのお前が、罪悪感を抱えて泣きそうな顔なんざ、これ以上見たくねえって言ってるんだ」
それが、山羊ドクロにとってどういう意味があったのか。
言葉になって返っては来なかった。ただ、言葉もなく、開いたままの口が、どうやら相当に痛いところを抉ったのだと伝えている。
「安心しろ、エメラ。いつもいつも、俺達がさつな冒険者が面倒をかけて来たからな。たまには、お前が面倒を起こしても、しっかり世話してやるよ」
ガルムが地面に刺した大剣を抜き放ち、しっかりと握りしめて吠える。
「マウス! 周りのことは気にするな! 俺達イデルの冒険者が体を張って食い止める! だから、そこの意地っ張りを、どうか止めてやってくれ!」
やっぱりな。
流石はガルム先輩、このマウスが先輩と呼ぶだけのことはあるぜ。
このマウスのゲーマーセンスではわからなくとも、スーパーゲーマーセンスには最初から全部まるっとわかっていたぞ。
あんたは手の足りないマウスを助けに来てくれた、お助けキャラだってことがな!
「エクスマウスも、ガルムも、他の冒険者達も……どいつもこいつも、好き勝手なことを! いいわ、止められるものなら、止めてみなさい! わたしにだって、もう、止められないんだから――!!」
一斉に場が動き出す。
街に散って行こうとする傀儡の冒険者達。
それを食い止めるべく立ちふさがる冒険者達。
山羊ドクロを守ろうとマウスに向かってくる傀儡の冒険者達。
それに突っ込んでいく全回復状態の(さっきの会話パートでアイテム使っておいた)パーフェクトマウス。
状況は五分五分。
いや最終的にはこっちが押し切れると思うけど、ちょ~っと時間をかけている間に、街に被害が出ちゃいそうな気がしないでもないって感じですねー!
山羊ドクロの周りに残った傀儡がまだ分厚く見える。
強引に突破したら意外にいける系か? 流石にちょっと厳しそうに思えるんだが……。
そこでこのボス戦のターニングポイントがやって来た。上から。
「わーっはっはっは! イデルの街に蔓延る悪は、パパの名前にかけてこのあたしが許さない! イデルの街の貴族令嬢、ユキ・イデル、ただいま参上!」
例のアクション用の魔法鞭を使って、怪盗少女っぽく颯爽と冒険者ギルドの屋上から降下して来て、魔法少女っぽい名乗りを上げたその姿、まさにユッキーそのもの。
テンションでしかモノを考えていない系の愉快な奴。
そのロールプレイから貴族令嬢要素はどこに行ってしもたん?
相変わらずユッキーの奇行は目の保養だが、降り立った場所が悪い。
冒険者ギルドの正面ドア前で、マウスとの間に山羊ドクロを挟んでいる。
ボスの前に中衛一人である。
なんでそこに堂々と登場したんだ。ベアちゃんと、ソルはどうした。と思ったら、普通にギルドの正面ドアから出て来た。
「あ、マウス先輩! ボク、無事に救出されましたー!」
元人質が別動隊の首尾を報告してくれた。
報連相ができて偉い。めちゃくちゃ元気なところも大変よろしい。百点!
「師匠、これなんなの!?」
ベアちゃんはこちらの現状を確認しようとする辺り、偉い。
だがしかし、ベアちゃん、このマウスの弟子と名乗るならば、そんな問いかけは無粋無駄無意味と心得よ。
こういう時の問いかけは、敵か味方かの二択でいい。むしろ問いかけなしでいい。どう見たって敵でしょ。
殴れ。
殴ってレベルを上げろ。
俺はユッキーの登場で混乱した敵を掻い潜って、すでに山羊ドクロを殴りに行っている。
いや、ユッキーの降りた場所が悪いから援護がいるなと思って動き出したの。そしたらちゃんと前衛と後衛もやって来たから、今はベアちゃんと挟み撃ちにできないかなって方針切り替えたところ。
この修羅場で遊んでるのはユッキーだけだな。あれ絶対演出のためだけに一人屋上に行ったんでしょ。
流石のエンターテイナー。マジユッキー。そういうとこ好きです。
ベアちゃんへの答えの代わりに、山羊ドクロの取り巻きを殴り始めると、ベアちゃんもハッとした顔で走り出した。
お塩~! がんばれーって応援するのも大事だけど、バフ! 支援魔法、支援魔法をかけてあげなさい!
