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プレイヤーズ  作者: 雨川水海


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10/61

ラストアタック

 目の前をスイカみたいな鉄塊が、高速でかすめていく風景っていうのは心が荒むよね。

 音も威圧的な風切り音と鎖が擦れる音だから、和みの対局にある。


「どうしたの、攻めて来ないとつまらないわ」


 鉄塊ぶん回しお姉さんに挑発されまくってるけど、仕方ないでしょ。

 徒手空拳のリーチの短さと、巨大鎖分銅のリーチの長さを考えて。実質遠距離武器だよ、それ。


「ラストアタックを貰う前払いみたいなものだ」


 攻撃ごとにそっちのスタミナを貰ってるんだよ。

 早くガス欠して。そしたら次はHPで支払って貰うから。


 ツィーゲの腕の動きが変わった。横に振り回していたものが縦、振り下ろしの軌道。

 大技が来そう。さてはスタミナ切れが近いかな?

 一発かましてみようと、振り下ろしに合わせて前へ。実質遠距離武器なだけあって、攻撃の軌道は読みやすい。タイミングさえ見誤らなければ、腕の動きを見てから回避余裕です。


 振り下ろしの着弾を背後に聞く。

 やっぱり何かのスキルを使っていたのか、衝撃が背中を押した。

 打撃系スキルの発展系かな。『スマッシュ』みたいな吹き飛ばし効果が、範囲に広がるやつ。


 ツィーゲの懐に飛び込み様、『ダブルインパクト』を使って拳を繰り出す。

 ガチンという固い手応えは、ダメージが無効である証拠だ。


「残念でした」


 笑うツィーゲが、両腕で鎖を構えて一撃を受け止めている。鎖部分は盾にもなるらしい。


「良い武器だ」


 はあ~、使ってみたい!

 でも、それプレイヤーが使おうとするとシステムアシストが利きすぎて自由度低くなるやつじゃない?

 マニュアルでやろうとすると自爆しまくるやつ。いっそNPCになりたい。


 人間性をまた一つ失いつつ、二発、三発と隙の少ない弱パンチを叩き込む。

 一発目が当たらないのは残念だったが、両腕がふさがっているうちは分銅を操れまい。攻守交代だ。

 だがノーダメの手応え。


「随分と固いな」

「神官だもの。身持ちは堅い方よ」


 頭に邪がつく神官も身持ち堅いんだ? スタミナゲージが半分を切ったので手を止めて後退する。


「あら、近づいてくれたと思ったらもう行っちゃうの? シャイなのね」

「鎖に巻かれる趣味はなくてな」


 絶対に拘束からの締め付け技あるでしょ、その武器。

 捕まったらそのまま絞め殺される予感がビンビンする。


「残念ね。それじゃあ、叩き潰してあげる」


 鉄塊が頭上から振り下ろされ、例の衝撃波に襲われる。

 しかも、それが連続で振り下ろされ続ける。ミンチになる趣味もないかなー!?


 というか、この衝撃波を起こす技、まさか連発できるのか。

 スキルじゃなくて武器の固有技とか言わんよね? 振り下ろし攻撃がデフォでこうなるとか言わないよねー!?


 直撃しなければ大ダメージは食らわない。だが、微量でも、HPが削られる攻撃がポンポン飛んで来る。

 そして、こっちの攻撃は難なくしのがれる始末。


(まさかこれ、負けイベじゃなかろうな?)


 脳裏を過ぎる考えに、舌打ちが漏れた。


「あら? こんな美人がデートしてあげてるのに、なんだか苛立っているように見えるわ。失礼じゃない?」

「わかるか。その通りだ」


 俺が一番嫌いなものを教えてやろうか、NPC君。

 それはな、プレイヤースキルも、万端の準備も、尽きない根性も、ありえない奇跡も寄せ付けない、負けイベだよ。


「俺は戦うのは好きだ。強敵と戦うのはもっと好きだ。嫌がらせみたいに堅い敵を何時間もかけて殴り続けるのは疲れるし、正気を疑うほど速い敵を延々と追いかけ回すと腹が立つ。だが、勝てるという結末さえ保証されていれば喜んで挑む」


 勝てないだけならまだいい。

 時間経過で戦闘終了に雪崩れこむのはまだ許そう。

 勝ち逃げされたとしても再登場したらボッコボコにしてやる。


 負けるだけならまだいい。

 俺の実力不足だ。

 涙を垂れ流しにしてセルフ復讐の誓いを立ててやる。

 何度負けてもいつか絶対にボッコボコにしてやる。


 でもな、負けイベだけはダメだ。


「俺は負けるのが大っ嫌いなんだよ!」


 なんだストーリーの都合で絶対負けるって。

 バカ野郎だったら最初から戦闘にするんじゃねえよ。

 プレイヤーいらねえじゃねえか、ムービーでやってろ。


 テメエが本当に負けイベだったら絶対許さんからな!

