娘が男友達と旅行に行っていたことを知った男親の顔
――ひたすらに強さを磨き上げて来たその両手、ただ敵を打倒するために振るわれて来たその強さに、今願いを託す者が現れた。願いを守る強さは、その孤高の拳に宿っているのだろうか――
『遺跡の探索の結果、イデルの伝承通りの秘宝と同時に、邪神官ツィーゲに繋がりそうな陰謀が判明した。これを放置すれば、伝承のように世界の危機になるだろう。まずはイデル男爵と話をして、出来ることを見つけよう』
すげえ。
マウスがヒーローポジションっぽく見えない?
世界の危機を前に、ユッキー男爵令嬢がヒロインで、それを守る勇者マウスとか、最高に配役ミスだね。ミスっていうかもはや事故だよ。
自分で言うのもなんだけど、生肉をかじりながら夜通し狩りに励むようなバーバリアンスタイルだよ、このキャラ。
それが男爵令嬢のお相手役ってあなた。
まあ、その男爵令嬢の方も、召使いを電気鞭でしばいて国盗り目指すようなサイコパスさんだけど……あれ、結構お似合いなのでは?
戦慄ものの事実に気づいてしまったが、とりあえずはロールプレイだ。
ゲームにログインしたら、目の前には男爵家のパパさんがなんとも言えない顔をして立っていた。
なんでこんな味わい深い顔をしているんだっけ?
「エクスマウス殿、この度は娘が、大変、世話に……? 迷惑をかけて、かけられ……? いや、とにかく、守ってくれて、感謝を……? その前に、止めてくれれば、もっとありがたかったのだが……?」
そういえば、遺跡探検の前は男爵家へのご挨拶から、ユッキー令嬢との逃避行みたいな流れになってたっけね。そりゃあ、パパさんも味わい深い顔になるわな。
あれだよ。娘さんがお泊り旅行から帰って来た時、その旅行相手が男だった時の男親ってこんな顔するんでしょ。
……普通のお泊り旅行と、危険な遺跡探検だと全然違うか?
感謝すりゃいいのか、激怒すりゃいいのか、大泣きすりゃいいのか。
面白いステータスになっているパパ男爵のナイスミドルの顔が三分割する前に声をかける。
「色々と言いたいことがあるのは、わかったと思う。俺もよくわからん流れでこうなってしまったわけで……いや、まあ、なんだ? とりあえず、ごめんなさい?」
ごめんよ、パパ男爵、俺もよくわからないんだ。
とりあえず、ゲームだからユッキーのシナリオに引っ付いて行っただけなんだ。俺も巻き込まれただけなんだよ。
反省の印として、実際に彼女が出来て、向こうさんのお家にご挨拶に行くことになったら、これを教訓にいきなり遺跡探検とかには飛び出さないことをこっそり誓うよ。絶対だ。
遺跡探検なんて現実じゃありえないからこの誓いは守られることが確定しているので安心して欲しい。
俺の誠意の電気信号が、デバイス経由でAIに届いたのか、パパ男爵の表情が苦渋一色になった。
「うん、まあ、そうだな。こんな喉に物が詰まったようなこと言われても君も困るよな、うん……」
パパ男爵が、目頭を揉んで表情を整える。顔を上げた時、パパ男爵はちゃんとナイスミドルに戻っていた。
「とりあえず、終わった話は後回しにしておこう。娘の、そう、お転婆じみた何か以外にも、頭の痛い問題はあるからね」
「だろうな。とりあえず、執事の、パサン? 彼が何やら最初から裏切る予定で、男爵家を探りに来たようだったが?」
「うむ、私もよもやそんな事態になるとは思ってもいなかった。貴族ではあるが、田舎の小さな男爵家、政争に巻き込まれるはずもなく、陰謀やら何やらとは無縁だったし。この家の伝承とて、実際に役に立つ日が来るとは思いもしていなかったのだが……」
パパ男爵? その話、長くなりそう? 自分、会話スキップ良いっすかね?
