ゴブリンVS新選組!(1)
「見てみなよ斎藤くん、、河童!河童だよ!!山南さんが言ってたとおり実在してたんだ!」
「いいえ沖田さん、あれは河童ではないでしょう。河童の特徴たる頭の皿、甲羅、嘴、水かき、何一つありません。」
「外見の細かい特徴なんて些細な問題だって、小柄で緑で集団行動、これで河童じゃなけりゃ一体なんだって話じゃん。」
「どちらにせよ人ではないのは確実ですね、おまけに見た所武装している。」
「一見あの子が持ってた剣の周りから出てきたみたいに見えるけど、あの子の味方って感じでもないね。むしろ敵対しているっぽいかな?」
「あの娘以外の人間には無害という保証もありませんし、ここは始末しておいた方がいいかもしれませんね。」
沖田と斎藤と言ったか、さっきまで対峙していた二人の男が喋りながら私とゴブリン達との間に割って入る。
「お前たち、いったい何のつもりだ?」
「あなたにはまだ聞きたいことがあります、というか何も聞けていませんし、それにあんなのにうろつかれたら街の人々が混乱します、私たちの仕事は都の治安を守ることですので、ここは助太刀しますよ。」
「つまり可愛い女の子を助けるのに理由なんて要らないってことさ。」
「いえ、理由は今私が話しましたよ。」
彼らの言い分は分かった。だが、さっきは不覚を取ったとはいえ普通の人間に魔物の相手は無理があるだろう。おとなしく退いていてくれた方がいいんだが。
「ひょっとして、なーんか俺たちのこと侮ってる?そうゆうのわかっちゃうんだよねー、俺って。心配してくれるのはうれしいけどね。」
・・・バレてる。
『まあ数も多いし、彼らと協力した方が良いんじゃないか?』
協力か・・・マブイータはここと幕末の京都と言っていたな・・・ふむ。
「・・・そうだな、京都で共闘と行くか!」
『なんか考えてるかと思えば、そんなしょうもないダジャレを考えてたのか!?』
いや面白いし!
「ギギーッ!」
そんなやり取りをしている隙をついて迫ってきたゴブリンが棍棒を振り下ろしてくる。私はその棍棒を掌で受け止め、そのまま掴んで上空に放り投げた。そして落下してくるゴブリンの顎を肘でを打ち抜いた。
『前々から思ってたけど、勇者の戦い方か、それ?』
「フン、私も本当は剣で戦いたかったけど、肝心の剣こそがゴブリンを召喚している諸悪の根源だからな。」
『だからボクのせいじゃないって!信じてマスター!!』
あと残り19匹か・・・多いな、と思った瞬間足下にゴロっと何かが転がってくる。ゴブリンの頭部だった。
見渡すと既に七体のゴブリンたちが無残に斬り殺されていた。
私が1体倒している間にこの男たちはそれぞれ3~4体を倒したのか?
「・・・すごいな。」
そんな言葉が思わず口をついた。まだ半数以上残っているゴブリンたちもたじろいでいる。
『よーし僕の指示通りだな。そのまま残りのもやっちまえ!』
・・・なんなのアイツ。まあ暗闇はすでに消えてるし、あの感じだとゴブリンを呼び出したのは本当にアイツじゃなさそうだけど。
「アギャギャギャギャギャッ!」
残りのゴブリンの1体、ゴブリンAが落ちていた刀をひらう。最初に倒した侍のものだ。そして身の丈に合わないその刀を振り回しながらこちらに向かってくる。
「ゲゲゲゲゲッ!」
それと同時にもう1体、ゴブリンBが背後に回る、どうやら私に狙いを定めたようだ。
「助けないんですか?可愛い女の子が窮地ですよ。」
「いや、一匹でも取り逃がすと面倒だし、ここは先に他の奴らを仕留めることにするよ。斎藤くんが助けてあげたら?」
「その必要があればそうしますが、あの娘ならば大丈夫でしょう。私も他のを始末しますよ。」
「へえ、評価してるんだね。ひょっとして惚れちゃった?」
「そうなら普通に助けます。」
「そこはもう少し動揺してよ、からかい甲斐が無いな。」
二人が呑気に話しながらゴブリン達を追い込んでいく。
「ギギギギギ!」
そんな様子を見物していたらゴブリンAが大きく刀を振り下ろしてくる。たかがゴブリンとは言え、刃物を振り回されると丸腰にはキツイ。距離をとってその斬撃を避けるが、その瞬間うしろのもう1体が飛び掛かってくる。
「ゲギュッ!」
私はそのゴブリンBの腹部にカウンター気味の前蹴りをくらわせ、首と腕を掴み持ち上げる。
「ギギーッ!!」
再び斬りかかってくるゴブリンAの刀をゴブリンBの頭で受け止めた。そしてゴブリンBの頭に食い込んだ刀を奪い取り、そのままゴブリンAの胴を切り裂いた。
『マスター、右!』
「え?」
言われてとっさに右を向く、しかしそこには何もいない。次の瞬間、後ろから衝撃が加えられ前に倒れこみ、そのまま首の後ろを掴まれ地面に押し付けられた。どうやら肘アッパーで倒した1体目のゴブリンだ。
『あー、ごめんマスター、マスターからだと左だったわ。』
「お前・・・!このっ!」
怒りで言葉が出てこない。
というかこの体勢はヤバい。まさかゴブリン程度に不覚を取るとは。
「アギャギャギャギャ」
後頭部に衝撃が走る。ゴブリンは笑い声をあげながら私の頭に棍棒で撲りつけてきた。何度も痛みが走り、額にトロリと赤い液体が垂れてくる。繰り返し撲られているうちに意識が薄れていく・・・これはヤバい。
「アギャギャギ・・・。」
ゴブリンの笑い声が消えた瞬間、私の頭を抑え込む腕の力も同時に消える。
振り向くと大きく開かれたゴブリンの口から刀の切っ先が飛び出ていた。その刃はそこから上向かってに走りゴブリンの頭を切り裂く。
二つに割れたその頭の向こうで薄く笑みを浮かべた沖田が立っていた。ゴブリンの血で汚れたその刃と顔は、私にはとても綺麗に見えた。