ドローした人の心を廃棄して修羅道を発動
特にやることが思いつかない時は、とりあえず戦闘だ。
レベルが上がれば世の中は大体なんとかなる。調理素材というジャンルのドロップアイテムも手に入るしな。
このゲーム、簡単な飯ならどんなプレイヤーも作れる設定だ。
スラム街のスターダムを目指していた頃は、その底の底でネズミのフルコースとかよく食べたよ。
前菜スープがネズミの煮込みで、メインがネズミの丸焼きで、デザートにネズミの骨、そしてドリンクはネズミの血だ。
毒耐性と病魔耐性がついたよね。
あれ? 今回も耐性目的でネズミのフルコースを食べた方が良さそうじゃね?
天才的な閃きによって、血の滴る生肉を手に入れに行こうと決める。
前回お世話になった東の森は、なんか立ち入り禁止だった。
じゃあ、どこに戦いに行くかなーと悩みながら街を歩いていたら、例の星見トカゲを売っていた露店を見かけた。
「すまない、先日星見トカゲを買わせて貰った者だが……」
「ああ、兄さん。星見トカゲはどうだったね。美味かったろう?」
「最高だったよ。おかげで命が救われた」
いやあ、星見トカゲのバフ効果は最高でしたね。
「あれ、今後もそれなりの数が欲しいんだが、入荷の都合はどうだ?」
それは難しいねえ、とお店のお婆ちゃんが呟くのに、俺は頷く。
「じゃあ、どの辺で星見トカゲが取れるか、わかるか?」
ないものは、狩ってみせよう、レアアイテム。
これぞ冒険者の本質、大自然の盗賊とは俺等のことよ。
ぐへへ、綺麗なレア物じゃねえか~、俺等の装備品にして可愛がってやるぜー!
我ながらひどい発想だな、最低だ。でも、やる。
お婆ちゃんから、絶対じゃないけど、という前置きの後に、西の街道の先にある川の近くで見つかるという情報をゲットした。
ピコーン! 獲得した情報によってマップが更新されたよ!
確認すると、川の近くって言っても、川の近くの森の中という感じのようだ。
これはますます好都合、絶対に魔物との戦闘も期待できるじゃん。お、さらにさらに、これ街道近くだから盗賊も狙えそうじゃん。超お得な狩場の予感がする。
うきうきしながらお婆ちゃんにお礼を言うと、持ってきたら加工してあげる、と手厚いアフターフォローまで約束してくれた。
これは流れが来ている。最初のシナリオで見つけたフラグをしっかりと握り締めた手応え。
ここでお店の買い物もして好感度を上げたいところだけど、残念ながら冒険者ギルドの陰謀でポケットの中身がすっからかんだ。
「そういうわけで、今は手持ちがなくてな。金が出来たら、情報の礼代わりの買い物に必ず来ると約束するよ」
愚痴ると、お婆ちゃんはいたく心配そうな表情で真剣に聞いてくれた。
「それは大変だったねえ。病み上がりで文無しはつらいだろう。これ、ちょっと持って行きな」
お婆ちゃんが差し出してくれたのは、パンと燻製肉、ご飯だ!
「良いのか? 前の星見トカゲも、相当サービスして貰ったと思うんだが」
「若い者が遠慮するんじゃないよ。この婆はこれでもそれなりの商いをしているんだ。あんたよりお金持ちの婆に、恥をかかせるんじゃないよ」
「かたじけない」
受け取ると、ポケットの中身に今日のご飯が入った。
焼き立てでもないから冷えきっているはずなのに、ポケットからは確かな温もりを感じる。なんと優しい温かさ、これが人の心だと言うのだろうか……。
「それから、もし魔物を倒したら、スクイ商会ってところに持ち込むといい。このヤマ婆の名前を出せば、悪い扱いはされないはずさ。ここで売っているのもあそこの商品だからね」
至れり尽くせりとはこのことか!
冒険者ギルドで傷ついたガラスのハートが防弾ガラスになれそうだ。
ええと、スクイ商会と、ヤマ婆ね。メモしてオッケー!
これで魔物を倒してくれば金策が出来る。
「この礼は必ず」
待っていてくれ、露店のお婆ちゃん。
このお弁当をスタミナに変えて、魔物を狩りまくってお金稼いでくるからね!
我、恩義に報いるべく、これより金策の修羅と化す……!
あれ?
手に入れたばかりの人の心を、即行で投げ捨てた気がする。
ドローしてすぐ、モンスターカードを召喚するため墓地に捨てた、みたいなムーブしなかった?
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『シシ丸:マウス、まだ犯罪者になってないな?』
『マウス:大丈夫だぞ、シシ丸参謀長。とりあえず、星見トカゲを買ったお婆ちゃんのおかげで金策のあては出来た。魔物を狩ってレベル上げしてくる。あと、いたら盗賊も狩ってくる』
『シシ丸:後半が蛮族なんだよなあ』
『ヘキサ:治安維持への協力感謝する。蛮族』
『ユッキー:盗賊はいいけど、一般の馬車とか襲っちゃダメだよ! なんか今、うちのパパがその辺に出かけてるみたいだから、間違って襲ったら仇討ち発生だからね!』
『塩胡椒:先輩、気をつけてくださいね! いってらっしゃい!』
お塩だけ俺のことを心配してくれて、ほっこりするね。
良いドロップがあったら、お塩用のお土産に取っておいてやろう。
『マウス:こっちは、しばらく稼ぎのための戦闘っぽい。ギルドの調査がどうなるかわかるまでシナリオ動かないんじゃないかと、俺のゲーマーセンスが言っている』
『ヘキサ:会話とシナリオスキップ勢のマウスのセンス……。こっちもしばらくは治安維持の巡回だから、同じことになりそうだ。黒ドクロについて上層部の判断待ち』
『シシ丸:マウスのゲーマーセンスは九割戦闘センスでしょ。こっちもヘキサと同じ。黒ドクロについて貴族の方でも調査してるところ』
『ユッキー:マウスは直感勝負だからね。あたしは前回見つけた地図の場所に行くための計画と準備しなくちゃいけないみたい。それが出来たらやっと家から出られそう』
『塩胡椒:ボクは、ええと、孤児院の子達と遊んでます!』
お塩の周囲が超絶平和なの、すごく良いと思います。
『マウス:お塩のためにも街の周りの危険物は根絶やしにするからな』
『ヘキサ:そっちまでまだ行けない騎士の代わりに頼んだ、マウス』
『シシ丸:後で金ならしこたま払ってやる。全力でやれ』
『ユッキー:あたしも早くお外でたーい! ん? うちのパッパが町の外で襲われて何かあったらあたしが実権を握れるのでは?』
おっと、流石は思い付きで国盗りを始める女。思考が乱世してるぜ。
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知っているか?
