目覚めよ勇者よ!
『目覚めよ、勇者よ!』
誰だ、私を呼ぶのは・・・。
「う、ん~」
起きなければとは思うが・・・ダメだ、身体が動かない。
『おいルールル、起きろって!』
「・・・あと2分だけ・・・すぴー」
『いやたった2分でなにが変わるんだよ?意味ねえだろ!』
「たった2分でも気分が変わるんだよ。自分のタイミングで起きたいの!」
『明らかにもう意識あるじゃん!とりあえず目え開けろ、既に大変なことになってるから!』
ん~、しかたないなあ・・・おはよう!!
▽▽▽
「へへへ、まさかこんなところに女が転がってるとはな。まだガキだがかなりの上玉だ。妙な成りだが身に付けてる物も金になりそうだし、こいつぁついてたぜ。」
!!?
目を覚ますと目の前には見たことないような出立の男が迫ってきていた。
誰!?
「なんだ起きちまったのか。まあいい、しばらく大人しくしてな。」
男はニヤニヤしながらこちらにに手を伸ばしてくる。どうゆう状況?ダメだ頭が働かない。
『ボサボサの髪でくたびれた着物を纏っているが、腰には刀を携えている。侍ってやつだな。どうやらここはさっきまで僕達いた世界じゃなかったらしい。とりあえず抵抗した方が良いんじゃないか?そいつはお前にエロい事しようとしてるんだぜ。』
エロい事?どこからか声が聞こえてくるが、今はどうやらそれどころではないようだ。
とりあえず目の前の男は私に害をなそうとしているらしい。
ならばと思い、自分に伸びてきた男の右腕を掴み、ニッコリと微笑む。
「お、なんだ?ガキのくせに好き者かよ。」
男は嬉しそうに更にニヤける。完全に油断している。
私は掴んでいた右腕を勢いよく引っ張る。相手の肩関節が抜ける感触ととも男がこちらに倒れてくる。そしてその顔に向かって頭突きを繰り出した。
「ぐおぉ!ああああぁ!鼻あぁ!うでえぇ!いでえぇ!」
男は呻きながら横に顔を背ける。間髪入れずにその側腹部を蹴り込み、あいてはそのまま地面に沈む。
腕がうでぇ(痛でぇ)・・・んん~、ちょっと苦しいか。
「と、ていっ!」
掛け声を上げて私はそのまま飛び上がり、前のめりに倒れた男の背中に向かって膝から落下した。
「がはぁ!」
男は息を吐くように呻き、地面に沈んだ。
『・・・いや、最後の膝は明らかにやり過ぎだろう、ルールル。』
「さっきから誰だいったい、どこから喋っている?」
周囲を見渡すが今倒した男と私の所持品がいくつか転がっているだけだ。声の主は見当たらない。
『ここだよルールル、見えていないのか?』
そう言われてようやく声がどこから聞こえているのか把握できた、が・・・え?こいつが喋ってるの?
「お前は・・なんだ?」
『何だとはなんだよ、まさかボクの事忘れたとは言わせないよ。ついさっきボクの額に剣を突き立てといてさ」
「・・・神剣マブイータ。剣が喋ってる!?」
額に剣を突き立てられたた?魔王の額に突き立てたことを言っているのか?
『そう、神剣マブイータ・・・え?』
「えーっと・・・、お前は・・・いったいなんなの?」
『えーっと・・・、吾輩は剣である、名前はマブイータ。』
うん、それは一応知ってる
▽▽▽
『・・・・だからね、急に目覚めちゃった訳よ、新しい自分にさ。あれ?ひょっとして聞いてないのかい、エコールの奴からさ?この僕、神剣マブイータは経験を重ねることで成長というか・・・そう!進化する剣なのさ!その進化の結果として自我が芽生えたって訳。ひょっとして驚いてる?そりゃあ驚くよね。なにせボク自身めちゃくちゃ驚いてるんだから。え?ボクが魔王アイゼンハルトなんかじゃないかって?そんな訳ないじゃない。アイツは倒したじゃん、そう、君とボクが力を合わせて。まさに最強のコンビと言っても過言じゃないよね。まあ君だけだったら倒しても倒しても復活する不死身の魔王にとどめを刺すことは出来なかっただろうから、その意味ではボクの存在は大きかったと言えるけど。いや、ウソウソ、ごめんごめん、ちょっと調子に乗っちゃったね。そう、魔王アイゼンハルトを打倒したのはあくまでも教導神エコールに選ばれた勇者であるルールル、君さ。ボクはあくまで君のサポートをしただけの所有物、道具に過ぎない。手柄を主張するつもりはないよ。だけどそうだな、君がほんの少しでもボクの働きを評価してくれるなら、いやいや、違うよボクの人格、人じゃないけど、自意識の事なんかじゃなくて、そう武器、武器としてのボクを少しでも評価してくれるなら、これからはボクの言葉にも少しは耳を傾けてほしいなあと。