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プレイヤーズ  作者: 雨川水海


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18/61

お金がないなら奪えばいいじゃない

 さて、お金がすっからかんになったから稼ぎに行くぞー!

 新装備の試し切りとも言う。


 意気揚々と向かうは西の街道。

 もうイベントもないやろってことと、星見トカゲがやっぱり欲しいので同じ場所にやって来ました。


 現れたゴブリン君に挨拶代わりに貫手をかます。心臓部分を刺突されたゴブリン君は、哀れクリティカルの餌食になった。

 新装備の「捕食者の牙」は、指先の方が尖った爪状になっている。

 獣の爪みたいに使えば斬撃属性になるし、貫手系の攻撃モーションだと刺突属性もつく。もちろん、拳を握りこめば打撃属性だ。

 これで、基本的な攻撃属性をこの身一つで使い分けできる。全物理耐性とかいう卑怯な能力持ちでなければ余裕だ。

 素手こそ万能な戦闘法よ、ふはははは!


 なお、武器のデザイン的に、拳を作ると掌に爪が食い込みそうなのに、自傷ダメージがないのは実にゲーム的な処理だよね。

 はい、文句はないです。

 流石に、引っ掻きと貫手専用装備とか言われたら、個人的に産廃扱いかなぁ……。いや、攻撃力補正によっては、打撃は蹴りが使えれば、あるいは使いこなせるか?


 そういう武器はそういう武器で面白いなーと思いながら、次のゴブリン君の首を引っ掻きモーションで攻撃する。

 これもクリティカル、ゴブリン君は倒れた。

 なんか、前に来た時はぼっちの敵が多かった西の森、群れが出現するようになっている。

 ただし、山羊ドクロはいない。ガルム先輩襲撃用に準備されていたイベントエネミーだったのかもしれない。


 山羊ドクロが不在の難易度を補うためか、ゴブリンも、ゴブリンソルジャーとちょっと強くなっている。

 でも、こっちも装備更新をして強くなっているから、結果的に変わらない……どころか、現状一番良い装備(多分)なので弱く感じるほどだ。捕食者装備の攻撃力向上効果が良いお仕事をしている。

 この装備、セットだとなんとクリティカルダメージも上がるんですよ!


 あ、狼君だ。

 ちょっとモフらせておくれ~。ダメ?

 手を伸ばしたら、噛みつこうと飛びかかって来た。さっと手を引いてガチンと閉じた口をキャッチ、そのまま頭から地面にご案内。


 この狼君も強くなっている。前ははぐれ狼だったのが、群れ狼になっている。

 三匹くらいが連携してじゃれついてくるのだ。

 ヨーシヨシヨシヨシ!(殴る蹴る投げる)


 お友達ができたんだ、よかったね。

 ところで俺はまだソロなんだ。友達を作るコツとかある?


 俺は真摯に尋ねたんだけど、狼君はドロップアイテムになっていて答えてくれない。

 そうか、まずは殴るのを止めるところからだと言いたいようだ。覚えておこう。


 登場エネミーのうち、強くなっていないのは多分、鹿君だけだろう。

 あの子だけは山羊ドクロがついていないとアクティブエネミーじゃないようで、こちらを見ると逃げてしまう。

 生肉が欲しいから追いかけっこしたよ。

 俺が勝つ。


 スキルの「スプリントステップ」は、短距離を小刻みに駆けるから、木々を縫うように走れる。

 効果時間が短いから短期決戦用だけど、鹿君との追いかけっこはそこまで難易度が高くない。逃げ始める間合いを覚えれば、そのギリギリからスキル発動で余裕です。

 エネミーを片っ端から倒していく。

 お金稼ぎとしては問題ないけど、もうちょっと歯応えが欲しい。あれ、この前もこんなこと言った気がするなあ?


 木の洞を調べて蜂の群れから蜂蜜を手に入れたり、川の中を調べて川魚を手に入れるのも忘れない。

 これでまたあの熊に会っても大丈夫だ。川魚は多めに確保しよう、と川辺をてくてく歩いていると、水面が騒ぎ出した。


 この反応は覚えがあるぞ。

 川魚好きの熊さんが、また川で狩猟しているのかな?

 ポケットに手を突っ込み、川魚クイックドローの準備をしながら待ち受ける。

 もちろん、スクショの準備もしておく。


 準備万端で待ち構えていると、川の変動がいよいよ大きくなる。

 水面が波打ち、水が溢れ――なんか、水面の下の存在、大きいというより、長い予感。

 これ、熊さんじゃないな。


 餌付け態勢から、そっと戦闘態勢へ移行した瞬間、川の水が襲いかかってくるように飛び出した。

 水中からの奇襲か。中々の速度で俺としても不意を突かれた。

 完全回避は困難、ならば迎撃だ!