心の中のマウスがうずうずし出したが、心の中のシシ丸が「ちゃんと話を聞け社会不適合者!」と叱って来たので、マウスがしゅんとなった。
大人しく、適度に相槌を打ちながら話を聞くと、イデル男爵家は現在所属する王国ができた時からの伝統ある家柄であるらしい。
その昔、王国の前身の巨大帝国があったのだが、でかいお家お決まりの権力闘争が多発していた。
人間三人いれば派閥が出来る。人数も時間も分厚い帝国ともなれば、派閥蛇蝎亀裂ってなもんで、そりゃもうドロドロの歴史があったんだとか。
蟲毒じみた歴史の中、権力闘争に敗れた一派のうち、やたら執念深い連中がとうとうやらかした。
古の邪神よ。我が一族郎党、この血の末裔に至るまで、魂を捧げる。
その代償に、我等の復讐に力を貸したまえ――とかなんとか。
ひっでえカミカゼ呪詛である。
はた迷惑なことに、失うものなど何もない連中が、封印されし邪悪なる存在に声をかけて現世のお茶会にお呼びしてしまった。
放っておくだけで全人類のためになった、という厄ネタのご来場である。
巨大帝国のお茶会は大混乱である。邪神の眷属が人々を襲い、邪神の力を得た復讐者はあちらこちらに取り入ってかく乱工作、世界が混乱すればするほど邪神の力が増して、さらに悪巧みがグレードアップするというマイナス・スパイラルが発生した。帝国終了のお知らせ。
さて、封印される邪神がいれば、封印した善神ありと言う。
この地上のしっちゃかめっちゃかを見かねた神様が、これ以上に邪神が力をつけると再封印も楽じゃねえんだ人間ども責任取れや!ってなキレ方をしたかどうかはわからないが、そっちで出来るとこまでやんなさい、ちょっとだけ力を貸してあげるから、と仰られた。
その神様の力を上手いこと使って、邪神は無事封印。
末裔の魂まで邪神に先行投資した復讐者も排除して、なんとか一件落着となった。
まあ、落着って言っても、邪神騒動で巨大帝国は維持できなくなって、バラバラの細切れになったんだけどね。
最後に、神様は対邪神用にちょっとだけ力を地上に置いて行くことにした。
どうせ人間なんてまた同じようなことするんでしょ?ってことなんだろうね。流石は神様、わかってらっしゃる。
その神様の力があるのが、ここイデルの地で、先日行って来たあの遺跡だ。
あの祭壇の天辺のキラキラしいやつ、ゴッドパワーなんだろうな。納得の気合の入ったエフェクトである。
ここまでパパ男爵の説明を受けて、諸々の情報が合致した俺は目を開く。
「ふーん」
「君、果てしなく興味なさそうだね」
この覆面顔がそこまで的確に見抜かれると、心が丸裸みたいで照れる。
イチジクの葉っぱくらいは装備したいところだ。
そういうストーリー的なやつはユッキーに話しておいて。
俺は右の耳から左の耳まで一直線、驚きの風通しだからさ。ちなみに、多分ユッキーも今回その辺がザルだから、シシ丸かヘキサに言うのがオススメだぞ。
あの二人なら、内容をしっかり把握したうえ、メタ的に今後の展開を読んで対策してくれるよ。
「まあ、巨大帝国が壊れるくらいに危うい状況だ、ということは理解した。邪神の力を受けてそうな連中にも会ったことあるしな」
パサンとかツィーゲとか。ひょっとして邪神の眷属って、あの山羊ドクロの連中なのかな。
てことは邪神も山羊なの? すげえ岩場とか跳ねそうじゃん!
戦場を選べるなら平地だな。あと俺、山羊肉も結構いける口よ。
ええと、それで、なんだっけ?
山羊肉パーティが開催されそうなんだよね。
「タレ派。ちょっとスパイシーなのが特に」
「すまない、マウス君。もうちょっと話に興味を持ってくれないか。割と、っていうか、とても大事件だから」
おや? 真剣に邪神の食べ方を考えていたつもりなのだが?
「男爵殿は、いくらその包丁が名物だからといって、今日どんな料理を作るべきかの相談を包丁にしないだろう?」
「うん?」
「包丁を使うのは、どんな料理にするのか決めて、必要な素材を、必要な形にする時だけだ。今晩のディナーはどんなメニューにしようか。ゲストの好き嫌いを考えると、こういうコースがいいんじゃないか。なんて悩みを包丁にされても困る」
包丁には包丁の役割がある。
いくら高性能な包丁だって、献立を自動で組み立ててくれたりはしない。そういうのは栄養管理アプリとか、冷蔵庫連動お助け献立アプリのお仕事だ。
同じように、キレたジャックナイフことマウスにはマウスの役割がある。
「……どんな料理を作るかは、料理人が決めなくてはいけないね。なるほど、敵の動きを見定めて、どうやって動くかを決めるのは、私達、為政者の仕事か」
「あるいは、軍人でも指揮官クラスかな」
ちょっとあそこに行って暗殺して来い、とかなら俺も喜んで受けて立つけど、長々と状況を説明されても、なんていうか困る。
用途外だぜ。包丁だって困っちゃう。
この研ぎ澄まされた刃は、迂闊に振るうと皆を傷つけてしまうのだ。
どうよ。上手に説明できたでしょ?
料理に絡められた辺り、芸術点高いと思う。後日、そう胸を張った俺に、ヘキサが真面目な顔で批評した。
『自分の仕事範囲を狭めすぎるのはよろしくありません。掃除もゴミ出しもせず、家事をパートナーに任せきりで一方的に負担を強いるダメな夫の発想に近いです。共同生活を破綻させてしまうのなら、社会不適合者と言われても仕方ありませんよ。本当の包丁なら餌もいらないので納得もしますが?』
恐怖を感じる冷ややかさでたしなめられたので、もうちょっと頑張ろうと思いました、マル。
広い世の中、家事シミュレーションゲームなるものもあるから、今度プレイして料理洗濯掃除を覚えます。
いやしかし家事シミュレーションゲームの存在を知った時は二度見したね。世の中広すぎである。四次元じゃなくて五次元になったのかと思った。
でもあのゲーム、実際は何をして遊ぶんだろうか。
家事を片付けるタイムアタックでもするのか?




