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プレイヤーズ  作者: 雨川水海


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19/61

早い安い強い

 いや、逆鱗がこんなに固いなんて聞いてないから。

 卑怯でしょ。逆鱗もっと柔らかくしておいて。

 お酢で煮込めば口の中でとろとろに崩れるくらいになりそうじゃない?


 七回目の逆鱗攻めは、もはや作業だ。

 脳内でモンスターお料理教室が始まっちゃうよ。

 鱗の角煮みたいなものを想像してたけど、考えてみたらパリパリの煎餅みたいにした方が美味しそうじゃない? 骨煎餅とか、鮭の皮みたいな。


 冗談はともあれ、回復ポーションが切れそう。タイムリミットが近い。

 しかし、サーペントの方も、逆鱗にヒビが入って来ているから、チキンレースみたいになって来た。

 問題は、ブレーキを踏んでも止まれるかわからないってことだけど。

 スタミナ管理、敵のモーション監視、効率的なスキル運用、HPゲージの注意、アイテム残数の確認を並行しているせいで、お腹空いて来たなーという雑念くらいしか頭に浮かばない。


 そんな状況を一変させる手応えを、アバターが受け取った。

 砕け割れる逆鱗の感触。脳内から思考が一掃される。

 新品ノートの一ページ目のような頭の中、描かれる文字はたった一つ。


 必殺かならずころせ――割れた鱗の奥、薄い皮に覆われているのは、熱く脈打つ真っ赤な心臓だ。


 クリアになった思考で――そういやファイアドレイクも逆鱗の下には心臓があったなーと気づく。ということは、このゲームの竜種の逆鱗というのは、心臓を守るためのものなんだろう。

 そりゃ堅いわけだ。

 納得しながら、勝利に向かって貫手を突き立てた。


 生きようと足掻く心臓を、征服者としての覚悟を持って握り――いや、まあ、ゲームでそんなリアルな感触があるわけないので、いつものクリティカルの手応えが、ちょっと強めってだけだよ。

 背骨までズシンと来る心地良さ。


 エフェクトと共にデカイ蛇が消失していく。

 さらば、貴様もまた戦友だった!


 相変わらず、逆鱗さえ攻略すればあっという間だ。

 しかし、パターンに入ってから七度ループした。あれなら逆鱗以外を攻めた方が楽だった可能性もない?

 逆鱗が硬かったのは、実質あれを突破すればHPが一になるからなんだろうか。


 歯応えのある戦闘ができて大満足だけどさ。

 ドロップアイテムも、ボーナスエネミーらしくたくさんくれた。


 回復アイテムもほぼ使い切ったことだし、一度、街に戻るとしよう。



****



「まあ、エクスマウス様。今度のご来店はお早かったですね」


 毎度お世話になる予定のスクイ商会に行ったら、シャロンさんは、淑やかに歩み寄りながらも揉み手が見えそうな笑顔で出迎えてくれた。

 一度会っただけですごい好感度が上がってない?

 確かに結構な買い物したけど、この商会の規模なら個人の買い物なんて安い物だろうに。


「また狩りの成果を売りに来た、んだが……そういえば、ここはそういう売り買いの場じゃないな? 普通に売買する店舗の方に行った方がよかったな」

「まあ、お気遣いありがとうございます。ですが、問題ございませんよ。エクスマウス様は、これからもこちらにお越しくださいませ、歓迎させて頂きます」

「迷惑でないならいいのだが……」


 前も使った個室に案内しながら、とんでもございません、とシャロンさんは綺麗な営業スマイルを見せる。


「腕利きの冒険者であらせるエクスマウス様が、直接素材を持ち込んでくださるのです。この待遇は、いつか大物を持ち込んでくださるものという期待の表れでございます」

「あ、なるほど」


 めっちゃ素で納得したわ。

 前々世のマウスみたいな大物仕留めた時に、優先的に買い取りしたいのね。

 面白いNPCだなー。商売系のロールプレイする人も、こんな風になるんだろうか。


「そういうことなら、多少は期待に応えられそうだ」

「流石はエクスマウス様、楽しみにしておりますわ」


 シャロンさんは、「今度大物を狩って来る」という風に聞こえたようだが、俺は「今持っています」というつもりで言ったのだ。

 口で説明するよりも、俺は現物アイテムリストをテーブルの上に叩きつけてやった。

 ……もちろん、比喩であって、実際は普通に差し出しただけだ。こう、学校のテスト結果を親に報告する時みたいにね、すっとテーブルの上に差し出すの。


「では確認、をぉっ!?」


 わはは、シャロンさんの綺麗な顔がびっくりしてリストとマウスの顔を往復している。

 超楽しい。

 いいよね、こういう反応はすごく気分がよくなる。


 アイテムリストをレア度順に並び替えして、わざとトップに表示させておいたのは、あのサーペント君の素材一式だ。

 名前はシーサーペントだった。

 川にいるのにシーとはこれいかに。エタソンのシーサーペントは鮭に似た生態でもしてるのか?