ユッキーもマウスを応援してくれるの嬉しいけど援護――はしなくていいや。味方に当たるもんね?
応援よろしく。
挟み撃ちにされた山羊ドクロは、俺の方の肉盾を厚くした。
まあ、ここまで戦って来た経緯から、俺の方が警戒されるのはわかる。実際、ベアちゃんの方が低レベルだし。
これはなんとかして向こうに合流して、作戦を練らんとダメか。俺の後方からならユッキーの誤射付き援護攻撃で火力の増強も可能だ。
そのように動こうと決めたところで、ベアちゃんのベアナックルが操られ冒険者に叩きこまれて、なんか光った。
「えっ!?」
そして、なんか光った本人がびっくりした声を上げた。
そういうスキルなんじゃないの?
ベアちゃんの驚きに、こっちもびっくりしちゃう。
それにつられたのか、山羊ドクロも声を上げて驚いた。
「私の支配が切られた!?」
コードみたいに冒険者の体に繋がっていた山羊ドクロの長い髪が、光に焼かれたように解けて消える。
あのあからさまに冒険者を操ってますって髪、マウスの攻撃は通じなかったのに。というか、マウスの体だと触れもしないで透ける。
まあ、もし体に当たるようなら、敵と戦っている間に絡まって掴まってたから、そういう演出なんだろうなって思ってた。
それが、ここに来て突然の切れる手段の登場。勝ったな。
「ベア、殴りまくれ!」
「え? え?」
「考えるな、殴れ!」
「うん!?」
困惑気味にベアちゃんが再度殴ると、同じように光って髪が消える。
髪から切られた冒険者の体は、地面に倒れて消えて行く。
これで確定だ。ベアちゃんの攻撃は、敵の数を一発で減らせる。
なんで?
知らんけど関係ない。それがあれば勝てるってことだけでマウスの天才的頭脳には十分。
「そのまま敵の壁を削れ!」
おっと、ベアちゃん側の肉壁を増やそうとするのは、このマウスが邪魔してやろう。
吹っ飛ばして複数の敵を巻きこんだり、投げて複数の敵を巻きこんだり、ベアちゃんに一気に敵が向かわないように調整しつつ合流する。
「ユキ、俺を巻きこむ攻撃は許可する。ソルはベアに支援魔法」
君達もちゃんと働きたまえ! 応援ばっかりしているとか非戦闘員かね!
可愛いから許すけど、経験値ボーナスがもったいない!
ソルは元気よく謝ってベアちゃんに支援魔法をかけ始めた。
ユキから特に言葉はなく、すぐに誤射が飛んで来たので、かわして敵に当てておいた。
ユッキーには声かけない方がよかったかもしれぬ。いやでも一気に押し切るつもりなので火力は増えるの大事だ。
マウス、ガンバル。
ベアちゃんの処理速度が速いし、ベアちゃんが殴った敵は復活しない。
劣勢を悟った山羊ドクロは腰が引け気味だ。これは逃げる可能性もあるぞ。
多分、意識をなくした人間を乗っ取るタイプの敵だから、一度逃がすとまた手駒を補充して、苦労が水の泡になりかねない。
ちょっと強引に行くか。
「ソル、回復用意。ベア、大技用意」
「マウス、あたしはー?」
「誤射禁止!」
「えー、それじゃ攻撃できないじゃん!」
誤射前提の攻撃を改善してから文句を言いなさい。
大分薄くなった冒険者の肉盾を強引に掻き分ける。伸ばされる冒険者の手でダメージが入るが計算内、ようやく届いた山羊ドクロの右腕を掴む。
ふん? 抵抗がほぼないな。
軍勢指揮特化で、近づかれたら詰むタイプかな。
山羊ドクロを引き寄せつつ、すくい上げるように腹を殴り、その体を打ち上げる。
ううん、見目のいい受付嬢が素体なだけに軽い軽い。
よっしゃ、ベアちゃん行くぞー?