 とりあえず、一発直撃を入れてダメージ通るかどうか確認してやるァ!


 本日の天気は晴れ時々鉄塊! 鎖が強く薙ぎ払ってくるでしょう!

 なあに、この程度、ゲーマーやってりゃよくある天気だ!

 ははは、火山弾が降り注ぐ中のダンジョン攻略とか大作ゲームならワンステージはあるよね!


 振り回しの薙ぎ払いに比べれば、今の鉄塊振り下ろしは避けやすい。

 微ダメージの蓄積こそあるが、攻撃に出るには好都合! じゃらじゃらドゴドゴ鳴る音も、段々とそういう音楽に聞こえて来た。

 なんかあるじゃん? 普通は楽器に分類されないもの、廃材とか、その辺の日用品とかを楽器代わりにするやつ。

 専門で追及された楽器による演奏も極まってていいけど、本来そうじゃないだろってモノを使った演奏も、その外れたところに味がある。

 深さと広さの違いっていうかね? どっちも、なんかザ・ミュージックって感じがするぜ。


 まっ、音楽なんて普段ゲームのBGMしか聴かないけどな!

 いいぞー、表に出したら黒歴史間違いない思考が湧きいずるこのテンション!

 今ならいける!


 ドゴドゴドゴと地面を使ったダイナミックなドラミング、腹に響く重低音は中々良いけど、流石に単調だ。

 そろそろ転調してみようぜ!


 一歩進んで眼前に振り下ろしを誘い、一歩下がって、落下タイミングで一歩進んでキーック!

 狙いはツィーゲじゃなく、落下してくる鉄塊だ!


 敵の武器を、敵の本体にシュート!

 超!

 エクストリィィィム!


 この反撃は予想外だったのか、ツィーゲが目を見開く。

 両手を使って鎖分銅を振り下ろした攻撃モーション中だ。回避や防御は間に合うまい?


 グラマラスなツィーゲの胸元に、分銅が直撃する。

 思った以上に上手く行って自分でもびっくり。これが野球ならストライク間違いないくらいの当たり方。多分、一球でスリーストライクくらい貰える。

 バッターアウトだからこれで俺の勝ちで良い?

 スリーアウトまでやらなきゃダメかな?


 自分勝手なマイルールを組み立てながら、ポケットに手を突っ込んで初期所持品の回復ポーションを使用する。

 飲む必要も浴びる必要もない。使用コマンド方式だ。


 分銅振り下ろしの衝撃波に加えて、その分銅を横から蹴っ飛ばしたら反動でかなりのダメージを受けましてね?

 蹴ったのこっちなのに半分持って行かれた。死ぬかと思ったよ。


 やっぱり、ツィーゲと俺の間に、相当レベル差がある模様。

 なので、このダウンを活かして一気に攻め落とそうねー? 


 酒飲んだヤンキーがごとくテンションを跳ね上げ、ツィーゲにフライングニードロップを決めて馬乗りになる。

 ここで必殺の、レベル格差反対馬乗りパンチラーッシュ!

 あああああ、スタミナ消費軽減効果が欲しいぃぃぃぃ!!


 ここで朗報、手応えからしてダメージ通っています!

 とりあえずダメージを与えられる戦闘であることが判明。後は、一定ダメージを与えると全体必中の即死攻撃を使って負けイベにする、という鬼畜の所業がない限り、この戦闘は負けイベではありません!


 そう思った矢先、ガチンというダメージ無効の手応え。

 見れば、ツィーゲの綺麗なお顔に黒い山羊のドクロが装備されている。


(一定ダメージか一定時間経過による第二形態!?)


 変身中は大体無敵。様式美に従って俺は飛び離れる。

 スタミナゲージ、この隙にスタミナゲージの回復だ!


