愉快なゲーム部員3
「やあやあ、マウス! お金は溜まったかな!」
翌日、部活で顔を合わせたユッキーが、笑顔で俺の貯蓄額を聞いて来たので、ゼロ、と透明感のある笑顔で返しておいた。
化粧品のCMのオファー来たらどうしよう。
「えっ!? なんでそうなったのさ!」
「いや、どうもエタソンの神が遊んでるみたいでさ」
事情を話すと、ユッキーを含め国盗りメンバー達も頷いてくれた。
なお、めっちゃ楽しそうな笑顔がセットだ。
「なるほど。それはなんかあれだね、確かに神が遊んでる感ある。人生ゲームかな?」
「こ、これで、最初のシナリオから、三回目の全財産没収イベントですね、ふっ、ふふっ」
「ヘキサがツボってやがる。でもまあ、確かに面白いことになってるよな。蛮族、貨幣経済って知ってる? 物々交換から進化したすっごく便利な奴なんだけどさ」
「宵越しの銭は持たねえってやつですね!」
皆ゲーマーで何より!
プレイスタイルは違えど、楽しもうという姿勢は一緒だぜ!
「俺もちょっと楽しくなってる。これからもエタソンの神が用意してくれたら、積極的に全財産を投げ捨てていく所存だから、期待してくれ」
親指立てて宣言すると、国盗りメンバーも揃って親指を立ててくれる。
ますますゲームが楽しくなるな。
さて、今日は学校の部室で集合ということは、全員が第二シナリオをクリアしたということだ。
それぞれの進捗を確認する。
主催者のユッキーは、ようやく冒険の準備が整ったらしい。
「いやあ、商会とこっそり連絡を取って装備を整えて、地下書庫で見つけた地図と今の地図を照合して、令嬢教育だ何だと妨害してくる侍女や執事を欺いて逃げ回って、やっとここまで来たよ。いざ冒険の日々へ!」
こういう話を聞くと、本当に同じゲームしているとは思えないな。俺なんて「たたかう」コマンドを連打しているだけだもん。
ユッキーのゲームは、探索モノっぽくなって来た。
最初は潜入モノっぽかったのに、こう遺跡探検に向かうトレジャーハンターみたいになっている。
次の報告はシシ丸だ。
「こっちも根回し完了ってところかな。いよいよ本格的な社交界デビューに向けて、盛装を作って、賄賂用の商会を選んで、コネを繋いで、いざ戦場へって感じで終わった。マウスの注意は空振りだったけど……ちょいちょい不穏な話がこっちにも出て来た。あちこちで貴族関係者が襲われたとか、後は――」
そう言ってシシ丸が目を向けたのは、ヘキサだ。
「騎士団の噂が、そちらに? ええ、各地の騎士団が、それぞれ戦闘を行ったようですね。私も自分のところのもの以外、報告や噂でしかわかりませんが……うちは少々手こずった、程度で乗り切りましたが、痛手を被ったところもあるようです」
ちなみに、相手は山羊の黒ドクロが主体のようです、とヘキサは俺に頷く。
各地の騎士団が戦ったとか、あいつら、どんだけ繁殖しているんだよ。いや、邪霊が憑依する云々だから、繁殖とはまた違うんだろうけども。
寄生? ゾンビパニックかな。
ヘキサの報告を聞いて、シシ丸が腕組みをして面白そうに唇を捻じ曲げる。
「どうも、黒ドクロの暗躍が始まっているっぽいな。貴族関係者への襲撃による政情の混乱、騎士団への攻撃による治安の不安定化。どっかの誰かが国家転覆でも企んで――」
シシ丸の言葉に、国盗りの野望を抱くユッキーが堂々と手を上げた。
ああ、うん、ユッキーは国家転覆を神様にリクエストしたんだもんね。ある意味、企んだ誰かだよね。
「いや、ユッキーもそうかも知れないけど、あの黒ドクロを裏で操っているとか、そういうのはないだろ? ユッキーは魔王プレイじゃないんだから」
「まあ、そうだけども、ここは手を上げるべきかなって」
愉快なゲーム部員なら絶対に上げるべきところだったので、俺は親指を立ててユッキーの行動を評価する。
イイネ!