そのまま、素直に大技の準備に入っているベアちゃんに視線を向ける。
なにする気なのか不思議がっているが、すぐにわかるさ。
山羊ドクロが目の前にぶん投げられてきたんだから、とってもわかりやすかろう?
「あっ、わあ――!?」
咄嗟に、みたいな感じでベアちゃんが準備していた大技がぶち込まれた。
これまで以上の大発光と共に、山羊ドクロから伸びていた操作用の髪が一斉に燃え上がる。
「たーまやー」
ユッキーの歓声はなんかちょっと惜しい。
いや、綺麗だけどね。
髪がなくなったということは、操られ冒険者達が消え去るということ。
ベアちゃんに殴られて地面に転がった山羊ドクロまでの道は、機甲師団も大喜びの大平野状態。
追撃しようっと。
トリプルインパクトとフルスウィングをつけて殴りかかる。
「アタックチャーンス!」
そこに、とても珍しいことに、絶好の機会を見逃さずにユッキーが鞭を振り下ろして来た。
こういう時にだけタイミングが絶妙に良いところ、マジユッキー。これが他人事なら爆笑して見てた。
しかし、誤射られるのはその俺。爆笑も引きつるわ。
ぬおおお、攻撃はもう止められない。多少の遅延はできるがすでに現時点で鞭の射程内なので意味がない。
ならばどうするか。
咄嗟にブルスマッシュを追加発動、殴る予定だったところを蹴りに変更し、サッカーボールよろしく蹴り上げる。
ボールは友達、つまり山羊ドクロともこの瞬間にお友達!
さっきぶりで空中に打ちあがったお友達は、鞭に直撃の位置。
狙い通りだ。これでお友達に鞭が当たったところで、ユッキーが鞭を返せばマウスに被害はなし。完璧な防御プランであり、マルチプレイらしい連携ではないか。
そんな咄嗟の判断を、ユッキーができないということを除けば、計算通りだった。
ユッキーが持って行ったラストアタックは、マウスのHPゲージもゴリッと削った。
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シナリオ『イデルの解放』をクリアしました。
以下のイベントフラグを達成しています。
『孤児の教導』>『冒険者の先達』>『頼れる師匠』
『冒険者ギルドの闇』>『冒険者ギルド正面入り口』>『黒幕は受付嬢』
『孤高の冒険者』>『男爵令嬢の守護者』>『守護者』
『名声上昇:孤高の冒険者エクスマウス』
『友好度上昇:ベアトリクス、冒険者ガルム、イデル男爵、ヤマ婆、シャロン』
『特殊行動:〝お師匠様〟卓越したその技術を惜しげもなく与え、一人の少女の成長を大きく促した』
『特殊行動:〝今日の依頼は?〟冒険者ギルドに、正面から、単身で、堂々と乗りこんだ』
『特殊行動:〝冷徹なる救出者〟人質の盾を一顧だにせず、しかし人質を無傷で救出してみせた』
『特殊行動:〝我こそ一流〟有象無象の冒険者達を一掃して、格の違いを知らしめた』
『特殊行動:〝コント〟ラストアタックで味方からの攻撃を受けた』
『偉業達成〝受付終了〟冒険者ギルドの異常の原因である受付嬢エメラを討伐し、イデルの街から復讐者達を一掃した』
お? 偉業達成じゃん? 高い評価の割に楽だったと思うけど、どこで判定したんだろうか。
まあ、貰えるものは貰っておこう。ゲームのスコアは多くても腐るものではない。
やったね!




