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勇者と魔王と新選組  作者: 舟太郎
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八木邸にて(2)

「話は理解出来たかよ、局長?」


コンドウ局長と呼ばれるこの一団のリーダーと思しき人物を交え、これまでの事のあらましを説明した。私の事、私の世界の事、気づいたらこちらの世界にいた事、ゴブリンの事。一通り話したところでトシさんが局長さんに確認をする。なんか微妙にバカにしてる?


「おう!ちゃんと理解できたさ、山南さんがな!」


コンドウ局長は一緒に場に加わったヤマナミという人物を指して言う。トシさんと同じ副長の立場にあるらしいが、比較的柔和な人柄だ。他のメンバー達には良くも悪くも好戦的な雰囲気があるが、この人はシンプルに表現するなら、そう、優しそうな人だ。


「結局山南さん頼りかよ!?しっかりしろよ局長なんだから。」


「いいじゃないか土方君、近藤局長に足りない部分は君と私で補うだけだろう?」


「いや、その言い方だと結局近藤さんは足りてないってことに・・・まあいいか、実際足りてないんだし。で、山南さんはルルの話を信じるのか?」


「私の意見を言う前に、土方君達は信じているのかい?今日はじめて会ったばかりのこの娘の話を。」


む、前言撤回、ひょっとしたら優しくないかも。


「少し話しただけだが、ルルは受け答えはしっかりしていて気狂いという事もなさそうだ、たまに独りで何か言ってんのが多少と気にはなるが。妄言でないなら虚言、つまりこいつは俺らを騙そうとしているってことになる。だがありきたりな言い方をするなら、俺たちを騙すつもりならもっとマシな嘘をつくはず・・・というよりそんな嘘全く意味がない。だから言ってることは嘘じゃないとは思うんだが、ただ『別の世界』なんて言われても、「はいそうですか」と納得できる話でもない。だから判断をあおいでるんだ。」


ええ~?納得してよ~。


「『別の世界』に関して言えば実は嘘でも事実でも構わないんだよ。冷たい言い方になってしまうが、どちらにしろ我々には関係のない話だからね。だからこそ、そんな嘘をつく理由がないという点には私も同意だ。」


山南さんが本当に冷たい言い方をする。雰囲気は優しそうなのに。


「けどさ山南さん、俺と斎藤くんは実際にゴブリンって化け物と戦ったんですよ。河童じゃなくて」

ソウジ、山南さんに対しては何故か敬語だ。


「そこは疑っていないよ。皿も甲羅も嘴も無いなら残念ながらそれは河童ではない。ルールルさんがゴブリンだというならそれゴブリンなのでしょう。特徴もおおかた一致するしね。」


「ルルで構いませんよ、ヤマナミさん。」


なんというか私もつい敬語になってしまった。敬語って嫌いなんだけどな。


「私は山南啓介です。よろしく、おルルさん。」


『おお、江戸時代っぽい呼び方!』


そうなの?


「つか山南さん、ゴブリンって知ってんの?」


「欧羅巴に伝わる妖怪のようなものです。だから河童や天狗のようなものだと思えば実在しても不思議じゃありません。」


「いや、不思議っしょ!河童とか天狗とか見たことあんすか!?」


「ええ、河童とは子供の頃に一度一緒に遊んだことがあります。」


「夢でも見てたんじゃないんすか?」


会話から察するに河童や天狗はこの世界でのモンスターのようなものか・・・。


「(マブイータ、この世界には魔物は珍しいのか?)」


『珍しいどころか、ほとんどが伝説上の幻の生き物だよ。ゴブリンだって本当に他国に存在している訳じゃなくて、あくまで空想上の生き物だし。たまにその存在を信じている人もいるけどな、今目の前にいる山南啓介みたいに。』


「(ということはゴブリンの存在が私の証言を裏付ける根拠として一役買っている訳か)」


何がどこで役に立つかわからないものだな。


「つまり山南さんもゴブリンの存在に異論はないんだな。」


「ええ、むしろ私も会ってみたいくらいです。それに私は別に『別の世界』に関しても疑っているわけではないよ。桃源郷、常世の国、琉球に伝わるニライカナイ、異世界に関する伝承もなんてものはいくつもあるし、逆の視点で見れば神隠しにあったなんて話はいくらでもでてきますしね。極楽浄土や地獄といった死後の世界も本人の主観としては別の世界と言っていいでしょう。存在するかどうかも死んでみれば分かる事です。」


『なるほどな』


マブイータがなにかに納得したように急に相槌を打った。


「(いきなりどうしたんだ一体?)」


私が小声で尋ねると


『つまり異世界を題材にした物語なんて珍しくない、オリジナリティなんて無いが全然気にする必要なんかないってことだ。』


「(いや、本気で何言ってんだお前!)」


訳の分からないことを言うな!


「死後の世界ね・・・それなら俺はあれが好だな。ほら、このまえ山南さんが話してくれたやつ。」


トシさんが何かを思い出したように言う。


「ヴァルハラですか。」


「ああ、勇敢に戦って勇敢に死んだ戦士が招かれる神の館、だったか?」


「そこから更に神の兵として巨人戦い、たとえ死んでも生き返ってまた戦うらしいよ。」


神の兵、似た立場の私としては興味深い話だ。


「え、そうなの?そんな緊張感の無い戦いは嫌だな。一つの命を取り合うからこそ楽しいのに。」


総司が会話に交ざる。ただ戦いが好きなだけでなく、その先にある命のやり取りが好きなようだ。彼からすれば互いに負けるたびに復活を繰り返していた私と魔王アイゼンハルトとの戦いなどままごとに過ぎないのだろうな。


「まあ、神の兵となるのはあくまで死後の話です。神の館に招かれることこそ自分が勇敢に戦った証になる、戦って死ぬことに重要な意味があるんだ。その話を信じた昔の戦士達は実際に死を恐れずに戦ったようだよ。」


「まあ確かに死ぬ間際でも自分が勇敢だったことを認められたら、きっと少しは報われる気がするんでしょうね。少なくとも布団の上で死ぬよりはずっといい。」


まあソウジはそうだろうな。


「私は勇敢に死ぬために戦うというのは後ろ向きな気もしますが。それにしっかり齢を重ねて家族に看取られる最後も悪くはないと思います。」


斎藤くんの急な発言に一同が鎮まり、言った本人はうろたえている。どうやら会話に混ざろうとして失敗したようだ。でも悔いることはない、君は頑張ったよ。


「斎藤の言うとおり、死後の世界がどうあろうと死んでしまえば現世で事を成すことは出来ん。俺たちは自分に恥じないよう、己の刀に命を懸けて生きるだけだ。」


局長さんが斎藤くんの言葉をフォローし、皆がその言葉にうなずく。なんだかんだで人望はあるみたいだ。うろたえていた斎藤くんも、ほっとした顔をしている。よかったね。


「今日のところはこの辺にしておきましょう。一度に詰め込むには情報量が多すぎますし、既に脱線してただの雑談になりつつあります。彼女にはしばらくここに留まってもらうことにしましょう。」


そう言って山南さんが強引に話をまとめた。図らずも宿が確保できた。やったー!


「話は理解できたかよ、局長?」


「おう!ちゃんと理解できたさ、山南さんがな!」


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