ユッキーは照れ臭そうに笑った。
隙あらば横道にそれて遊び出す俺達を、シシ丸は、とにかく、と声を出して正規ルートに呼び出す。
「ユッキーの言う国盗りのことを考えると、この混乱が国家規模に波及して、そこにどうにか俺達が絡んでいく、みたいな流れるになるんだろう。国を救うのか、弱った国にとって代わるのかはさっぱりだけど……いや、そこはプレイヤーの動き次第かな?」
そういう難しいところはシシ丸とかヘキサとか、後はホストのユッキーに任せるわ。
殴って良い相手が決まったら教えて。王様だろうが、ドラゴンだろうが、魔王だろうが、許可さえくれたら殴りに行くから。
コーラ片手に、俺はいつか来る戦いへの英気を養うのであった。
「あ、お塩はどうだった? なんかほら、カッコイイマウス先輩にそっくりのグッベアーがいたんだろ?」
「はい! 可愛いのに素手でビシバシ戦うんです! 孤児院で一緒に遊んで仲良くなりました! 今度、その子とパーティを組んで冒険者として活動する約束なんです!」
「ほほー、なるほど。タイミングが合えば付き添ってやりたいところだな。東の森にも、西の川の方にも、黒ドクロがいたから気をつけろよ。まあ、西の川の方は俺が倒したら出なくなってたけど、いつどうなるかわからないから、状態異常を回復する手段は多めに持つと良いぞ」
「わかりました! 状態異常を回復できる魔法を覚えて、ベアちゃんを援護しますね!」
良いご返事だ。
ベアちゃんにしっかり守ってもらうんだぞ。マウス先輩にそっくりのカッコイイグッベアーなら、きっとやってくれるに違いない。
お塩の頭を撫でていると、ユッキーが頭を突き出して来た。
「ちょっとちょっと、二人だけでずるい! マウス、マウス、そのそれ、グッベアーってやつ! なんか気になる発言してたじゃん? あたしならハンカチ噛んで悔しがるとかなんとか!」
「うん、したした。ユッキーが好きそうなやつがあってさ」
俺が携帯端末を手に取って、スクショを用意しようとすると、ユッキーもすかさずハンカチを用意した。
「ハンカチ噛んで悔しがるためにハンカチ用意しておいたよ!」
「流石だぜ、ユッキー!」
愉快なゲーム部員はこうでなくっちゃなあ!
俺もテンション上がっちゃって、端末の小さい画面じゃ役不足だと、大型ディスプレイと端末を同期させる。
「ふははは、刮目せよ! このマウスがすんごい久しぶりにゲームで戦闘以外を楽しんだ結果を!」
オラァ!
これが木彫り界のレジェンド・スター、熊さんの雄姿だ!
渾身のショット、「鮭を咥える森の熊さん」を大型ディスプレイに表示したら皆が一斉に吹き出した。
巻き添えで国盗りメンバー以外のゲーム部員も吹き出した。何人かがテーブル汚して笑われながら怒られているくらいのクリティカルショットである。
「熊っ、くまっ、なんでっ、くま……!」
「んははは! すげえ、熊と触れ合ったのかお前! 蛮族度が爆上がってもはや野生じゃねえか!」
「ふっ、ふふっ、うふっ、ふふふ……! ポーズ、完璧っ、ふふふふ……!」
「わあ、可愛い! や、カッコイイ? ベアちゃんみたいですね、わあ、すごーい!」
待ってお塩、この熊みたいなベアちゃんって本当にグッベアーみたいなイメージになってすんごい気になって来た。
後で、お塩からベアちゃんのスクショを送ってもらおう。
ちなみに、一番ツボったのがヘキサである。口とお腹を押さえて突っ伏してしまった。
ヘキサ、撃沈せり。繰り返す、ヘキサ、撃沈せり。ヘキサはテーブルの水面(固体)に沈んだ。
よーし、こいつの火力は中々じゃないか。他にもスクショ一杯あるからもっと戦果を挙げるぞ!
次々ディスプレイに写真を送りつけて、マウス氏による熊写真展をゲリラ開催すると、他のゲーム部員も参加して皆でゲラゲラ笑う。
途中、思い出したユッキーが本当にハンカチを齧って「悔しい!」って叫んだのは最高だったね。
ヘキサが海底(床)まで沈んだよ。
シシ丸がそっと介護に向かった。