え?いやいや、何度問われても答えは一緒さ、ボクは全然アイゼンハルトなんかじゃないよ。ひょっとして魔王アイゼンハルトの精神が宝剣に封印されて喋っているとか、そんな事考えてる?ハハハ、そんな訳無い無い、ありえないよ。いや、正確には性格に多少の影響は受けている可能性はあるよ。なにせタイミング的に考えるとボクが自我に目覚めたのは奴に止めを刺した時なんだから不信感を抱くのもわかる。けれど思い出してごらんよ、君とボクの冒険の日々を。自我に目覚めたのはつい先刻だけど、ボク達はずっと一緒に戦ってきたじゃないか。恩に着せるつもりは全然無いけど、今だって君は僕に起こされなかったら、さっきの奴に犯されてたんだぜ。寝てる間にエロい事されてたってこと。それにほら、君も知らない世界に飛ばされて右も左もわからない状況じゃん。うん、ここは君のせか・・・君とボクの居た世界じゃないんだよね。いや、僕に原因を追究されても困るんだけど。けど実はボク、あるんだよねなぜか、理由は分からないけどさ、自然と湧いてくるんだよ、この世界の情報が。きっと役に立つと思うよ。あくまでも助言するだけさ、君の判断に異を唱えるようなことは言わないよ。もちろんボクが君を陥れるようなことはないよ。君はボクの所有者、ご主人様なんだから。よろしくね、マスター。』
・・・胡散クサ!ひょっとしてコイツ、魔王じゃね?
神剣マブイータ、世界を管理し人類を導く絶対にして唯一の神、教導神エコールから貰った剣である。数々の敵を打倒し長き旅路を共にした愛用のその剣は、国に帰ればきっと魔王を打ち取った伝説の剣として奉られ後世にその名を残しただろう。
その剣が今、めっちゃ喋っている。そして喋れば喋るほど胡散臭い。とはいえ、先ほど彼?に起こされたことで助かったのも事実だ。
「完全に信用することは出来ないが、どちらにせよ私は貴様に頼らざるをえないんだろうな。本当にこの世界の事がわかるのならば、だが。まずはそうだな、その男について説明してみせろ。」
『そいつは侍って言って、この国の戦士だな。ただまあ、この国と言ってもそいつはおそらく何処にも属してない浪人って呼ばれる実質無職の輩だ。』
無職の人間が存在するのか?にわかには信じられない。
『マスターの国じゃ考えられない事だろうけどね。いるんだよ、実力が足りなかったり、品位が欠けていたり、身元や素性が明らかでなかったり、自分から辞めたりと理由はそれぞれだろうけど、職に就かず生きている人間がさ。どう生計を立ててるのかまでは知らないけどな。』
私の国ではエコールの啓示によって全ての人が自分に適した職業に就く。ゆえにこんな仕事をせずにフラフラほっつき歩き、気を失っている人間を襲って金品を巻き上げようとするどうしようもないクズなど出会ったことがなかった。
「なるほど、つまりその男は私が殴ってもいい人間ってことだな?」
『それは本人に聞いてみるんだな。』
!!?
「コ・・・ロス!!」
先ほどの男が立ち上がっている全身の筋が浮き上がり血走った目でこちらを睨んでる。あきらかに様子がおかしい。
『アイツもう目を覚ましたみたいだな。気をつけろよ、さっき違って殺気立ってるぜ。』
先に言われた!?私が今言おうとしたのに!!
「何かに操られて正気を失っているみたいだ。」
『ああ、まともな状態じゃないな。ただこの世界にはそんな人を操るなんて真似できる奴は居ないし、阿片でもキメてんのかもな。』
「アヘン?」
『この世界の鎮痛剤の材料に使われる植物の一つなんだけど、使い方を間違うと麻薬にもなる代物だよ。』
ホントにこの世界の事が分かるんだな・・・なんか喋れば喋るほど胡散臭いけど。
『気を付けなよ、あいつ刀に手を掛けてるぞ。』
すると男が剣を抜く。しなやかな曲線に独特の紋様を浮かべた美しい刃、刀というのか。
「あの剣、きれいだな。」
『多分あれでも無銘の鈍らだぜ。つか、僕というものがありながら、もう浮気かよ、マスター。』
「まさか。貴様の人格?は置いといて、エコールから渡されたマブイータを無下する訳がないだろう。」
『だったら早く僕を手に取りなよ。そして見せてやろうぜ、勇者と神剣の最強タッグの実力を。』
言われて私はマブイータの柄を掴んだ。
『ひょっとして今、柄を掴んだとか、クソつまんねえ事考えた?』
そして川に向かって放り投げた。