とある事件と、元彼女
1,事件
友人が死んだ。大雨の日だった。人通りの少ない道で轢き逃げにあったらしい。犯人は未だにわかっていない。友人とは高校からの仲であった。部活も同じで、共に練習に励み、感動や成長を分かち合う仲であった。
犯人に心当たりがあった訳では無い。ただ友人には、これまで3人の元彼女がいた。モテるわけでは無かったが、姉もいて女性の扱いが上手かったからだろう高校時代に2人、大学時代に1人と程よい恋愛をしていた。付き合っている時はいつもしあわせそうであったが、友人は別れるのが下手であった。いつも何らかの蟠りを残していた。
私は彼女達に話を聞くとにした。
2,元彼女A
最初に話を聞いたのは、友人が高校1年の時に最初に付き合った女の子である。パッチリしために少し猫背な女の子だ。彼女は彼と同じクラスの時に付き合った。性格が良く友人の多いタイプだ。連絡を取ると彼女はまだ友人が死んだことを知らなかったらしい。酷く悲しんでいた。
しばらくして直接彼女にあうことが出来た。今元彼女Aは地元で働いているらしい。私が大学から地元に帰省した時にファミレスに来てもらった。初めは元彼女Aと友人の思い出話を1時間ほど聞かされた。明るく話しているようで、目には今にもこぼれそうなほどの涙が押し寄せていた。とてもじゃないが、友人に対しての嫌だったことや憎みを聞くことは出来なかった。しかしその時は突然やってきた。「でも、別れ方がねぇ...」その一言を聞いた瞬間私は「今しかない!」と思い元彼女Aに、「なにか彼に対しての嫌悪感とか感じたことないですか?」と尋ねた。元彼女Aは少し黙ったあと「彼はね、別れ方が下手なだけだったのよ...」と悲しげに言った後静かに涙を流した。その後の沈黙を打開する勇気が私には無かった。
元彼女Aは友人とギクシャクして別れた。「ギクシャク」とはギクシャクだ。お互いに別れ方に対してすごく後悔していた。
元彼女Aからはなんの収穫も無かった。
2,元彼女B
次は元彼女Bに話を聞いた。元彼女Bは高校2年生の時に友人と付き合っていた女の子である。クラスのアイドル的存在で、とてもモテていた。元彼女Bは私の大学の近くに住んでいた。女優の卵らしい。元彼女Bと元彼女Aは高校時代凄く親しい中であり、今も交友関係が続いているそうだ。彼女は元彼女Aから友人が事故にあったことを聞いていた。「本当に悲しいね、彼が無くなるなんて」彼女はその言葉を何度も口にした。「高校を卒業してから彼にあった?」と私が尋ねると「1度だけ、こっちに来たばかりの時に...でも、その時は元彼女Aもいたよ。」と答えた。何たることだ。友人は元彼女二人を相手に遊んでいたらしい。一体どのようなメンタルがあればそのような事ができるのであろうか。「あ!でもユキちゃんもいたよ!」と元彼女Bは思い出したように言った。ユキちゃんとは、元彼女A、Bと同じグループに属している女の子である。彼女達のリーダー的存在の女の子だ。元彼女Bとはその後少し雑談して終わった。元彼女Bと友人は少しづつお互いの心が離れて別れた。ほぼ自然消滅ってやつだ。友人は、緊張して話せなかったと後悔していた。クラスのマドンナを自分のものにできたのにそんな事があるのかと笑ってやった覚えがある。
元彼女Bからはそれなりの収穫があった。
3,元彼女C
最後の元彼女Cに話を聞く番が来た。つい最近まで友人と付き合っていた人である。大学から付き合ったこともあり、私自身もあまり面識がない。ショートカットの似合う女の子である。彼女は長く付き合った事もあり本当に悲しんでいた。「こんな時に話を聞くっていうのはどうゆう目的でですか?、話を聞いて何になるの?」「本当にごめんなさい。でも、今色んな人に話を聞いてて」「犯人探し?犯人探しがしたい訳?疑われてるの私??」これは難航しそうだ。私が諦めかけていたその時、元彼女Cの方から切り出して来た。「そういえば彼、付き合っている時に相当自分のことが嫌いな奴らがいるって言ってたわよ。」何だそれは。急に知らない奴らが現れた。「その奴らってどんな奴らか分かります?」「いいえ知らない。でも高校の人らしいよ、あ!元カノの友..達?みたいなこと言ってた気がする。」これはビックニュースだ。本格的に友人を恨んでる人を見つけてしまった。それも知っている人だ。その後数十分話を聞いて元彼女Cの話は終わった。数十分はずっと別れ方の話であった。友人からも聞かされた話だ。友人は彼女と別れたことを後悔し、タバコも酒もやめた。飲みに行くことも少なくなり、会う機会も減っていた。
元彼女Cから聞いたことをふまえ私はユキちゃんに話を聞くことにした。
4,元彼女の友人
