八木邸にて(1)
「まずは名を聞こうか、あんたのことはなんと呼べばいい?」
壬生浪士組の屯所である八木邸に連れてこられた私はその後土方の事情聴取を受けていた。
土方は私に顔を近づけ、瞳を見つめながら尋ねる。顔近づけすぎだろう。
「私の名はルールル・ルルール。」
『今日~もいい天気~♪』
マブイータもちゃんとあの後回収した。・・・何だその歌?
「そうかルーリュッ・・・、ルールリュ、服も変だが名前も変だな。あらためて俺は土方歳三、壬生浪士組は発足したての組織だが一応こいつらの上役ってことになるな。」
『こりゃビッグネームだぜマスター。この時代を題材にした物語は未来において数多くあるんだけど、そんな中で主役にしろ敵役にしろ常に活躍が約束されたポジションに存在する幕末の英傑人気ナンバー1、それが土方歳三だ。』
ふむ・・・どうやら大物にあたったようだな。
「言い直せてねえぞ土方さん。女の子の名前をかむような奴が女好きを名乗ってんじゃねえよ。」
沖田が茶化すように指摘する。親しげ、というよりもはや無礼だな。上司じゃないのか?
『土方歳三は女癖の悪さで有名だっけ。まあ、それに関しては土方に限った話じゃないけど。歴史に名を遺す有名人はもれなく女好きばっかりだ。』
「男なんだからそれは普通のことだろう?」
『まあそうなんだけどさ、未来においては「誰誰は実は女好きだった。」なんて当たり前の話がまるで雑学のように紹介されたりするんだよ』
なにそれ、キモイ。
「自分から女好きと名乗った覚えはねえよ、なんか知らねえが女の方が勝手に寄って来るだけだ!」
『ラブコメの主人公みたい。羨ましい。』
こいつもキモイ。
「私は別にあなたに惹かれてはいないけどな、肘から飛びそう」
『肘から飛びそう!?ロケットパンチかよ!』
現時点での好感度をあえて順位付けするなら土方の方が沖田よりは上だ。これは土方が魅力的なわけではなく沖田が怖いだけだが。
「今はまだ、な。ルーリュリュ、お前もそのうち他の女たちと同じように、俺のことしか考えられなくなるさ。」
人の名前咬みながらカッコつけるな。
「咬みながらカッコつけてんじゃねえよ。」
沖田、ツッコミが被った。なんか土方さんに対してキツいな。
「総司!てめえさっきから妙に突っかかってくるじゃないか、さてはお前の方がリューリュ・・・ルルに目をつけてるんじゃないのか?」
「ルールルちゃんが器量良しなのは認めるけどね、下半身の赴くままに生きてる土方さんと一緒にすんなっての。そしてうまく言えないからって勝手にルルとか略してんじゃねえよ。」
「ルルって私のことか?人の名を勝手に略すのは失礼じゃないのか?」
肘から飛びそうとか言ってる方が失礼だろ。
「そこは親しみの表れだと受け取ってくれ。ちなみに俺は親しい人間からはトシと呼ばれてる。アンタもそう呼んでくれていいぜ、ルル。」
『つまり略称はむしろ「これから仲よくしましょう」って意思の表れってことだ。良かったな、ルル。』
「貴様にそう呼ばれる筋合いはないなマブイータ、所持品のくせに馴れ馴れしくするな。」
『・・・了解、マスター』
「で、貴様の事は何と呼べば良い?今の流れだとマブかイータが妥当だが。」
『僕と仲良くしてくれる気あるんだ?』
「勘違いするな、マブイータって二人称で普段から使うには微妙に言いにくいんだよ。お前とか貴様とか、なんなら「おい!」だけで呼んでもいいんだけどな。」
『イータでお願いします、マスター!』
「また独り言?ルールルちゃん。」
イータの声が私以外に聞こえないせいで私が不思議ちゃん扱いされそうだ。
「ん?いや・・ルルか。なんかいいなと思って、言いやすくて。」
誤魔化すつもりで発した私の言葉を聞いて土方が沖田に対して満面のドヤ顔を向ける。沖田はウザそうにため息をつきながら土方を見返した後、改めてルールルに向かい。
「よろしくね、ルルちゃん。俺のことは総司でいいから。」
「俺のこともトシでいいぜ!」
「いいや駄目だよ、この人は一応偉い人だから馴れ馴れしいと他の隊士達に示しがつかない。だから他人行儀に土方さんで。」
沖田が土方の親しみを妨害する。
「ならば、ソウジに・・・トシさんで。」
「・・・あのー、ならばついでと言ってはなんですが、私のこともハジメでお願いします。」
実は最初から同席していた斎藤が初めて口を開いた。
「斎藤、いつから其処に居たんだ?」
「最初からいましたよ。」
おぉ、ここにきてなんだ、この古臭いテンプレ―トなやり取りは。
「まあ斎藤くんは人数が多いと会話に混ざれない人だから。」
『あ~、居るよな、そういうタイプ。何を隠そうボクもそう。』
お前はむしろ喋ってることがおかしい。
「じゃあ、斎藤くんのことは斎藤くんで。」
それを聞いた斎藤くんは地味に落ち込んでいる。けど訂正はしない。別に理由はないんだろうけど斎藤くんというフレーズが良い。
「ソウジ、トシさん、斎藤くん、これからよろしく!」
ようやく自己紹介が済んだところで奥からドタドタと音をたてながら見るからに屈強な一人の男が豪快な笑い声とともに現れた。その男に一同が会釈する。
「ずいぶん打ち解けたようじゃないか!どうだトシ、聞き取りは進んでいるか?」
「ああ近藤局長、こいつの名前が分かったぜ。ルルってんだ。」
いやぜんぜん進んでないんですけどー!