マウスもおだてりゃドラゴンを殴る
古代遺跡につきものの迷路とかもクリアしたよ。
分かれ道の度に、ユッキーとジャンケンして勝った方が選んだ道に進む方法を取った。
割とスムーズに抜けられたと思うけど、実際の迷路の規模がわからないからなー。
途中、例の古代文字の謎解きがあったから、ちゃんと回答したよ。
直後、迷路の罠が全部起動したっぽいんだけど、迷路を突破できたんだから多分正解だったんだろう。
「で、まあ、順調に、何の問題もなく、謎の古代遺跡の攻略は進んでいるわけだが」
一度もデスってないなら超順調、問題なし。
しかもこれ初見だからね。割とスーパープレイじゃない?
「ゴールはまだかい、婆さんや?」
「さっき攻略始めたばかりでしょ、爺さんや」
お約束のやり取りが完成したので、イエーイとハイタッチをする。
「で、実際のところは?」
この手のダンジョン探索は、攻略目安の情報が手に入るようになっている。
数日がかりでやるような探索になる場合、パーティメンバーの都合とかあるからね。その点、ソロは自分の都合だけでいけるから楽よ。
「わかんない! うーん、遺跡の深さに関する情報とかどっかにあったかなー?」
これはユッキー見落としたな。
ユッキーにはよくあるやつ。この子、人間関係とか情緒的なストーリーには食いつくけど、攻略情報的なもの、特にメタ的な情報は目が滑るタイプだ。
「そうかー。まあ、これ以上長くなるようなら、休憩エリアが用意されているだろ。そこで一旦止めよう。ユッキー疲れて来ただろ?」
俺の提案に、そだね、とユッキーも頷く。
俺みたいなヘビーユーザーと違って、ユッキーはライトユーザーだからな。あんまり長時間のゲームプレイは得意ではない。
まだまだ先があるようなら、そろそろ今日のプレイは切り上げ時だろう。
それにしても、進む古代遺跡の通路が怪しい雰囲気になって来た。
迷路の頃からちらちらと見かけたんだが、なんか山羊ドクロ達の遺骸がオブジェクトとして配置されているのだ。
もちろん、俺達が倒したものではない。背景としてマップに配置されていた感じだ。
大抵、近くには熊の石像(例の動く奴)が壊れている。
こいつら戦っている、という意味なんだろうか?
俺とユッキーからしてみれば、どっちも敵同士なわけだが、何らかのシナリオの香りを感じるぜ。
「なあ、ユッキー。マジでこの遺跡ってどういうやつなの? ちらっと話は聞いたけど、どうも思ったのと違う。守護神がどうたら言ってたけど山羊ドクロがいるし、あの熊の石像と戦ってるっぽいし」
「うーん、今回はマウスに追いつかなくっちゃって巻きで進めちゃったからね。本当に頭に入ってない。ちょっと待ってね。男爵令嬢メモを見てみる」
いわゆるログを漁り始めたユッキーに、これを後で知ったらシシ丸が怒り狂うだろうな、と思う。そういうのはダンジョンアタック前に見ろよ、っていう。
でも俺は考える前にとりあえず殴ってみる派だし、ユッキーも考える前にとりあえずやってみる派だ。
「あー、んー? この辺の土地の、守護の遺跡、かな? なんか、昔にすごい災いが起きた時に、ここの人達に神様が解決手段を与えたみたい」
「ほーん? その神様が熊の顔しているのかな?」
石像の熊さんを見て呟く。
「熊さんが崇められてる気配がするから、そうなのかなって感じ。で、また同じようなことあったら、この遺跡の中に解決手段はまだあるから、それ使ってガンバ! とかなんとか、そういう言い伝えが男爵家に伝わってます」
「すごい災いへの対抗手段が保管されている遺跡を、興味本位で見に来ていいんか、男爵家の一族」
「本当に残っているのかどうか、定期的に調査しなくちゃダメじゃない? いざって時に頼って、中に何もありませんでしたーとかヤバイでしょ。男爵家の一族として維持管理業務だよ」
なるほど、ごもっとも。
というか、ゲーム的なことを言うと、それがユッキーのシナリオなんだから、そこで理屈をこねて遺跡に来なかったらゲーム進まないんだろうな。
エタソン神が別なルート用意するとは思うけどさ。
「てことは、熊の石像の方は遺跡のギミックか。それが襲いかかって来るのは防衛システムなんだろうから……つまり、山羊ドクロが侵入者か」
「あたしやマウスと一緒ってわけだね!」
「何を言っているんだユッキー! 俺達は知的にギミックを解き明かしてここにいるじゃないか! 無様にギミックに潰された低能と一緒にしたらダメだろう! ふん、この程度の遺跡で倒れるような下手くそは同じ人間とも呼べんな!」
「そうだね。モンスターだから最初から人間ではないね」
そういうことである。もっと言うとNPC……背景の置物だしね。
ま、人工知能に人権があるのかないのかは、哲学や生命工学に任せようではないか。適当な単語を思いついただけだから、その学問の管轄内なのかは知らんけど。
「さて、この遺跡がなんであるのか、大体わかったような気がするところで、次のチェックポイントに到着しました」
「うーん、大広間」
いかにも最深部手前です、って感じの大広間についた。
熊の石像がすごいデカイんだけど、流石にあれが動いたりしないよな。いや、動いたら動いたで喜んで殴るけど。
「一応ここも休憩エリアっぽいけど……どう見てもあの大扉の向こうでこの遺跡は終わりそうじゃね?」
「お宝ありそうだね!」
そのお宝、ボスモンスターが守ってるもんじゃないっすかね。
いや、俺にとってはボスモンスターもお宝だけどさ。金銀財宝よりバトルが好き!