 深呼吸をして体力回復に務めながら(ただし気分以上の効果はない)、ゆっくりと起き上がるツィーゲを警戒する。

 白磁のような美貌だったのに、あんなに真っ黒になっちゃって、古の黒ギャルってレベルじゃないぞ。

 タールでも塗ったのかって黒さのドクロだし。


「ふ、ふふふ……やってくれるじゃない?」


 ゆらりと、黒い山羊ドクロの眼窩に青い炎が灯る。

 いや、青じゃないな。紫だ。


「いいわ、貴方を私の敵と認めましょう。遊びはもう――お終いよ!」


 紫の炎が激しく燃えたと思ったら、黒いエフェクトが俺に絡みつく。

 道中のゴートスカル達が使っていたのと同じ動作の状態異常魔法だ。そういえば、ツィーゲは一応神官で、敵の動きを鈍らせる状態異常を使っていた。

 あまりのパワーファイターっぷりに忘れていた。


 全身が重くなる。指先を動かそうとするだけで、目に見えてスタミナゲージを消耗する。

 重圧系か? 苦労して自分の手を見て、なんの状態異常かわかった。

 指先が石膏みたいになっちょる。


「石化か……!」

「やっと状態異常が通ったわね……。ふふ、手こずったけど、これで粉々にしてあげるわ!」


 うっわ、打撃系パワーファイターが石化の状態異常を付与してくるのかよ。

 このゲーム、確か石化すると打撃弱点になったはず。石化部分に打撃を受けると確定クリティカルの上にスタンが発生した気がする……。

 石化だと動きも鈍るから、大振りな打撃武器と相性は確かにいいよね。完全に殺しに来てる組み合わせじゃん。


「特別よ、私のスキルも見せてあげる。感謝して死になさい」


 死ぬの(敗北)は嫌だけど、スキル見られるのはちょっと嬉しい。ちょっとだけ。どうせ死ぬならって気分で。


「昏き叫びよ集まれ! 『潰し砕く慟哭』!」


 ツィーゲの頭上で振り回される分銅がおどろおどろしい黒い靄を渦巻く。

 ちょっと人の顔とかに見えるのは、シミュラクラ現象……ではなくて、怨念とか無念を集めて破壊力に転換するみたいな技なんだろうな。

 実に邪神官っぽい。


 なお、すでに避けるのは諦めました。

 これ石化の影響で二歩くらい動いたらスタミナゲージ切れる。踏ん張る足場を整えて終了だ。

 しかも石化には鈍重の効果もあるから、ノロノロの動きになる。完全な石化が決まって彫刻になってないのは、星見トカゲのおかげだと思うんだけど、逆に意識がある状態で必殺の一撃が振り下ろされるのを待つって人によってはトラウマになりそう。

 俺は慣れてるから歯噛みしながらワクワクしちゃうけどね!


「何か言い残すことは?」

「良いデートだったが最後が気に食わん」


 カッコつけても負けるのは嫌なんだよ!

 やっぱりこれ実質負けイベじゃね? 絶対そうだよね? だって最初のクエストで所持金もないから石化解除アイテムとか手に入れられないもん!

 あー、悔しい悔しい!


「どんな素敵なことでも、終わりは悲しいものよ。それじゃあ、さようなら」


 黒ドクロのせいでわからないが、恐らく、満面の笑みを浮かべたツィーゲが、必殺の一撃を振り下ろした。



****



 シナリオ『森から忍び寄る気配』をクリアしました。

 以下のイベントフラグを達成しています。


『レアアイテム:星見トカゲを発見』>『グルメレポート:星見トカゲの燻製』

『麗しの同行者』>『妖しの同行者』>『暴かれた裏切り者:邪神官ツィーゲ』

『森の調査:異常なし』>『森の調査:黒ドクロの脅威』>『森の調査:邪神官の儀式』

『名声上昇:孤高の冒険者エクスマウス』

『友好度上昇:冒険者ガルム、邪神官ツィーゲ』

『隠し情報〝邪神官ツィーゲの本気〟を入手』

『特殊行動:〝年功序列〟冒険者ギルドの先輩に敬意を払った』

『特殊行動:〝デートのお誘い〟素敵な美女へ逢引きを申し入れた』

『特殊行動:〝死神の鎌でも届かない〟必殺の一撃を払いのけて生き延びた』

『偉業達成〝ラストアタックには早すぎる〟邪神官ツィーゲのデート相手を最後まで見事に勤めました』


 流石は綺麗なお姉さん、デートしただけで「偉業」認定されちゃいましたよ。



****



 エタソンにおいて、「偉業達成」というイベントフラグは、「そのシナリオを最高評価で達成しましたよ!」という通信簿だ。

 やったぜ。


 このシナリオの達成評価は、他に下から「達成」「重要」「特別」がある。

 評価が良ければ良いほど、物語が膨らんで大規模になっていく。同じ魔王討伐系でも、評価が低いと領地の武装組織がわちゃわちゃするだけで終わるけど、高評価だと国の存亡をかけた戦いになるとか。