「こ、これ、これ! え、エクスマウス様、これは一体どちらで!? どちらまで狩りに行かれたのですか!?」

「西の森の川辺で襲われた。この辺にはこんなのいるのか、と驚いたが……普通はいないようだな?」


 すっごいびっくりしてるもんね。

 まあ、川からシーが出て来るとか、そこもちょっとおかしい。

 このゲームなら、内部データは同じでも名前くらい別にして、川に出て来るに相応しいモンスターを登場させるだろう。

 大雑把な俺でも、リバーサーペントにすりゃいいじゃん、くらいは思いつく。


「い、いませんよ、シーサーペントなんて海の魔物。ここはかなり内陸ですから、素材だって滅多に見ないくらいで……。いえ、そもそも、亜竜クラスとはいえ、竜種だなんて」

「こいつなら、大物とまでは言わないが、小物でもないだろう?」


 エタソンだと、サーペント級は竜種としては一番の小物らしい。

 昔は蛇に間違えられていたとか、そういうフレーバーテキストがあった。ドレイク級になれば、大物だって胸を張って言えるようだが。


「え、ええ、ええ、もちろんですとも。ここは内陸部ですから、希少価値もつきます。これは職人達も活気づきますよ」

「その分、商会もにぎわうというわけだな。多少は恩返しが出来たかな?」

「それはもう! これからも是非、当商会とのお付き合いをお願いいたしますわ!」


 わーい、すごく好感度が上がったぞ。シャロンさんがマウスの手をぎゅっと握ってくれた。

 買取価格ももちろんご機嫌な額だ。強敵を倒したボーナスが入った感じ。

 早速、回復アイテムを補充して、鎖分銅も買っておこう。


 念願の鎖分銅を手に入れるぞ!

 後で練習しなくちゃ!


「ところで、エクスマウス様?」


 俺がアイテムリストの鎖分銅をクリックしようと指を伸ばすと、シャロンさんがニコニコと楽しそうな笑みを浮かべていた。

 これはあれだ、前に捕食者セット装備で全額を巻き上げられた時と同じ笑い方だ。高級スイーツを独り占めする女子の顔。

 可愛いけど恐い。


「前回お買い上げ頂いた装備品、捕食者の装束と牙の使い心地はいかがでしょう?」

「それは、中々気に入っているぞ……?」


 恐る恐る正直に答える。

 え~、なあにぃ? 嫌な予感がするぞー。

 具体的には、所持金の表示がゼロになりそうな予感がするぞー。


「どのようなところが、お気に召しました?」

「攻撃力上昇効果が、俺のスタイルに合っている感じだ。クリティカルの方にもかなり助けられたな」

「ふむふむ。エクスマウス様は、攻撃を重視されるタイプということでしょうか?」


 そうだよ。殺られる前に殺れ、アイテム消費前に殺れ、罠が閉じるより先に殺れ、早い!安い!!強い!!!がモットーの超攻撃型の蛮族スタイルだよ。

 俺のプレイスタイルを見たシシ丸が名付けてくれて、結構気に入っている。

 英語表記をカタカナで読めばバーバリアンスタイルだよ。


 かっこよくね?


「では、エクスマウス様、その捕食者装備を作った職人に、いくばくかの投資をしてみませんか? 上手く行けば、エクスマウス様のスタイルによりマッチした特注品が手に入るかもしれませんよ?」


 ピッと音を立てた販売品リスト、その先頭に、所持金全額と同じ数字が書かれた商品が太字で表示された。


『職人への投資(ユニーク装備の強化)』


 俺は一体いつになったら鎖分銅を手に入れられるんだい、エタソン神――!!


 心の中で叫ぶ俺の所持金は、再びゼロになっていた。

 だって、メインウェポンの強化はやっぱり優先度高いし、どうしてもこういうイベントは回収したくなるじゃん。

 ユニーク装備だよ、ユニーク装備!

 ゲーマーなら絶対に食いつく釣り餌だよ。


 なんつーか、エタソン神が俺の財布を狙い撃ちにしてくる。

 神、俺からお布施を巻き上げる遊びでも始めたの?


 鎖分銅が遠ざかった落胆と、ユニーク装備の強化という愉悦。

 俺は口元が緩むのを感じた。エクスマウスは覆面だから外には漏れないけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 >お酢で煮込めば口の中でとろとろに崩れるくらい その感覚がステキ 鱗は油で揚げて塩かけるといいと思うよ お塩さんの出番ざます > 俺は一体いつになったら鎖分…
[一言] いやこれ元凶はエタソン神じゃなくて利益を搾り取ろうとするシャロンさんなんじゃw
[一言] これもうアレだ。マウスとエタソンの神が相思相愛な気がしてきた。
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