金で出来たゴーレムとか最高だな。
「どうするユッキー、ちょっと休憩して、あの大扉の向こうにアタックして終わる?」
「いいね! ちょっと夜更かしになっちゃうけど、マウスとの夜更かし楽しい!」
そういうことになりました。
****
大扉を開けるとなんか祭壇みたいなものがあった。
宝物庫ではなかったけど、そういえば古代神殿とか言っていたから、ご神体とか、神様由来の何かが最奥で眠っているのは至極当然だな。
小さいピラミッド型の祭壇の天辺に、神聖な光をまとった水晶玉みたいなものが、これ見よがしに浮かんでいる。
我こそ神秘の一品ぞ、みたいな自己主張だ。わかりやすくて好きだよ、俺は。
問題は、その水晶玉みたいなものを欲しそうな誰かがいたってことだな。
祭壇の階段前、男っぽい背中が振り返る。
「ちっ、もう来たんですか」
人に向かって舌打ちするとか教育に悪いんでやめてくれませんー?
俺の隣にいるのは男爵家のご令嬢なんですけどー?
護衛としてはお嬢様の教育に悪そうなのは血祭りにあげてぶっ飛ばさないといけないなー?
肩をぐるんぐるん言わせながら笑顔で詰め寄ろうとすると、隣のお嬢様がぽろりと言葉を漏らした。
「あれ? ひょっとしてパサン?」
知っているのか、ユッキー!?
NPCの前なので、エクスマウスとしてのロールプレイを発動、キャライメージを壊さないよう小声でユッキーにボケると、こっくりと頷かれた。
「うちの使用人だよ。執事の一人で、あたしが地下書庫で探検するのを応援してくれてた人」
「ふむ? その使用人が、今目の前にいる、と」
そう言われてみれば、服装が執事だな。
ちょっとラフに緩めてあるけど、ちゃんと襟元締めたりすれば、あの男爵家のお屋敷にいても違和感がない。
この遺跡にいるには、すごい違和感あるけどな。もっと冒険に相応しい衣装にしてくればいいのに。
「で、そのパサンがこんなところで何やっているんだ、という話になるな」
「そうだね。色々と事情はあるのかもしれないけど……大事なところだけ言えば、つまり」
男爵令嬢の顔に、切なさと憂いが染み入る。
「――そういうことなの?」
「お転婆お嬢様のくせに、妙なところで勘がいいのは変わりませんね」
忌々しそうな声でユッキーに嫌味を言われると心が荒むからやめてくれない?
荒んだ分だけ力を込めてその顔を殴るぞ。
『ところでユッキー? そういうこと、っていうのは、つまりどういうことだ?』
『ふっふっふ、それはだね。こういう風に思わせぶりな台詞を言って相手に会話の順番を渡すと、あっちから色々喋ってくれるから、それを期待してテキトーに言っただけ』
『ええ? いつの間にそんな高度な話術を覚えたの?』
『ぷれぜんてっど・ばーい・シシ丸! ぶっちゃけ、パサンの事情とか思惑? その辺はさっっっぱりご存じないよ』
力強く断言して、でもまあ、とユッキーのチャットは少しばかり続きが遅れた。
『この流れだと、敵対するんでしょ。お屋敷じゃ親切な人だったんだけどねえ』
シシ丸仕込みの話術か、納得。あいつゲーム部員から結婚詐欺師とか呼ばれることもあるからな。
実際、ギャルゲーで落とした女は数知れずだからなー。
で、内緒話の裏でパサンの独白が垂れ流しになっている。
どうやらお屋敷では親切だったらしい人は、その親切はユッキーにこの古代神殿の場所を探らせるための誘導だったそうだ。
シシ丸仕込みのユッキー話術に、パサンはまんまと引っかかったようで、説明を垂れ流してくれる。
『ほへー、そうだったんだー』
『感心してる場合かー? ここは男爵令嬢としてショックを受けて目を潤ませるところでは? ムービー入れよう?』
『いや、隣にマウスがいるから、ガチ泣きしないように心の焦点をそらしてるの。パサンはなんやかんや優しいお兄さんキャラだったし、お付き侍女のお姉さんの次くらいに思い入れがある……あ、やばい泣けてきた』
ユッキーの目が潤み出した。
相変わらずシナリオシンクロ率が高いなー。
パサンは、自分の目的のために男爵家に潜入したのだが、その男爵家を中心にこの国自体を恨んでいると叫んでいる。
一見優しくしていたけど、男爵家の令嬢ってことでユッキーのことも大嫌いだったんだってさ。
「じゃあ、パサンが言ってた、故郷を盗賊に襲われて失ったっていうのも嘘? できれば、故郷の皆の分まで幸せに生きたい、っていうのは」
ユッキーが、パサンの重い過去話を暴露する。
ほへー、そうなんだー。