 多分、今の俺の顔はうっきうきしたものだろう。シシ丸辺りが、蛮族の笑顔、とか褒めてくれるやつ。

 好きなんだよね。

 突っかけて来た敵を、カウンターで思い切り殴り返すの。

 笑顔のまま、「スマッシュ」と「ダブルインパクト」のスキルも併用しての大歓迎をして差し上げる。


 反動でごりっとHPゲージが削れる代わりに、正体不明の水の塊を打ち返す。

 出て来たばかりの水中へお帰りになられた。

 しまった、追撃ができない、もうちょっと横向きに殴ればよかった。


 ポーションを使用しながら水面を見つめていると、大きな蛇がにょろりと顔を出した。

 打ち返されたことが不本意だったのか、蛇特有の擦過音が大きく鳴らされる。


「生意気な眼で睨むな。腹が減って来るだろ?」


 俺はゲーム内なら蛇だって美味しく食べるぞ。

 リアルの方だと流石に食べたことないなー。興味はあるんだけどさ。食欲こみで話しかけたら、水弾が飛んで来る。


 このゲーム、言葉を話さないモンスターでも、言葉はわかっているっぽいんだよね。

 挑発すると反応する。


 一発回避すると、蛇が鳴き声を上げてさらに水弾を青い蛇体の周囲に浮かべた。

 蛇の癖に魔法を使うらしい。

 ただの蛇じゃないな、その上のサーペント系か。

 分類上は竜種だ、それすなわち素材が美味しい。ボーナスエネミーだ。


「かば焼き決定だぞ、お前」


 食べ方の宣言と同時に、さっきより大きな水弾が一斉にぶっ放された。

 水弾の回避は問題ない。ただし、直径一メートル級の水は、着弾と同時に周囲に衝撃波を撒き散らす。

 だから範囲攻撃は止めろってツィーゲ戦の時に言っただろ!


 多分、あのサーペントが最初の挨拶に使ったのは、水系魔法の初級の呪文による水弾で、今の本格的な攻撃に使っているのは強化された水砲かな。

 またレベル差のある敵をセットしたな、エタソンの神。


 しかも、遠距離攻撃をバンバン使ってくるタイプだ。

 実質遠距離攻撃だったツィーゲの時もそうだったけど、武器の特性上苦手な相手だ。カウンターしようにも手も足も届かない。


 回復ポーションを使用しながら、バタバタと走り回る。

 ホップ・ステップ・ジャンプ、はいここでターン!

 ふははは、ソロプレイヤーを囲んで遠距離で滅多打ちにしようなんて誰でも考えること、どう動けば嫌がられるかなんて知り尽くしているぞ!

 一対一だとフレンドリーファイアの悲鳴がないからちょっと物足りないなー。


 ギザギザに走った後にぬるぬるぬるりと曲線を描いて、ついでに飛んだり跳ねたりして、直撃を避けながらサーペントの魔力切れを待つ。

 こっちのスタミナゲージが尽きるのとどっちが早いと思う?

 俺はサーペントの魔力切れにデス一つ賭けるぜ!


 コツはスタミナ消費の激しい全力疾走は一瞬だけで、後は早歩きくらいに手加減すること。

 回避には素早さよりも緩急だよ。相手が撃つ瞬間に狙った場所にいなきゃ当たらない。

 でも範囲攻撃はやめろー!


 サーペントの魔法頻度が鈍った。

 魔力切れ、というより、それを心配して攻撃の手を緩めたと見える。

 馬鹿め、ぬるい弾幕など積み木で作った防壁と同じよ!


 スキル「呼吸法」でスタミナ消費を減らして、回避のためにバタつかせていた足を急角度で旋回、全速で一直線にサーペントへと向かう。

 向こうも蛇頭を少し後ろに引いて――弓を引き絞るように噛みつき攻撃を放ってくる。

 逃げずに向かってくるなんて偉いぞ!


 温存しておいた「スプリントステップ」で全速から最高速度へと切り替え、噛みつき攻撃を外して無防備な蛇の横顔に、「スマッシュ」と「ダブルインパクト」を併用した熱烈な掌打をくれてやる。

 どうして、わざわざ掌打にしたと思う?

