ゴブリンVS新選組!(2)
「さてと、残りはあと3匹か。」
立ち上がって見渡すとゴブリンの死体が更に増えていた。
「つーかもう立ち上がれるんだ?斎藤くんとの勝負の時も思ったけど、一体どんな体してんだよ。どう見ても致命傷のはずだったのに。」
「人より健康なんだ。」
「いやいや、健康は関係ないだろ?」
「丈夫だから大丈夫。」
「言葉が重複してんぞ。」
「二人とも、その話は後にしましょう。」
斎藤が話に割って入る。見るとゴブリン達が私たち・・・というか沖田、斎藤の両名と距離を取ろうとしている。本来、恐怖を感じる知能など持ち合わせていないはずのゴブリンが、明らかにこの二人に対し戦慄している。
「・・・ギッ!!」
次の瞬間、3匹のゴブリン達は三方向にそれぞれ逃走した。
「斎藤くんはあっちに逃げた奴を追って!俺はこっちを仕留めた後で残りのを追いかけるから!」
沖田は指を差しながら斎藤に指示を出し、自身もゴブリンを追う。
ならば私は残りの一匹を追いかけよう。まだ意識はハッキリしないし足下はふらつくが、放って置くわけにもいかない、私は勇者なのだから。
▽▽▽
逃げたゴブリンをようやく見つけた。その死体を。
「なんだあ、このバケモンは?」
ゴブリンを仕留めたと思われる男はその死体を不思議そうに観察している。
死体は胴体を大きく切り裂かれ、それが致命傷に違いないが、他に何か所も殴られたような痕がある。
「土方さんじゃん、こんなとこでなにしてんだよ?」
後ろから声が聞こえてきた。それぞれゴブリンを仕留めて後を追ってきた沖田と斎藤の姿がそこにはあった。
「お前たちころ、こんなところで何サボってるんだ?」
「街の治安を守るために怪物退治に勤しんでいた部下に向かってサボってるとは失礼な!言っとくけどその怪物、全部で20匹居たんだぜ。ねえ、斎藤くん。あと10対7で俺の勝ちだから今夜は斎藤くんのおごりってことで。」
どうやら後から現れた彼は沖田たちの上司らしい。よくみるととても端正な顔立ちをしていが、齢は二人よりも結構上っぽい。
「そんな勝負は最初に言ってもらわないと、結果が出てから提案するのは無しです。」
「ちぇ、つまんねえな真面目人間。斎藤まじめ。」
「なんです、その名前いじり。真面目を悪いことのように言わないでくださいよ。そうやって冷やかす人間がいるから真面目な人間が恥ずかしがって真面目に生きられなくなるんです。」
「全部で20匹だろ?総司が10匹、斎藤が7匹、でこの1匹で18匹じゃないか、残りの2匹はどうしたんだ?」
「それはそっちのかわい子ちゃんが仕留めました~!と言うわけで途中参加の土方さんは抜きにして、最下位のあんたには屯所まで付き合ってもらうぜ。」
沖田がこちらに振り返り、ニッコリ笑いながらゴブリンの血に染まった刃を向ける。この人こわい。
頭がズキズキと痛み、意識も薄れている。・・・意外とダメージが残っているな。
「助けてもらっておいてなんだが、断ったらどうなるんだ?」
ハッキリ言って現状を考慮すれば抵抗してもこの連中には勝てないだろう。どころか早く休んで回復したいところだ。だがもう少し彼等の意図や人格を把握したい。
「ルールルちゃんつったっけ?今度は俺とあんたとが殺り合うことになる。本当はそんなつもり無かったけどさ、さっきの動きを見る限り結構楽しめそうだ。万全じゃないのが残念だけど。」
「お前は戦う事が好きなのか?」
「ああ、より強い相手とね。ルールルちゃんはまだまだ伸びしろがありそうだし、できればもっと強くなってからの方がいいんだけど。なんか怪我も酷そうだし。」
「そんなふうに戦い続けて一体何になるって言うんだ?」
戦うことを否定はしないが、その先に目的が無ければ意味がない。私が魔王の打倒を成したのだってエコールによる世界の統治のためだった。
「最強の証なるって言うんだよ。俺は史上最強の天才剣士だからな。」
沖田は自信満々の笑みを浮かべる。
「史上最強の天才剣士、随分な肩書だな。というか歴史上の人物と手合わせする機会がない以上、史上最強は名乗れないだろう。」
この時代の歴史に関してはまだよく解からないが、後世に名を遺すレベルの武芸者も居ただろうに。
「そう?自分的にはかなり最強だとおもうんだけど。逆にあんたはそれだけの腕前を身に付けておいて興味ないわけ?目の前の武芸者が自分より強いのか弱いのかさ。」
「私の使命は世界の秩序を守る事だ、力はそのための手段でしかない。」
「世界って言い回しはなんかよくわからないが、ようは『世のため人のため』ってことだろ?永倉さんと気が合いそうだな。」
土方が話に加わってくる。
「ルールルさん、さっきも言いましたが私たち新選組は都の治安を守る組織です。そしてあなたが先ほどの化け物を使役しているとまでは言いませんが、見たところ無関係ではないでしょう。おまけに身元不明で手練れときている。つまり私たちからすればあなたは危険人物なんです。世のために尽くすと言うならおとなしく同行してもらえませんか。その頭の傷の手当もした方が良いですし。」
斎藤一、私のケガは休めば治るが、何気に気遣ってくれてる?ひょっとして良い人?危険人物呼ばわりは普通にショックだけど。
「もし行く宛がないなら寝床や食事も用意できるぜ。」
土方がそう提案してくる。
「まあ、助けられた時点であなた方の申し出を断るつもりは元々無かったんだけどな。・・・決して食事に釣られるわけではないからな。」
私は彼らに同行することを承諾した。
『マスター、ボクの事も忘れないでね。』