「いいや、それは本当ですよ」
パサンの声は、潮のように引いて、潮のように寄せ返して来た。
「その盗賊こそ、お前達の国。俺達は、かつてお前達に滅ぼされた亡国の末裔なのですよ!」
ということは、パサンの目的は復讐ってことか。
ふーん。
元々シナリオスキップ勢だが、その中でも特に俺の心に響かないシナリオだ。
どうにも、復讐っていうのは共感できない。
まあ、俺もゲームで負けると次は絶対勝つってハッスルしちゃうから、似たようなもんだろって言われたら上手く説明はできないけど。
少なくとも、俺はゲームでの負けは同じゲームでしか引きずらないようにしている。
男爵令嬢ユッキーのオマケとして空気になっていたら、突然ゲーム的選択肢が俺に突きつけられた。
「そこの冒険者! あなたは元々この国の人間ではないのでしょう? こちらに手を貸すなら、あなただけは見逃してあげてもいいですよ」
世界の半分をお前にやろう的な選択肢だ。
ゲームやっているとよく聞く。その度に、俺は思うのだ。
「あ゛? あげても良い、だと?」
なんだその上から目線?
そっちの方が格上だってか? 魔王ですら世界半分を取引に使うのに、お前は命一つかよ。
しかもそれ俺の命なのに何勝手に取引してんの? 頭が高いし、もっと俺の利益を出せよ、交渉下手か。それとも俺にはそれで十分だってか?
よーし、それで等価になっているか試してみようぜ。
お前絶対泣かしてやるわ。
まあ、そもそも、パサンの目的じゃ俺のモチベーションは急転直下である。
「お前の目的は復讐なんだろ」
その通りです、と答えたパサンが、かつての因縁を語ろうとしたが、鼻で笑ってやった。
「簡単に言うとな、俺は復讐ってのが嫌いだ。俺は昔から強くて、お前みたいに負けて復讐する側じゃなく、勝って復讐される側だったからな」
エタソンのゲーム内の話じゃない。
言っちゃなんだが、俺は昔からゲームが上手かった。周囲の同年代と比べて、明らかにゲームが強かった。
普通に考えれば悪いことじゃないはずなんだが、小学生くらいの子供にとって、楽しいゲームでボッコボコに負けると面白くはない。
俺もその辺を察するのとか、程々に手加減するとか、下手な人間だった。
ただただ、ゲームで勝つのが楽しかったから、勝ち続けた。
結果、当時一緒に遊んでいた友達的な存在と、ゲーム外でちょっとした揉め事になった。
俺がマルチプレイ苦手になった原因だ。
相手がどう思っているかはわからないが、ゲーム内ルールに則った勝敗について、ゲーム外で復讐されたと俺は感じている。しかも、無関係な俺の周りの人間も結構迷惑をこうむった。
ゲームのシナリオとはいえ、俺が復讐という行為にいまいち共感できなくなるのも、仕方ないだろう。
「お前にとったら、俺の復讐嫌いなんて知ったことじゃないだろう。それはお前の復讐に対する俺の気分も一緒だ。お、なんだか気が合うな? 肩を組んで仲良く歌うか?」
笑いかけると、パサンは嫌そうな表情を作ってさらに笑わせてくれる。
パサンにも、エタソン神によって用意されたあれこれ理由や事情があるんだろう。
でも、それって逆恨みに理屈をつけてこねくり回しているのと、ちゃんと区別つくの? 理屈をこねすぎて白黒混じって灰色になってない?
正当な――仮に真正の正否があったとして――復讐だとして、本当に無関係の人間を巻きこんでいないって言えるのか?
そんな突いた端から崩れそうな灰色の大義名分で、俺のゲーマー仲間のユッキーを泣かそうってんなら、いいぞ。
復讐される側を勝手に代表して、お前の復讐、俺が踏み潰す。
「このマウスが守る男爵令嬢ユキ・イデルを泣かしたんだ。ユキが泣き止むまでお前を殴り倒してやるよ」
会話フェイズ終了、バトルフェイズ突入だ!
即行魔法真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす!
もちろんテンションから出まかせで、そんなスペルもスキルない。
『キャー、マウスかっこいい! えー、やだ、意外とロールプレイ上手? 今の台詞絶対にリピートする! ご馳走様!』
護衛対象の涙はもうすでに引っ込んだみたいだけど、とりあえずパサンは殴り倒そう。
女の子にカッコイイって言われて嬉しくない男はいないからね、お礼に経験値をプレゼントするんだ。
豚もおだてれば木に登るって言うだろう?
マウスはおだてると竜だって殴るし、経験値と財宝と素材を持ち帰って来るのだ。
マウスはすごい。