 キャー、サーペントさんのエッチー! って言ってみたいなって。

 噂によると令嬢キャラのユニークスキルに「メープルスタンプ」とかいう平手打ちがあって、それだと状態異常扱いで真っ赤な手形が残るとか……。


 流石に、掌打だとそんな面白い現象は起きなかったなー。もちろん冗談だよ。

 本当は、微妙に掌打のノックバック効果が高いのだ。

 サーペントが川の中にいるといつ逃げるかわからないし、何よりラッシュをかけづらい。陸に打ち上げたかったのだ。

 水中から引きずり出したら、混乱判定が入ったようだ。

 長い体をビッタンビッタン言わせてダウンしている。スキルのスタミナ軽減の効果中なので、喜んで連打を決めに行く。


 打撃、斬撃、刺突。うん、全部同じくらい効くね!

 ただ、当てる場所によって明らかに手応えが違う。

 腹側は柔らかくてダメージが出ているし、クリティカルの反応もある。逆に背側はガチガチで固く、時折ダメージが入らなかった判定まで出る。

 サーペントの鱗が、防具判定になっているようだ。


 復帰したサーペントが追い払うように尻尾を振る。

 それは近距離攻撃扱いだから好物だよ。ショートアッパーで尻尾を上にカウンターパリィして、もういっちょ「スマッシュ」で川から遠ざかる方へサーペントを吹き飛ばす。


 尻尾のある大きなモンスターを吹っ飛ばすのはちょっと楽しい。

 体が長いから、普通の大型モンスターより派手にゴロンゴロンする。上手く転がすと、尻尾がビッタンビッタン地面を叩くところが評価ポイント。

 今回は尻尾が二回地面を叩いた。

 んん~、三回いかなかったか、タイミング的にシビアだったから、致し方なし。芸術点よりも、サーペントを陸側に転がして、俺が川側に立ちふさがるように調整する方を優先したからね。


 ここで回復ポーションをもう一つ使用する。

 仕切り直し、というか、俺としてはようやく殴り倒せるリングまで相手を引きずり出したというところ。


 さて、ここで問題。

 どうやってこいつ倒そう。


 大きいモンスターだけあって、こいつはかなり体力があるだろう。

 防御力も鱗があるところは高い。何とか鱗のない腹側を狙いたいが、サーペントも弱点を呑気にさらすほど間抜けじゃない。

 姿勢を低くしてちろりちろりと舌を出している。


 どうしよう。

 相手も考えているのか、襲いかかっては来ない。このままお見合いしていても、サーペントの魔力が回復するだけだ。

 倒し方はとりあえず殴ってから考えよう。


 重心を前に倒す。

 頭がわずかに前に傾げた瞬間、逆にサーペントの頭は後ろに引き絞られ、前に飛び出したのは同時だった。

 正面から拳を打ち込むと、流石に反動ダメージが大きいので、受け流すように横向きにパリィ・カウンター。懐に飛び込んで、と思ったら、水弾で牽制されて下がる羽目になった。


 二度、三度と同じ攻防を繰り返す。思わず顔をしかめる。

 明らかな時間稼ぎだ。この子、ちょっと頭よくない?

 水砲じゃなくて水弾という辺り、魔力の回復を図っているのが透けて見える。


 大きい魔法が来る前に、ちょっと強引に懐に飛び込んだ方が良いか。

 そう思いつくのは少し遅かった。サーペントの鳴き声が、大きく響く。

 こいつの魔法の詠唱だ。そう判断した瞬間、「スプリントステップ」で迷わず殴りかかる。


 間に合え!

 焦りを込めて突き出した拳は、僅かに鎌首をもたげた蛇体の首に着弾し――同時に、サーペントの魔法が発動した。

 サーペントは鱗のない腹側を打たれて仰け反っている。クリティカルの手応え。

 しかし、周囲一帯に発生した霧は、クリティカル一発程度と引き換えでは少々不利な取引だったと言わざるを得ない。


「ポイズンミスト……やってくれる!」


 効果範囲内で継続的にダメージを受ける上に、毒の状態異常が付与されるという、スリップダメージで殺します! と笑顔で宣言するような嫌な魔法だ。

 体力が多いサーペントにはよく合う。


 解毒薬は持っているけど、霧の中だとまたすぐ毒になるから手数を浪費するだけで意味がない。

 HPゲージというタイマーカウンターが消失に向かう中、俺の行動回数は限られている。


 こういう時、ソロプレイヤーが取る最も有効な手段はただ一つ。

 全軍突撃(総兵力一名)だ!!!!