魔物とプレイヤーって、実はブラザーなんだぜ。
どういうことかって言うと、魔物って大抵のゲームにおいて、プレイヤーの飯の種なわけじゃん。
魔物を倒したお金で、プレイヤーキャラクターは日々を生きている。
つまり、魔物の血はプレイヤーの肉であり、血肉を共有する血縁関係にあると言える。(暴論)
情緒たっぷりにこれを表現すると、ソウルブラザーになる。ここまではいいね?(暴論その二)
まあ、ブラザーなんてものは神話の時代から血みどろの醜い争いをするものと相場が決まっているわけで、魔物とプレイヤーキャラクターがゲーム内で殺し合いを始めるのは、人類文化的にも想定された関係だ。(暴論その三)
以上の論理的暴論三段階を経て、我等人類ゲーマー学会純粋戦闘主義連盟は全てのゲーマーにこの言葉を送ろう。
兄弟喧嘩は人類のデフォルトコミュニケーションだから、ガンガンいこうぜ!
「というわけで、喧嘩コミュニケーションしようぜ、兄弟!」
お前が兄で、俺が弟な。
末子成功譚の凡例の一つにしてやるぜ!
突進して来たモンスター猪兄者は、見るからにパワータイプだ。
大抵の神話で、ゴリゴリのパワータイプって知能タイプやテクニカルタイプに負けない?
ほら、神様とかお姫様とかから知恵や便利グッズを授かって、圧倒的パワーの敵対者を倒す英雄って思い浮かばない?
ヤマタノオロチさんとか、ドラゴン系は特に被害者が多くない?
これもう人類文化を多角的に見て猪兄者の負け確定ですわ。
俺は自信満々に足を開いて、どっしりと腰を落として待ち構える。
加速していく重量級の猪兄者との間合いを計る。
素手の俺はリーチが短いが、その分だけ攻撃モーションも短く、敵の攻撃に合わせることが容易だ。
つまり、カウンターが得意ってわけだ。
さん、にー、いち、今。
パワータイプの突進に、真正面から拳を打ち込む。クリティカルの手応え。
結局パワー勝負じゃん?
そうだよ、パワーこそシンプルな解決策だよ!
シンプルということは誤りが起こりにくくて確実ということ、すなわちベスト!
シンプル・イズ・ベストさ!
そして、パワータイプの選択をしようとも、俺には神から授かったスキルがある。
見よ、我が得た新しい力のテキストを。
ユニークスキル「蛮勇のイージス」
パリィ・カウンター系の高等技能。敵の攻撃を弾く際の負担軽減、敵に攻撃を返す際の威力向上。
――そびえたつ困難にも、おぞましい苦難にも、僅かも曇らぬその戦意。それこそが英雄の持つ第一の素質。たとえ、今はまだ力の足りぬ蛮勇だとしても――
多分、ツィーゲ戦の報酬だと思う。
あの凶悪な分銅をカウンターシュートしたり、パリィしたりしたことが評価されて、エクスマウスはパリィ・カウンターが得意、というキャラ付けを神がしてくれたんだろうね。
効果は、ユニークスキル、という扱いの割にはささやか。
でも、パッシブなので常時発動して、スタミナ等の消費は一切なし。そりゃ効果自体は小さなものになるわな。
このスキルの補正のおかげで、パワータイプの突進攻撃を真正面からカウンターで受け止めて当たり負けなしである。
カウンターでクリティカル判定も入ったしね。物理エンジンに対して神の依怙贔屓が炸裂である。
逆にノックバックで硬直が入った猪兄者を、軽くコンボ入れて沈める。
神に愛されるのはいつだって弟なのだよ、兄者。
さて、討伐証明アイテムと、ドロップアイテムのお肉をゲット。ちょっとレアの牙はドロップなしか。
ちっ、神様もしけてやがる。
街を出る時は空っぽだった俺のポケットも、今では襲いかかって来るゴブリン兄貴や狼兄貴、猪兄貴に兎兄貴を倒しまくったおかげで、そこそこ満たされている。
食肉も結構あるから、とりあえず餓死は当分ないな。
懐に余裕が出て来ると、今度は経験値がもうちょっとある敵が欲しいところだ。
強い奴に俺は会いたい。
街道を兄弟喧嘩しながら進むと、橋のかかった川が見えて来た。
マップを見ると、ヤマ婆に教わった地点はこの川を森側へ入った方にあるようだ。
街道から外れた道に行けば、敵は強くなる。これはRPGの常識だ。
ここからは経験値にも期待できるな。
意気揚々、俺は森へとピクニックに向かうのだった!