 今回、国盗りを掲げたユッキーにとって、偉業評価はとても大事というわけだ。

 どや顔できる。


 俺の前々世と前世では、偉業達成を一回しかやっていない。

 今回も星見トカゲを食べてなかったら無理だったろうから、理由は推して知るべしって感じだな。道理で、シナリオ規模が膨らまなくて飽きちゃったわけだ。

 今後もNPCとの会話や寄り道は大事にすればいいんだろ。

 このゲーム、攻略完了だわ。


 ご機嫌の俺は、早速威張り散らすためにエタソン国盗りチャットに突撃する。


『マウス:ファーストシナリオ、偉業評価、取ったどー』

『塩胡椒:すごいです、先輩!』

『ユッキー:えー!? この手のゲーム苦手だと思ったのに、やるねぇ!』

『シシ丸:チートかな?』

『ヘキサ:バグでは?』

『マウス:ありがとう、ありがとう二人とも。後の二人はチートでもバグでもないからひれ伏せ』

『シシ丸:じゃあ、嘘乙?』

『マウス:スクショだオラァン!』


 シナリオクリア画面の画像を投げつけていわれのない侮蔑をシャットアウト。


『ヘキサ:これはすごい。おめでとう。いや、協力プレイだから、ありがとう、と言うべきかな?』

『マウス:ありがとうの方がちょっと嬉しいかも』


 シシ丸以外からありがとうのメッセージの三連コンボ、俺は死んだ。

 唯一の例外のシシ丸はと言うと――


『シシ丸:おー、すごい。いや、素直にすごいな。どんな感じだったか聞いても?』


 ちゃんと褒めてくれた。シシ丸はツンツンだけど、結果への評価は素直なんだよ。


『マウス:このゲームこれで三周目だけど、多分シナリオを楽にする隠し要素があると思う。それがないと偉業評価は無理めな感じ』

『シシ丸:あ、やっぱそうなんだ。前にオレが偉業とった時も、そういうブーストアイテムあったぞ』

『マウス:初期の所持金全部を支払うことになったから、あれ見つけても買うかどうかは結構ギャンブルだった』

『シシ丸:興味ある。明日、部室でプレイ動画を見ながら解説して貰っていい? 今後のゲームプレイの参考になりそう』

『マウス:オッケー。代わりにさ』

『シシ丸:こっちが偉業評価の時のプレイ動画だろ? 残してあるから見せるよ』


 ゲーム攻略への姿勢は、シシ丸と一番馬が合うんだよなー。

 だから、シシ丸も俺との会話が弾むのかもしれん。


『マウス:ところで、シシ丸さんのファーストシナリオの評価はどうだったんですかー?』

『シシ丸:すかさずマウント取りに来るんじゃねえ! 特別評価でしたよー!』

『マウス:哀れな奴め……』

『シシ丸:はああああ!? せめて笑えよおおおおおお!!!』


 会話が弾むことゴムボール三段重ねのごとしですよ。


『ユッキー:特別評価も相当上手いんだけどなぁ……。あたし、重要でした』

『ヘキサ:普通はノーマルの達成だから。私もなんとか重要を取った』

『塩胡椒:ノーマルでした! ごめんなさい!』


 全員からお塩に、ええんやで、と許しのメッセージを送りまくった。

 明日の部活で、全員のファーストシナリオの傾向や評価を報告し合うことにして、今日は解散となった。

 自分、バトル成分が足りないんで別ゲーやっていいっすか?

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲーム的に死んでも偉業達成になるのがちょっと文面からわからなかったです。 GAME OVERで未達成になるわけじゃないんですね。 死に戻りペナルティも無しとかちょっと仕様部分が難しいです。
[良い点] んーこれは、ツィーゲ軍団の存在感が大きくなり過ぎて、国盗りを邪魔してくるか、盗った国に攻め込んで来そうw
[一言] >なんだストーリーの都合で絶対負けるって。  バカ野郎だったら最初から戦闘にするんじゃねえよ。  プレイヤーいらねえじゃねえか、ムービーでやってろ。 賛成! 大大大大大賛成!
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