ユキちゃんは明るく面白い女の子だ。どんな人根暗でもこの子となら話せるのではないかという感じた。しかし目の奥に真っ暗な何隠し持っている感じもして、私は苦手であった。「ねぇ友人のこと恨んでた?」私は会って早々本題に入った。一か八かであった。「そりゃあねぇ、恨んでたわよ。」即答であった。「アイツは私の友達2人も悲しませたのよ。許せるわけないじゃない。」それもそうか。何故か納得してしまった。「元彼女Bの事好きだった連中とか、色々集めてアイツのことやっちゃおうとしてたんだけどねぇ。、、、あ、ごめん不謹慎だったよね」私は血の気が引いた。目の奥所では無い。真っ黒だ。「あはは、、、でも、そそ、それだけ友達思いなんだね!」震えが止まらない。「あら!ありがとう。」もう限界であった。
元彼女達にだいたい話を聞くことが出来た。色々な話を聞いたが、元彼女達は友人の話をする時少し穏やかな表情であった。やはり愛というものは心のどこかに残るものなのだろう。
私は元彼女達を呼び出した。全員来てくれないと思っていたが、何故か来てくれた。レンタカーを借り、ドライブすることにした。車内には緊張と疑いと謎の対抗心が渦巻いていた。雨の日であった。
5,犯人
私は刑事ドラマが好きだ。まさかこんなタイミングで言いたかったセリフが言えるとは思ってもみなかった。「この中に犯人がいます。」それは不意に車内の沈黙を破ったにしては、衝撃すぎる一言だったに違いない。「誰?、、だれよ」元彼女Cが返してきた。「順を追って話しますよ。」赤信号になったので、元彼女達の様子を見ながら私は話した。
「まず初めにすみません。私は犯人探しをしていました。」でしょうねと言わんばかりの彼女達の表情「彼は轢き逃げに会いました。ということは車を運転することが大前提です。そして車を持っていることもね。」私がそういうと、元彼女Aが「わ、私だって言うの??」と言い出した。良い。良い反応である。刑事ドラマのようだ。「いえ、それが違うんです。あの日はなんと平日どう頑張ってもあなたは仕事でアリバイがある。」まるで私は名探偵だ。
「まぁ別に車がなくたってほかの人に頼む子だって出来る。そうですよね?元彼女Bさん。」私はバックミラーで元彼女Bに目を合わせ行く。すると彼女は咄嗟に目を逸らした。「おやおや、なにか隠し「30メートル先左です。」、、てることがありますか?」ナビを切っておけばよかった。無駄にカッコつけたせいで余計に恥ずかしくなってしまった。「何も無いよ。本当に私じゃない!」元彼女Cは大きな声を出した。少し驚くぐらい大きな声であった。「そ、そうなんですよねぇ〜。あなたでもないです。」私がこう言うと後部座席の視線は、助手席に向けられた。
「いい加減にして!犯人なんて居ないわよ」助手席の元彼女Cが言った。これまた大きい声だ。しかしその後の沈黙は驚くほど静かであった。「目的地に到着しました。」ナビをつけておいて良かった。
6,友人
友人の事故現場に着いた。花束が寄せられていた。友人達が来たのであろう。本当に人通りのない場所であった。元彼女達も花を供えゆく。ふと友人の事を思い出す。
友人は高校の時部活のキャプテンをしていた。キャプテンにしてはリーダーシップがあまりなく、いつもまわりに助けられていた。マネージャーであった私はそんな彼が好きであった。しかし、彼は私のことを友人として見ていた。いつも彼からは彼女の愚痴と、惚気を聞かされた。それでも彼が好きだった。大学生になり告白しようとしていたが、タイミングがなく、気がつけばまた彼女がいた。また同じことの繰り返しだった。しかし、そんな彼が彼女と別れたことを聞いた。私は彼を旅行に誘った。車で彼を迎えに行く時であった。彼から連絡が来た。「今日は無理だ。」どうして?と聞くと「こないだ言ってた可愛い先輩に飲みに誘われちゃった笑。ごめん」と彼は言った。やっと私の番だと思ってたのに、彼に裏切られた気持ちは抑えられなかった。 渡すだけ渡したい物があると、彼を呼び出し、彼を跳ね飛ばした。
それからは、彼が愛した人に会って話してみたかった。ただそれだけであった。刑事になった気分で楽しくなっていた。1度してみたかったのだ。しかし彼女たちは彼をやはり愛していた。そして愛されていた。
「犯人は私です。」手を合わせている彼女達の背中に私はつぶやくように言った。振り返った彼女たちの表情は皆悲しそうであった。「今から自首します。それを言うために集まってもらいました。私も彼のことが好きでした。」元彼女達に殺されるのではないかと思った。しかし、彼女たちは何も言わなかった。そっと傘に入れてくれた。私も供えられた花に手を合わせ最後に「別れ方が下手なのは私達の方だったかもしれないわね」彼に言い残した。