 うおー、道はいつだって前に切り開くものなんだー!(ただし、遠距離・支援職は除く。)


 毒霧の中、一歩も退かずに蛇頭を殴る。噛みつきをかわしてから殴る。

 踏みこみ続けるには脳筋以外にもちょっとした理由があって、俺の視線はサーペントのスレンダーボディに釘付けだ。


 いやらしい意味じゃないぞ。

 こいつは竜種だから、強い代わりに弱点も用意されている。

 逆鱗だ。前々世の冒険者プレイで、このゲームの竜種はそこを攻めろ、と言わんばかりの弱点扱いだった。


 これは他のゲームにも見られる。

 大型モンスターや、強豪モンスターに設定された弱点。

 フルダイブゲームゆえだろう。ある程度のレベル差があっても、プレイヤースキルでひっくり返せるよう、ゲームが設計されているのだ。


 首元には見当たらなかったので、俺の視線は徐々に蛇体の下の方に向いていく。

 どこだどこだ逆鱗、俺の勝利のためのレアアイテム。


 見つからない打開策、目に見えて減っていくHPゲージに、焦っていた。

 そのことに気づいたのは、蛇系エネミーに特有の巻き付き攻撃を仕掛けられた時だ。

 接近しすぎた俺を、サーペントは長い体でぐるりと囲む。ここから締め付けまで一挙動。

 食らえば、恐らくデスだろう。

 この手の攻撃は拘束効果がつくから、ソロだと実質即死攻撃である。ただちに回避行動に移る。


 サーペント君、長い体を活かして包囲したつもりだろうが、俺はゲーム内でなら垂直の壁だって駆け上れるぞ!

 高さについてはステータス次第!

 段腹状態になった蛇体など、俺にとっては階段も同然よ。


 迫る壁のような巻き付き攻撃にダッシュして、一段、二段、三段と蛇腹階段を駆け上がる。

 ホップ・ステップ・ステップ・ステップ、もういっちょステップしてからのジャーンプ!

 上空に向けて包囲を脱した眼下で、ぎゅむっという音が鳴る。蛇体の巻き付き攻撃を完成させたゲーム的攻撃音だ。

 リアルでは……このくらいのサイズになると音がしてもおかしくないか?


 流石にリアルでこんな巨大な蛇とは出会いたくない。不吉な考えが頭を過ぎる。

 いやいや、フラグじゃないからね! おのれサーペント、データの分際でリアルまで浸食しようとはけしからん!


 破蛇顕正!


 強い祈りと共に空振り硬直中のサーペントに、落下モーションからのパンチを振り下ろす。

 これがクリティカルになった。サーペントが悲鳴を上げて倒れ伏す。重力は偉大だ!

 あ、いや、多分、巻き付き攻撃がこのサーペントの特殊行動だったんだろう。

 強い攻撃の代わりに隙が大きいとか、そういうタイプだ。回避してからの攻撃で、ダウン判定が入った。


 この隙に、回復ポーションを使用して、スリップダメージで減ったHPを回復――したところで、見つけた。

 ひっくり返ったサーペントの中程、鱗がないはずの腹側に、これ一際濃い青の鱗!


「そこか!」


 即座にスキルを連打する。

「呼吸法」「スプリントステップ」「コンボ・コネクター」そして「ダブルインパクト」。

 真っすぐ行って逆鱗をぶん殴る。


 ガツンとした手応えは、ダメージが通っていないものの破壊可能オブジェクトのそれだ。

 攻撃が通っていない時のガチンと微妙に似ているから、ゲームに慣れないと勘違いすることもある。

 良い子の皆は、ちゃんと操作方法の説明を体験してから開始するんだぞ!


 スキップ派の俺はもちろん無視して苦い思いをした経験がある。

 NPCから仕方なさそうに説明を受けたよ! 「操作説明はちゃんと受けろよ」という開発者からの溜息が聞こえるような塩対応だった、チクショー!


 逆恨みも力に変えて、逆鱗にラッシュを叩き込む。

 蛇が起き上がりそうになったのを温存しておいた「スマッシュ」でさらに横転させて、追加でラッシュ。


 あー、スタミナが足りない!

 仕方なく後退すると、サーペントがのっそりと起き上がり、威嚇の鳴き声。


「ふん。勝ち筋が見えた以上、どれだけ吠えてもお前は負け蛇だ」


 巻き付き攻撃を誘って回避、特殊ダウンからの逆鱗攻めだろ?

 勝ったな!

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ガハハ!風呂食ってくる!
[一言] 羨ましい程のギャグセンス
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